第24話 ~追体験~
「どうだ、この世界は?」
愁翔の口がひとりでに開閉されてそう紡いだ。
いや、これは初めてこちらの世界に来てから見た夢と同じで、誰かの記憶を追体験しているのだ。
その証拠に視界には見たこともない酒場の円卓が映っているのだ。状況的には食事中だろうか。
「どうって言われても……凄いとしか言いようがないですよ」
「そうね……。モンスターが闊歩していて人々はそれに対抗する手段を持ち順応して普通に生活している。 要素を上げていけば完全に異世界、というものね」
「まぁファンタジー世界なのは間違いないですけど、あっちとの大きな違いはやっぱり想いが形になるってとこですよね」
藍色の短髪の男がグラスの上に手をかざすと、そこに冷気が集まり小さな氷塊が【想造】されて赤色の液体の中に落ちた。
「でもこれが出来るのは私たちだけ、なんでしょう?」
美しい黒髪の長髪を携える女性は左手にナイフを持ち、右手に全く同じものを【想造】しながらこちらに問いかけてきた。
「そうなんだよなぁ……。この世界の住人は【創造】の理屈は理解出来ても本当に形になるとは思えないんだ。 魔法は元々根付いていたから使える人間も少なくないし原理は一緒なんだけどな。やっぱり空白の百年がこうさせたんだろうな……」
「まぁみんながみんなバンバン創造してたら商業とかが破綻してますよ」
「確かにそうね。逆によかったのかも知れないわよ」
この世界の仕組みを語る三人の男女は一体何者なのだろうか。
そもそも何故愁翔はこの人物の記憶を追体験しているのだろうか。
それにこの声は愁翔が四文魔法の領域に足を踏み入れようとした際に語りかけてきた人物と同じ声だ。
「でもまぁ、今んとこ何の問題もなく楽しい世界だろ?」
「そりゃそうですよ! 異世界に憧れない男子はいないっす!」
「やっぱお前は分かってんな!」
男二人が席から立ち上がってがっちりと手を取り合う。冷静な黒髪の女性はそれを呆れて見つめた後、口を開いた。
「そういえば、この世界に名前は付いているの?」
「ん? あぁ、この世界の名は……ミッドガルド」
対面する藍髪の男は目を輝かせ、黒髪の女性はほんの少し目を伏せた。
「いいですね!」
「それは少し……酷ではないかしら……?」
対照的な反応を見せる二人に、愁翔が記憶を追体験している男が笑いかけた。
「ミッドガルドの人間はいずれ神の世界アスガルトへと昇り安楽を得る。オレは頑張った人間が向こうで報われる世界にしたいんだ……」
「そう……ね……。目的と合致した良い名前だと思うわ」
黒髪の女性は儚げな笑みを浮かべながらこちらに言葉を投げかけてきた。
「え、神の国? 安楽? なんです、それ?」
「あなたはもっと勉強しなさい」
場違いな声を上げる藍髪の男に、黒髪の女性は辛辣に言い放った。
「へ!? 突然辛辣!?」
「この話は北欧神話、ドイツの神話なのよ。 あなたの血は半分ドイツでしょう」
「生まれも育ちも日本ですよ! 日・本・男・児! ま、まぁおれは和を愛してるんで、海外の神話とかは……」
「そんな真っ青な容姿で何言ってるんだか」
「あー!! 先輩、人の容姿貶すなんて酷いですよ!」
馬鹿騒ぎする藍髪の男と、黒髪の女性の辛辣な言葉の応酬を見て、愁翔が記憶を追体験している男は声を上げて笑っていた。
この世界の根幹に関わっているであろう三人の楽しい記憶。
愁翔がこの記憶を追体験していることには何らかの意味があるのではないだろうか。
そんなことを考えていると、不意に愁翔の意識が記憶の追体験から引き離された。




