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Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


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69/80

沈黙の後に — 女王の仮面とひとつの名前 —

称賛は、海の上で生まれた。


だが――それを受け取る者は、陸の上で笑っていなければならない。


これは、誰にも見せない夜の話。

ハワード邸のドローイングルームに、ニュースの音声が静かに流れていた。


『次のニュースです。王立海軍シードラゴン艦隊司令部の発表によりますと——』


映し出されたのは、白く輝く一隻の船。


紅海を抜け、なお進み続ける姿。


ノイズ混じりの無線。呼びかける声。そして、長く響く汽笛。


レイコは、口元を押さえた。


目を逸らせない。


『——各国からは、その勇気を称賛する声が相次いでいます』


音声が終わる。


沈黙。


エディが、静かに告げる。


「レイコ様、お支度を。DMCの招待です」


一拍。


「遅れるわけにはまいりません」


「……大丈夫よ」


短く応じ、立ち上がる。


「手伝って」


選ばれたのは、ロイヤルブルーのロングドレス。


夜の海のような色。


首元には、光を象ったダイヤモンド。耳元にも、同じ輝き。


エディは一瞬だけ言葉を失う。


——理解した。


これは装いではない。


意思だ。


「お綺麗ですよ。…誰よりも。」


それだけを告げる。


レイコは微笑み、手を差し出す。


エディは一礼し、その手の甲に口づける。


形式的に。完璧に。


 


シャンデリアの光が揺れるホール。


レイコはその中心に立っていた。


差し出される言葉に、正確に応じる。


笑みは崩れない。


「見事ですな、ハワード令嬢」


「光栄です」


隙はない。


誰一人として、彼女の内側に触れられない。


その夜——


彼女はすべてを演じ切った。


 


帰宅。


ドアが閉まる。


それだけで、世界が変わる。


レイコは数歩進み、立ち止まる。


アクセサリーに手を伸ばし——止まる。


指先が、ダイヤに触れる。


冷たい光。


呼吸が浅くなる。


次の瞬間、力が抜けた。


床に膝をつく。


ドレスの裾が広がる。


それでも、姿勢は崩れない。


ただ——


涙が落ちる。


音もなく、止まらない。


唇が、わずかに動く。


「……クリスタニア」


それだけだった。


指先が、胸元の光に触れる。


遠い海をなぞるように。


 


扉の外で、エディは立っていた。


その名を、聞いていた。


だが——


動かない。


扉に触れた手を、静かに離す。


入ることはできない。


自分には、その資格がないと知っているからだ。


エディは、そっとその場を離れた。


 


室内には、静かな嗚咽だけが残る。


小さく。


だが深く。


長く、響いていた。

海では声が届く。


陸では、届かない。


その違いを、彼女は知っている。


そして、それを越えない者もまた存在する。

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