夏の鳥肌
自宅から程近い公園の屋根付き遊具の上で、衛はまどろんでいた。陽光は暖かく、穏やかなそよ風が稀に吹くだけの非常に眠気を誘う天気だったが、衛はジッパーを閉めたねずみ色のパーカーを着て、フードを被っていた。
衛はほとんど家に居着くことはない。化け物になってから、どこにいるにも居心地が悪くなってしまった。化け物になったことを家族はまだ知らない。普通の家族の中で、自分という異物が紛れ込んでいる事に肩身が狭くなり、それまで何事もなかった家族の触れ合いに、心苦しくなっていた。人外の体、異常な身体能力、どんな怪我でさえ眠れば塞がるような化け物が、胸を張って家族だとは言えるわけがなかった。両親も人間で、尋常ではない疎外感を感じていた。平日は寝に帰るだけ、休日は朝から出かけて寝に帰るだけ。そんな毎日だった。
ふっと意識が遠くなりかけた時、ズボンのポケットが震えた。短く連続で振動する携帯を取って開くと、聞き慣れた声が聞こえた。
また、トラブルみたいだ。
砂埃で汚れた遊具から飛び降りると服を払いながら駆け出した。
際限なく震える膝を必死に叱咤して拳が真っ白くなる程に握り込んで逃げる少女、西野桃花は今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべて、怪訝そうな道行く人の視線を感じていた。だが気にしている余裕はなく、おそましいうめき声や悲鳴を垂れ流す幽霊達から少しでも遠ざかろうと足を動かしていた。
桃花を先頭にした、夏のコミックマーケットさながらの幽霊行列の最後尾に、時には幽霊を蹴り飛ばし、時にはでこぴんで消し飛ばす、を人のいない間に片手間ながらに幽霊を撃退しつつ桃花を追い掛ける最上兄がいた。周囲をきょろきょろと見回し、特に曲がり角を気にして、何かを警戒している様子で目の前の幽霊の後頭部を指でつついて弾き飛ばした。運悪く電柱に激突した幽霊は腐肉を撒き散らして姿を消し、その様子を見た最上兄は嫌そうにつついた指を振った。その間にも幽霊達を蹴り飛ばして桃花に近付いていく。
ビニール袋の中身が無事か確認した最上兄はふと視線を感じて振り返った。たった今通り過ぎたばかりの交差点に最上妹が眠そうな目で信号待ちしているのを目撃し、視線を逸らして今の記憶を改ざんしようとして、目が合った。
途端に冷水をぶっかけられたような、服の中に凍らせたこんにゃくを入れた感じの寒気が足元から吹き荒れ、鳥肌が一斉に湧き上がった。
満面の笑顔を浮かべているのは気のせいだと言い聞かせながらも、引きつった悲鳴を押し殺して脱兎の如く速度を上げ、ラグビー選手もびっくりな弾丸タックルで幽霊たちを突き飛ばして妹から逃げる、もとい追い掛けていくのだった。
五日に一回の間隔で更新します
現在進行形で書きためを作ってるのでなにかトラブルがない限りは維持できると思います




