二人の背中
前を歩いている彼に置いていかれないように、その背中を追いかける
暖かい風が吹いた、冬の風ではなく、心地がいい春の風
この旅は僕とサナラだけの旅ではなくなっていた
「ラルシ サナラ、もう少し急いでいただけませんか?」
僕の前を歩いている青年の銀髪に風があたり静かに揺らめいた、
彼は僕の方に振り返り翡翠色の瞳が、僕のことを捉えた
「そんな足取りでは、今日中に宿に着くどころか。この先の沼で、一夜を過ごすことになってしまいますが、それでも良いのですか?」
あそこは寒いですよぉ と悪どい笑みを浮かべて
僕らを脅しているのか、早く進むように急かしてくる銀髪の青年
彼の名は サリソン・キューラ
僕らが旅の途中で訪れた村で出会った、魔術師
出会った頃の彼は僕らに対して、敵意と殺意を向けて
雷魔法を纏わせた矢で、僕らを殺そうとしてきた。
そんな彼は今では、僕らに対して笑顔を見せてくれる。
彼を信頼してみてもいいのだろうか
まだわからない、判断ができない。
今、僕が見ている人物こそが、彼の本来の振舞いなのかな?
わからない
目の前にいる彼が、善人だったら僕もサナラも彼の背に縋って守ってもらえる。
ダメだよ、そんなこと考えてたら、浅はか、
それをしても誰も笑顔になることはないのに。
愚か者
「ラルシ、サナラ大丈夫ですか?」
いつの間にか前に歩いていた、サリソンが速度を落としていたのか僕たちの横にいた。
「あ、うん。大丈夫」
彼は僕たちのことなんて気にしていないと思っていたから、彼が横にいたことに驚いて、少し変な声がでた
サナラは声をあげて「私は大丈夫!」といつも通りの笑顔を向け笑っていた。
僕が変な声を出したからか、サリソンは、笑い、喉を鳴らしていたが、
彼は腕を伸ばして前方にある丘を指差した
「あそこの丘を早く越えましょう、もしかしたら街が見えてくるはずです。」
サリソンは、まだ楽しそうに喉を鳴らしていたけど、僕とサナラの手を掴み、僕らを前に進ませてくれる。
やっぱり、頼りになるな。
風が吹くたび、サナラさんは嬉しそうに声をあげて笑っていた、
ラルシも共に風が強いねと笑って楽しそうだ
私は彼らに対して最初は不信感を持っていた。
年齢は聞いていないがきっとまだ二人共、子供だ。
中心街の子供達が、この王国から出ることなんて普通はあり得ない。
特殊な事情があるに決まっている。
私は昔から直感だけはよく当たった。
だからか、なぜか私は他者よりも自分の方が圧倒に冴えている、そう信じていた。
所詮私は村にいる下級魔術師と同等だった。
努力はしたさ、魔術を極めるために、難しいとされる物体への付与魔術の技術を物にするために。
私は動いたのだ、だが、できた魔術は下級魔術師が使う付与魔術より
だが、できた魔術は、下級魔術師よりもひどい出来栄え、
感情が揺れたり昂ったりするたびに、付与魔術も元の形を保てなくなり、砂となり消える。
魔術の才を持たぬ者でも、私の感情が揺れれば簡単に魔術から抜け出すことができてしまった。
その秘密を知った親族と同じ学院に通っていた学友からは、落ちこぼれと笑われた
壊れた砂を集めても元の形には保てない。
誰にも見向きされないなんて嫌だ、だが誰も私を見ない。
ラルシとサナラは違った。
普通は落ちこぼれた奴のサポートなんて考えない。
彼の口元は楽しそうに歪んでいて、皮袋を片手に担いだまま、僕らには見向きもせずに足を動かし、前へ進んで行く。
「サ、サリソン待って」
彼の銀髪に風が当たりゆらめく、翡翠色の瞳と口元は何やら楽しそうに弧を描き、僕らのことを一目見るだけで、また軽快に足を動かしていく
疲れ知らずか、ただ体力が有り余っているのか、わからない。
ただ最初に出会った頃のサリソンと、今のサリソンは別人に見えた
「お二人とも」
彼はこちらに振り向きまた楽しそうに笑った
「へばらないでくださいね!」
「わかってる!サリソン早いよ!」
彼の言葉に明るく返す。言葉では僕らの背中を押すように、行動では僕らよりも早く前を向いて足を進めていく背中を追って頼もしいのと同時に不安が膨れる
「サリソン」
僕が不安気に彼の名前を呼ぶと彼はこちらに振り返って
「なんですか?」と多少不機嫌そうに返事をする
「あのさ、サリソンは、本当にこれでよかったの?」
風と僕の心が騒めく
銀髪が風に揺らめき、私は、この旅路で何度目かわからないため息を漏らした。
「これは私が決めたことです。何度も言わせないでください」
ラルシの瞳が不安気に揺れる、サナラがラルシの腕を少し強めに握ったのがわかった。
「私は自分の意思であなた方についてきたのですよ。」
何度伝えても、ラルシは瞳を不安気に揺らして、私を見てくる
「あなたはどれだけ心配性なんですか?」
過保護すぎませんか 前方を歩いていた私は後ろに踵を返し、
二人に近づき、ラルシの両頬を、両手で挟んだ
少しだけ、怒気を込めて彼の目を見ながら答えてやる
「そのように、何度も確認を取られては困ります。」
にこやかに皮肉混じりに伝えるとまたその瞳は不安気に揺れる
だが今はそれじゃない、私は彼と目線を合わせて微笑む
「それとも、あなたも監視される側になってみますか?」
あなたもきっとすぐに嫌になりますよ にこやかに嫌味を込めてそう返すと
「ご、ごめん、けど、心配で」
ラルシの瞳がまた不安気に揺れて彼は黙り込んだ
「ま、いいですよ」
私は彼の頬から手を離し、彼の後ろで心配そうに兄を見ている
サナラに話しかけた
「サナラさん、あなたも長旅でお疲れではありませんか?」
ラルシは ハッとしたように彼女と私を見た
「そ、そうだね、サリソンの言うとおりだよ、もう夕方だから今日の宿を探さないとお店が閉まっちゃうね」
そういって彼は自分を納得させるかのように、サナラさんをおぶり
足を動かし前へ進んでいく。
二人の背中を追いかけなければ
「………彼は、そう、ただの心配性です」
呟きは風に流れて消える
なんとなく気づいてはいた
彼が私ではなく
どこかにいる誰かと
私のことを重ねていて
私のことなどもう見ていないことに




