二十五話 反撃の剣
自分の身体から、力が込み上げてくる。
すると、目の前に黄色何が通りすぎる。
違うーー。
この黄色のは、俺の身体から出てるんだ。
まるで、謙信さんのように。
「信長ちゃん。今、治してあげるからね」
やり方などは、わからなかった。
ただ、信長ちゃんのお腹に触れれば、治るという確信があった。
信長ちゃんの顔が、だんだん元の色に戻っていく。
『あなたーー。転生しても、変わらないのですねーー』
俺の中で、帰蝶さんが呟く。
信長ちゃんを寝かして、ゆっくり立ち上がる。
いつの間にか、白いマントを首にしていた。
『さて、ふざけたやつらに思い知らせようか』
『刀の振り方なら、某に任せておけ』
『やれやれ。幕末を思い出すな』
タケルと義経、そして伊藤が順番に話しかけてくる。
「どういうことだ?なんなんだよ、お前の能力圧わ!」
政宗が、すぐそこに立っていた。
顔は、驚き以外の感情がない。
「別に。俺は、俺だよ」
「ありえねー。お前、いったい何人中にいれてんだ!!」
政宗が、刀でついてきた。
狙いは、俺の心臓。
「速いな。でもーー」
俺は、先程のお返しに、政宗の刀を避けて、手首を掴む。
「今の俺からすれば、あくびが出るほど遅い」
力まかせに、政宗を投げ飛ばす。
ビルに頭から突っ込んだ政宗を無視して、信長ちゃんから、勾玉を貰う。
どうやら、大切に持っててくれたらしい。
「ありがとう信長ちゃん。君が目を覚ますまで、俺がこいつらを相手にするよ」
勾玉を、首からさげる。
俺の身体から出ていたオーラのような、黄色の物が、勾玉に吸い込まれていく。
「さて。剣はどこいったかな?」
地面を強く蹴り、政宗の突っ込んだビルまで飛んでいく。
「くそっ!なんて、力だテメー!!」
「覚醒すれば、こんなもんだろ?」
「ざけんな!」
刀を振りかぶる政宗の、後ろ襟を掴む。
一瞬政宗が、油断したところを狙って、思いっきり地面と平行に飛ぶ。
「のわ!テメー、離しやがれ!」
「わかった!」
目標物、秀吉が視界に入ったので、政宗を秀吉に投げつける。
どうやら、俺が飛んでいるのを見て、唖然としていたらしい秀吉は、政宗をキャッチすることができず、二人で背後のビルに突っ込んだ。
「あった!ここにあったのか」
剣を拾い、秀吉達の方を見る。
政宗は、ダメージが強かったのか、すぐには立てそうにない。
しかし、秀吉は軽やかに立ち上がっていた。
「それが、お前の本気か?」
「一応、そういうことになるな」
「やっと、全力で戦える!!」
秀吉から、能力圧が溢れでる。
これで、全力どうしか。
「いくぞ!武尊!!」
秀吉が、右ストレートを放つ。
先程は見えなかったが、今ならはっきり見える!
いわゆる、衝撃波だ。
波紋上に、秀吉から衝撃波が放たれている。
それがわかった俺は、左目を閉じて、赤くなっている右目を見開く。
「ヤタノカガミ!」
そう言った瞬間、秀吉の出した衝撃波は、俺の右目に吸い込まれていく。
「バカな!?」
秀吉が、驚きの声をあげる。
俺だって、驚いたわ。
まさか、吸い込むとは思わなかった。
「いくぜ。秀吉!」
そういって、今度は右目を閉じて、左目を見開く。
すると、左目から衝撃波が放たれた。
どうやら、吸収からの放出らしい。
「ぐお!!」
返されると思ってなかった秀吉は、後方のビルに突っ込んでいく。
しかも、驚いたことに、そのビルが全壊したのだ。
それほどの、力だったのだろう。
あっ!
政宗も巻き込んじまった。
「さてと。この程度で終わらないからなーー」
そう言った瞬間、いきなり額に激痛がはしる。
あまりの強さに、頭がのけぞる。
俺は、いきおいに逆らわずに、バク転をする。
「いってー!秀吉か?」
誰の攻撃かわからないが、身体中打たれまくる。
見えない攻撃でーー。
このままでは、蜂の巣なので、飛び立とうと地面を蹴る。
しかし、飛び立つどころか、地面にクレーターを作って、膝まずいてしまった。
これは、重力だ!
「くそが。さんざん、人のことを投げ飛ばしてくれたな!!」
どうやら、政宗の能力は重力操作らしい。
これでは、避けることも難しいな。
「この刀で、テメーを刺してやるよ!」
ビルの中から、ものすごいスピードで跳んでくる政宗。
このままでは、あいつの言った通りに刺されてしまう。
まだ、使うべきところじゃないと思っていたがーー。
「草薙剣!」
俺は、今まで抜けなかった銀色の剣を抜き放つ。
太陽光を反射するほどの、輝く銀色の刃。
そんな剣の鍔から、透き通るほどの、綺麗な炎が噴き出す。
信長ちゃんの獄炎波とは違う、優しい炎。
そんな炎が、刃にまとわりつくように燃えている。
「一掃炎波!!」
技名を言い、草薙剣を一文字に振る。
ブワ!
いきおいはあるのに、なぜか風のように進む斬撃。
「はっ!そんな、弱っちい炎で何ができる!!」
政宗は、避けることもせずに炎を切り裂いた。
あれも、重力で消しているのだろう。
「これなら、信長の炎の方がよっぽど強いぜ!」
笑いながら、俺に刀を降り下ろす政宗。
しかし、俺にはわかっていた。
政宗は、俺を斬れない。
俺の肩に当たる寸前で、政宗自身が軌道をずらした。
そのせいで、刀は俺のすぐ横の地面に傷をつけただけで、制止する。
「……はぁ?」
自分でした行動が、わからないような顔をする政宗。
俺は、先程から重力が消えていたので、普通に立ち上がる。
「なんで、なんで、立てるんだよ?」
驚愕の顔で、俺にきいてきた政宗。
なので、俺はありのまま答える。
「お前が、消してくれたんだよ?」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!」
狂ったように、涙を流しながら俺に刀を降り下ろす政宗。
しかし、すべての攻撃が、政宗自身でずらしてしまう。
まるで、俺を斬りたくないようにーー。
「なんでだ!なんで、お前を斬れない!!」
そう言いながら、斬り続ける政宗。
しかし、俺にはかすり傷一ついていない。
カララン!
ついに、刀を手から離してしまう政宗。
「どうしてーー?どうして、斬れないのよ!」
本人は、まだ気づいてないらしい。
もしかしたら、気づいているのかも知れないが、俺の目の前で、女の子座りしながら、手の甲で涙を拭いているこの女の子に、真実を教えてたげることにした。
「一掃炎波は、攻撃の技じゃない。浄化の技だ」
「浄化?」
「そうだ。お前の中にある、悪の感情を斬る技だ」
「そんなの、ありえない。私に、善の心なんてあるわけーー」
「あるよ」
俺は、政宗に視線を合わせて、涙を人差し指で触る。
「この涙が、証拠だろ?」
そう言うと、初めて政宗が笑顔を見せてくれた。
俺の知っている女の子達と、同じくらい可愛らしい笑顔だ。
数秒後、政宗ちゃんは気絶した。
これは、仕方ないことだ。
突然、自分の中にある善を引きずり出されたので、身体が追いつけなかったのだ。
お姫様抱っこで、離れた場所に寝かせる。
これで、残るわーー。
「秀吉だけだな」
ーーー
「う……ん」
私は、目を覚ますと、いきおいよく起き上がりました。
生きているーー。
死んだと思っていたのに、生きている。
武尊君の、優しい感情が、お腹らへんにあります。
武尊君が、治してくれたのですね。
「行かないと。武尊君を守れるのは、私だけです!!」
立ち上がった瞬間、驚きで止まってしまいました。
だって、目の前にーー。
『ひさしぶりね。あなた』
記憶のなかにしかいなかった、帰蝶がいました。
女の身体になって、初めてわかりましたが、本当に美しいです。
「帰蝶……なの?」
『はい。本物ですよ?』
その言葉をきいた私は、思わず帰蝶に抱きついていた。
「帰蝶!うわーん!!」
「あらあら。女の子になると、あなたはこうなってしまうのですね』
含み笑いをしながら、優しく頭を撫でてくれる帰蝶。
記憶にある、感触だ。
『私を、助けに行くのよね?」
「武尊君のこと?」
『武尊ーー、今にして思えば、あの人と同じ名前でしたね』
私から抱擁をといた帰蝶は、突然の右目を輝かせる。
『もう、あなたは帰るべきよ。私と共にーー」
突然、訳のわからないことを言い出しました。
すると、私の後ろに、いつの間にか私が立っていました。
前世の私が。
『そうだな。余がおらずとも、こやつなら平気だろう』
ゆっくりと、帰蝶の元に歩き始める私。
「待ってください!あなたがいなかったら、私は!?」
『案ずるな。お前は、余などおらずとも、十分強い』
帰蝶の隣に立った私は、私の目を見ながらーー。
『お前は、余のようになるなよ。死んでからでは、遅いのだ』
『大丈夫ですよ。自分の気持ちをぶつけてみなさい。あなたと私は、お互いに愛しているのですから』
二人の身体が、光に包まれていきます。
すごく寂しいですが、これでいいのでしょう。
『最後に、お前に土産をやろう。あらゆる攻撃を霧散させる服、六天魔王だ』
『では、私からはこれを差し上げます』
私の制服に、真っ赤なマントが現れました。
そして、左目から青い光がもれています。
これが、この二人からの最後の力なのですね。
『余よ。お前のおかげで、帰蝶に会うことができた。礼を言う』
『さぁ。前世で、私が望んでいたことをしてください。今世の私も、あなたと共に戦えることを待っているはずです』
二人の姿が消えました。
でも、私の心には二人の言葉が今もあります。
武尊君!!
「今、むかいます!!」
強く地面を蹴り、武尊君の場所へ飛びました。




