第19話 ~勝利への鍵~
昨晩、ラヴィーネ討伐作戦の概要を話し合うため、それぞれの魔法や【想造】の特徴を挙げていた。
「この世界の住人であるボクは基本的に魔法しか使えない、かな。 何故か【想造】もほんの少しできるんだけど、戦いに役立つほどのことは出来ないね」
「ほんの少しでも【想造】が行使できるのに、お前は彼らと同じ世界から来たわけでは無いのか?」
クロウの発言に、衛兵長が不思議そうに問いかける。
「多分そうなんだと思うよ。 賢者の末裔しか行使できない【想造】ができる理由はわからないけど、見た目はこの世界の人間に近いでしょ?」
「言われてみれば……そうだな。エイと言ったか、彼だけは髪の色が君に似ているが……?」
「これは染めてるだけだ。元はこいつらと一緒の黒だよ」
灰葉は思わぬ指摘を受けて苦笑しながらそう答えた。
この世界に髪を染めるという概念があるのかわからないが、衛兵長の様子を見ていると通じたようであった。
「さて、話を戻そうか」
一段落した所でクロウが手を叩き、話を元の軌道へと修正する。
「この世界に来たばかりの君たちでは多分自分の特徴は分からないと思うから、ボクが客観的に見た特徴を言っていくね」
クロウは全員の顔を見回してから、それぞれの特徴をまとめ始めた。
「まずはユウくん。君は完全に護ることに特化した【想造】が特徴だね。通常では【想造】出来ないような盾で皆を護ることが出来る。 何かを守るということが日頃から心の片隅にあったりするのかな?」
「コサキちゃんはモンスターを召喚して強力な魔法を発動させることが出来る、召喚士と呼ばれるタイプだね。 歴史上この世界の王族にも君のようにモンスターを使役できる人がいたみたいだよ」
「エイくんはちょっと他のみんなとはかなり違ったタイプなんだけど、【想造】ではなく想像した通りの力を引き出して自分の身体だけで闘う拳闘士だね。正直この中で一番でたらめな特徴だと思うよ」
「シュウトくん。君は【想造】も魔法も扱える万能タイプだ。悔しいことに魔法特化のボクよりも強大な魔法を軽々と放っちゃうような、ね。正直ラヴィーネ討伐では一つのことに特化しているより、色々な対応が出来た方が良いから君は相当重要だ」
クロウは次々と四人の特徴を言葉にしていった。
「そしてカレンちゃん。正直言ってこの討伐戦で最も鍵となるのが彼女の能力だよ」
クロウの真剣な視線に射抜かれ、本郷は表情を硬直させながら姿勢を正した。
「浮島で見たと思うけど、カレンちゃんが創り出すのはただの武具じゃない。神話武装と呼ばれる伝説級のものを創り出し、英雄の一撃を放つことが出来るみたいなんだ」
クロウの説明に一同の視線が本郷の方に集まった。
「つまり竜殺しの武器を【想造】すればラヴィーネへの有効打になる、ってことか」
「流石シュウトくん、理解が早いね」
「そ、そんな! 買い被りですよ! 皆さんの方が全然凄いですし……」
ラヴィーネ討伐の鍵と言われて驚いた本郷は手と首をぶんぶんと振ってそれを否定する。
「確かに総合的な能力で言えばシュウトくんやエイくんに勝ることは出来ない。一対一で戦ったら負けちゃうだろうね。けど集団戦でなら君の力は絶大な効力を発揮する」
「つーことはこいつの一撃を確実に当てるために、俺らがラヴィーネを弱らせりゃいいってことか?」
灰葉は本郷の能力の説明を聞いてすぐさま彼女の力の使いどころに気が付いた。
「そういうことだね。僕たちはカレンちゃんを守りつつラヴィーネの自由を奪っていく。そして最後にカレンちゃんが止めを刺すんだ」
「え、え? そんな大役私に努められるでしょうか……?」
本郷はおずおずと身を縮めて上目遣いで愁翔に問うてきた。
「不安だろうが本郷なら出来るはずだ。そのために俺たちが全力でサポートする」
「分かりました……。やってみます、私に出来るなら!」
愁翔の言葉により本郷は大役を買って出てくれた。
「お互いの能力の把握は出来たみたいだな。なら作戦をまとめよう」
円卓のそばに立つ衛兵長がこれまでの話を聞いて細かい作戦を立てることになった。
「ラヴィーネを頭目とする群れは南の山脈の頂に巣食っている。取り巻きも相当数いるため、まずはその取り巻きを殲滅してしまった方が賢明だろう」
「連れていける衛兵の数、それと一体あたり何人で戦える?」
「負傷者、疲労している者は含めないとすると三十人、いや二十人程度だろうな。取り巻きであれば一体あたり三人で当たればなんとか、というところだ」
愁翔は口に手を当て黙考する。
「なら衛兵たちは四人で一体を当たってくれ。取り巻き殲滅を早急に終わらせるために俺とクロウ以外は全員そっちだ」
「!? たった二人でラヴィーネと対峙するのは無謀だ!」
「六人全員がラヴィーネの方に行って衛兵が全滅でもしたらどうする? 倒し切れなかった取り巻きがラヴィーネと合流でもしたら目も当てられない」
愁翔の現実的な言葉に衛兵長が押し黙ってしまう。
「なにも二人だけで討伐しようなんて考えてない。単なる時間稼ぎなんだよ。逆に全員取り巻きに当たってもラヴィーネが飛んでくるはずだ」
愁翔の推測は的を射ていて、一番可能性の高い作戦に直結するものであった。
「……分かった。二人がラヴィーネの相手をしている間に取り巻きを殲滅する作戦にしよう」
「はっ! 取り巻きなんざ速攻ぶっ倒してやるよ」
不敵な笑みを浮かべた灰葉が左の掌に右の拳をぶつけながらそう言う。
「そうだね、いくらなんでもあんまり長い間二人だけに任せるわけにはいかないからね」
「そうです! すぐにでも倒してそちらに向かいますからね!」
「しゅ……、黒井くんたちだけに無茶はさせないよ……」
灰葉の言葉を皮切りに不破、本郷、音無がこちらに向かってそんなことを言ってきた。
「あぁ、分かってるよ。お前たちも絶対に無茶するなよ」
「これが全体の作戦だね。次はラヴィーネの対策を話し合おう」
少しの間を置いた後、クロウが話し合いを再開させた。
「あぁ。最終目標は本郷の一撃を当てること、そうだな?」
「うん、カレンちゃんの一撃を当てることが出来れば大ダメージのはずだよ。だから当てるためにラヴィーネの機動力を削っていくのが一番かな」
「ラヴィーネは超高速移動を可能にする両翼をどうにかできれば討伐の出来るの可能性は格段に上がるはずだ」
「そんな簡単に翼を狙えるのかな……?」
衛兵長の言葉に不破がおずおずと意見を出す。
「確かに奴の俊敏性はとてつもない。しかし所詮はモンスター、隙を作ることが出来ればなんとかなるはずだ」
「隙……か。まぁ今ここでその隙を作るための作戦を立ててもきっとその通りには行かない。こういう何が起こるか分からない場合はあまり作戦立てすぎず臨機応変に対応した方がリスクを減らせるはずだ」
愁翔はそう説明し、最低限の戦法だけを練って話を移行させた。
「とにかく翼を奪うことを第一に、ダメージを蓄積させて動きを鈍らせる。そしてラヴィーネの意識を完全に本郷から逸らして、一撃を打ち込む」
「良いんじゃないかな。それが一番討伐出来る可能性が高いと思うよ」
愁翔がこれまでの話をまとめて説明すると、クロウを初めとする他の面々も頷いて肯定していた。
「明日の作戦、無茶はするな、犠牲を出すな。この二つだけは絶対に守ってくれ」
真剣な顔で言う愁翔の言葉にこの場の全員が神妙な面持ちで頷いた。
「必ず全員生きてこの街に戻ってくるぞ……」
愁翔の言葉に含まれる死の可能性を感じ取って、それぞれが黙ったり俯いたりしてしまう。
「まぁ、そんなに考えたって仕方ねぇ。オレたちはオレたちに出せる全力でラヴィーネとかいう化物をぶっ倒すだけだ」
そんな中で灰葉があっけらかんとそんなことを言ってのけた。そして両手を首の後ろで組んで円卓から立ち上がり、そのまま二階への階段へと向かい始めた。
「何ぼーっとしてんだ。そんな暇あったら明日万全を期すためにさっさと寝ろよ」
灰葉の背中を見つめていた愁翔達に、彼は振り返ってそんなことを言ってきた。
「ふっ……全くその通りだな。今日はもう寝ることにしよう」
灰葉の言葉によって愁翔が笑い、場の重苦しい空気が吹き飛んだ。それに次いで全員が小さく口元を綻ばせて席を立った。




