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第1話 異世界バニー騎士姫がやってきた(1)

 6月の夕暮れだった。

 田んぼのあぜ道を縫うように伸びる県道は、車も人も通らない。遠くでカエルが鳴き、湿った風が草を揺らしている。

 俺――高瀬悠真は、バックとコンビニの袋をぶら下げながら、その人気のない道を歩いていた。

 大学を辞めて半年。

 かろうじて決まった仕事に実家から通い、毎日をなんとなく消費している。

 なんか人生終わった感。

 だから最初は、見間違いかと思った。

 電柱の下に、少女が立っていた。

「……は?」

 思わず声が漏れる。

 かわいい。

 いや、そんな一言で済ませていい存在じゃない。

 長い銀髪。夕焼けを映したような紅い瞳。人形みたいに整った顔立ち。背は小柄なのに、妙に凛としていて、立っているだけで空気が変わる。

 だが一番おかしいのは服装だった。

 白を基調にしたレオタードのような衣装。身体のラインを大胆に見せつつ、肩や胸元、腰には銀色の甲冑パーツが装着されている。太ももにはガーターベルトめいた装飾。背中には短いマント。

 騎士姫とバニーガールを混ぜたような格好。

 ゲームかアニメのコスプレにしか見えない。

 なのに――。

 信じられないほど似合っていた。

 コスプレ感がない。

 本当に、そういう存在なのだと錯覚するくらい自然だった。

 俺は数秒、完全に見とれていた。

 少女がこちらを見た。

 ぱち、と紅い瞳が瞬く。

「……む」

 その一言だけで、妙に緊張した。

 少女はまっすぐこちらへ歩いてくる。

 コツ、コツ、とヒールの音。

 近づくほど分かる。

 綺麗だ。

 信じられないくらい。

「貴様」

 いきなりだった。

「ここはどこだ」

「……え?」

「質問に答えろ。ここはどこの領域だ」

「えーと……日本だけど」

「ニホン」

 少女が聞き慣れない言葉を反芻する。

「暦は?」

 年月日を応える

「…ふむ」

 考え込んでいる。

 なんだこの人。

 いや人なのか?

 少女は頭を押さえ、小さく何か呟いていた。

「異世界転移は、どうやら成功したようだな」

 やばい。

 関わっちゃいけないタイプかもしれない。

 俺が少し後ずさると、少女がハッと顔を上げた。

「待て」

「は、はい」

「最後に一つ聞く」

 紅い瞳が真っ直ぐこちらを見る。

「貴様の名は?」

「……高瀬悠真」

 答えた瞬間だった。

 少女の表情が凍りつく。

「――っ」

 息を呑む音。

 さっきまでの戸惑いが、一瞬で別の何かに変わった。

 警戒。

 動揺。

 そして、悲しみ。

「……やはり、そうか」

「え?」

 少女は俯いた。

 長い銀髪が揺れる。

 白い指先が、腰の剣に触れた。

「おい……?」

 嫌な予感がした。

 少女は数秒黙ったあと、まるで自分に言い聞かせるように小さく息を吐く。

 そして。

 決意した顔で、剣を抜いた。

 シャリン、と澄んだ音が夕暮れに響く。

「……すまない」

 その声は震えていた。

「だが、世界を救うためだ」

 紅い瞳が、真っ直ぐ俺を見据える。

「ユウマ」

 少女――バニー騎士姫は、静かに告げた。

「死んでもらう」


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