死んだVTuber、魔法学校に入学する
「それじゃあみんな、また明日ね」
薄く笑って、配信終了ボタンを押す。
部屋から音が消えた。
モニターの光だけが、暗い部屋を照らしている。
配信名義――
星宮ルナ 。
登録者百万人超えの人気VTuber。
歌って、笑って、ゲームして。
“夜空の魔女”なんて呼ばれていた。
けれど配信が終わった瞬間、彼女の顔から感情は消える。
机の上には飲みかけの栄養ドリンク。
スマホには止まらない通知。
【最近つまらない】
【キャラ作ってるよね】
【もっと頑張れ】
【休むな】
見慣れた言葉だった。
最初は傷ついていた。
でも、いつからか何も感じなくなった。
感じないふりをしていただけかもしれない。
ルナは椅子にもたれ、ぼんやり天井を見る。
「……疲れたな」
誰にも届かない声だった。
本当は助けてほしかった。
でも、“星宮ルナ”は弱音を吐かない。
みんなの理想でいなければならない。
だから今日も笑った。
最後まで、ちゃんと。
彼女は静かに目を閉じる。
「また、別の世界で会おうね」
それが最後の言葉だった。
――――――
次に目を覚ました時。
見知らぬ白い天井があった。
「……え?」
体を起こす。
柔らかなベッド。
木製の家具。
窓の外を飛んでいく、箒に乗った人影。
「は……?」
状況が理解できない。
すると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ルナリア!! 入学式に遅れるわよ!!」
飛び込んできたのは、赤毛の少女だった。
黒いローブ姿。
胸元には見たことのない紋章。
「……にゅう、がくしき?」
「何寝ぼけてるの!?
今日は
アストレア魔法学院
の入学式でしょ!」
頭が真っ白になる。
知らない名前。
知らない場所。
知らない自分の身体。
鏡を見る。
そこに映っていたのは、銀髪に青い瞳をした、美しい少女だった。
「……誰?」
その瞬間。
頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。
ルナリア・ノクス。
十五歳。
魔法適性は“音声魔法”。
落ちこぼれ属性。
役立たず。
戦闘向きじゃない。
そんな情報が、洪水みたいに押し寄せる。
ルナは息を呑む。
「……転生、した?」
しかも異世界に?
赤毛の少女は不思議そうに首を傾げた。
「本当に大丈夫?」
「……あ、うん」
混乱しながらも制服に着替え、学院へ向かう。
空に浮かぶ巨大な城。
空中を走る魔導列車。
杖を持った生徒たち。
まるでファンタジーゲームの世界だった。
けれど。
「音声魔法? ハズレじゃん」
「戦えない魔法で入学とかウケる」
周囲の声が耳に刺さる。
その瞬間、前世の記憶が蘇る。
【オワコン】
【才能ない】
【消えろ】
胸が苦しくなる。
すると突然、視界の端に奇妙な文字が浮かんだ。
【初見です】
【え、異世界?】
【ここどこ】
【かわいい】
「……え?」
さらに文字は増えていく。
【配信始まってる!?】
【ルナちゃん生きてたの!?】
【泣いた】
ルナの呼吸が止まる。
コメント欄だった。
配信画面だった。
異世界のはずなのに。
「なんで……見えてるの……?」
誰にも聞こえない声で呟く。
その時。
学院の鐘が鳴り響いた。
そして彼女はまだ知らない。
この“視聴者”の声が、
彼女の魔力そのものになることを。




