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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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本格稼働そして冬支度の本番

「……大分、肌寒くなってきたな」


朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ瞬間、誠はそう呟いた。

吐いた息が、ほんのり白くなる。


少し前まで汗を流しながら作業していたのが嘘みたいだ。

今では上着が一枚ないと、じっとしているだけで体温を奪われていく。


小屋、強化してなかったら……マジでやばかったな。


石造りの暖炉、断熱を意識した壁、隙間風を防ぐ補強。

どれも、あの時アイが強引にでも勧めてくれたものばかりだった。


『凍死リスク、当初予測より大幅に低下しています』


心なしか、得意げに聞こえる。


「ほんと、感謝だよ……」


誠は小さくそう呟き、暖炉に薪をくべた。

パチ……と小気味よい音がして、炎が立ち上がる。

外は冷え込んでいるが、小屋の中は別世界のように暖かい。


■ 村の支え


服と食料については、村人たちが分けてくれた。


「お前、冬越せる格好してねぇだろ」


「これ、古いけどまだ使える」


「干し肉と豆、少し持っていけ」


最初は遠慮したが、あまりにも自然に渡されるものだから、断りきれなかった。


『現在の備蓄量、一般的な成人男性一人分の冬季生存ラインを十分に上回っています』


「こうやって、支え合って生きてるんだな……」


地球にいた頃は、金さえあれば、何でも簡単に買えた。だがここでは違う。


助け合わなければ、生きられない。


それが嫌だとは思わなかった。

むしろ、胸の奥が少し温かくなる。


■ 水車、本格稼働へ


水車はすでに、毎日のように回り続けている。


米を突き、粉を挽き、木材の加工にも使われ始めた。

かつては半日がかりだった作業が、今は水の力だけで終わっていく。


「誠のおかげで、手がだいぶ空くようになったぞ!」


「腰も腕も、前より楽だ!」


そんな声が、あちこちから聞こえてくる。

新しく水田にする予定の開拓地にも、自然と人が集まっていた。


「水車があるなら、今年中にここまで行けるな」


「水路も繋げば、来年はこの辺も全部田んぼだ」


それを見て、誠は内心ほっとしていた。

人が集まるってことは、ちゃんと意味があるって思われてる証拠だ。


■ 生活とは、労働の積み重ね


それでも、だ。


一日が終わる頃には、誠の体はくたくたになっていた。

水路の点検、資材の整理、板の運搬、細かい修繕。

やることは尽きない。


「……生活するってのは、こんなにも労働が要るのか」


夜、暖炉の前で一人、誠はぽつりと呟いた。

地球では、電気も水も、食べ物も、当たり前のように手に入っていた。


だがここでは、すべてが“人の手”だ。


薪を割らねば火はつかず、水路を守らねば水は来ず、米を育てねば食べられない。


当たり前だと思ってたこと……全部、誰かの労働だったんだな。


今さらだが、ようやく実感できた気がした。


■ アイからの次の指示


その夜、アイが静かに告げる。


『今後の方針ですが、新規開拓を継続してください』


「この寒さでか?」


『はい。地面が凍結しきる前が、最後のチャンスです』


続けて、資料のような映像が脳裏に流れた。


『冬場は、農具、水車用部品、建築用部材、これらの制作期間となります』


『そのため、板材以外にも、木の楔、細材、粘土、石材など、細かい素材を今のうちに確保し、小屋へ保管してください』


「……つまり、冬は作る期間ってことか」


『その通りです』


誠は思わず苦笑した。


「休む暇、なさそうだな」


『はい』


即答だった。


■ 本当の「冬支度」の始まり


翌日から、村の空気は一段と慌ただしくなった。


誰もが黙々と、薪を割り、穀物を運び、干し肉を作り、木材を切り出す。


誠も例外ではない。


確保した板を小屋へ運び込み、細い木材を束ね、粘土を乾燥させ、石を積み上げていく。


小屋の中は、少しずつ“倉庫”のようになっていった。


「……まるで秘密基地だな」


誠は苦笑しながらも、どこかワクワクしていた。


ここで冬を越え、春が来たら、また新しい何かを作れる。


水車が回るこの村は、もう止まらない。


■ 冬の入口にて


夕暮れ時、空を見上げると、冷たい雲が低く垂れ込めていた。


「……もうすぐ、雪か」


暖炉の火、分けてもらった服、備蓄した食料、回り続ける水車。


まだ不安はある。

だが、以前ほどの恐怖はなかった。


ここなら……この村なら、冬を越せる。誠は、静かにそう確信していた。


そして同時に思う。


この冬で、どれだけの“準備”ができるかが、

来年の未来を決める。


水車は、今日も静かに回り続けている。


まるでこの村の未来そのものを、

押し進めるかのように――。

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