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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第二部
15/65

★生産ギルド組合

 本日は以前からの予定通りオークションの説明会が開催される予定だ。そして、この場所にはすでに【noir】と【プレパレート】を含む生産系の七ギルドが揃っていた。


 この場所に集まったギルドは、それなりの時間をトリプルオーに費やしている者なら、知らない者はいないと言い切れるくらい有名な生産系ギルドばかりになっている。


 当然、その存在自体を【noir】と比較する事すら烏滸(おこ)がましい。このメンバーを簡単に集める事の出来たネイルさんの人脈って、マジで凄いと思う。普通に僕が話しかけても、話を聞く以前に取り合ってくれる事すら無いだろう。


 この説明会には【noir】を代表して僕が参加していた。


 本来ならアキラの方が、こう言う事には向いていると思うのだけど…最近まで少しの間ブランクが有ったり、僕の方がネイルさんと知り合って長いと言う事も有り、僕が担当する事になっていた。まぁ、アキラも直接参加していないだけで僕の背後に控えてくれているし、他の皆も裏方として手伝ってくれているから、そんなに心配はしてないんだけどな。



 ここで少し、この場に集まったギルドを会議室と言う名目の個室の左奥から順に紹介をしておこう。


 【闇鍛冶店(ブラックスミス)】は《鍛冶》専門のギルドで、トリプルオーの最先端を攻略している攻通称略組のプレイヤーが持つ武器のほぼ全てをこのギルドに所属しているプレイヤーが製作していると言っても過言では無いだろう。なりよりも所属しているメンバー全員がフレイ級の《鍛冶》プレイヤーの集まり(フレイ断)らしく、風の噂で聞くところには、【noir】の面接で落とされた(落ちた)マークも加入したらしい。


 【鍛冶ゅR(カジュアール)】も《鍛冶》系の有名ギルドだ。【闇鍛冶店】との一番大きな違いは、武器よりも防具に重点を置いているところだろう。ギルド名と共に品質の高さが有名だな。【鍛冶ゅR】と先程紹介した【闇鍛冶店】はギルドマスター同士の仲が良い事も有り、相互交流を行いお互いの《鍛冶》技術や情報を提供しあっているらしい。


 【サイク=リング】は《細工》と《錬金》系を重視しているギルドで、アクセサリーを主に製作している。アキラも、ここのデザインが気に入っており、過去には好んでここのアクセサリーを装備している時期も有った。まぁ、このギルドは製作品よりもギルドマスターの方が遥かに有名なんだけど。僕が名前と性格を知っているくらいには…


 【カーペントリ】は《木工》系のギルドで【プレパレート】とも仲が良く、協力体勢を築いているらしい。弓や杖だけでなく、ホームに備え付ける家具類の製作もしているので、【noir】で現在使用中のリビングに有るテーブルもネイルさんの紹介でオーダーメイド品を作って貰っていたりする。ちなみに、そのテーブルは僕のお気に入りだ。


 【美神(ミシン)】は《裁縫》と《革製作》に特化したギルドだ。布系や革系のアイテム(鞄以外)を作らせたら、右に出るギルドは無いだろうな。それくらい製作した品の品質が群を抜いている。


 この五ギルドに《調合》系の【プレパレート】を加えて、トリプルオーの生産系六大メジャーギルドと言われている。そのギルドマスターが、こんな小さな会議室に一同に勢揃いしているのだから、それだけでも圧巻されるよな。


 そして、この中に自分のギルドながら…超の付く程の弱小零細ギルドの【noir】がいるのは、完全に場違いな気がする。





 ふっ~、そろそろ開始時間か…若干、緊張するのは仕方が無いのかな?


 『本日はオークションの説明会に集まって頂き、ありがとうございます。僕は【noir】のギルドマスターの一人でシュンと言います。【noir】では、今月末にこの場所を使ってオークションイベントを開催したいと思っています。そこで皆さんにも協力をお願いしたく、ネイルさんに相談して皆さんに集まって頂きました』

 会議を仕切るのは僕の性に合ってないけど、この会場が【noir】の物で有る以上、避けては通れない道でも有る。


 『ここにいる大体はネイルに聞いて集まったメンバーだ。今さら、そこに反対する者はいないだろ。今回、自分達が【noir】のオークションに参加するのは自分達にもメリットが有るからだ。オークション自体は自分達でやりたかったが、現時点で会場等を用意するフォルムに余裕が無い。自分達も参加させて貰うからには協力するのは当然だと思うが…自分達は一体何に協力したら良いんだ?』

 今、真っ先に質問してきたのが【鍛冶ゅR】でギルドマスターをしているナナクサさんだ。


 筋骨粒々のドワーフの見た目以上にドワーフ((ドワーフ)の中の(ドワーフ)的な)と言った感じで見るからにザ・鍜治師と言う出で立ちをしている。多分、ここで知り合ってなかったら、僕から率先して話し掛ける事は無いだろう。


 『えっ~と、基本的にはオークション当日に各ギルドから会場運営用に数名のプレイヤーを貸して欲しい事とオークション出品用にアイテムを準備して欲しいくらいですね』


 『オークションで得た利益は、どないしはりますん?マージンとかいくら支払えばよろしんどすか?』

 この京都弁を扱う女性プレイヤーが【美神】のギルドマスターのミコトさんで、見た目がダークエルフで種族がハーフエルフ…言うなればダークエルフよりのハーフエルフと言う少し変わった設定を持っているが、職人としての腕前だけでなく、その見た目の小さくて可愛いい事でも有名で、非公式だが彼女のファンクラブまで存在するらしい。僕は全く知らなかった事だけど、アクアやドームは普通にその存在を知っていた。


 『マージン等は特に有りませんね。勿論、出品者側に対しての参加費用とかも取りませんので、オークションで売り上げた利益はその全額が出品者本人の物です。その為、出品者自身にお金の管理はして貰うつもりです』


 『それ、ちょっとタ~イムっす。それで【noir】さんは良いんすか?このままだと全く利益と言うかオークションを開く利点が無いっすよね。そりゃ~、こっちとしては、その方が嬉しいっすけどね』

 多分、僕こと黒の職人さんを除いてトリプルオーの中で一番有名な【サイク=リング】のギルドマスターのチャリさんは、金色の短髪・青眼(この青眼が、どことなく瞳を大きく見せる為のカラーコンタクト風に見えるのは、わざとなのだろうか?)にフレームの大きいサングラスをかけた人間(ヒューマン)


 どこからどう見ても、どこにでも居そうで居なさそうなチャラい日本人風の装備。ゲームの中なのだから、もっと自由にキャラを設定すればとも思うけど…まぁ、チャリさん的には、これが一番の自由なのかも知れないけどな。普段出来ない事をゲームで楽しんでいる結果が、今のチャリさんって事も有り得る。


 それに、第一声が僕達の利益を心配をしてくれているところも踏まえると…見た目や言葉使いの印象とは違って、普段は真面目な人なのかも知れないよな。この辺りが、見た目以上に圧倒的な人気誇る理由なのかも知れないな。


 『僕達は生産系ギルドとしてだけではなく、支援系ギルドを目指していますので、利益が出なくても特に問題は無いです。当然、【noir】のメンバーは全員出品しますので、そっちの面では利益は有りますよ。それに、今回のオークションの一番の目的は倉庫の在庫整理ですからね』

 他のギルドに遠慮されないように、もっともらしい理由を最後に付け加えておく僕。


 『それなら、私は問題無いや。もともと、親友(ネイル)が信頼してるギルドや。私としては、それだけで十分に信用に値するわ』

 【カーペントリ】のトウリョウさん。ネイルさんと同じ月兎族の女性で、頭にタオルをバンダナ代わりに巻くのをトレードマークに、大工の棟梁をロールプレイしている凄腕の職人さんだとネイルさんに教わっている。


 惜しむべきポイントは、棟梁のロールプレイなら頭に巻いているタオルがバンダナ代わりではなく、ハチマキ代わりにして欲しかったところだな。まぁ、今のスタイルの方が彼女には似合っていると個人的にも思うけどな。今日の説明会直前にネイルさんを交えて三人で話してみて思った印象も、今の発言同様にかなり男らしいかったのだから。


 『出品について、ギルド内等で何かしらの制限は有るのか?例えば…個人で何点でも出す事は可能なのか?俺のギルドは人数も多いから、その辺も考慮して頂きたいところだ』

 最後に喋った彼が、今まで沈黙を貫いていた【闇鍛冶店】のギルドマスターのエースさん。僕達同様(…と言っても色は違うのだけど)に灰色のローブで全身を覆い隠しているので種族等詳しい事は分からないけど、ジョブは《魔術師》。


 鍜冶の職人としては意外過ぎるジョブ選択だが、逆にそのジョブ選択が珍しい事も有って彼を一層有名にしている。まぁ、そこは職人としての並以上の(凄い)腕前が有っての話だろうけど。


 【闇鍜冶店(彼のギルド)】は、ギルドメンバーの数でも今回集まった他の五ギルドより群を抜いて多い。生産系ギルドにも関わらず二百人を越えていて、僕が知っている情報ではギルドランクもBになっていたはずだ。


 『基本的には一人が何点出品して頂いても構いません…が、この場にいるギルド以外にも一般プレイヤーの当日参加も考えておりますので、事前に申請して貰おうと思います。仮に出展側が多くなり過ぎて時間が足りなそうな場合は、今回は抽選にさせて頂こうと思っています。オークションを開催する事自体が初めてと言う事もあり、知らず知らずの内にミスが出たり、上手く進行出来ない可能性も考慮して、合計で百点~二百点くらいが妥当かなと思ってます。オークション一品辺りの時間短縮の為に、出展品は事前に出展リストを作り、情報サイトにも掲示する予定にしてます』


 『出品は抽選の可能性も有るのか…先程、今回と言ってたが、次の開催も予定が有るのか?』


 『そうですね。今のところは二ヶ月に一回ぐらいで開催出来たらなと思ってます。他にも…そうですね。この場に集まっていて、今回協力してくれるギルドになら、このオークション会場自体を無償でレンタルしても良いですしね』


 『そうか、次の開催が有るなら【闇鍜冶店】としては問題無い。レンタルは結構だ。遠慮させて貰う』


 『司会の方は、どうするっすか?』


 『一応、【noir】から僕ともう一人のギルドマスターのアキラでやる予定にしてます』

 それに合わせて、アキラが僕の背後で頭を下げた。


 あまり、こう言う場での司会はやりたくないけど、オークションの開催を言い出したのが僕なので、僕の司会参加自体はすでに抵抗する事は諦めている。まぁ、アキラが手伝いを買って出てくれたのは幸いだったけどな。


 『はい、は~いっす。僕もやりたいっす。それ、やらして下さいっす。て言うか、やるっす』

 確かに、チャリさんがこの妙に軽い雰囲気で司会に参加してくれれば、オークション自体も盛り上がりそうだし、進行も円滑に進みそうではあるな。僕達だけだと、どうしても堅いイメージが抜けそうに無いのだから…


 そう思って、アキラの方を確認すると無言で頷いてくれている。


 だけど…それなら、もう少し早く言って欲しかったよな。面等な司会を自ら進んでやりたがる人が生産系の職人達の中にいるとは思わなかったから、僕達でやるしかないと思っていたんだけど…この事についてはフレイも言っていたし、僕達もフレイの力説に対しては無抵抗で納得していた。


 『はい。勿論OKです。今、仲間にも確認出来ましたし、こちらとしても助かります。改めてよろしくお願いしますね』

 チャリさんは、もうすでにやる気になっているらしい。初めて会う僕の目から見てもテンションが上がっているのが丸分かりなのだから。


 『それでは…』


 『ところで、細かい打ち合わせに入る前に、一つ質問してもよろしいどすか?この会場には何人くらい入りはりますん?』

 細かいところを詰めていこうと思ったところで、ミコトさんから待ったがかかった。


 『座席数は一階が千人、二階が二百人です。立ち見を含めても最大でも千五百人くらいだと思っています』


 『はて?そんなんで足りはりますやろか?』


 『えっ!?』

 この規模で足りないの?合計で千五百人も入るんだよ。この規模の会場(ハコ)を単体イベントで満員にするのって素人だと凄く大変な事(両親断)なんだけど。


 『そうっすね。この規模のギルドが一同に集まってのオークションっすからね。かなり集まるっすよ。ここにいる皆さんは、誰しもが羨む有名人っすからね…て言うか、黒の職人さん自身が有名人の筆頭じゃないっすか。黒の職人さんのレア鞄と銘を打つだけでも、それくらいの人数は簡単に集まりそうっすよ』

 ミコトさんの意見に驚く僕を見て、チャリさんが補足してくれる。


 確かに、名も知れないインディーズバンドと違って、生産系六大メジャーギルドが集まるにしては規模が小さいのかも知れないな。それこそ、ドームレベルの会場が必要なのかも知れない。


 だけど、いくら何でも僕の鞄で今さら千五百人は集まらないだろ。鞄事件当時ならともかく、鞄が普及しきった今は…


 『それですと、今回のオークションが成功すれば、次回の会場は規模を大きくしても良いかも知れませね。まだ、ホームに土地が余ってますから』

 ギルドの周辺の土地を、面倒なプレイヤー達を近寄らせない為に一億フォルムを(はた)いて買い占めている【noir】。


 【noir】は所属しているメンバー数そのものは少ないけど、人材には困っていないし、土地とお金儲だけは無駄に余っている。


 すでに、【シュバルツランド】の三十分の一は、【noir】の土地になっている。流石に、規模を大きくすれば良い発言には生産系六大メジャーギルドのマスター達も若干引き気味だけど、その事を今さらいちいち気にはしていられないからな。


 『まぁ、その辺はおいおいね。オークションは今回だけじゃないから気にしなくても良いやん。なんやったら、出品参加券とか入場券とかを前もって配付したら良いんやし』

 トウリョウさんがフォローしてくれて、さらに良いアイディア付け加えてくれた。


 『それなら、主催者を除く六ギルドで百五十枚ずつ配付すると言うのはどうだ?配付の仕方は各ギルドで自由に決める。そして、残りは主催者が配付したらどうだ?』


 『いや、それなら七ギルドで百五十枚ずつ配付して、残りで当日券の発行を検討した方が良いのでは?』

 エースさんかが出したアイディアに、ナナクサさんがアレンジ出してくれる。でも、【noir】で百五十枚を捌くのは難しい気もするんですけど…


 なので、ここでの選択は…


 『それが、良いですね。皆さんのアイディアに感謝です。ただ、入場券の転売を禁止にする為にも、配付時の販売と配付後の他者への譲渡は不可にさせて貰います』

 僕は、転売(そんな事)でお金を稼ぐプレイヤーは嫌いだ。


 参加券の値段が青天井に上がると、お金の無い初心者プレイヤーはオークションに参加する事はを勿論、見る事も出来なくなる。それでは僕達の掲げる目的からすると本末転倒になりかねないから、転売は絶対に避けたい。


 それに、トリプルオーの禁止事項にも有ったリアルマネー(現金)でのトレード(交換)にも絶対に加担したくないし、仲間内にもさせたくないからな。


 それと、これは余談になるのだけど…何故か、トリプルオーでは、ファンタジーには無くても困らなそうな妙にリアルな仕様が含まれている。


 トリプルオーの世界では、メールやコール機能が主流になるのは確かだけど、紙に文字を書いたり、複写(コピー)する事も可能だ。これは、スキルに関係なく誰でも気軽に使える技術でも有る。アナログな手法である手紙や書き置き等も出来るところが意外と数有るMMOの中でトリプルオーが好まれている理由でも有るんだよな。まぁ、他のゲームの事まで僕は知らないのだけど…


 ちなみに、トリプルオーの中には《執筆》と言う文章を書く事に特化した専門の生産スキルも有るが、これは魔導書等を製作する為のスキルらしい。僕を含めて周りの知り合いの誰もが取得していない初期生産系のスキルなので、詳しい能力は分からない。


 まぁ、仮に仲間内の誰かが《執筆》を取得すれば、《見破》を使って詳しい詳細も少しは分かるのだろうけど、現状では解決策は見付かっていない…正直なところ、僕が《執筆》を取得すれば簡単に解決する話なのだけど、使うか使わないか分からないスキルに対してSPを使う事に躊躇いを感じて、取得するには至っていない。


 『流石、黒の職人さんっすね。ここに集まったプレイヤーは、その心意気は多分好きっすよ。それにっす、鞄事件の時は多かれ少なかれプレイヤー全員が本当に感謝してるっすよ。そして、そのポリシーには皆共感してるっす。だから、皆ここに集まっているっす』

 チャリさんの一言に皆が頷いた。あの事件が、こんな形で広まっているのは正直驚いたけど、本音を言うならば嬉しかった。だけど…


 『その黒の職人さんってのは止めてくれないかな、そう呼ばれるのは好きじゃないんだよ。普通にシュンで良いから』

 ちょっと空気を悪くしてしまったかも知れないが、他の事は譲れたとしても、その主張だけはしておきたい。今後の僕のトリプルオー生活(ライフ)の為にも…





 そのあと、僕達は様々なルールやオークション進行時に起こりそうな問題点について考えて話し合った。


 『これで、ある程度話もまとまったみたいだね。オークションの成功を僕も願うよ』


 会議も終わりへと差し掛かった時、この会議中どうしても必要な事以外は話さず見守ってくれていたネイルさんが、ようやく口を開いた。


 『そこで、だ。僕からも、ちょっとした提案が有るんだけど良いかな?この件は、直接オークションとは関係の無い話だけどね。どうせなら、ここに集まったギルドで、生産ギルドの集まりと言うか組合みたいな集団を作らないかい?』


 さっきまでは、何かしらの意見を積極的に発していた全員が、ネイルさんから発された流れに身を任せるように静かに息を潜めている。


 『僕達はお互いに生産畑が違うからね。無駄にダブついて余る素材や全く足りない素材が各々違っていると僕は思うんだよね。だから、それらを用いて物々交換とかも出来たら便利だと思うんだ。これからは、より一層新人プレイヤーが増えてくると思うし、その新人プレイヤーの中にも生産をしたいプレイヤーは沢山いると思うんだ。そのサポートも出来る体制を築いてた方が良いんじゃないかな?』


 『なるほど』

 僕では、考えつかない意見が出て、思わず感心してしまった。確かに、余っている素材を必要な物と交換できるなら便利としか言いようがない。自然とに笑みが溢れそうになるのを必死に我慢しているフレイの表情を見れば、改めて訪ねる必要も無いだろう。


 『それに、【プレパレート(僕のところ)】とトウリョウの【カーペントリ】は、お互いが協力して新しく取得した(・・・・・・)生産系複合スキルの検証を始めたんだよね。出来たら、その辺の情報も交換したいからね』


 複合スキルか…


 複合スキルの事は…う~ん、難しいかもな。それなりに親しいネイルさん達(トウリョウさん含む)には話しても良いと思うけど、まだよく知らない他の人には秘密にしたい事も有る。


 『今回のオークションの事とお互いが協力して新人のサポートや物々交換をするのは良いと思うが、その中に複合スキル検証の情報交換が有るなら、その組合への参加は【闇鍜治店】は遠慮させてもらう』


 『そうっすね。そこは、【サイク=リング】も反対させて貰うっすよ』

 エースさんとチャリさんが、すぐに反対の意思を現した。


 エースさん達は反対派のようだな。目の前に提示された美味しそうな情報()に食い付かないところをみると、この二つのギルドも各々が、何かしらの複合スキルを手に入れている可能性が高いって事かな?


 『自分もだ。それは各自のギルドでするべき事柄だろうな。スキル発見者の利点が無くなる』

 ナナクサさんもその流れに続く。


 それは、僕も思う事だけど…ナナクサさんみたいに、誰が見ても分かりやすい表情に出してまで頑なに反対の意を表する程でもないかな。多分、ナナクサさんは嘘のつけない(・・・・・・)性格なのだろう。


 『検証の方は生産ギルド組合とは別な話にして、やりたいところで話し合うと言う事でもええやんか?生産系ギルドの組合だけなら、後々のメリットも高いと思うし、どやろ?私のところは参加するで』

 トウリョウさんの意見には、僕も賛成。だから…


 『それなら、【noir】も参加します』

 僕も参加を表明する。それに、フレイの表情を見る限り反対は無いだろう。


 だが、残念な事に複合スキル検証に対しての反対意見を述べた三ギルドを含む四ギルドは一次保留らしい。まぁ、すぐに決める事でも無いし、あとからでも簡単に参加出来るのだから問題は無いだろう。


 それに、一度各々のギルドで話し合う時間は絶対に必要だよな。ギルドはギルドマスターの私物では無いのだから…


 取り敢えず、ネイルさん発案の生産系ギルドの組合は三ギルドだけの参加が決まった。仮だがリーダーは、僕とトウリョウさんの両方と仲が良かった事が大きな決め手となり、発案者のネイルさんに決まっている。まぁ、これから大変な目に合いそうなリーダーを親友のトウリョウさんに押し付けられたって感じも否めないんだけど…


 複合スキルの検証も同様で【カーペントリ】・【プレパレート】・【noir】の三ギルドで共有する情報の範囲を話し合う事になった。他の四ギルドは、この話し合いにすら参加しない。


 オークションについては、大まかな事も決まっていたので、残りはコールやメールで連絡を取る事にした。生産ギルド組合以外のほぼ全ギルドマスターが出品の製作に集中したいらしい。当然だが、オークション前に再度集まる約束は交わして解散している。





 『なんとか、オークションの件はまとまりましたね。ネイルさん、今日は本当にありがとうございました』


 『僕もオークションを楽しむから良いんだよ。トウリョウも色々とありがとね』


 『ネイルの頼みやし、その辺はかまへんよ。それに、私のところもシュンの鞄には大変お世話になっとるし、これを気に色々と無理を聞いて貰うつもりやから、役得でも有るしな』

 今は、場所を変えて【noir】のホームでゆっくりしている。


 一部…正確にはトウリョウさんの口から不穏な事も聞こえた気もするけど、今は気にしないでおこう。普通に依頼だと思えば驚く事でもないのだから。


 今、ここにいるのは僕とネイルさんとトウリョウさんの三人だけで、アキラを含めた他のギルドメンバーは狩りや生産作業と各々がバラバラに活動している。


 『それにしても…ここは、見た目だけやなくて中も凄いねんな。さっきの会場の比やあらへんやん。それと、これや、これ。私の作ったテーブルを使ってくれていて嬉しいわ』

 自分で製作したテーブルを見付けて、右手の人差し指でコンコンとテーブルをつつくトウリョウさん。


 言葉とは裏腹に初めてホームの中を見た顔にしては、あまり驚いてない気もするけど…テーブルの件は本当に嬉しそうだ。


 『いつのまにか、少しずつ大きくなってしまって、この形に落ち着いてます。それに、このテーブルには本当にお世話になってますよ』

 まぁ、当たり障りなく答えておこう。正確には随時拡大中で全く落ち着いていないのは秘密にしておこう。それに、机に関してだけは完全に本音だからな。


 『それは良かったわ。あと、私にはタメ語でええで』

 アキラとは違った男っぽさ…男の中の男っぽいトウリョウさんは、その雰囲気だけでなく妙に格好良いし、出会った頃のアキラと同じ様にサバサバしている。


 しばらく他愛もない雑談や複合スキルの話をして解散した。僕も情報として《機械製作》を発見した事のみは話して、《家事》の利点とこの件に関しては検証出来るのが僕しかいないと断言出来る専門武器製作スキルの《銃製作》の事は話さなかった。こちらは後々…もう少し仲が良くなってからでも良いだろう。


 【プレパレート(ネイルさん)】と【カーペントリ(トウリョウさん)】は、《調合》と《木工》の二つを進化させた事で《合成》スキルが取得出来たらしい。


 この《合成》は、二つ以上のアイテムを合成して違うアイテムやレア度の高いアイテムを作る事が出来るスキルらしい。だが、今のところは合成出来ないパターンが非常に多いらしく、他のギルドにも協力して貰って色々なパターンで検証をしたかったので、多少の情報は犠牲にしても複合スキルの検証を提案したらしい。


 【noir】にも、その方向に進めているメンバーがいるので、後日ネイルさん達のギルドメンバーと顔合わせをする事にもなった。





 『シュン、話し合いは終わった?』

 アキラが工房から出てくる。


 どうやら、僕達に気を使ってリビングに入って来なかったみたいだな。まぁ、トウリョウさんがあの性格なら特に気にしなくても良かったと思うけど。


 『あぁ、ごめんな。長い時間場所を借りてしまったかな』

 アキラにも話し合いの内容等を話した。


 複合スキルに関しては、まだまだ謎が多過ぎるので有益な情報は少なかった事や新しいスキル(合成)の話も含めて…


 『そっか、《合成》スキルとかも有るんだ。武器も《合成》する事が出来るのかな?』


 『【カーペントリ】は《木工》メインのギルドだから、それは検証済みだと思う。武器の《合成》は出来ないと言ってなかったかか、多分出来るんじゃないかな』


 『だったら、シュンが取得してみる方が良いんじゃないかな?』

 何かを悟ったかのような表情で一歩近付き、僕に進言するアキラ。


 『???』

 今のは僕が《合成(・・)》を取得する…と言う事だよな。


 アキラは、僕が《合成》の基となる二つのスキルの内《調合》を苦手にしている事は絶対に知っているはず…だ。それでも、僕に勧めてくると言う事は、何かしらの意図が有るのか?


 『絶対とは言い切れないんだけどね。《合成》に失敗したり、《合成》出来ないアイテムって他の生産系(・・・・・)スキルのレベル不足じゃないかな?複合スキルだったら、そう言うのも有りそうだよ』


 『なるほどな…』

 確かに、アキラの言う可能性も有りそうだ。ネイルさん達はある系統の生産に特化したプレイヤーだ。そう言う意味でなら、僕の方が技術(スキル)は上かも知れない。


 だが、問題なのは僕はゴリゴリ(・・・・)するのが苦手で《調合》スキルの使用を諦めた事だ。《合成》を取得するまでの壁が高過ぎる気もするんだけど…


 『あまり気は進まないけど…少し検討してみるよ。それと、この際だから、取得出来そうな生産系複合スキルは取得してみるよ』

 《調合》のレベル上げに関しては採取やゴリゴリする以外に効率の良い方法が無いか、ネイルさんに聞いてみるか。


 それと同時に、利用価値が分からない為に取得を控えていた《機械製作》も取得する事にした。その方が、《合成》に関する色々な違いに気付きやすいかもと思ったからだ。


 ネイルさんにメールで確認した結果、《調合》スキルは常時ゴリゴリしなくても、一度製作したアイテムならメニューからの製作する事でも多少の経験を積める事が判明した。


 まぁ、その為にも一回は自力でアイテムを作らないといけないし、メニューから製作するのと自力でゴリゴリして製作するのとでは得られる経験値に差が有り過ぎるのだけど、僕にとっては一筋の光明が見えた気分だ。


 …と言うか、初めて見た時のゴリゴリのインパクトが強かった為に、その事に全然気付かなかったよな。他の生産系ではメニューから製作または複製する事に、かなりお世話になっているのに関わらずだ。かなり盲点だったみたいだな。


 《調合》を成長させる事にも目処がたったので、倉庫の在庫に物を言わせて一気に《調合》スキルのレベルを上げる。


 一番最初の工程として、《調合》スキルの登竜門的なポーション用の薬草をゴリゴリ(・・・・)してから煮詰める作業時には一時的に精神がやられそうになり、ポーションを製作するにしては有り得ない時間が掛かっているけど、『一回だけ、この一回だけで済むんだ』と何回も心と頭の中で繰返しながら自分自身に言い聞かせる事で何とか耐える事が出来た。


 それと、この《調合》を成長させる工程では素材買取り屋の【by buy】が真価を発揮していた。最初に情報サイトに載せて以降、特に宣伝はしていないのに関わらず日に日に倉庫の在庫も増えているので、どんなに使っても低ランクの素材を使いきる事は無い。


 これも、最近発見した《家事》の効果も相まって、あれから二日足らずで《調合》スキルを《調合職人》へと進化させる事に成功している。


 当然、ヒナタやカゲロウにもメニューから製作しても経験値が有る事を教えたので、二人も僕と同様に一気に職人クラスにランクアップしていた。それと同時に、二人には複合スキルの《合成》の話もして、【プレパレート】や【カーペントリ】と協力体勢で検証する事も話した。


 カゲロウに対しては、この前の『この世界を楽しもうよ』発言に対しての謝罪も済ませている。その話の流れで、森の奥でのレアクィーンとの初対面の話になったりもした事で、カゲロウ本人は終始楽しそうに笑って(・・・)許してくれたけど、かなり恥ずかしい失敗…いや、失態だよな。


 まぁ、この件でしばらくの間はカゲロウに弄られるのは覚悟しておこうか。ある意味では自業自得とも言えるので耐えるしかないのだけど…強者に弱味を握られた弱者の気分だな。


 《調合》スキルのレベルアップの副産物として出来たポーション類の回復アイテムは、相場価格よりも少しだけ安く値段を設定して店舗から販売している。露店やショップで売っている物よりは性能が高い事も有り、新人プレイヤーによく売れているらしい。支援系のギルドを目指す者としては嬉しい副産物だとも思える。


 そして、ようやくアキラに習いながら《裁縫》のレベル上げの段階に至った。リアルでは家事に限らず家庭科も得意な僕は、それを行うのがトリプルオーの中だとしても、現実と同様に得意らしい。どんどん、スキルレベル以上の品質に見える(・・・)(あくまでそう言う風に見えるているだけで品質はスキルレベル相応)アイテムが出来上がっていく。


 すでに自分の鞄にもトライバルタトゥーみたいな模様の刺繍を入れる事にも成功していて僕個人としてはかなり満足している。まぁ、トライバルタトゥーを刺繍を施す時にした無駄な苦労は、レベル上げと言う面からすると全く美味しくは無かったのだけど…


 『まぁ…これに関しては、ちょっとずつだな』


 オークション開催までのほとんどの期間は、各自の自由時間に充てていた。ギルドとしてのまとまった活動はしない予定なので、メンバー同士お互いが何をオークションに出すのか知らない状態だ。その方が、より一層楽しめるだろとカゲロウから意見が出て、満場一致で採用されていた。まぁ、オークション前には出品リストも作るの予定なので、名前だけは事前に分かるのだけど。


 『シュン、次は服でも縫ってみる?あくまでも私の想像なのだけどね。今までの経験から言って服も素材やデザイン等を合わせて作ったら、念願のセットボーナスが防具にも付くと思うから、頑張った方が良いよ。私が素材等を合わせて新しく作っても良いんだけど…』

 服をアキラに作って貰った以外は、全部素材と品質に拘って自作している。確かに、不確定ながらセットボーナスが付きそうな状況では有るよな。


 『そうするか。じゃあ、アキラ先生教えて下さい』

 僕はアキラに型紙の作り方から教わる。この辺りは、《鞄製作》や《革製作》でも基本的な事は経験しているから、全く問題は…


 『…う~ん』

 これは、思っていたよりもかなり難しいかもな。服を一から作るのって防具や鞄を作るより難しいんだな。


 すみません…完全に服の製作を甘く見てました。直接、肌に身に付ける装備だけに、サイズの微妙なフィット感や肌触り等の着心地が妙に気になる。


 『アキラ、アキラが作ってくれたこのクロースって、かなり性能…と言うか質が高かったんだな。自分で作ろうとしてみて初めて分かったよ。ありがとな』


 『それは…えっと…そう、自分が使う物ではなくて、シュン()プレゼントする物だったから、かなり頑張って作ったからだよ。私も色々と貰っているから、改めてお礼を言われる事じゃないよ』

 なるほど。高品質だった理由は()にプレゼントする物だったからなんだな。


 プレゼントする物を自分で使う物よりも丁寧に作るのは僕にも分かる。その点は僕も同じなのだから、改めて聞くと納得出来る話だな。


 夜までアキラに指導されながら服を作った事で、服の製作において、基本的に注意しなければならない箇所については何となくだが分かった。だが、まだまだ売り物どころか自分の装備にもなりそうもない品質なんだよな。これはしばらく徹底的な練習が必要らしい。


 ちなみに、売り物に成らない(僕の製作した)服は、刺繍のレベル上げ(練習)用に使ったあと、ホームの掃除用アイテムとして雑巾にランクダウン(アップ?)している。


 この時点でも、かなりの数の雑巾が出来ているので今後の掃除には困らないはずだ。これで、またホームが綺麗になるな。これは決して負け惜しみではないはずだ。


 ちなみに、ホームは長時間放置していると自然に汚れる為、定期的に掃除を必要としている。普通のプレイヤーは掃除用のNPCを雇ったり、NPCに仕事として直接依頼する。だが、そんな事の為だけに数少ない雇用枠を使って、貴重なNPCを雇うは何か違うんじゃないかと言う事と《家事》のレベル上げも兼ねて僕が全てを受け持っていた。ケイトが加入してからはケイトも担当していたけど、現在はギルドメンバー全員が取得してしている為、当番制に替わっていたりもする。結果、この雑巾は皆に喜ばれる。だから、本当に無駄にはならないと思いたいです。





 僕は翌日も朝から《裁縫》に励んでいた。トリプルオーの中でもミシンの扱いが数を(こな)す度に良くなってきている。


 『おっ、シュンは今日も一日(・・)《裁縫》なんか?』

 フレイに背後から不意に声をかけられる。少しばかりの含みを持って…


 『一応、自分用の服を作るまではその予定だけど…何かあるのか?特に急ぎの用でも無いから、何か有るのなら手伝うよ』


 『いやな、ウチの用も大した事やないんやけどな。ケイトと二人で採掘行く予定にしとるんやけど…良かったら、シュンもウチらに付き合わへんか?』

 採掘の誘いか…


 ケイトとフレイの組み合わせは、最近よく見かける。二人共が《機械製作》スキル取得の為に、お互いが切磋琢磨して頑張っているからだ。《機械製作》取得の為には、ケイトが《鍛冶》、フレイが《錬金》のレベルが足りていない。まぁ、足りてないレベルの差にフレイとケイトでは大きな差が有るのだけどな。


 それなので、二人は鉱山ダンジョンで素材を集めをしながら、採掘でスキルレベル上げをするらしい。あっ!


 『うん、分かった。今日は二人に付き合うよ』

 今日の予定と採掘を天秤にかけて考えている内に、《付与術》で試しておきたい事が有った事も思い出したからな。


 『マスター、本日はよろしくお願いしますです』

 僕の返事を聞いたケイトが嬉しそうな顔で近付いてきた。


 まぁ、鉱山ダンジョンは二人より三人の方が、より奥へと進みやすい。どうせ行くなら奥まで行って、少しでも良い素材を採掘したいからな。その気持ちは同じ生産系の職人としては良く分かる。


 『おう、よろしくな。二人とも準備は良い…』


 『『大丈夫や』です』


 『…みたいだな。じゃあ、行くか』

 すでに準備はバッチリ整っているらしく、すぐに返事が返ってくる。僕はと言うと、普段から鞄の中に採取や採掘に使用する全ての道具を入れている為、改めて準備の必要は無い。これは、いつどこで採取や採掘のポイントを見付けるか分からない事もあっての備えからくるものだ。





 僕達は鉱山ダンジョンを採掘しながら奥へ奥へと進んでいる。入口の近くで見付けた採掘ポイントでは、フレイと僕ではスキルレベルが上がらない素材が多く出るので、ケイトを中心に採掘した。


 途中、減少系の《付与魔法》を合体させる実験も行ってみた。効果は上昇系と同じで、通常の《付与魔法》の倍以上の効果が有る。上昇系の〈増大〉に対して減少系は〈激減〉になるようだ。


 戦闘では〈増大〉と〈激減〉を同時に使った恩恵で、僕よりも直接攻撃力の低いケイトでも、ある程度のダメージを魔物に与える事が出来たので、ケイトの経験値の入り具合も良かったらしい。これは嬉しい誤算だな


 まぁ、僕もこの実験を通して《付与術》のレベルがガンガン上がっているので嬉しかったりもするのだけど。普段から小まめに《付与魔法》を使ってはいるけど、MP消費の有る魔法系のスキルと言う事も有り、スキルレベル自体は上げ難いからな。


 『そろそろ、岩石系のモブが出現するはずやから、ケイトは特に気い付けなアカンで!!』

 僕が頷いて答えると、フレイがケイトに警戒を促している。僕も《探索》スキルが無くなっているので、先の様子は読めない。以前みたいに岩石系だけを避ける事が出来ないから、警戒をするに越した事は無いだろう。


 『分かりましたです。気を付けますです』

 ケイトがより一層警戒心を強くした。まぁ、僕以上に紙装甲なので仕方の無い事かも知れないけど…一応《付与術》で目一杯強化して有るので強い魔物のクリティカルを一、ニ発喰らったくらいで倒される事は無いと思う。まぁ、念の為に改めて〈回避増大〉くらいは掛けておくか。どのみち、用心をするに越したことはないだろう。


 『言ったそばからこれか』


 現れた魔物はロックスネクとロックプライス。岩石系の魔物は、防御力が高く物理攻撃に非常に強い。その反面、魔法に弱いと言う欠点も有る。


 『ケイトは離れて、回復と《風魔法》や!』

 フレイが棍を上手く使い、指示と牽制と攻撃をしていく。


 僕も銃とケイトと同じ《風魔法》で削っていくが、なかなか思うようなダメージが出ない。まぁ、フレイの援護程度にはなっているのだけと。


 『〈防御力激減〉と〈攻撃力増大〉だ。フレイ頼む』

 ロックプライスに〈激減〉、フレイに〈増大〉を掛けた。


 そうする事で、今までの攻撃が嘘のようにダメージが通る。まるで紙を相手にする…それは、流石に言い過ぎだけど、そんな風に見えるくらい簡単にフレイの棍が魔物の身体を貫き引き裂いていく。


 『あのものごっつ硬い岩石系が、ここまで柔らかくなる言うんは面白いわ。刃物使ってるみたいにスッパスッパ切れるわ』

 フレイが非常に楽しそうに棍を振るっている。今までと違って、嘘の様なダメージが出てるから分からなくも無いけど。少しばかり笑顔が怖い気もする。


 『〈防御力激減〉。フレイ、こっちも頼む』

 ロックスネクにも《付与術》を掛けて、その場を放れながらロックスネクの位置を固定するように射撃していく。そのロックスネクへのトドメには、棍を利用して棒高跳びのようにジャンプしたフレイの強力な蹴り技が炸裂していた。


 ちなみに、フレイは《拳》・《蹴脚》・《棒術》の三スキルから推定(··)物理攻撃系複合スキルの《格闘術》に進化させている。フレイ曰く、今のアーツは《格闘術》の初期の物らしい。それにしては威力が凄まじい(酷い)気がするな。


 『戦闘だけを見ていると、もう生産系の職人には見えないんだよな…』

 僕は、フレイから放たれたアーツの最後(フィニッシュ)で、空中(··)で止めを刺したフレイを見てそう呟いた。


 『シュン、ブーメランや。ウチとしてはやな。その言葉を黒の職人さんだけには言われたくないねん』

 …が、完全にフレイ本人に聞こえていたらしい。


 『はいです。二人とも生産系には全く見えませんです』

 追い打ちで、ケイトに突っ込まれるとは思ってなかった。


 その一言で僕とフレイの二人で顔を見合わせて笑ってしまった。当然、苦笑いだ。どうやら、僕達は同じ事を思ったらしい。


 『あれれ!?マスター、フレイ、大変驚きましたです。今の戦闘のドロップ素材が新しい鉱石になってますです』

 ケイトに言われて、僕達も鞄の中のドロップを確認する。


 ケイトの言う通りで、見た事も聞いた事も無い魔鉱石と言う素材が鞄の中に存在している。


 『フレイ、これが何か知ってる?』

 僕が見た事も聞いた事も無い素材でも、トップクラスの職人(フレイ)なら知っている可能性は高い。それに、以前にも便乗と言う形だけど、このダンジョンを攻略しているからな。


 『いや、ウチも分からへんわ?でも、前に来た時は、こんなん全く出へんかったで…』

 …と思ったけど、今回は全く知らなかったようだ。


 何かしらの理由が有るのか?魔鉱石以外に新しい素材は無さそうだな。数量も多くは無い…あれ!?採掘した素材の総量が少し増えてないか?


 『…あっ!?』

 えっ、いや、まさかと思うけど…でも、そんな事が有り得るのか?


 『なぁ、フレイ。もしかしてだけど…今の戦闘中に採掘系の生産スキルレベルも上がってないか?』


 『えっ!?何を言うてる…いやいやいや、それは流石に無いやろ…うぉっ!!これ、ほんまかいな。《鍛冶職人》と《細工職人》のレベルがさっきより少しずつ上がっとるわ。でも…ほんまにほんまなんか?』


 当然、樹木系の魔物を倒した時もドロップとして樹木系の素材を得ていたけど、それについては全くと言って言いほど違和感が無かったのでスキルレベルの確認等をした事は無い。僕個人としてはボアからボアの皮をドロップするくらいにしか思ってなかったのだから。


 『残念ながら確証は全く無い。だから、また数体狩ってみるか?上手くいけば、採掘を続けるよりも効率良くレベル上げが出来ると思う』


 僕達は、採掘の合間に岩石系の魔物(仮称・素材)を発見したら検証してみる事にした。次は、戦闘中に僕達自身を《見破》で観察してみるか。後衛の僕にはそれくらいの余裕は充分に有る。でも、今は周りに見付けてある採掘ポイントでの採掘作業が先だろう。


 三人で別れて周囲を掘り進める。見付けたほとんどの採掘ポイントをケイトに譲っていた為、ケイトも無事に《鍛冶職人》スキルへと進化出来たようだ。


 『この辺りの回収は終わったみたいだけど。どうする?』

 進むか戻るかを決めなければならない。特にケイトは…


 『私には、この先はレベルが足りそうも有りませんです』

 うん。ケイトも正しい判断が出来るようだな。僕もそう思う。六人パーティー、せめて盾役としてカゲロウがいる四人パーティーなら進んでも良いところだけど…


 『それやったら、次は戻りながら岩石系モブ探しで、とないや?』

 フレイも戻る事に反対は無いようだ。


 当然、フレイの意見に僕とケイトに反対する必要もない僕達は検証の為に戻りながら岩石系の魔物を探す事にした。


 そして、ダンジョンを出るまでに七体の岩石系の魔物を狩る事が出来た。その結果は…魔物に対しても採掘作業が可能と言う事だった。それも、かなり効率良く。対応する生産スキル所持者が攻撃するだけ(······)で素材の採掘が出来ると言う、まさに夢のような仕様。


 多分、誰もが気付いていなかっただけで、採取等でも普通に起きている現象なのだろう。《調合》組のカゲロウとヒナタにメールしておくか。そうすれば、わざわざ検証しなくても、その内結果も出るだろうし。


 『なぁ、少し気になった事があるんやわ。トリプルオーは他のゲームと違い生産系が優遇されすぎてへんか』


 『僕は、ほとんどゲームをしないから他のゲームは分からないな。ただ、アクアやジュネの話を聞く限りではトリプルオーで生産系を取得してるとプレイしやすい気はするな。特に《家事》スキルとか、もろに影響受けてそうだと思うし』


 『私もそう思いますです。前にしていたMMOは、生産系のジョブではメリットも有りましたがプレイしにくいのが多かった気もしますです。ですから、【noir】に入る前は《家事》しか持ってませんでしたです』

 ケイトもかなりのゲーム好きらしいな。まぁ、《家事》を生産系のスキルと認識しているのは、どうかと思うけど(それを僕が言うなと言う話でも有るけど)…


 もしかしなくても、【noir】内での、ゲーム経験は僕が一番少ないんじゃないか?


 まぁ、取り敢えずはホームで採掘自体はばかりの魔鉱石を加工してみるか。幸いな事に三人合わせて二十個以上も手に入ったからな。何かしらの結果は出せるだろう。それでも、もし足らなければ再び三人で狩りにくれば良いだけだ。





 ホームに戻った僕達は工房で魔鉱石の加工を試してみた。


 僕とフレイは、魔鉱石を魔石と言う宝石と鉱石の塊の中間の様なアイテムに加工出来たが、ケイトではスキルレベル(技量)が足りずに加工する事が出来なかったので、今はレベル上げも兼ねて他の鉱石の加工を任せている。


 フレイと僕は加工出来たと言っても、同じ魔高炉で同じ作業道具を使って試したにも関わらず、僕とフレイの加工した魔石には確かな差が出ている。


 『ウチのは十二個全てが緋魔石(こうませき)やったわ』


 フレイは大小様々なサイズの魔鉱石を魔石に加工していたが、その全てが緋魔石だったらしい。


 『僕は、緋魔石と蒼魔石(そうませき)が四個ずつと翠魔石(すいませき)が二個だな』

 逆に、僕の方は比較的小さい物を加工していたけど、様々な魔石に変化していた。


 『…これ、なんか違いがあるんやろか?』


 魔石は緋魔石が一番レア度と言うか質が低い、次が蒼魔石で、その次が翠魔石だ。フレイの方が高レベルにも関わらず、加工すれば質の悪い魔石になる。これは運…もしくはランダムなのだろうか?それとも何か他に原因が有るのか?


 でも、もし魔石の加工に必要な要素が運だとするなら、僕が良いと言うのは考えにくい。


 ただ、加工する事は出来た魔石だが、今のところ《鍛冶》にも《細工》にも使えそうにない。多分、この魔石を使うには上位スキルか複合スキルが必要なるのだろう。


 ちなみに、僕の複合スキル《銃製作》と《機械製作》でも使えない…と言う事は当分出番は無いとも言える。


 今日の収穫としては、使い道の無いアイテムが、また倉庫に増えてしまった。この一言に集約出来るだろう。


 勿論、スキルレベル上げとしては美味しかったし、新しいレベル上げを兼ねた採掘方法も見付けたので、プラスかマイナスかで言えば圧倒的にプラスなのだけど、倉庫にレアな素材や使えないアイテムが増えつつあるのが問題だ。これらの利用法を考えなければならない。


 まぁ、最悪は今度開かれるオークションに出してみても良いんだけどな。欲しがるプレイヤーを見れば、まだ不明な用途に対しての推測が出来るかも知れないのだから…

装備

武器

【雲水】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に水属性が追加〉

【霧氷】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に氷属性が追加〉

【雷鳴】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に雷属性が追加〉

【銃弾3】攻撃力+15〈特殊効果:なし〉

【魔銃】攻撃力40〈特殊効果:なし〉

防具

【ノワールブレスト】防御力25〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:重量軽減・小〉

【ノワールバングル2】防御力15〈特殊効果:回避上昇・小/耐水〉〈製作ボーナス:命中+10%〉

【ノワールブーツ】防御力15〈特殊効果:速度上昇・中〉〈製作ボーナス:跳躍力+20%〉

【ノワールクロース】防御力20/魔法防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:耐火/重量軽減・小〉

【ノワールローブ2】防御力15/魔法防御力20〈特殊効果:回避上昇・中〉〈製作ボーナス:速度上昇・中〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



《双銃士》Lv29

《魔銃》Lv27《双銃》Lv25《拳》Lv32《速度強化》Lv62《回避強化》Lv65《旋風魔法》Lv17《魔力回復補助》Lv62《付与術》Lv26《付与銃》Lv42《見破》Lv48


サブ

《調合職人》Lv4《鍛冶職人》Lv24《革職人》Lv44《木工職人》Lv8《鞄職人》Lv47《細工職人》Lv18《錬金職人》Lv19《銃製作》Lv30《裁縫》Lv18《機械製作》Lv1《料理》Lv28《家事》Lv54


SP 22


称号

〈もたざる者〉〈トラウマの殿堂〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉

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