第17話 珍しい客人
「あれ、レイシア?」
トリエラさんと商人通りでの買い物から数日後。店番はトリエラさんが変わってくれたので暇になり、一人で中央広場へ散歩をしていると、役人通りの方で再びレイシアの姿を見かけました。それはまあ、良いのですが……。
「レイシアの隣に居る人誰だろ?」
レイシアの隣に見慣れる人が居ました。見た感じの年齢は私と同じか少し年下。髪はウェーブ掛かった金髪で瞳は透き通った水色をしています。そして彼女はフリルが一杯付いている薄いピンク色のドレスを着ており、何というかいかにもお嬢様って感じです。
そんなお嬢様は隣にいるレイシアと役人通りを歩き回っており、キョロキョロと首を動かして役人通りの建物を楽しそうに眺めています。
レイシアの友達でしょうか?けれどもこの街で金持ちとなればそれなり顔は知れ渡っています。この街にあんなにいかにも「お嬢様」な子は居ない筈です(この街の金持ちの子って良く普通の子と遊んでいるから意外と庶民的です)。なら首都からの来賓でしょうか?
「ま、レイシアに聞いてみれば済む話か」
私はそう結論付けると、中央広場から役人通りへ歩いていきます。レイシアはお嬢様の方に注意が向いているようで私の方には全然気づきません。
「ねぇ、この建物には何ですか?周りの建物よりもずいぶん大きいですが……」
「ここ?ここは……確か国の兵士さんの駐屯所ね。この街は首都のすぐそこだから結構兵士が多いって聞いた事が有ります」
「そうなの?」
ふむ……レイシアが「お嬢様」に街の事を説明しているのでしょうか?とりあえずレイシアの背中から話しかけてみる事にします。
「レイシア、何してるの?」
「うわっ!」
私が話しかけると、レイシアは肩を勢いよく上げて驚き、飛び跳ねるかのような勢いで私のほうに振り返ります。
そして私の顔を確認すると呆れたような、ほっとしたような表情へ変わりました。
「……ミリア、驚かせないでよ」
「ごめんごめん……で、レイシア何してるの?隣の人は誰?」
「隣の人?」
「レイシアさん、こちらの方はどちら様ですか?」
私とレイシアの会話に話題の中心のお嬢様が入ってきました。お嬢様は近くで見ると益々「お嬢様」な感じの子でした。遠くからは見えなかったけれど紺碧色の綺麗で大きな瞳。肌も日に全然当たってないんじゃないかって位に透き通った白い……うん、余り美しさとかにこだわらない私ですが、これは羨ましいと思っちゃいました。
「隣の人って……ああ、そういうことね」
レイシアは私とお嬢様の言葉にそう応えると、私とお嬢様に対して互いを紹介し始めました。
「レム様、こちらの方は私の友人のミリアです。そしてミリア、こちらの方はレム・マイリール様。普段は首都の方で暮らしている貴族なんだけれど、訳あってレム様のお父様と共にこの街に来てるわ」
「それでレイシアが案内?」
「まあ、そんな所ね」
「ふーん」
私はそれを聞いた後、お嬢様の方に向きます。首都で暮らしている貴族がこの街でわざわざ泊まるなんて相当珍しいとは思いますが、特に不思議に思うほどではありません。この街で暮らす貴族同士のお付合いなんて可能性もありますし、ロゼッタさんのような宝石店に直接商品を見に来る物好きも居ますし……レムと呼ばれたお嬢様のお父さんもその辺りでしょう。
「え、えーっとじゃあレム様?」
「レムで良いですよ、ミリアさん」
「ん、えーっとじゃあ、レムさん?」
「はい、よろしくお願いします」
彼女は私にそう言うと、ニコリと可愛らしく微笑みます。その笑顔には特別な思惑等は一切ない笑顔でした。けれども師匠が機嫌の良い時に見せる笑顔とは違って優雅さもあります……なんというか本当に「お嬢様」な感じ。
レムさんは微笑んだ後、私のことを興味深そうに見つめながら私に話しかけてきます。
「ミリアさんは、レイシアさんのご友人なんですよね?」
「はい、そうですよ」
「では、この街の事は詳しいですか?お恥ずかしながら私は余り外へ出たことがなくて……お父様に無理言って外へ出てきたのです」
「はぁ、そうなんですか?」
「そうなの。私も色々頑張って説得したのよ」
「レイシアとレムさんって知り合いなの?」
私がレイシアの言葉を聞いて思ったことを尋ねる。レムさんとレイシアはたまたまやってきた貴族のご令嬢とその案内という関係よりは、少し親しそうな感じがします。
私の質問に対してレイシアとレムさんはそれぞれ別々の反応をしました。レイシアは少し思案する感じで、レムさんはなぜか恥ずかしそうな感じで
「まあ、この街以外での数少ない知り合いかな?レム様のお父様が時々この街に来るし」
「レイシアさんは私にとって数少ない友達です。私は同じ年の友達というのが居ないので……」
……なんというか「数少ない」という言葉の重みが二人の間で大きな差がある気がしました。