表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legendiaより愛をこめて〜ホルムズ危機、そして私たちは恋を知る   作者: おーがすてぃーぬ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/80

航海士の嫉妬 — 君の一番は誰なんだ —

騒がしい航海も、いよいよ終わりに近づいてきました。


晴海入港まで、あと一日。


嵐や軍用機に振り回されたレジェンディアですが、

今夜は少しだけ静かな時間です。


ただし——

航海士の心は、あまり穏やかではないようですが。

何とも賑やかな出来事を残しながら、船団はアリューシャン列島、そしてアッツ島海域を通過した。


レジェンディアは、遅れを取り戻すかのように出来うる限りの全速力で南下している。


荒れた北太平洋を抜けると、空気はどこか柔らかくなっていた。


日本は、もう近い。


晴海入港まで——あと一日。


夜のデッキには潮の匂いと、かすかな機関の振動だけがあった。


リヒトは一人、手すりにもたれて海を見ていた。


航海士としての仕事は、ほとんど終わっている。


未だかつて、まるでジェットコースターのような航海があっただろうか。


コーヒーを片手に、ぼんやりと海を眺める。


あとは予定通り入港するだけだ。


だが——


胸の奥は、なぜか落ち着かなかった。


その時だった。


デッキの向こう側から、声が聞こえる。


レイコとエディだ。


リヒトは気づかれない位置に立ったまま、動かなかった。


二人の会話が、風に乗って届く。


「……帰港後の予定は、もう決まっているの?」


レイコの声だった。


エディが答える。


「ええ。私はまず領事館ですね。」


少しだけ笑う気配。


「中佐になりましたから。報告義務があります。」


レイコは小さく息を吐く。


「そういえば、そうだったわね。」


しばらく沈黙が流れる。


それからエディが言った。


「もしイギリスへ行かれるなら、一度ご実家へ寄られてはいかがですか。」


レイコは少し驚いたようだった。


「実家?」


「ええ。ハワード提督もきっと安心されます。」


リヒトの胸がざわつく。


——イギリス。


その言葉が妙に重く響いた。


レイコは少し考えてから言う。


「……そうね。」


声は静かだった。


「一度帰るわ。今回の航海、きっとお父様たちも心配してると思うし。」


風が吹く。


エディは続けた。


「それなら、ちょうど良いですね。」


「ちょうど?」


「近々、私もハワード閣下へ報告に戻るつもりでした。」


レイコは少し笑う。


「じゃあ、一緒に帰国?」


「ええ。」


エディの声は穏やかだった。


「その方が安全です。」


「なんせ、あなたはとんでもない方向音痴ですから。」


「別で帰るとなると、他の駐在武官を付けなければならなくなります。」


しばらく沈黙が続いた。


レイコは海を見ているようだった。


「……その前に。」


小さく言う。


「サフィールに会いに行くわ。」


リヒトの胸が強く締めつけられる。


(サフィール……)


レイコは続ける。


「わざわざメッセージも届けてくれたし、きっと心配してるもの。」


エディは少し驚いたようだった。


「それがよろしいかと。」


「ええ。」


レイコの声は柔らかかった。


「なかなか会えない船だもの。」


その言葉は、どこか楽しそうだった。


エディは少し間を置く。


「ただ……」


そして静かに言った。


「リヒト様がいい顔をしないでしょうねぇ。」


レイコは少し笑う。


「ええ。」


その笑いは、どこか困ったようでもあった。


「きっと怒るわよね。」


風が強くなる。


レイコは静かに続けた。


「でも。」


「約束の場所で会わずに行くなんて、もっと嫌なの。」


その言葉を聞いた瞬間——


リヒトの胸に何かが落ちた。


(そこまで思い合っているなら……)


(なぜレジェンディアに乗ったんだ……)


重い、鉛のような感情だった。


いつかのように、やり場のない苛立ちが湧き上がってくる。


リヒトは胸元に手を当てた。


制服の内側。


指先が触れたのは、細いチェーンのネックレス。


リヒトはそれを強く握った。


レイコの声が、頭の奥に蘇る。


**********


「私はレジェンディアを愛しているわ。」


「愛しているのに、置いていけないの。」


「あなたも……船も。」


**********


リヒトは目を閉じた。


ネックレスを強く握る。


そして低く呟いた。


「……違う。」


だが——


その言葉の意味を、リヒト自身がまだ分かっていなかった。


レジェンディアは夜の海を進んでいる。


晴海まで、あと一日。

長い航海の終わりが近づくと、船の上には独特の空気が流れます。


仕事としての緊張は少しずつ解けていきますが、

代わりに、それぞれが次の場所へ向かう準備を始めます。


港に着けば、船はまた別々の世界へ戻っていく。


だからこそ、航海の終わりの夜は

少しだけ特別な時間になるのかもしれません。


さて、レジェンディアはいよいよ日本へ。


次回、晴海入港です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
•職業もの •お仕事小説 •海洋 •シリアス •クルーズ船 •仕事
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ