薬草畑と本
王宮のグラベルび執務室ではサイモン医師と薬室長がいる。
先程からブランデンの報告を読んでいた。今回の偽医者と薬屋の報告書だ。
偽医者と偽薬を売っていた薬屋が冬風邪を流行させる一番の原因だった。正規の医師たちの負担は大きく、看過できるものではない。
証明書を売っていた集団と偽医者、薬屋は処罰したが今後同じようなことが起きないとも限らない。
「正式な証明書を王宮から出すと言うのはどうだろうか?」
グラベルはサイモン医師に聞いた。
「そうですね。許可制としてもいいでしょう」
今回の証明書は偽装されたものだ。もともと、そんな証明書は存在しない。
正規の診療所は医療に関わる者は分かるが、民はそんなこと判断出来ないことで今回のことが起きた。それなら正式に証明書を出すことで偽物を作りだる事を防げるのではないかと考えた。
「考えてもらえないだろうか。一旦は王都とホルック領で試してみてよければ国内に広めたい」
「分かりました」
ホルック領はどちらかと言うと農村の多い地域だ。都である王都とホルック領で試せばある程度の状況が分かると思った。それと、自分の領地なら試しやすい。
薬室に行くとシャーリーがローレンスとカルロに薬草を見せてもらっていた。例の追加で作った温室で出来た薬草だ。
「そろそろ次の段階に進んでもいいと思うけど」
薬室長がそう言うと自分の部屋に入っていく。
確かにグラベルが自分の領地に戻る事を考えるとシャーリーにはつぎの段階に進まなければいけない。グラベルは自分の事務室に入る。
本棚から数冊の本を取り出す。薬草園で取り扱っている薬草の生育などが載っている。
シャーリーが事務室に入って来た。
「グラベル様、先程ローレンス様とカルロ様に温室を見せていただきました」
広くて驚いたと興奮気味に話すシャーリー。
「温室だから季節が違っても薬草が育つ環境を作り出せる。丁度、年明けごろに収穫できるように種まきをしていて今回に間に合ったのだ」
他にもシャーリーの知らない薬草もあって、ローレンスとカルロが見せてくれたと喜んでいた。
「シャーリー、まだ薬剤師になりたいか?」
突然言われて答えに困っているようだ。
「薬室長から次の段階へと言われた。ここからは薬剤師を続けるために必要な事を教えなければいけない。もし、辞めるのなら今しかない」
「必要なこととは?」
シャーリーの顔から笑みが消えた。
「この薬草園の管理だ。初めは私が管理している薬草園を覚えてもらうが、ローレンスやカルロの薬草園も覚えてもらう必要がある」
一人前の薬剤師になるために必要で実際の薬草園の管理を一人でするようになると告げる。
「やります」
シャーリーの気持ちは変わらなかった。
グラベルの気持ちも固まった。自分が領地に行くまでに必ずシャーリーを薬剤師にすると。
グラベルは先程取り出した本をシャーリーに渡す。
「ここに書かれている内容を全て覚えるように」
シャーリーは受け取った本を真剣な眼差しで見る。
一冊がかなり厚みのある本で六冊ある。以前、渡したものよりより高度で詳細が書かれている内容だ。実際の薬草管理に必要な知識が入っている。
薬室長が次と言ったのはシャーリーを薬剤師にする準備はあると言うことだろう。シャーリーの迷っていることはもういいのだろうかと思ったが、シャーリーが薬剤師になると決めたのであれば、自分はその為に出来るだけのことをする。
翌日から再び、グラベルとシャーリーは薬草園の手入れを始めた。
視察に行っている間、ローレンスとカルロが手入れをしてくれていたおかげで。薬草畑には薬草が芽を出していた。苗から植えたものもしっかりと根付いている。
シャーリーが作る薬の種類も今までよりも多くなっていく。その時期しか収穫できない薬草は特に念入りに練習する。
気候によって薬草がうまく育たない場合もあり、その対処方法も伝える。
薬室は陛下の薬も作る。薬草がないから出来ませんではいけない。その為、かなり厳しくかんりの仕方を教えた。
ローレンスやカルロにも協力してもらい、二人が管理している薬草園のことも伝え実際に目でたしかめる。
「グラベル、シャーリーを薬剤師にするのだよね」
ローレンスが聞いてくる。シャーリーは今、カルロが管理している薬草園でカルロに説明を受けている。
「今年中に陛下は王妃を迎える。そしたら延期されている領地へ行こうと思っている。それまでにシャーリーを薬剤師にと考えているが」
「それなら、薬草園の管理や薬作りだけではダメだ。見習いから正式に薬剤師になるには試験がある。それは少し特殊だよ」
ローレンスのいいたいことは分かる。
グラベルは症状だけを聞かされて、その病気と処方する薬を作った。
ローレンスは環境だけで、そこで起こりうる病気と植えることができる薬草が出題されたと言っていた。
カルロも確か別の問題が出されていた。
「分かっているけど、正直に詰まっている。どこまで教えればいいか分からないのと、時間がないという焦りもあって」
「試験の時期は薬室長が決める。もし、グラベルが領地に行くまでにその話がなかったらどうする?」
ローレンスも心配しているようだ。
「そこが一番心配しているから焦りがある」
グラベルはたぶん、あと一年もない自分のタイムリミットを考えていた。
「この間、カルロと話した。もし、シャーリーの試験の前にグラベルが領地に行かなければいけないのなら、僕たちでシャーリーを一人前の薬剤師にしようって」
グラベルはローレンスを見た。
「同僚をもっと頼っていいと思うよ」
「ありがとう、ローレンス」
グラベルはいい仲間だと改めて思う。
○○○
薬室に地方から届く報告書をシャーリーに見せている。但し、今見ているのは過去のものだ。
その報告書からどんな対策が必要かを考えさせる。
カルロが見習いの時、薬室長からそういう指導を受けていたと聞いたからだ。
それは試験に役立つかもしれないとローレンスと過去の報告書を引っ張り出して来た。
薬草園の管理と薬作りは変わらず続けている。それ以外にこの方法を付け加えた。
シャーリーに薬草園の管理を教えるのはカルロが引き受けてくれた。
薬作りはローレンスが見てくれている。グラベルは空いた時間で報告書の選別をして渡す。
一つの報告書の期限は内容にもよるが大体、三日から十日を充てている。
シャーリーの考えた対策が正しいものなら次の報告書を渡す。違っていたら再度やり直させる。その繰り返しだ。本を調べてもいいが薬室長やローレンスたちに聞くことは禁止にした。あくまでも自分で答えを導き出すことに重きをおいた。その力が試験に必要になってくるからだ。
「グラベル、ちょっといい?」
ローレンスが事務室に顔を出した。
「春からの薬草の計画だけど」
「分かった」
グラベルはシャーリーを誘いローレンスと薬室に行くとカルロもいた。
「夏から秋にかけての収穫する薬草の配分をどうしようかと思って、そろそろ春の種付けの準備をしないといけないだろ」
ローレンスが冬風邪のこともあるから、前回と同じくらい作ったほうがいいだろうかと聞いてくる。
「医師と薬剤師を許可制にしようと今サイモン医師と薬室長が準備している。それに合わせて、騎士団への薬草配布を止めようと思っている」
「薬剤師はどうする?」
ローレンスは薬剤師も人手不足のはずだと言ってきた。
「流行り病で働き口をなくした薬剤師が何人かいるのが分かった。その人たちを騎士団や薬剤師がいない地域に派遣しようと調整している。それに、薬草は別のところから出せるようにと考えている」
「別のところって何処?」
カルロが聞いてくる。
「ホルック領。あそこは余っている土地がかなりあって、今、薬草畑にできそうな場所を探してもらっている」
シャーリーも気がついてようだ。この間、視察に行った時に荒れた土地がかなりあったことを。
「どれくらいの広さが確保できそう?」
カルロがそれによって王宮でもある程度作っておかないといけないと言う。
確かにそうだ。いきなり全てとはいかない。
「追加で作った温室と同じ広さの場所が五、六個。今のところ確保できている」
「もう少し確保できない?」
グラベルたちが振り返る。後ろにいたのは薬室長とサイモン医師だ。
「そんなに広げてどうするのですか?」
ローレンスが先程の言葉を発した薬室長に聞く。
「薬草を王宮で全て管理できないかと思った。医師と薬剤師を許可制にするのなら、薬草の流通も整えたほうが早いよね」
グラベルたちは顔を見合わせた。薬と統一できたら効果も一定になる。
「いいね」
一番初めに声を上げたのはカルロだった。
その後は早かった。
グラベルは薬草園になりそうな場所を再度調べるようにブランデンに手紙を書いた。
ローレンスとカルロはシャーリーに説明しながら、必要な薬草の量を算出する。
「シャーリー、この薬草とこっちは昨年と同じ量が必要だ」
シャーリーがボードに書き加える。
「カルロ、この薬草は減らしてもいいのか?」
ボードに書き加えられたものを見てローレンスが聞く。
「こっちの薬草を少し多めに作っておきたい。その薬草は別の薬草で代替えが可能だから減らしても大丈夫だよ」
「そういえば、ホルック領の農地はどんな感じだった?」
ローレンスがシャーリーに聞いた。
「私が見たところでは、荒れていました。かなり長い間手入れがされていない様子で」
「土作りから始めないといけないかな。そうすると、今年の冬の薬には間に合わないかもしれないな」
ローレンスがボードに書かれた薬草の隣に種付けと収穫時期を追加した。
「どこで何を作るかも考えないといけないね」
カルロが言う。
「種や苗の確保も必要になってきますね」
シャーリーが言う。
「早く決めないと種付けに間に合わなくなるよ」
カルロが言うと三人はボードを見つめた。
「グラベル様、すごいことになっていますね」
シャーリーはローレンスに言われたホルック領に植えようとしている薬草の詳細を書き出していた。
「ホルック領の管理を言われた時に思いついたのだ。ただ、ここまで大袈裟になるとは考えていなかったが」
「グラベル様はいつもそのようなことを考えているのですか?」
「いつもと言うわけではないが、これでも一応管理官だから」
シャーリーは一応と言いながら笑っている。
「ホルック領の薬草園はブランデンたちに任せようと思っている。シャーリーにも協力してもらいたい」
「私が?」
「サラからルイーザ殿と手紙のやり取りをしていると聞いた。ブランデンたちもシャーリーだと聞きやすいだろう。分からないことがあれば私やローレンスたちが力になるから安心していい」
シャーリーはグラベルの言葉に笑っていた。
ローレンスが薬として使える鉱物の事をシャーリーに教えてくれている。
シャーリーに渡した本は既に四冊目まで読んだと言っていた。
薬作りも順調で最近では依頼のある薬は殆ど作れるようになっている。
報告書での練習はなかなか進んでいないが、少しずつだがコツは掴めてきているようだ。
グラベルとローレンスが薬室長から呼ばれた。
薬剤師の試験の再開を考えていると。
不足している薬剤師の補充が急務だと地方からの報告書で上がっている。時期は来年。詳細はこれから決めると言われた。
それを考えるとシャーリーの試験はその前くらいになるはずだ。
グラベルとローレンスは考え込んでしまった。微妙な時期だ。陛下の婚儀のタイミングによってグラベルはここにいない時期になる。やはりローレンスたちに託すしかないだろう。




