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85話 クリスティーネの想いは届かず・・

アクセスありがとうございます。


 絨毯の上を歩く音が聞こえ立ち止まる。その足音が止まった方向からリュートは威圧を感じるも相手が何者か理解しているため自ら動くことはせず、ただ相手が声を発するのを待つのみ。


 その中で少しだけ右の方から微かに感じる柔らかい視線を向ける存在が誰なのか、わかったリュートは小さな溜息をつき口元が緩む。



「・・・・顔をあげよ」


 リュートの想像していた声より若い声が聞こえ、戸惑いながらもリュートはゆっくりと顔を上げ国王陛下と視線を重ねた。


「・・・・」


 リュートは髭を生やし白髪の老人を想像していたが、40代ぐらいの金髪碧眼の端正な顔立ちの男だった。


「君が、ハイデン伯爵から依頼を受けて聖剣を秘密裏に運んでくれた行商人リュートかな?」


「はい。間違いありません」


「そうか・・ありがとう。これで、王国の大事な儀式を敢行できる」


「・・・・」


「報酬に何か希望はあるか?」


「恐れながら申し上げます・・・・王都にて行商の許可を」


「そんな事で良いのか?」


「はい、それ以上は求めません・・」


「わかった・・後ほど報酬については書簡で渡す。リュートよ、長旅ご苦労であった・・」


 玉座から立ち上がるギルホップ国王は、謁見の間を後にして姿を消すとそのまま一緒に出る予定だったクリスティーネ第1王女は、リュートの元へと小走りに駆け寄る。


「リュート!」


「クリスティーネ王女様?・・」


「一緒に行くよ?」


「えっ?どこにですか?」


 クリスティーネは、リュートの右腕を掴み立たせて引っ張る。


「クリスティーネ!」


 玉座の横に立っていた女性が、第1王女の名前を呼ぶ。


「お、お母様・・」


「ダメですよ・・リュートさんが困っています。さぁ、部屋に戻りましょう」


「・・リュートは、私の専属護衛騎士なのです。お母様」


「な、何を言っているの?・・リーヴス!?」


「はっ!!」


 謁見の間の隅にいた近衛兵長リーヴスは、女性の前に立ち止まり片膝をつく。


「リーヴス、もう一度だけ聞くわ・・クリスティーネが言っていることは、どういうことなの?」


「シエナ王妃様。クリスティーネ王女様の独断で任命の儀が行われたようでして・・立会人は、そこにいるロヤーソク宰相ですっ!」


 シエナ王妃を直視することなく下を向いている近衛兵長リーヴスは、横目でロヤーソクを見てニヤつき責任を押しつけ、その言葉にシエナ王妃の鋭い視線がロヤーソクへと向けられた。


「なんですって!?ロヤーソク宰相・・貴方は、娘と同じ部屋にいて何をしていたの?」


「んぐぅ・・い、いえ・・その・・私が部屋に入った時には、既に始まっていたようでして・・気付くのが遅れてしまいました・・はい」


 ロヤーソク宰相の言い訳を聞いたシエナ王妃は、深く溜息をついて強張っていた表情を緩め娘のクリスティーネを見つめ静かに告げた。


「・・クリスティーネ、今の貴方には早いわ」


「お母様・・」


 クリスティーネは哀しみの表情で母である王妃シエナを見上げる。その顔に胸を痛めるシエナは、ただ否定するのではなく少し先の未来の話しをした。


「中等部学園に通える年頃になってから、貴方が認めた者を任命するのです。それからでも、決して遅くはありません」


「・・・・はい」


 素直に小さく返事をするクリスティーネは、泣き顔を隠すように俯き瞳から零れ落ちた涙の滴が絨毯へとポタポタと落ちて吸収され消えていく。


 その後ろ姿を見るリュートは、右腕を握っていたクリスティーネの手が離れた後に片膝を付き頭を垂れ王女の名前を呼ぶ。


「クリスティーネ王女様・・」


「・・なぁに?」


 涙を拭いながらクリスティーネは振り向く。


「クリスティーネ王女様。短いながら、貴方様の護衛騎士として任命されたことを誇りに思います」


「グスッ・・ありがとう、リュート・・ごめんね」


 クリスティーネは、頭を垂れるリュートの頬を小さな手で優しく包み顔を上げて視線を重ねると、ニッコリと笑顔になるとリュートも笑顔になる。


 チュッ・・


 別れを告げるように、クリスティーネはリュートに口付けをして頭を自身の胸に抱き寄せギュッと抱き締めた後に離れる。


「バイバイ、リュート・・」


 クリスティーネは、リュートの前から逃げるように駆け出し謁見の間から走り去って行くと、娘の突然の行動に驚き固まっていた王妃は我に返り、慌ててクリスティーネの後を追いかけて行った。


 ・・・・・・



 取り残されたリュート達は、しばらく言葉を発することなく静かな時間が流れていると、不意に聖剣がカタカタと音を発し小刻みに震えている。


「リュート殿、聖剣が・・」


「リーヴスさん・・多分、何かと共鳴でもしているのでしょう」


「れ、冷静ですな・・」


「はい、王女様にキスされたことに比べれば・・ですよ」


「ですな・・」


 リーヴスとリュートが聖剣の前で苦笑いしていると、静観していたロヤーソク宰相がドカドカと歩き2人へと近寄って来て高圧的に告げる。


「聖剣は、国が厳重に管理する」


「どうぞ・・」


「ふんっ!」


 リュートはロヤーソクから放たれる圧から距離を取るように離れると、ロヤーソクは聖剣を眺めニヤついた後に両手で抱き締めるかのように掴んだ・・・・。


「んぎゃっ!!」


 ロヤーソク宰相は全身をビクンッ!とさせながら奇声を発し卒倒する。


「ロヤーソク宰相?・・冗談は、おやめください」


 リーヴスの問い掛けにロヤーソクは倒れたまま反応しない。そんな彼の様子から視線を聖剣へと向けたリュートは、聖剣からとっても不機嫌な圧が放たれているのを感じ取り、あの宿屋で出会った少女が怒っている顔が浮かびクスリと笑う。


「リュート殿、笑っている場合では・・仮にも王国の重役の方ですから」


「す、すいません・・適性が無い者が聖剣に触れると、本当にこうなるのかと思って・・」


 そんなやりとりをしている2人の横で、リーヴスの部下達が意識を失っているロヤーソクを雑に扱い、引き摺りながら時折足蹴りしながら謁見の間から退場させた。


「そうですか・・それでは、先程の部屋へと案内します。その前に、クディス!マグア!・・聖剣の守護を命ずる」


「「 はっ!! 」」


 2人の近衛兵は、聖剣の左右に立ち互いに背中を向けて警戒を始める。


「では、聖剣は彼らに任せて部屋に戻りましょう」


「はい・・」


 近衛兵長リーヴスに先導され、リュート達は休憩の部屋と案内されていた部屋へと戻って行くのだった・・・・。


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