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モヤモヤの意味

 薬草畑でシャーリーは立ち止まっている。

 薬草籠を抱えたまま見る先は、グラベルが若い女性と話し込んでいた。


 グラベルは時々難しい顔をして話しているが、若い女性に何か言われて苦笑いをする。

 顔見知りなのだろう。打ち解けた様子に見える。

 誰だろう。


 その女性は最近、毎日グラベルのところに来ていた。それも日に何度も。


「シャーリー、どうしたの?」

 カルロが声をかけてきた。

「いえ、なんでもありません」

 シャーリーは誤魔化すように視線を手元の薬草かごに落とす。

 籠の中の薬草は先ほど収穫したばかりの物だが、少し萎びいる。早く乾燥させないといけない。

 シャーリーは先に薬室に戻るとカルロに告げ足早にその場を離れた。


 カルロは先程までシャーリーが見ていた方を見る。

「どうするのかな」

 カルロは呟いた。

 グラベルが楽しそうに女性と話している。


 カルロは薬草が恋人だと自負している。

 グラベルも一生独身だと言っていたが、どうやらそれは変わりつつあるようだ。

 グラベルが幸せならいいと思うが、最近の様子を見るとそれも疑いたくなる。

「言わないと分からないよ」

 カルロはもう一度呟く。



○○○

 薬室で依頼のあった薬を作っていた。

 ひたすら薬草をすり潰して塗り薬を作った。


「いくつ作るの?」

 突然の言葉に声を失う。

 シャーリーの手元には器から溢れそうな塗り薬が出来ていた。

 手にしていた薬草を元に戻し、出来上がった塗り薬を容器に詰める。


「悩みがあったら言ってね」

 ローレンスは僕では力になれないかもしれないけど、と言い残し自分の部屋に戻っていった。


 はあ〜。ため息が出る。


 最近、自分の感情をうまく表すことが出来なくなっている。それもグラベルがあの女性と話しているのを見るとなぜか心が騒つく。


 ローレンスもカルロもシャーリーの変化に気づいているのだろう。しかし、深くは聞いてこない。

 シャーリーも誰かに聞かれたら、なんと答えていいのか分からない。

 モヤモヤした感情を抱えながらシャーリーは大量の塗り薬を眺めた。


 多く作りすぎた塗り薬は容器に入れ、薬棚の引き出しに入れる。

 振り薬は毎日、依頼が来るのですぐになくなるだろう。多く作りすぎても問題はない。

 気をつけなければ。

 こんな調子で薬作りをしていてはいけないと思いつつも、気がつくとグラベルとあの女性が楽しそうに話している光景が目に浮かぶ。




 まただ、シャーリーは最近、寝つきが悪く、毎晩図書室で本を読んでいる。

 話し声が聞こえて図書室の扉から覗くと、グラベルの部屋からあの女性が出てきた。

 グラベルは一階の入り口まで女性を見送るため降りてきた。

 グラベルの寛いだ様子にシャーリーはまた、モヤモヤしたなんとも言えない感情が出てくる。


 昼間も二人は話し込んでいて、夜も遅くまでそれもグラベルの部屋まで来ている。

 どういう関係なのだろうか。

 シャーリーは思い直す。

 こんな夜更けに男性の部屋に女性が行くのはどういう関係もないだろう。

 そういうことかと納得して、図書室の扉をそっと閉める。

 あの北領地に連れて行く人なのだろうか。

 部屋の一番奥に置かれた椅子に座ると何故か涙が零れ落ちてきた。

 あれ??




 もう見たくないとシャーリーは顔を背ける。

果樹園の帰り道、今日もあの女性がグラベルのところに来ていた。

 薬草畑の端で二人は話し込んでいる。時々笑い声も聞こえてくる。

 耳を塞ぎたくなるのを堪えて、足早に薬草畑を通り過ぎる。


「シャーリー」

 呼び止める声が聞こえた。

 振り向くとローレンスが籠一杯の薬草を抱えて歩いてくる。

「果実もよく生っているね」

「ローレンス様の薬草も凄いですね」

 シャーリーは出来るだけグラベルたちの話し声を聞かないようにローレンスと話すがどうしても視線はグラベルを追ってしまう。


 出来れば見たくないのに。そう思っても、シャーリーの生活空間にいつもあの二人はいる。毎日、毎夜。苦しくて堪らない。


 シャーリーの視線に気づいたのかローレンスがグラベルを見る。

「大変だよね。陛下の婚儀お準備を任されているなんて」

「婚儀の準備?」

 シャーリーが聞き返す。

「あれ、知らなかった? あそこにいるのはエレナさんだよ。陛下の乳兄弟。陛下の前の婚儀の時に手伝っていたから、今回も呼ばれたみたいだね」

 ローレンスの話だと、エレナは三年ほど前に結婚してそれまで陛下の侍女をしていたのを辞めたらしい。

 今回、婚儀の準備期間が短いため、応援として呼ばれて、更にグラベルもその準備に駆り出されているのだといった。


 乳兄弟……。そうか。

 胸の痛みがいつの間にかなくなっていた。

 力が抜けた。クスッと笑みが漏れる。なんだ、婚儀の準備か。

 グラベルは一生独身を貫くといっていたではないかと自分を叱る。

 一人で思い悩んでいたのが馬鹿みたいだ。

 クスクスと笑い出すシャーリーを不思議そうに眺めながら、ローレンスは大丈夫そうだねと言った。

 最近、元気がなかったから心配していたとも。

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