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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第二章  四人になった少女愚連隊 新天地を求める  の話
31/80

12  『それは 彼らの定めた一つのルール』

「ギョク先輩……」


「ギョク……」


「わかってる。わかってるよ……」


 スズの見守る中、二人の仲間が、勤めて冷静を装いギョクの名前を呼んでいる。

 自分の知る頼もしい仲間たちが、マチネの言い放った一言で纏う空気を一変させた。スズは初めて、この三人を少しだけ恐ろしいと感じた。


(助けて、あげられないの? だってこの人は、ちゃんと助けてって言ったよ……?)


 誰かの死を願うという発言を恐ろしく思い、それでもこの優しい女の子は、目の前の女性が苦難の日々から開放されることを願っている。



 改めて椅子に座りなおし、しばらく目を瞑っていたギョクが、ため息と共に口を開いた。


「なぁ、マチネの姉ちゃん。俺達は、アンタの今に同情する。痛ましいと思うし、何とかしてやれればとも思った。事実、ついさっきまではそのつもりだった」


「それって……。ダメなの? どうしてっ!?」


「まぁ、納得できねぇのも無理はない。聞きたいならちゃんと話す。だが、期待はするなよ?」


 目をむき立ち上がるマチネを片手で制すと、ギョクはゆっくりと話しはじめた。

 スズの目には、口は悪いが気の優しい少女のそんな姿が、何故だかとても苦しそうにも思えた。




 確かに冒険者は、一殺いくらの仕事にも手を出す。冒険者ギルドを介してという原則はあるものの、非合法な仕事もやってのけるのが冒険者だ。だがそれは、冒険者達の大前提でしかない。殺しに手を染める冒険者もいれば、絶対に手を出さない者もいる。

 世間の裏側を歩くような依頼を受けるか否か。その判断は冒険者自身が決めることで、誰にも、たとえギルドであっても強制する事はできない。


 そして中には、自分達がそんな薄暗い仕事を請けるに当たり、一定のルールを定める冒険者も存在する。自分たち独自の基準を設けて、受ける受けないを判断する者たちがいるのだ。


「俺達にとっての基準は唯一つ。『依頼人から直接、面と向かって殺してくれと頼まれない』ってコトだったんだ」


「なんでよっ!? あなた達だって聞いてくれたじゃない。私がどんな目にあってるか、分かってくれてたじゃない。それなのにどうして? どうしてそんな些細なことで、やってくれないなんて言うのよっ!」


 激高し頭を振るマチネに向かって、ギョクはなおも、一定の調子で話し続けた。


「それが、俺達がこの世界で自分達を守る、最低限の盾だからだよ。姉ちゃん」




「俺達は、自分達がどれくらいの強さなのかをよく知っている。大抵の厄介ごとじゃびくともしない位、互いが強ぇってのを知っている。だけどな、だからと言って死なないわけじゃない。寝首を掻かれれば、コロッと逝っちまうことだってありえるんだ」


「それはそうだと思うわ。でも、アナタ達にとってあの連中は――」


「まぁ最後まで聞いてくれよ、マチネさん。例えば俺達が誰かに頼まれ、殺しをやったとする。だが、殺されたヤツラの身内が仇討ちを願っても、俺達には絶対に届かない。そういうやり方で殺るからだ。どれだけ犯人を憎んでも、俺達の仕業だとはわからないようにやってのける」


 そして一つ息を吸い。改めてマチネを見つめた。


「だがな? もしも仇を探したとして、依頼人にまで届くことはありえるよな。んなモン、日頃の付き合いからどうとだってアタリを付けられるんだ。そしてその時、肝心の依頼人が、自分の頼みを引き受けた冒険者が俺達だってコトを知っていたらどうなる。……カタキを打ちたいヤツラの手が、俺達にまで届いちまうんじゃねぇか?」


「私が、リエイを殺すよう頼んだ相手はあなた達だって、誰かに洩らすって言いたいの?」


「そのつもりは無いかもしれない。でもうっかり悟られるって事はある。それに、アンタは普通に街中で生きてる姉ちゃんだ。例えば拷問でもされたとして、俺達の名を出さずにいられる保障が何処にある?」


「そんなの……」


「絶対に言わないって誓ったとしても、俺達には信じられねぇ。殺して欲しいと願った言葉が、既にココに有るからだ。だからもし今、アンタの依頼を受けちまったら、俺達はずっとびくびくしながら生きなきゃならねぇ。今も誰かに狙われてるんじゃねぇか、今夜にも襲われるんじゃねぇか……ってな。そんなのは、真っ平ゴメンだ」



 言葉を無くすマチネの前で、ギョクはなおも、一定の調子で話し続けている。


「だからな、マチネさん。俺達は基本、依頼人と顔を合わせる依頼は受けねぇんだ。どうしても直接頼まれたとしても、依頼の内容までは話にあげねぇ。『なんとかしてくれ』だとか『助けてくれ』みたいな、曖昧な言葉で終わらせる。そうすりゃ、俺達が何をするのか、依頼人は知らずに済むんだからよ」


 ずっと平素の調子で話しつつも、それでもギョクは、どこか残念そうに話している。きっとマチネには伝わっていないであろう、口惜しさを含んだ声色で話していた。




 ゆっくりと話して聞かせるギョクの隣で、今度はカガミが口を開いた。聖母のような顔で、柔らかい口調を作りながら、それでもこんなことを言うのだった。


「ごめんなさいマチネさん。それでも私は、私の仲間が大切なの。この世界で唯一の、お互いを知る仲間が大事なのよ。だから誰であろうと、此処にいる仲間とは比べられない。どんなに他人が苦しんでいようとも、仲間たちが生きていくこととは比べようが無いの」


「そんなっ……。どうしてわかってくれないの? だってあなた達には簡単なことなんでしょう? アイツ等をあんなにアッサリ追い払ったじゃない。なのにどうして、私を助けてくれるくらいの簡単なことをやってくれないって言うのよ!」


 マチネはなおもすがりつく。自分にとって最後の希望を、なんとしてでも逃すまいと訴える。その姿は、幼いスズの目にすら、哀れと思わざるを得ないものだった。

 そして今度は、カガミと逆側に居たツルギが口を開く。いつもの横柄な態度がなりを潜め、聞き分けの無い子どもに諭すような口調でこう言った。


「そのくらいにしてくれんか、マチネさん。……冒険者とは、言ってみれば道具。大抵の事はやってやれる、あると便利な道具なのよ。だがなぁ、例えどれだけ便利でも、道具に情を語ってなんになる。道具に哀れみを求めても、虚しくなるだけとは思わんかね」


「…………」


「それにだ、マチネさん。わざわざアンタが――」


「ツルギ先輩。ダメです」


「……すまん」


 そして何事かを言いかけたツルギも、横から口を挟んできたカガミによって遮られ、その後はずっと、沈黙を保ったままだった。



 理を説いても無駄。情に訴えても無駄と、三人の冒険者たちはそれぞれの弁で口にする。

 そして最後に。


「……というワケだ、マチネの姉ちゃん。アンタの状況にゃあ痛み入る。だが、話はココまでだ。俺達は絶対に、アイツ等がらみの依頼は引き受けねぇ」


 穏やかに、けれど決定的に突き放すようにギョクは言った。


「――――悪ぃが、ヨソを当たってくんな」



§§§§§


§§§


§



 そして。がっくりと肩を落としたマチネは小屋を出て行った。若い娘の身空で、必至に自分の城を守ろうとしていた娘は、消沈しきった姿でこの場を後にした。


 程なく、何かに納得したように頷いていたギルド職員も帰っていく。日頃は雄弁なはずの彼女は、簡単にその場を辞する挨拶を述べた以外、何一つ余計な事を口にしなかった。


 三人の冒険者は、そんな二人を見送った今、既に自分だけの時間に移っているようだった。口数多いこの者たちには珍しく、僅かに言葉を交わしながら苦笑いを浮かべるだけで、部屋のあちこちで好きなように過ごしていた。



 そして、一人その場を動けないスズは、じっと考え込んでいる。


(私は、どうして欲しかったんだろう……)


 三人の仲間に見守られながら、そんなことを考えていた。


 スズは、この年にしては出来すぎなほどに良く物事を考える。それは彼女のコレまでが、頭を働かせなければ生きていけないものだったことの証明でもある。

 だからこの幼い少女は、先ほどまで交わされていた大人たちの会話も、彼女なりに理解できていた。


 ギョクが何故、マチネから差し伸べられた手を握り返さなかったのか。カガミが何を守りたいと思っているのか。そしてツルギが、どうしてあんな態度でマチネをあしらったのかも良くわかっていた。

 けれどもこの少女は、全ての会話に納得し、理解した上でなお、それでも割り切れない何かを感じているのだった。



 自分の中にうごめくはっきりとしない何かを見つめながら、今もなお考え続ける少女の姿。座り込んだままのスズを、三つの視線が見つめていた。

 それぞれの考えをのせた瞳に見守られながら、少女の夜は過ぎていくのだった。

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