縁談 後編
グラベルの部屋に大量の書類が届けられている。
陛下からの仕事の手伝いだろうか、それとも婚儀の準備のためのものだろうか。
最近、食事も時間が合わなくて一緒に摂っていないのでグラベルの状況が分からなかった。
サラとメアリーがその書類を見て、いくつかを返していた。
届け先を間違えたのだろうか?
シャーリーの部屋にも陛下の婚儀の招待状が届いていた。
もしかしたら自分の名前がここに載っていたかもしれないと思うと不思議な感覚を覚えた。
尤も、自分はそれを望んだわけではないのだが、陛下の婚姻となると色々な条件が合わさって、本人の気持ちなど関係ない。
実際、シャーリーは候補たちが集められてお茶会のあと、何度か皇太后からお茶会の誘いを受けた。
但し、それは皇太后と王妃候補の二人で会うには少しばかり都合が悪いと言う理由でシャーリーはおまけのような感じだった。
皇太后が呼んだのはイザベラだった。
皇太后はイザベラが緊張するだろうからとシャーリーを誘った。
実際、皇太后の話は陛下の体調面や今後の事をイザベラに確認する場となっていた。
イザベラは陛下の体調不良を聞いても動揺する事なく、治るのか、何に注意すればいいのかと聞いていた。
陛下に何かあった時、王妃の立場は陛下の代理にもなる。
側近やグラベルがいたとしてもその覚悟がなければとてもではないが出来ない。
王妃という表面だけを見て憧れるようでは駄目だと皇太后は諭していた。
相変わらず、婚儀の準備は忙しいのだろう。毎日のようにエレナはグラベルの元へやってきていた。そして、そこに別の人物も。
毎回、グラベルが追い返しているようだが、懲りもせずに来ているところを見ると余程のことなのだろう。
今日は若い娘を連れてきている。
グラベルが苛立ちを隠さず何か話している。
「あ〜、とうとう連れてきたね」
ローレンスの声が聞こえた。
「連れてきた?」
シャーリーが振り返り聞く。
「縁談だよ。陛下が前の王妃様と婚儀を挙げた時もグラベルの元に大量の釣書が届けられてたから」
「釣書……」
今朝見たのは釣書だったのか。
「何度断っても送られてくると以前は嘆いていたけど、今回は直接連れてくるようになったのか」
可哀想にと言いながらローレンスは薬室に戻っていく。
シャーリーもグラベルの様子が気になりながらも、薬室長に呼ばれているので急いで薬室に戻ることにした。
事務室に取ってきた薬草を置いてから薬室長の部屋に行こうとして事務室に入ると、中央の机の上には大量の書類があった。
仕方なく、シャーリーは自分の机の上に薬草籠を置いた。
「グラベル様、忙しくて片付けるのを忘れているのかしら」
机の書類に手を伸ばした途端、書類の山は崩れ落ち、いくつかの書類の中身が見えてしまった。
あっ!
着飾った女性が描かれていた。釣書だ。
シャーリーは見てはいけないものを見てしまった、変な罪悪感を持ちながら急いでその書類を元に戻した。
どうして釣書がここに?
グラベルの部屋に届くのなら分かるが、ここに運ばれる理由が分からない。
そういえば、グラベルは縁談を断る口実がほしいと言っていたのを思い出す。協力していなかったな。
グラベルは今でも、それを必要としているのだろうかと気になった。
シャーリーは薬室長に呼ばれ、ホルック領の薬草畑の状況を聞かれた。
既に、次の薬草畑の候補地の選別が進められていると告げられ、ホルック領の結果次第では次の薬草畑の地が決まるという。
シャーリーはその候補地のリストをもらった。
事務室に戻ったシャーリーは先ほどより多くなったように見える書類を眺めて声も出なかった。
机から落ちている書類をみて、全部、元に戻したはずだと記憶を探る。
「あ、ここに来ていたのか」
事務室の入り口に立ち止まっていたシャーリーの後ろから声がした。
グラベルの後ろからアーリシュとヨハンが大きな布袋を手に事務室に入ってきた。
「すぐ片付ける」
グラベルがシャーリーに謝り、机の上の書類に手を伸ばす。アーリシュとヨハンも机の周りに立つ。
シャーリーは邪魔にならないように自分の机の上の薬草を片付けて、薬室長からもらった次の薬草畑の候補地が書かれた紙を見る。
時々、グラベルを横目で見ていると、一つ一つ釣書を見ていた。
断るのではないのか?
そんな思いが出てくるくらい真剣に見ている。しかし、見た後がかなりあっさりしている。
アーリシュとヨハンに渡すと二人は持っていた布袋に入れていく。
それが一杯になると二人は部屋を出ていくが、暫くするとまた空の布袋を持って帰ってきた。
シャーリーは目が離せなかった。
机の上の釣書は全て片付けられ、アーリシュたちは布袋を持って部屋を出ていく。
グラベルは一つ残した釣書を見ていたが、少し考え込むようにしていたかと思うと、それを持って部屋を出て行った。
声をかける雰囲気ではなかった。
あの釣書は……。
それはさっき机から落ちた釣書だった。子爵令嬢の釣書だったはず、ら
どうしてグラベルがあの釣書だけ残したのか。
薬室の仕事を終え、部屋のある王宮の一画の扉を開けると大量の書類を持った衛兵が立っていた。
「あの部屋に」
メアリーが衛兵に告げるとその大量の書類が一階の一番隅の部屋に運ばれていく。
もしかしてあれ全部が釣書?
シャーリーは衛兵の後ろ姿を見ながら部屋に戻る。
次の朝、薬室に行く前に昨日の衛兵がまた書類を持ってきていた。
薬室に行くと別の衛兵とすれ違う。
珍しいとシャーリーは思いながら事務室の扉を開けて納得がいった。
昨日より多い書類が机の上に積まれていた。
ため息が出る。
自分への釣書ではないが、こんなに毎日釣書を眺めていると嫌になってくるだろう。
ましてや、一生独身でいると言っているグラベルにとって迷惑も甚だしいはずだ。
昨日来ていたのは釣書を送っても反応がないため、直接出向いたといったところか。
縁談を断る口実がほしいといっていたグラベルの気持ちが痛いほど分かる。
皇太后はグラベルの結婚を望んでいる。
どうするのだろうか。
シャーリーは机の上の釣書をみて、いつかグラベルがこの中の誰かと結婚する時がきたら、自分はどうすればいいのか分からなくなった。




