45話 そうだ、厄介な人は避けよう。
どうも、イサークです。
ゴブリン事件に続き、久々に死にかけた川ポチャ事件だったが、なんとか無事に終わりを迎えようとしていた。……いや、迎えた!
村長とは熱が下がってからちゃんと会ったよ。
そりゃもう、めっちゃ謝られた。
もちろん俺を放り投げた張本人であるセルジのおっさんにも会った。
ユリアの父なだけあって顔立ちは整ってるし、早婚の習慣もあってかなり若いから「おっさん」と言う年齢でもないんだけど、そこは私怨。許して欲しい。
事件の被害者と加害者を1対1で会わせるようなことはさすがになかったので、俺も安心して面会ゴーサイン出したのはいいけど、……ぶっちゃけ俺の前に立ちはだかる人壁が厚すぎてなんなら服の端っこしか見えなかった。鉄壁のガード、いらんっす。
「大丈夫だから!」と必死の説得にやっと顔が覗けたくらいだからね。
ちなみに、当のセルジさんは全然お変わりなく。
対面した途端すんげえ憎々し気な顔して舌打ちまでされ、流れるように村長に一発殴られ頭を掴まれ、地面に額を押し付けられ……。
そこそこお綺麗な顔はすでにボコられた跡が痛々しく残ってたのに、懲りないと言うか、なんと言うか。もごもご。
かく言う俺はセルジさんより村長の戦闘力に戦慄したよね! 恐ろしい!
んで、最終的にセルジさんは村長の圧に屈し、歯ぎしりの音が聞こえそうなくらい嫌そうに謝った。
あのー、それすでに謝罪じゃない気が?
あ、怒ってないよ。ホントに。
謝られたところで意味はないなと、他意無く、ごく普通に思っただけで。
俺としてはね、双方にとって利にならないことをやる必要はないと思うんだよ。うん。
――実際は周りの目が怖すぎて言えなかったケド。ごめん、セルジのおっさん。
だって、鈍感な俺の肌がビリって来た! たぶんこれが初めて感じる殺気ってヤツ!?
しかも遠くから覗きに来てたイザベルが手を鞭のようにしならせてるのが見えたから、ガチ目にセルジさんの命を心配しちゃったよ!
そんな事は知る由もないセルジさんの反省の見えない態度に血管を浮かせた村長。
がっと首根っこを捕まえて動けなくしてから、気が済むまで殴っていいとまで言われた。
ひぃ! 遠慮します。(ドン引き)
暴力反対。
てか、確実に柔い俺の手の方がダメージ受けると思うの。
ソッコー拒否った俺を余所に、「じゃあ代わりに」と腕を鳴らしながら申し出た人たち(一人ではなかった)については発言いたしかねます。
だ、大丈夫かなあ?
やりすぎはよくないよー。何事もほどほどに!
……う、うーん。
いつか返り咲いたセルジさんに痛い目に合わせられたりしない? この人たち。
「返り咲かないから問題ない!」
とババアに断言されてしまった。
そして村長が苦々しげな顔をして「ううむ」と頷いた。
じゃあ次の村長は誰がやるんだろう。
ユリア母か?
いや、無理か。この村、まだ女性に活躍の場が回ってくるような先進的な社会じゃないし。
むしろお婆が幅を利かせてるのがかなりの例外。
そもそもクローディアさんはあまり公私の区別が得意じゃなさそうだ。(究極オブラート)
ん? そういや説明してなかったけど。
つまり村長の直系はユリア母で、セルジのおっさんは娘婿。
だからこそ村長があれやこれやで箔付けの為にセルジさんの実績をせっせと作ってたわけなんだが。
例えば、森組の中でも採集班だったセルジさんが(欠員が出たのもあるけど)碌な話し合いなく、突然狩人班にまわったり。身内で班を固めて、成果をセルジさん一人に集めたり。
そんな努力の甲斐なく、この度見事水の泡になりましたとさ。
これはセルジさんに適正がなかったのか、ユリア母に見る目がなかったのか。
……もしや両方か?
そもそも箔付けが必要な時点でお察しだったりして……。
採集班だったことからもわかるように、クローディアさんと結婚する前は「そこそこ」な立場に甘んじてた人だ。
森組だから優秀ではあるけど、狩人班に入れるほどの腕はない。そんな感じ。
村長の縁者に限るなら、適正持ちはユリアまで飛ぶ。
しかも、そのユリアが女の身で村長になれるかという問題と、ユリア自身が村に残ってくれるのかというだいぶ分の悪い賭けに勝たなければならない。
――負け確だろ、コレ? 主に後者の選択肢的に。
一応、ユリアには妹もいるのだが、……どちらかと言えば母親似なのであまり期待できない。
そんなわけで村長には当分村長で居てもらわないと。
こっちは切実だ。
「めっちゃ困る!」と説得する俺と、「示しが付かん!」と主張する村長とでどちらも引かない押し問答。
最終的に村長は村長(仮)になった。
「これではなにも変わらんではないか!」
と憤慨してた村長には悪いけど、不在にするわけにいかない職だから仕方ないよね!(満足)
散々ごねられたけど、お婆に「『杖』の所有者を空にするつもりかい」と言われてハッとしてた。
え、なに。あの杖? 国から支給されてる、村長の証的なあの魔道具?
クソみたいな単位の基準になってたアレ?
所有者欄が空になるとどうなるの?
ちょお! 気になるんだけど。今なら弱みに付け込んで見せてくれるかな?
どういう命令文と回路で出来上がってんのか、魔法陣をぜひとも参考にー!!
と頭を地面に擦り付けて頼んだら、なぜか許可が下りた。
マジか。
え、マジで!?(喜)
「発動だけはさせんでくれよ」
村長が苦笑しながらそう忠告をよこす。
するつもりはないけど、なんで?
「一回限りの魔法が込められておる」
発動したら最後、国だか領だかから軍が派遣されてくるそうだ。
え。
「出動要請って事?」
「そうとも言える」
うむうむと頷く村長。
どういうことかと詳しく聞いてみると、杖の仕様が鬼畜だった。
国から支給されるのは一回限り。
つまり発動したら終わり。
もう一度手に入れるには買うしかない。
あのバカ高い魔道具を、である。
万が一買い直せなければ、イコール杖がないということで村とは認められない。
見捨てられるか、接収されるかの二択になる。
だからその杖を発動させるのは、村が滅亡の危機に瀕した時なのだ。
例えばスタンピードとか、侵略とか。
そ、そんなのよく気軽に俺に見せようと思ったね。
許可されたからには見るけど!
見るけど。……村長さあ、その時は頼むから傍にいてね?
ぎゅっと村長の手を握っておいた。
そんな怖い魔道具一人で見るの嫌です。
――てなことがあった日から数日。
体調も回復しやっとババアの家を出て、愛しの我が家に帰ってきた後も、要らんくらいみんなが代わる代わる顔を出してくれた。
でも俺、根が陰キャだからね。一人の時間が大事なんだよ。
そろそろ一人にしてくれって頼み込んで、事件以前くらいの距離感を少しずつ取り戻していた時分。
俺は厄介な人の逆鱗に触れたらしい、と気付かされた事件が起きた。
散歩がてら一人で外を歩いてたら、にょっと伸びた手に髪を引っ掴まれ物陰に引き摺り込まれた。
なんでやねん。
「調子に乗ってるんじゃないわよ」
押し殺した声が耳の傍で囁く。
こわ。
「ど、どうも」
辛うじてそれだけ喉から絞り出す。
ご無沙汰してます、クローディアさん。
という台詞は唾と共に飲み込んだ。……お、鬼がおる。
俺が顔を上げて挨拶すると、開き切った目が俺をカッと睨む。
あの、たまに瞬きしてもらっても?
ホラーです。普通に。
「あんたはボロ布みたいに床に這いつくばってるが丁度いいのに。何を今更人間みたいに歩いてるの?」
ぐいと顔を引き寄せられて間近で覗き込んだ彼女の目の中にはアホ面を晒した俺。
不覚! ジャブなしでいきなり叩きつけられた強烈な言葉にさすがに面食らってしまった。
常識と照らし合わせて、自分の耳がおかしくなったのかと疑ったくらいだ。
「皆に媚びを売って取り入るなんて、本当に卑しい子ね」
あ、聞き間違いじゃないわ。
スンと動揺が収まった。最近の騒動のせいでいつの間にか心臓に毛が生えたのかも。
にしてもクローディアさん、価値観偏り過ぎじゃない?
俺に厳しくはあったけど、一応常識の範囲内で収まる人だと思ってたんだが。
俺、人間扱いされてなかったとか、マジ?
「そんなことしても無駄よ。どうやってもお前はあたしたちと同じにはなれないんだから」
わお! こんな辺鄙な村で選民思想とか、井の中の蛙すぎて逆におもしろ、ごほごほ。
ぐぐぐ、笑ったらダメな場面なのはわかってるから!
俺は頑張って口をへの字に折り曲げる。
だって全員顔見知りみたいな閉鎖的な村だよ?
むしろどうやってそんな極端な考えに至ったのか興味湧くじゃん!
「今まで通り大人しくしてれば良かったものを」
彼女に掴まれた髪がぎりぎりぎりと締め上げられ、あーあーあー!
…………あれ、あんまり痛くないな?
髪って鷲掴まれて引っ張られるだけだと大したダメージ無いんだね。
なんなら一二本引っこ抜かれた方が痛い気がする。
まあ、知ったからってどうでもいい話か。
「目障りなのよ、忌々しいッ」
でも、振り回す分には便利かもね!
ああ、頭が揺れるぅー。
ゆさぶられ症候群になっちゃうんじゃないのコレ。
「お前が! お前が、お前さえ」
あともう何言ってんのか不明瞭。
伝える気があるならもっとちゃんと喋って! プリーズ!
「お前のせいで!」
……オーケー。
ユリアがどうとか、お父様を騙してとか、あの人を陥れてとか。
所々は聞こえるから、怨み辛みってのだけは理解した。
だからってどうしろと。
どうせ俺の力じゃいくら女の人でも大人には勝てない。
できるのは精々舌を噛まないように口を引き結ぶことくらいだ。
頭をがくがくと揺らされ、俺がされるがままだから飽きたのか、それとも言いたいことを言って満足したのか、最終的にぽいと投げ出された。
ラッキー、雪の上だから痛くなーい。
「身の程を弁えなさい。昔のあなたは出来てたはずでしょう?」
彼女はそんな台詞を残して去っていった。
えー、もーなにー?
嵐かよ!
あの人何しに来たんだろ。てか、なにがしたかったの。
結局なんも害がなかったんだけど……。
まあ、約束されてた旦那(セルジさん)の未来が白紙となったら、怒りもする、か?
俺の顔見て、カッと来てついやっちゃった的な?
突発的な行動はあんまりいい結果を生まないんだけどな。あ、これ経験論ね。
……いや、なんで俺!?
セルジのおっさんと同じだよ、八つ当たりじゃん!
似たもの夫婦め!
と一瞬理不尽さを感じたけど。
いやいや、今回は痛くもかゆくもないし、別にいいか?
と思い直す。
だってどうせ皆には言えないし。
せっかくおさまった過保護がまた始まると困る。
いい加減面倒事はおしまいにしたいぜ。
それにしてもこの様子だと、ユリア母が――クローディアさんが権力握ったら、ソッコー村を追い出されるだろうな。
万が一にも無いと思うけど。けど。
やはりここは村長に頑張ってもらうしかないね。
無理矢理村長職を押し付けた数日前の俺、グッジョブ。
――ちなみに村長は自分の娘の厄介な思想はご存じでいらした。
気になったから、素直に「どうしてああなったの?」と聞いたら、頭抱えてたもん。
「なぜ丸く収めようとした儂の苦労を、」
と一言唸って、動かなくなった。
……子育てって難しいんだね。ドンマイ。
そっと背中をさすっておいた。
そうだ、厄介な人は避けよう。(むしろ向かってくるので無理です)




