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薬剤師の試験 前半

 薬剤師の試験の申し込みは思った以上にあるようだ。薬室長はグラベルと試験会場の準備や試験中の警備などを騎士団たちと打ち合わせを何度も繰り返していた。

 過去に試験に紛れて王宮内に入り込もうとする者もいた。今回は受験する人も多いのでそれだけ人の出入りが多い。ケリーとハンスも駆り出されて警護の準備をしていた。


 シャーリーはイザベラとカルロと一緒に薬剤師試験の問題用紙を準備している。

 今回の試験は筆記試験がグラベルとローレンスが担当して作っていた。実技試験は薬室長が考えてものをシャーリーとカルロが準備している。


「大丈夫でしょうか」


 外で騒がしい声がした。イザベラが心配そうに聞いてくる。


「なんでしょう」


 カルロは窓から声がする方を見た。


「誰か入り込んだかな」


 イザベラは不思議そうに同じように窓から顔を出しカルロの視線の先を追っていた。


「止めたほうがいいかな」


 カルロはそういうと外へと出ていく。その後ろをイザベラ、シャーリーの順でついていく。


「グラベル様に試験勉強を見ていただいたいと言っているのです」


 着飾った女二人が声をあげていた。その前にはソフィーが立っている。


「どうしてグラベル様があなた達に勉強を教えなければいけないのです」


 ソフィーが答えている。

 どうしてここにいるのだろうと周囲を見渡すと、慌てた様子でグラベルが走ってきた。

 側にケリーがついて来ていたので、きっと呼びに行っていたのだろう。


「何をしているのですか」


 グラベルはソフィーに聞いた。


「グラベル様、私たちの勉強を見ていただきたいのです」


 ソフィーが答えるより先に女の一人が話す。


「公平を期す為、それはできません」


 グラベルははっきりと断っているが、それが気に入らないのかさらに食い下がる。


「あの女にできて、私たちには出来ないと言うのですか!」

「あの女とは誰のことですか、ことと次第によっては処罰の対象になりますよ」


 グラベルは脅すように言う。

 カルロはシャーリーのことを気遣ってかそっとシャーリーの前に立ち隠す。


「何を目的に試験を受けに来れれるのですか」


 グラベルは女二人に言っている。


「薬剤師になりたいからに決まっています。あの女も薬剤師の試験を受けるときにグラベル様の居住区にお部屋を賜ったと聞きます。私たちにも同じようにしていただきたいとお願いしているのです」

「薬剤師の試験を受けるから部屋を渡した訳ではありませんよ」


 グラベルが言っても納得していない様子の女二人はグラベルに詰め寄ろうと一歩前に足を進める。


「貴方たちに王宮に入れることはありません。それに試験勉強はご自分でなさればいいかと」


 イザベラがグラベルの側まで行き女二人に告げる。

「あなた誰?」


 挑むような視線を向ける女二人はイザベラの質素な服装を見て敵意を剥き出しにする。


「王妃様、お騒がせして申し訳ございません」


 グラベルが振り返って礼をとる。女二人は王妃を見て青ざめていた。


「ロイザック伯爵家のアンヌ様とアンスバッハ侯爵家のエレノア様ですね。薬剤師の試験を受けられるようですが、陛下は不正を一切禁止しております」

「ですが王妃様、あの女はグラベル様からお部屋を賜ったばかりか試験勉強まで見てもらったと聞きます。他のものにも同様にしていただいてもいいのではないですか」


 エレノアと呼ばれた女が食い下がる。


「シャーリー様は陛下から褒美として試験を受けています。それにグラベル様が教えることも陛下から許可を得ていました。貴方たちとは立場が違います」


 イザベラは違いをはっきりと示したが、納得できないようだ。


「それにグラベル様の居住区に入るのは陛下がお許しになったからです。貴方たちがそこに入ることは私がゆるしません」


 イザベラは再度二人に告げる。グラベルはことの成り行きを静かに見ていた。まだ納得していない様子の二人にグラベルは冷たく言い放った。


「お二人は薬剤師になる資格はありませんね。この薬草園は許可の許可のない者の立ち入りを禁止しています。お帰りください。それとも衛兵に連れ出されたいですか」


 アンヌとエレノアと呼ばれた二人は、衛兵に手を取られかけたがそれを振り払って薬草園を出て行った。


「ソフィー、あなたもここに来てはいけません。早く部屋に戻りなさい」


 グラベルはソフィーに向かって言うと言うより、側にいた侍女に向かって言っていた。

 ソフィーはどうしてと言う顔をしてイザベラを見た。それに気づいたのかイザベラはソフィーを見て言う。


「私は陛下の薬をいただきに来ました。シャーリーが作る薬はよく効くと褒めていましたので」


 それを聞いて戻るしかないと思ったのか侍女たちに連れられて部屋に戻っていくソフィーをイザベラとグラベル、更にカルロまで険しい顔をして見ていた。


「あの二人には私から注意しておきます」


 薬室に戻ったシャーリーたちにイザベラは言う。


「それにしても、さっきの話はさすが王妃様ですね」


 グラベルとカルロが感心している。

 あの場でソフィーだけを帰すための嘘が陛下の薬とは。シャーリーもイザベラの機転に助かったと思っている。出来ればソフィーとあまり会いたくない。

 それが顔に出ていたのかイザベラが心配そうに見ていた。最近、イザベラはシャーリーが暗い顔をしていると、そっと顔を覗き込んで笑顔を見せてくれる。それだけでなぜか安心できる。


「昔、ここの衛兵に連れ出されたなと思い出してしまいました」


 さっきのグラベルの言葉にふと昔を思い出していた。薬剤師になりたくてここに来ては衛兵に連れ戻されていた日を。


「そんなことあったの?」


 イザベラは楽しいそうに聞いてくる。


「ああ、あったな。私の目の前で衛兵に連れられていくシャーリーを何度も見た」


 グラベルも思い出したのか笑っている。

 カルロも笑っているのをみて、連れ戻されていくシャーリーを見ていたのかもしれないと恥ずかしくなった。今、思えばかなり無謀なことをしていたなと自分を恥じた。



「それにしても、今回の試験はグラベル目当ての人も多く応募してきていたよね」


 カルロが言うとイザベラは面白そうにカルロから詳しく聞いている。


「薬剤師になればグラベルの側に居られると勘違いした人たちだよ。薬剤師になっても側に居られるとは限らないのに」


 他の人から見たら、シャーリーは常にグラベルと一緒にい存在だと思われているのだろうか。

 グラベルは婚約したのにとシャーリーは思う。それでもグラベルの人気は大きいのだろう。イザベラと話すグラベルを見て、最近あまり顔を合わせていなかったと改めて思った。


 グラベルは婚約してから殆ど居住区に帰ってきていない。常にどこかに出かけていて帰ってきても王宮内の部屋で寝泊まりをしているようだ。

 ケンテル領のことを調べるために王宮に行ったとき、王宮の私室に入っていくグラベルを見かけたことがあった。


 婚約したのだから、もう居住区に来ることはないのだろう。いずれシャーリーはあそこを出る日が来る。その覚悟はしておかなければと考えていた。

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