王宮の書庫
薬室長の部屋から出るとボードの前にシャーリーがいた。
「おはようございます」
シャーリーは挨拶すると目を合わせる事なく事務室へ入っていく。少し元気がない。
体調でも悪いのかと思って声をかけようかと迷っていたら、ローレンスが自分の事務室へグラベルを引っ張った。
「誤解されているぞ」
ローレンスはグララベルの事務室の方を見て言う。
「誤解?」
「薬室長と。さっき、カルロが余計な事を口走っていたから」
「カルロは何を言ったのだ?」
「グラベルは薬室長とよく二人で部屋に篭っていると」
多分、わざと言ったと思うとローレンスが教えてくれた。
「なんでわざと言うのだ?」
ローレンスに、はあ?という顔をされた。
えっ?という顔をグラベルはした。
「シャーリーがグラベルを好きかどうか確かめるためだよ」
「それはない」
グラベルは言い切った。
「本当にそうか?」
ローレンスがしつこく聞いてくる。
「ローレンス、もしかしてお前」
ローレンスがシャーリーを好きなのかと疑うがローレンスは慌てて否定する。
「違う、違う」
「カルロが自分とは距離があると感じているようだ」
ああ……。
「ここ最近、二人がよく会話をしていたから大丈夫だと思ったが、この間カルロのお気に入りの収穫を目撃した」
まだ、ダメだったらしい。グラベルの背に隠れてしまった。
「やはり、それか」
ローレンスはそんとなくそうかなと思ったが敢えて言わなかった。
カルロが誤解してシャーリーに話した事で今度はシャーリーが誤解したと言う。
出来れば、その場で誤解を解いて欲しかったとグラベルはローレンスを恨んだ。
「僕も知りたかったのさ」
ローレンスが笑いながら言う。
何を知りたかったのだ?
「カルロは僕から話しておくよ。シャーリーはグラベルから話したほうがいいよね」
グラベルはよくわかならいまま、ローレンスに礼を言うとシャーリーがいるはずの事務室に入る。
シャーリーは今日作る予定の薬の準備を始めていた。
「今日は朝食を一緒にできなくて悪かった」
グラベルは会話の糸口を探そうと口にした。
「グレベル様、例の提案ですが。止めませんか?」
シャーリーはやはり誤解しているようだ、グラベルの今朝の行動が誤解を与えているようだろう。
「どうして?」
グラベルはもう少しシャーリーの考えを聞いてみたかった。
「グラベル様は好きな方がいたのですね」
やはり目を合わせようとしない。
「薬室長とは誤解です」
「よくお二人で部屋に籠っておられるとか」
シャーリーは俯いていて表情が分からない。
「薬室長は研究に没頭すると食事も睡眠も忘れてしまうのです。そんな時は私やローレンスが食事を運んで、無理やりベッドに連れて行くこともあります」
薬室長が倒れるとその仕事のしわ寄せがグラベルとローレンスに掛かる。
ローレンスは絶対嫌だと言うので、グラベルとローレンスで交代で薬室長の面倒を見ている。
「今、シャーリーが見ている報告書、あれが定期的に各地方から薬室長に送られてきます。例の冬風邪のこともそうです。問題があれば対策を考えて送り返すのが薬室長の仕事で、薬室長が倒れると私やローレンスが代わりをしなければいけない」
そうならない為に時々、薬室長を無理やり休ませているのだと告げるとシャーリーは納得してくれた。
シャーリーから報告書の回答が間に合わないと言ってきた。
「どこか分からないことがあるのか?」
「この地方の気候が分からなくて、判断がつきませんでした」
シャーリーが言っているのはこの国の一番北にある領地、ヴォルスク領のことだった。
「ヴォルスク領は一年の半分ほどが雪に閉ざされていて、この王都とは気候も病気も使う薬も違っているから判断に迷うだろうな」
そのことを説明していなかったと反省する。
「参考になる書物がある。それを読むといい」
グララベルはシャーリーを連れて王宮が管理する書庫へと行く。
入り口にいる衛兵に告げ、中に入る。
グラベルが私室として使っている王宮の一画よりも広い部屋に天井まで届く本棚が幾つかあり、全ての本棚に本が埋まっている。
一番奥の窓際には床が高くなっていて、テーブルと椅子が置いてある。
シャーリーは圧倒されているようで、部屋に一歩入ったところで立ち止まっている。
「シャーリー、こっちだ」
グラベルが声をかけるとシャーリーは慌てて歩き出す。
「王宮にいる者が調べ物をする為に必要な書物がここに集められている」
「すべて?」
「そうだ。新たに分かったことなどは随時追加されていく」
本棚の一画を指す。
「ここにヴォルクス領に関する書籍がある。好きに呼んでいい」
シャーリーにこの書庫はいつでも自由に出入りできると告げると目を輝かせていた。
数日後、シャーリーはきっちり対策を考えて提出してきた。
「この地方のことはあまり知らなくて、雪に閉ざされている間はどうするのですか?」
「皆、普通に生活しているよ。王都みたいには出来ないけど、それなりに工夫している。今度行ってみるか?」
グラベルは自分の領地を見せたいと思って言ったが、自分でも驚いていた。今までの自分はこんなこと言わなかっただろう。
「どなたの領地か分かりませんが、ご迷惑ではないですか?」
「私の領地だから大丈夫だ。従弟が領主代理をしている」
シャーリーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐ笑顔になって機会があればといった。




