ツンデレ召使いは料理の師匠
「どうぞお召し上がりやがりください」
やがりくださいとは、丁寧なのか粗雑なのか。つかみづらそうな人だ。
取り敢えず促されるままに席に着く。目の前には見たことのあるものも見たことのないものもあるが、いずれにしても、そのどれもが非常に美味しそうなものだった。
「わぁ、美味しそう!」
なぜか、お姉さんが得意げに胸を張っている。
「そうだろう。彼女の作る料理はどれも絶品でね。彼女がいた世界では、天下を取っていたんだよ」
召使いさんは、少し恥ずかしそうにお姉さんと俺を睨みつけてきている。
「そんな事、言わなくてもいいから。もっと言わなきゃいけないことがあるんじゃない?どうせまだ言ってないんでしょ?」
「確かにそうだね。彼女の名はマヘン。ここの料理人兼用心棒だ。もとは別の世界にいたんだがね、懐かれちゃってさ。」
マヘンさんは、顔を背けてそっぽを向いてしまった。
「………。別に、懐いたとか、そんなんじゃねーし」
「今ので分かったと思うが、素直じゃない子なんだ。上手く付き合っていくには、ちゃんと察してあげてね」
マヘンさん…………。面倒くさい人なんだなぁ………。
「あ?何見てんだよ?舐めてんのか?客だからって許されようってわけじゃねぇよなぁ?あぁッ!?いいよ!やってやろうじゃねぇか!」
「ひぃっ!!」
怖いぃ!この人怖いよ!最初の丁寧な召使いさんはどこ行っちゃったの!?戻ってぇ!!
「まぁ、落ち着きなよマヘン。彼、いや、彼女も悪気があったわけではないと思うんだ。許してやってくれ」
そう言いながらお姉さんはマヘンさんの頬に手を当て宥めてくれた。
「ふ、ふぅん。まぁ、あんたがそこまで言うんだったら許してやらないわけでもないけど。これからは気をつけなさいよね!!」
またもや、真っ赤な顔になったマヘンさんは、こちらを指さしながら叫んだ。
「わ、分かりましたっ!」
気圧され、思わず敬礼してしまう。
「よかった。仲直りできたみたいだね。ほら、君も早く座り給え、せっかくのご飯が冷めてしまってはもったいないだろう?」
確かにそうだ。マヘンさんはとても怖いが、目の前には涎が出そうなほどに美味しそうな料理が並んでいるのだ。
「そ、そうですね。では…………。いただいてもいいですかね?」
つい先ほど怒らせてしまったのだ。少し気まずい。
「いいわよ。食えば?そしたらあたしのこと、2度と馬鹿になんてできないんだからね!むしろ尊敬されちゃうレベル?」
「もういいかい?腹が減ったんだ。早く食べよう。」
「はい…。いただきます」
「どうぞ、お召し上がりください」
マヘンさんは礼儀正しくペコリと頭を下げた。
怖っ!!女は皆女優って言うけどこういう事か………。凄い変わりようだ。
―――ギロッ
どうやら、本当に俺の表情はわかりやすいらしい。マヘンさんに鋭い目付きで睨まれてしまった。
「やめてあげなさい、マヘン。君の役作りが雑なせいでもあるんだから。」
「……………。雑じゃねぇし。」
マヘンさんはお姉さんに注意されたのがショックだったのか少し不貞腐れた。と思ったらまたこっちを睨んできた
お前のせいで!って顔してるなぁ。はぁ、涙出ちゃう。
その後マヘンさんの料理をいただいた。
そのどれもが今までの常識を覆すほどに美味しかった。
見たことのない料理は、異世界にある料理だったり、食材を使ったオリジナルらしい。流石だ。お姉さんが天下を取っていたというのも嘘ではないのだろう。
「とっても美味しかったです!すごいですね!これって俺も教えてもらえば作れるようになりますか!?」
マヘンさんに質問すると少し得意そうに鼻を鳴らしながら答えてくれた。
「私レベルってのは絶対無理だろうけど?まぁ?努力次第で劣化版なら作れるんじゃない?」
劣化版。嫌な言い方ではあるが、確かにこの料理を超えれる気はしない。少しでもこの味に近づけるんなら………。
「教えてくださいマヘンさん!いえ!師匠!お願いします!」
「し、師匠、ね。いいわ、良いわよ!あたしが直々に料理ってもんを教えてあげる!厳しく行くわよっ!」
師匠と呼ばれたのが嬉しかったのかノリノリなマヘンさん。面倒くさいけど可愛い人だな。
「はい!どこまでもついていきます!師匠!」
一足遅く食事を終えたお姉さんは、座ったまま呆れた様に俺達を見て首を振っていた。




