60話 そうだ、新技術を披露しよう。
ヒイロさんの剣は本人のスキルのせいか熱に特化しやすい。
魔法陣に熱の制御を組み込まないと剣が溶けるレベルで熱くなる。
いやまあ、その前に回路が焼け落ちるけれども……物はたとえってヤツだよ。それくらい分かるだろ?
そんなわけで、どうしたってファンタジーで見る炎を纏った剣なんてカッコいい見た目にはならない。
つまり個人的にはあまり強そうには見えないなって話。
やっぱあの派手な見た目や形状には憧れちゃう。だって男の子だもん。
なんて呟いたら、ヒイロさんのスイッチをうっかりまた入れてしまった。
「何言ってんだ、お前! 世の中にどれだけ外皮が固い魔物が居ると思ってんだ。これなら甲羅がある魔物とだって戦える。それにな、回復力が異様に高い魔物だってそこそこいるんだぞ!? そりゃ目に見えて四肢がくっつくなんてのは稀だけど、ちょっとした傷なら数秒で消えるなんてのはザラだ。それが! これなら、なんと! 傷口を焼くから再生できない。超回復持ちでもかなりの遅延になる」
とのことだそうで。
そんな危ない魔物、おれなら『逃げる』一択ですけど?
……でも、やっぱいるんだねぇ、そーゆー物騒な特性の生物。
「まあ、この辺りではどっちの魔物も湧かないから知らなくてもしょうがないか。……ああ、試すことができなくて残念だ」
キリっと整っていた眉がへにょんと下がった。
つまりこの辺の魔物はレベル的に物足りないと?
頭おかしいよね(溜息)
「せっかく手に入れたんだから、ちゃんと使ってやらないとな」
ぽんぽんと愛剣を叩くヒイロさん。
そういうわけで、最近はちゃんと出立について考えてるらしい。
俺は強いやつに会いに行く、ってか?
外で新武器を試す気満々である。
「そりゃ使うだろ! こんな便利なんだぞ。ってか、便利と言えば! もう無理。まず靴が無理。あんなクソ靴履いて長距離移動したくない」
あー、その気持ちはわかるわー。
俺は深々と頷いた。
「とはいえ、こうなるとやることが多いんだよ!!」
元気だったヒイロさんが反してげっそりと項垂れる。
「が、がんばれ?」
正直、俺にはそんな言葉しか思いつかない。
ええ? 村を出る前にやっておかなきゃならないことと言えば、そりゃここから持っていくモノの取り扱いの熟知だよ。
例えば、だ。
靴の快適さを村の外に持ち出そうとすると、まずスライムを連れて行かなきゃならない。
飼い方を学ぶだろ?
靴を使い続けるってことは、なんらかのトラブルの際に自分で原因を突き止め、解決しなければならない。
つまり魔法陣を学ぶ。導線の引き方を学ぶ。
――靴一つとってもこの量だから。
これに加えて、ヒイロさんの武器やアルネさんのナイフに搭載してる魔法陣がある。
ついでに新しく作って渡したライトもある。
数え上げていたヒイロさんが「うわぁ!」と頭を掻きむしった。
その後ろでアルネさんも天井を見上げて放心している。
そう、居たんだよ。一応、アルネさんも。無言だったから気づかなかっただろうけど。
実は一点を見つめたまま動かなくなって長いけど、……た、たぶん疲れたんだろう。
武器のメンテナンス方法や修復技術の習得。それは魔法陣の回路図から始まり、脈路の作り方、導線の特性、溶解液の取り扱い、――とまあ、多岐にわたる。
そこから補修キットを揃え、スライムの生態を学び、魔石の交換方法を身に着け、加えて文字まで。
そりゃこんな感じにもなるよね。
俺たちは都度過程で身に着けたけど、この人たちは詰込み型だから。
最初から全部を網羅するのは無理と踏んだ二人は役割を分担することにしたらしい。
目の前の問題はヒイロさんが解決し、起こり得る大きな問題はアルネさん。
文字担当はアルネさんになる。
そもそも二人とも文字は読めなかったらしい。
最初に文字の話が出たときは、
「文字なんて読めなくても大してこまらなかったから……」
なんて、笑ってたアルネさん。
そしてこの村に文字が氾濫してるのを見て、真っ青になってお婆のとこに突撃にいった。
「な、な、なにを、ちょ? だって、反逆罪、え。下手したら村ごと焼き払われッ! ――あ、あなたほどの賢者が居ながらなぜ、こんなことに!」
「落ち着きな、娘御。ほれ、よく見い。忌々しい貴族どもが扱ってるあの文字とはまるで別物じゃぞ」
「へ? ああ、ホントだ」
一拍置いてからの驚愕は完ぺきだった。
「……ッ! よ、よよ、よ余計に悪いでしょうがっ!!」
お婆がどういう説得をしたのか知らないけど。最終的に、疲れたように肩を落として帰ってきたアルネさんは「やるわ。わたし」と文字の習得を宣言した。
「圧倒的に覚えることが少ないのがせめてもの救いよね……。というかこの文字だから、何とかなると思えたというか」
ハードルが低けりゃ、やる気も出る。
真理である。
既存文字は俺も学んだからね、わかるよ?
あれはちょっとやそっとで習得できるものではない。まして短期間学習は組み合わせとして最悪だ。
最初から無理とわかってるものをやろうとは、人間中々思わないものである。
アルネさんが文字を学ぼうと決意したのは、文字さえあれば知識を持ち運べるからだ。
メモさえあれば、それを読めさえすれば、必死に覚えなくてもいいってこと。
そんなわけで両方向からのアプローチ。
日々のメンテや頻発するだろうトラブルに関しては、ヒイロさんが技術を含めて学んで。少し難しい問題は文字を覚えたアルネさんが、自分で今まとめてる本を持参する。
「こわい、本気で。この本誰かに見つかったらどうしよう……。異端審問にかけられるかも」
震えながらアルネさんは日々、まとめノートを作り続けている。
できるだけ小さく薄くしようという努力はすっごく目に見えるんだけど。
涙目になりながらもやめるとは言わない。
「だって! 便利じゃん! 本来自分が記憶しなきゃならないものを保管できるんだよ? やらないわけにいかないでしょお!?」
感覚的には外付けのハードディスクみたいなもんか。
便利は何物にも勝る。うむ。
剣以外で言うと、新しいのはライトだろう。
こちらは実は覚えることはあまりない。
というのも、壊れてもできることはほとんどないからだ。
仕様としては、ボタン一つで指向性の広がりを変えられる。照射角度を変えられるようしたんだ。
光量は逆にダイアル式ね。
こっちは小型化を第一に考えたから、壊れたら修復はかなり難しい。
……細かすぎんだよね、魔法陣が。
ってか、コレ実は初めて成功した技術を使ってる。
あ、正しくは「自分的には新技術」、ね?
もしかしたら世の中にはすでに氾濫してたり、もしくはこれがスタンダードだったりするのかもしれないけど!
俺的には画期的だったんだからいいじゃん!
ごほん。
仕切り直して説明しよう。
俺はこれを多重魔法陣と呼んでいる。
展開型魔法陣の欠点である、「物理干渉に弱い」を克服した半概念魔法陣だ。
基盤こそ普通の魔法陣のように使っているが、実際の設計図もしくは回路はそこに描き切れる情報量ではない。
――だから何重にも層を重ねた。
これが俺が思いついた、巨大化が問題だった展開型魔法陣の解決法。
基盤を基本の層にして、そこに前提条件と上位命令を詰め込む。
あとはひたすら続きを魔力で描いて、積み重ねていくだけ。
……と言っても、その作業がエライ骨が折れたんだけどさ。
ほら、前にうっかり呪いの魔道具作ったじゃん?
正確に言うなら、「魔法陣に自動的に魔力を流して定着させる装置」のことだ。
今じゃ「魔法陣プリンター」と呼んでいるが。
紙に描いた魔法陣を(勝手に魔力を吸い上げて)自動で描いてくれるんだから、いいネーミングセンスだろ?
これがまた、多重魔法陣と相性が良かった。
だって思い出してみてくれよ。あの装置の欠点の一つ、一度で描き切らないと失敗する仕様。
本来の巨大展開型魔法陣を一気にプリントしようと思ったら何日かかることか……。
その間、魔力を吸い上げられてる動力は動けないのだ。
けど多重魔法陣は何枚もある代わりに小さい。
身動きが取れない時間はごくわずかだ。
まあその分一枚一枚紙から剥がすのが手間だったけど……。
次の層のどこそこに「続く」と、どこそこの層の「続く」からの「続き」、これの設定にかなり苦労したけど、なんとかうまくいってよかった。
細かいルールは無数にあるけど、ざっくりと説明するとこんな感じ?
ん? 課題だった収納方法?
ああ、そういやそんな話もあったな。
展開型魔法陣は動かす前は収納されてるからうんぬんかんぬん。
多重魔法陣はそもそも展開しない。いや、重なっている状態が正常な展開状態とでも言えばいいのか?
だから収納なんて、そもそも必要ないのである。
…………にやり。
なあなあ! これってしてやったりじゃない?
発想の転換じゃない?
俺ってちょっとはすごいんじゃない!?
や、もしかしたら世の中にはもう存在するかもしれないけど。で、でも見たことないから!
カンニングせずに作ったんだから、オリジナルと言ってもいいだろ?
自慢したさと、この程度でと呆れられかもという葛藤の元、俺はひっそりとお婆だけにこの多重魔法陣を披露しに行った。
勝てなかったんだよ、承認欲求には!
人生二度目でも。強すぎる承認欲求はろくな結果をもたらさないって、実際に体験してたとしても。
そしたらね。
めっちゃ怒られた。
「この鬼子め! 鬼子め、鬼子め、鬼子め! 次から次へと!」
罵られながらぽかぽかと理不尽な暴力に晒された。
……なんでやねん。痛いねん。
「いいかい!? まず約束しな! 絶対に誰にも知られるんじゃないよ!」
はい?
「この中身だよ、こんなもの誰かに見られたら!」
え、なに、どうにかなるの?
「ッどうにかなる、なんて話じゃないよ! ――……どうする、どうする? 文字どころの騒ぎではないぞ」
あー、独りの世界に行ってしまわれた……。
てか既視感。
ついこの間、新文字を知ったアルネさんがこんな感じだったよね?
てーことは、お婆もこの技術知らない?
マジで俺のオリジナルの可能性ある?
……さすがにないかぁ。
世の中は広い。お婆だって知らないこと、たくさんあるだろうし。
俺程度が思いつくこと、どこぞの天才なら誰でも思いつく。
浮かれるのもはしゃぐのもいいが、思い上がってはいけない。
うん。やめとこ。同じことを繰り返すのはさすがに馬鹿。
「とにかく! これはお前のものだ。自分を守るためにも、他の誰にも知られないようにしなけりゃならん」
うんうん。技術は知的財産権を主張できなくても、きっとこの設計図の著作権くらいはあるもんね。
でも正直、この多重魔法陣の解析はかなり難しい。
作った本人が言うんだから間違いない。
まず解析するためには層をバラバラにする必要がある。
でも層を剝がすのには手順がある。
その手順または答えにたどり着ける手掛かりを、誰でも手に取れる物理基盤に書かなきゃならないというルールがあるから、絶対に解けないというわけではないんだけど。
でもねー、剥がすのに一度でも失敗すると魔法陣が崩壊するんだよね。
だから複雑な手順にする、もしくは引っかけ在りきのヒントを書いておくだけで、たった一度のチャンスしかない分解チャレンジはほぼ失敗する。
答えを知ってる俺ですら、何度これで苦労を水の泡にしたことか。
ちなみにこれは俺が意図した仕様ではないのであしからず。
――だから実際はお婆の心配は杞憂なんだけど。
ここはお婆に免じて一応対策をしておこう。
お婆もこれを見れば安心だろう。
俺はブラックボックスを作った。
んで、その中に情報をぶち込んだ。
二重セキュリティである。
結果、素人にメンテナンスなんてできない構造になった。
「もし壊れたら村に寄ってね? 俺が直すからさ」
ヒイロさんたちに言えたのはそれだけだ。
事このライトについては、それ以外にできることはないのである。
しかし、お婆に言われたからとはいえ。むむ……さすがにやり過ぎたかもしれない。
時間が経つにつれて段々後悔してきた。
コレ見た人に自意識過剰って思われたらどうしよう。
ちょっと、いやかなり、恥ずかしいかもしれない。
「ヒイロさん、アルネさん! それ絶対人にあげないでよね!?」
俺は二人に念押ししておく。
これで人知れず恥をかかずに済むだろう。
「……ねえ兄さん? わたしたちがイサーク助けたのって、かなり大ごとなんじゃないかって気がしてきたんだけど」
「奇遇だな。実は俺もそう思ってたところだ」




