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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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雪の日の計画と焼き物の話

外はすっかり雪化粧だった。

小屋の扉を少しだけ開けると、白い粉雪が風に舞い込み、慌てて誠は閉める。


「……うん。これは無理だな」


足首どころか、場所によってはもう膝くらいまで積もっている。

これでは水路も、新規開拓も、木の伐採すらままならない。


完全に、冬だ。


「確かに……この積もり具合じゃ、外仕事は出来ないな」


暖炉の前に腰を下ろし、誠は湯気の立つ木の椀を手に取った。

村人が分けてくれた乾燥野菜の汁物だ。身体に染みる。


「さて、と……」


誠は懐に忍ばせていたスマホをそっと取り出した。


「アイ。言われた作業、続けるぞ」


『はい。現在の優先事項は――』


画面に表示されたのは、またしても誠の想像を少し超えた内容だった。


『水車から動力を得て、ろくろ用部品の製作を開始してください』


「……ろくろ?」


思わず声が裏返った。


「農機具じゃなくて、今度は陶芸かよ……」


『はい。焼き物の品質改善を目的とします』


誠はため息をつく。


農機具は、すでに村人たちに分散して作らせている。

おかげで自分は少し楽になるかと思っていた――のだが。


「結局、俺は別ライン担当ってわけか……」


『誠様が最も加工精度を出せるためです』


「うれしくねぇ理由だな……」


だが文句を言いつつも、誠は水車小屋へ向かった。

雪の中を慎重に進み、凍りかけた水音を聞きながら内部へ入る。


水車は、まだ辛うじて動いている。


「よし……まだ行けるな」


すでに取り付けてあった動力伝達用の簡易軸に、ろくろ用の回転部品を取り付ける作業が始まった。


『現在、この村で使われている焼き物は、野焼きに近い低温焼成です』


「……なんとなく察してた」


確かに村で使われている壺や皿は、欠けやすく、水漏れも多い。

少し強くぶつけただけで割れてしまうものも多かった。


『焼成温度が安定しないため、耐久性・耐水性ともに著しく劣ります』


「それが改善されると?」


『保存容器・調理器具の寿命が延びます。結果として、食料ロスと作業ロスの削減に繋がります』


「……地味だけど、めちゃくちゃ重要じゃん」


誠は苦笑した。


派手な魔法も、戦闘能力もない代わりに、

この世界では「地味な改善」がすべて生存に直結する。


ろくろの回転軸は、意外なほど単純な構造だった。

水車の回転を木製の歯車に伝え、回転台を一定速度で回す。


「……これ、地球でも昔のやつだよな」


『はい。構造は紀元前レベルです』


「言い方ぁ……」


だが、木材加工と組み合わせれば、この村でも十分再現できる。


数時間後。


誠はようやく一つ目の回転台を完成させた。


「……よし。とりあえず回るな」


水車を軽く回すと、回転台はゆっくり、だが安定して回り始めた。


『合格です』


「今回は一発OKか」


誠は小さくガッツポーズを取る。


しかし、アイの指示はまだ終わらなかった。


『次は、焼き窯の計画に入ります』


「はいはい……窯、な」


『この村の地形を分析した結果、緩やかな傾斜地への半地下式窯が最適と判断しました』


「……半地下?」


『地熱と断熱性を利用できます。燃料効率も向上します』


誠は顎に手を当てる。


「それ、俺一人でも作れるのか?」


『春になれば、誠様一人でも可能です』


「……それなら、今は設計だけだな」


アイの画面には、またしても簡易ながらも実用一点張りの設計図が表示された。

派手さはないが、確実に“使える”形。


『この窯は、焼き物だけでなく炭の製造にも転用可能です』


「……炭?」


『はい。燃料・暖房・焼成・調理、すべての効率が向上します』


誠は思わず唸った。


「……ここまで来ると、もう村のインフラじゃん」


『はい。生活基盤の安定化です』


「ほんと、チートの使い方が堅実すぎる……」


だが誠は、嫌いではなかった。


派手に敵を倒す力はない。

世界をひっくり返す魔法もない。


けれど――


この村の「不便」を一つずつ消していくことが、確実に誠の居場所を作っていると、今ははっきり分かる。


暖炉の火の前に戻り、誠は道具を置いた。


「春になったら、窯を作って……」


「陶器を焼いて……炭も作って……」


村の未来を思い浮かべる。


外は雪。

世界は白く静まり返っている。


だがこの小屋の中では、

確実に「次の季節」の準備が進んでいた。


「……冬ってさ」


誠はぽつりと呟いた。


「止まる季節じゃなくて、仕込む季節なんだな」


『はい。まさにその通りです』


炎の揺らめきが、壁に影を落とす。

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