薬剤師の試験 中編
薬剤師の試験にはいろんな人たちが集まる。試験会場の設置や試験問題を用意するだけでもかなり大変だが、今回二百人くらいの応募があったらしい。
一番の理由が医師や薬剤師も国の許可制にしたことが大きい。
薬剤師なら自分で薬を作って家族が病気になっても助けることが出来、それで大儲けが出来ると考えた者もいる。何より国が認めた薬剤師なら箔がつくものだ。商売にするにはもってこいだが、そう簡単になれるものでもないのにとシャーリーは答案用紙を配る。
あまりにも大人数だったため、王宮の近くの教会を試験会場にして、午前と午後にわけ三日かけて筆記試験をすることになった。
今から二日目の午後の試験が始まる。
「では、はじめ!」
薬室長の声で集まった人たちは一斉に試験問題を解き始めた。
シャーリーとグラベル、ローレンスは試験会場の監督をしている。
試験が終わればすぐに解答用紙は薬室に届けられ、薬室で待機しているカルロとイザベルと侍女たちで採点をしてくれる。
明日には筆記試験が全て終わり、明後日には筆記試験の合格発表をする予定でいる。まるで流れ作業のようだと思う。
ハンスが試験を受けている男の人を引き摺り出していた。不正だ。昨日の試験でも数人出ていた。中には堂々と教本を出していた者もいたが、速攻ヨハンに見つかり追い出されていた。シャーリーは気を取り直して試験会場に目を配る。
薬室長曰く、いかに優秀な人材を集められるかと言っていた。何をもって優秀と言うのか、わからなかったシャーリーはイザベラに聞いてみた。
イザベラ曰く、薬室長が合格とみなした人物が優秀だと。それならローレンスやカルロがそうかと聞いたら、多分そうなんだと思うと返ってきた。
シャーリーにとって二人は……薬草好きな男性としか分からない。確かに薬草の知識はあるし、日々の勉強も欠かさない。情報収集もしていて新しい薬草のことや薬のこともしっかり勉強している。そういうことだろうかと考えたが、薬室長なら別の見方をするような気がした。
カルロの薬草愛?
ローレンスの薬草との昼寝?
あれは優秀とは違うよね。ブルブルと首を振って考えを振り払う。試験に集中しよう。シャーリーはもう一度、目を見張った。
三日目の試験が終わり、解答用紙をもって薬室に戻ると合格発表の準備が始められていた。
「解答用紙もって来ました」
「おかえり」
シャーリーが薬室に戻るとイザベラが出迎えてくれる。
「採点するわ、シャーリーは休んでいて」
イザベラの侍女がお茶を入れてくれたので一息ついた。
「合格者はどんな感じですか?」
シャーリーは明日の準備をしているカルロに聞いてみた。
「思ったより多いよ。筆記試験は本で勉強するだけでも答えられるから、こんなもんだね。シャーリーも覚えていると思うけど、この後の試験のほうが大変だよ」
カルロは明日、合格者に配る書類の準備をしている。シャーリーは採点の終わった答案用紙を見る。
かなり差があるように見えた。さすがによく勉強していると思われる人は解答もしっかしと書かれているが、満足に書けていない人もいる。合格した人の中でどれだけこの後の試験に合格する人がいるのだろうか。
イザベラが採点の終わった解答用紙をカルロに渡していた。カルロはその解答用紙を確認してから、合格者は三十二人になったといった。
丁度、グラベルたちが試験会場を片付け終わって帰ってきた。
「合格者は何人になった?」
薬室長はカルロの確認している。
「三十二人です」
「まあまあかな」
カルロから解答用紙を受け取り部屋に戻っていく。
「王妃様、ありがとうございました」
グラベルがイザベラにお礼を言っている。
「楽しかったわ」
イザベラは試験というものを初めて見たようで手伝わせて欲しいと言ってきた。この三日間、毎日朝から夕方まで薬室に来ては採点をしていた。シャーリーは退屈ではないかと思っていたがどうやらそうではなかったみたいだ。
「カルロ、また楽しいお話聞かせてくださいね」
「イザベラ様、またいらしてください。お待ちしております」
カルロとも気安く会話をしている。それにしても……。いつの間に二人は名前を呼び合う仲になったのだろうか。確かにこの三日間は薬室で採点やら試験の準備をしていたが。
「王妃様をお送りしてから、陛下へ報告に行ってくる」
グラベルは王妃を伴って薬室を出ていく。シャーリーはカルロを見る。カルロも気がついたようで笑っていた。
「ここにいる時は王妃ではなく名前で呼んで欲しいと言われた。シャーリーもイザベラ様敬称をつけずに呼び合うことにしたよね。だからだと思う」
さすがにカルロは敬称をつけないのは気が引けたらしく、つけることにしたが名前で呼んで欲しいと言われたのでそのようにしたと言っていた。
「それじゃ、僕たちも帰る?」
カルロがローレンスに聞く。
「そうだな」
上の空で答えるローレンスにシャーリーとカルロは不思議に思った。
「どうしたのですか?」
シャーリーが聞いてみる。試験会場ではそんな雰囲気を感じさせなかったが、シャーリーが帰った後、何かあったのか。
「あいつが居たんだ」
ローレンスがカルロを見ていう。
「あいつって、祈祷師?」
カルロはローレンスに聞くと頷いた。
「祈祷師って?」
今日、試験を受けに来た人の中にいたのだろうか、それにしても祈祷師ってなんだろう。
「昔、この薬室に居たんだ。一応薬剤師の試験は受かって、薬剤師見習いとして働いていたんだけど、ちょっと変わっていて、そのうち自分は薬を頼らなくても病を治せるとか言い出して、結局、規律違反で追放されたんだ」
カルロが言うには手をかざすだけで病を治すと言うものだ。シャーリーも噂には聞いたことがあったが、実際に病が治るかというと怪しい。はっきり言ってシャーリーはその手の類は信用していない。
だが、重い病にかかった者たちの中には藁おもつかむようにその手の者にのせられて大金をだす。
「今日の試験会場に居たのですか?」
「居た」
「そんな人、合格したらダメですよね」
シャーリーはその祈祷師の名前を知らないので合格なのか分からないが、以前薬室にいたのだったら試験に受かることもある。とても危険だ。
「大丈夫だよ。僕が外しておいた」
カルロは不合格者の解答用紙の中から一枚を取り出しローレンスに見せている。
「これだ」
ローレンスは安心したのか解答用紙を机の上に置いて、近くの椅子に座った。
シャーリーは机の上に置かれた解答用紙を見ると、解答欄にはまともな答えが書かれていなかった。正当な判断で不合格になっているのを確認して安心する。
「もし、合格していたとしても薬室長が外すと思っていたから大丈夫だよ」
カルロは笑顔で言う。。カルロは飄々としていて抜け目がなかった。シャーリーは優秀というのが少しだけわかった気がした。




