第二話 戦闘・二つ名・糖質
第二話 戦闘・二つ名・糖質
『狼の牙』のギルドリーダー、ロウ=ガジルは雄叫びと共に全速力で突っ込んでくる。
右手一本で軽々と持ち上げた大剣は室内で使うには余りにも長い。
恐らく相手を萎縮させて動きを鈍らせる為に使っているのだろう。
「ぶっ飛べや!!」
ロウは周りの椅子や机に大剣が当たるのもお構いなしに、峰の部分で叩きつけるように横薙ぎしてきた。
余りに豪胆で予想外の攻撃に面食らいながらも、後方にステップして避ける。
「まだまだいくぜぇ!!」
周りの被害などお構いなしで大振りを続けるロウ。
剣筋は素直で単純。
迫力はあれど避けるのに苦労はしない。
……そろそろ様子見はいいか。
「ちょこまかと……!!」
疲れが出てきたのか嵐のような攻撃が一瞬止んだ。
その隙に肉体強化の魔力出力を上げて一気に懐に潜り込む。
前世で得た知識から作り上げた私の近接戦闘術、名付けて『エルフ流格闘術』のお披露目だ!
まずは右正拳を鳩尾っ!!
「ぐっ!」
鈍い痛みにロウが少し屈む。
エルフの身体は小さく薄い。
20年必死に鍛えたこの身体も速さはあれど重さが足りない。
重く硬い物を一撃で壊すのは難しい。
なので、たっっっっっくさん殴ることにした。
右膝にローキックを入れてバランスを崩す、下がってきた顎に右掌底、左脇腹にボディブロー、喉を潰す右正拳突き……。
的確に急所を狙いながら相手の姿勢を崩して反撃の余地を与えない。
ガードを固めようとしたロウの左膝にローキックが食い込む。
ロウは苦痛の表情を浮かべながら片膝を地面につけた。
「……実力の差は分かった?」
飢えた狼のようにギロリと私を睨んでくる。
「舐めやがって……!」
ヨロヨロと立ち上がり、両手で大剣を構える。
今度は、刃の部分を向けて。
「あ、兄貴!! 流石にそれは!!」
「うるせぇ黙ってろ!! このまま終われるかよ!!」
どうしても私を痛い目に合わせたいらしい。
「B級冒険者舐めんじゃねぇ!! 本気でいくぞ!!!!」
ロウの魔力がさらに大きくなる。
どうやら今までの肉体強化は本気じゃなかったようだ。
肉体に流した魔力が溢れ、モヤのようにロウを包む。
……これならちょっと本気で殴っても壊れないかも。
ロウに呼応するように私も魔力の出力を一気に上げる。
肉体に留まりきらない魔力は大気中に勢いよく溢れ出し、煙のように天まで登っていく。
エルフ特有の圧倒的な魔力量に気圧され、ロウの表情が強張る。
私は溢れ出した魔力を抑え込み、逃がさないよう身体の周りに魔力の膜を張る。
膜に閉じ込めた魔力を圧縮し、圧縮し、圧縮し、圧縮し、圧縮し、圧縮し、圧縮し、圧縮する。
やがて魔力の膜は堅牢に強固に頑強になり、魔力の鎧となる。
エルフの身体は小さく薄い。
20年必死に鍛えたこの身体も速さはあれど硬さが足りない。
重く強い一撃を受け切るのは難しい。
なので、魔力の鎧でかっっっっっっちかちにすることにした。
「……どこからでもどうぞ」
私の挑発でハッとしたロウが睨みつける。
ロウは呼吸が荒くなり汗が滝のように出ている。
「くそ、くそ、くそっ!! 舐めんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!」
雄叫びと共に突っ込み、上段から思いっきり大剣を振り下ろす。
左腕一本。
防ぐにはそれだけで十分だった。
魔力の鎧は大剣を弾き飛ばし、ロウの身体は反動で後方に倒れた。
盛大に尻餅をついたロウは唖然とした表情で私を見つめる。
「おっお前、何もんなんだよ……何もんなんだよぉ!!!!」
静かになったギルド内にロウの絞り出す様な叫びが響く。
「何者か、そうですねぇ……ロウさん、貴方はエルフ族の『二つ名』という文化を知っていますか?」
私の唐突な問いにロウはポカンとしている。
「エルフは魔術師として一人前だと認められた時、国の王様から二つ名を与えられるんです」
右の拳を固く握る。
「私、魔術は下手っぴですが、魔力による肉体強化一本で一人前だと認めさせました」
ゆっくりと半身で構える。
「私が与えられた二つ名は━━━━『最高硬度』」
思いっきり振りかぶり、床を殴る。
破裂する様な轟音と共に床が割れ、衝撃波が突風の様に吹く。
「『最高硬度』のエリザ、覚えておいて下さいね」
長年温めていた決め台詞がバチッ!と決まった瞬間、扉が豪快に開いた。
「なっ、なっ、なっ、なんですかこれはぁーー!!!!」
大きな丸眼鏡をかけた人族の少年がとってもびっくりしていた。
気がつくとギルド内は机や椅子、ありとあらゆる家具がめちゃくちゃになっていて、私が殴った床はバキバキに割れている。
ロウの方を見るとバツの悪そうな顔でそっぽを向いている。
「……もしかして、やりすぎちゃいました?」




