13話 ジャンヌの詰問
ラヴィアンレーヴの領主は手首足首に手錠や足枷などで拘束され、椅子に括り付けられている。鎖の冷たい音がじゃらじゃら響く。
その目はだが死を覚悟したそれではなく、こいつらからも金を毟り取る事しか考えてなかった。
だが、ジャンヌは冷徹な青い目を向けて、容赦のない詰問を開始する。肉体的な拷問もおまけ程度につけて。
「ヘリオトロープの領主が何の用だ?」
「金庫の在り処と開け方を教えて貰うわ。ここを攻め落としたのはそれが目的なのよ。貴方に個人的な恨みを持つ男もいるにはいるけど」
「ラヴィアンレーヴに恨みを持つ奴等など掃いて捨てる程いるからな」
「自覚があるのね。金はどこにあるの?」
「金ならこの地下室の隠し扉を抜けた先にある。生きて鍵を開けられたら良いな」
「どういう意味かしら?」
「金庫の鍵は無理矢理開けると自爆するように仕掛けを施した。身分も判らん奴にやる程、お人好しではない」
「どうすれば解錠できるのかしら?」
「私の声帯認証で開く。指紋や瞳では万が一、身体を引き裂いて部位を取り出す輩がいるからな」
「へえ、考えているわね。声帯認証とは恐れ入ったわ」
「声帯認証って何?」
シャルルには聞き覚えのない言葉だった。
タリアにもどのような物かわからない。
しかし、ジョアンは実際に観たことは無いがこう推察している。
「つまりはこの領主の声で開くように作られた鍵って事じゃない? だから殺せないわ」
「察しのいい騎士だ。その通りだ」
「声で開く鍵ね。声って似たような声はいないしね。この世で一つの鍵になるね」
そこで強気に出るラヴィアンレーヴの領主。
「私にその金庫を開けさせたいなら、私にもヘリオトロープへの移住を補償しろ」
「……」
「願ったり叶ったりだろう?」
ジャンヌはそこで彼らの事を思い出す。
「混沌の盗掘団はどこにいるかしら?」
「ジョン・インディーズの事?」
「彼らなら何か智慧があるかもしれないわ」
「混沌の盗掘団なら今頃、確か、何処かの迷宮に居るんじゃなかったっけ?」
「伝書鳩を飛ばして。彼らが近くにいるなら彼らの知恵を借りるわ」
「そんな回りくどいやり方はせずとも、私に頼めば良い」
「移民の補償はしてもいいけど、貴方の生命は保証しませんことよ。貴方に積年の恨みを持つ者に嬲り殺されたいなら話は別だけど」
「御免こうむるね」
「こんな平行線の詰問をしにわざわざ来たわけではないわ」
ジャンヌの詰問はまだ続く。
「指差組の事はどう考えていたのかしら?」
「奴等は我々にとっては娯楽だ。向こうから金欲しさに何でもやる。勝手に裏切り、勝手に憎み、我々の暇を潰してくれた」
「愉しかったでしょうね」
「愉快だよ、奴等の寸劇は」
「……そう。なら貴方もその愉快な寸劇の主役にしてあげるわ」
「……どういう意味……だ」
「貴方も我がヘリオトロープに案内してあげるわ。貴方に恨みを持つ人の為にせめてもの復讐の機会をあげたいからね。覚悟なさいな」
「フン。殺れるものなら殺ってみろ」
ジャンヌが領主と話している間に。
金庫の場所を特定したジョアンとタリアは、割と規模の大きい金庫に驚いている。この中には指差組に褒賞金として渡されるはずが富裕層の懐を癒やしていた金がごまんと入っている。
鍵は確かに鍵穴らしいものはなく、液晶のパネルが取り付けられていた。
領主の声でその鍵は開くなら、迂闊に殺せない。金庫は金属で作られた厳重な造りで、爆弾などでも壊れそうにない。
「厳重な金庫ね。スカーフェイスでも手を焼きそうだわ」
「レムリアでも手を焼くわ、きっと」
「混沌の盗掘団の人たちでも開けられるか、解らないよね」
「解錠の達人はいると聞くけどね」
「ジャンヌの話はまとまったのかしら?」
「あの領主、ジャンヌに会ってもビビらないから肝の据わり具合は目を見張るものがあるね」
「──でも」
「でも?」
「ヘリオトロープに来たらきっと背筋を凍らせるに違いないわ」
ジョアンは薄く微笑み、ジャンヌのいる部屋へ顔を向けていた。
タリアは相変わらず無関心そうにしている。
短剣使いのタリアは基本的に殺し以外は、我関せずを貫く人物で、人を息をするように殺すのは己の快楽とダニの始末をする事ができるから殺しにも躊躇なく手を染める。
彼女にとっては金などどうでも良い事柄であるのだ。
するとそこにラヴィアンレーヴの領主の罵詈雑言が聞こえてきた。
「ふざけるな! 貴様らとの結託など誰がするものか!」
金庫の部屋にいるジョアンは何が起きているのか話の見当が見えない。
もしかしてジャンヌの申し出に断ったのかしら?
首を傾げるジョアンは金庫の部屋から出ると、いつの間にか口論に発展していた。
「金輪際、領民達を己の愉しみの為に使うのをやめろだと!? 奴等の寸劇程の娯楽はないのに」
「ふぅ……性根から腐っているのね。何なら今、ここで死ぬ?」
「金庫の鍵は他の方法を使って開けるわ。どうとでもなるし」
「貴様のような女に性根が腐っているなぞ、言われたくないわ!」
「うるさいわね」
そこで兵士が領主に猿ぐつわをさせた。
呻き声をあげてジャンヌに食ってかかろうとする領主に冷酷な青い目は終始、軽蔑する眼差しを貫いていた。