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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第二部
13/65

★by buy

 今日は、蒼真と一緒に晶のバスケの試合を応援に来ていた。会場が近かった事も有るけど、普段お世話になっているお礼代わりだったりもする。まぁ、この強さなら僕達の応援なんて端から必要無かったかも知れないけどな。


 僕達二人が見ていた試合は、インターハイ東京都予選の三回戦。


 「ウチの学校の女バスって強かったんだな。第三クォーター途中でトリプルスコアだぞ」


 「晶から話は聞いていたけど、こんなに強いと思ってなかったな」

 試合の結果は、102ー32と圧倒的な大差がついて試合が終わっている。晶達の叩き出した得点は、男子並のスコアらしく応援していた僕達だけでなく会場全体が大いに盛り上がっていた。まぁ、あくまでも相手チームの関係者を除くのだが…


 「じゃあ、晶に一声かけてから帰ろうぜ」

 蒼真に促されて、晶が出てくるのを体育館の外で待つ。


 「お疲れ、晶。目茶苦茶強かったんだな。」

 プレーしている時の晶の顔は、とても素敵だと思う。誰よりも楽しんでプレーしていたように見えたのだから。まぁ、それを言葉にして直接言う勇気は今の僕には無いのだけど。


 そんな言葉が言えるのはイケメン補整の有る者か、世界を救う勇者だけだろう。どちらも僕とは縁も所縁もない者達だな。



 「駿くん達、来てくれてたんだ。ありがとね。なんとか、今日も勝てたよ。でも、大変なのはここからだからね」

 なんとか勝てたと言うレベルではないと思うが、基本的には勝てば勝つほど相手が強くなるので、これからが大変になってくのも分かる話だ。


 晶達は、これからまた学校に戻って練習をするそうだ。会場となった体育館の外で、僕達を見付けて少しの時間だが寄って来てくれたらしい。あまり、背後に控えるニコニコ笑顔の仲間達を待たせるのも悪いからな。何か十代特有のオーラみたいなのを出してそうだし…


 「部活頑張れよ。またメールするな」


 「うん、またあとでね」

 僕達は、会場を去っていく晶達を見送った。


 「それにしても、凄かったな。俺は、あんなにスリーポイントがバンバン決まってる試合を見た事が無いぞ」

 少し興奮気味の蒼真が語りだす。ゲーム以外で興奮するのは珍しいな…いや、よくよく考えればバスケの試合も試合(ゲーム)の一種だったな。だから、見に行こうと誘って来たのか…この辺りは、相変わらずだな。


 「うん。凄かったな。スリーポイントもだけど、晶のレイアップも良かったな」

 僕は派手なシュートよりも、昔の漫画で読んだゴールに置いてくるシュートが好きだったりする。


 「さて、さっさと帰ってトリプルオーでもするか」


 「そうだな。僕も生産しなくちゃいけないからな」


 「おっ、また鞄の依頼か?」


 「いや、普通に《木工》だ。この前採取した素材なんだけど、スキルレベルが低くて素材の使い道が分からないからな。当面はスキルのレベル上げだ」

 僕は、この前遭遇した合体クィーンとその時手に入った御神木の話をした。


 「俺が教えたクィーンの事は知ってたが、その変則ボスは知らない…駿、詳しく話せ」


 「今、話した事以外分からない。最後の一撃だけは、多分だけど回避不能だから、もし狩りに行くなら気を付けろよ」

 蒼真は、このあとすぐに狩りに行く気だと伝わってくる。


 よく考えて欲しいのだけど…クィーンは空中にいるのだぞ。対空攻撃のバリエーションが少ないと苦しいと思うだよな…まぁ、無理せずに頑張れ。それに、合体クィーンを相手に蒼真がどう戦うのか?ちょっと結果が楽しみだと言うのも事実だ。





 ログイン後は、予定通り《木工》を鍛えていた。素材は事前に充分な量を採取してきていて、売り物用の露店品よりは少しマシな程度の弓を作って絶賛レベル上げ中だ。


 製作しても使わない物なら、売らなければ倉庫を圧迫するだけの邪魔物になる…と言うのも【noir】への直接依頼は、リツとガイア以降は全く来ていない。


 【noir】に対して一番需要が有りそうな鞄関係の依頼は、それなりの性能の物を店舗で直接買えるので、依頼をして待つまでもないと言うのが現状だ。もっとも、【noir(僕達)】が鞄以外も作れる事を知っているプレイヤーが少ない事が依頼の少ない一番の理由なんだろうけどな。


 『シュンさん、こんにちは』


 『おう、あれ?今日はカゲロウ達は一緒じゃないのか?』


 『さっきまでは、三人で狩りに行ってました。今、カゲロウとケイトは、足りない素材を集めに行く…と言う名前のデートです。私は、今から《木工》です』


 『それなら、一緒にやるか?僕も《木工》の予定でログインしてきたから』

 いつの間にそんな関係になったんだ?ギルド内で恋愛禁止にはしてないけど。全く知らなかったし、気付かなかったよな。


 『良いんですか?よろしくお願いします』

 凄く嬉しそうな笑顔でこちらを見詰めるヒナタ。


 そんなに喜んでくれるなら、誘って正解だったかもな。


 『そう言えば、ヒナタ達はどんな武器を使ってるんだ?』

 まだ一緒にパーティーを組んいだ事がないので、僕はヒナタ達がメインで使う武器の事を知らない。ギルド加入クエストで自分用の杖を提出していたヒナタだけは杖を使うので確定だと思うけど…まぁ、ジョブは聞いているのである程度想像する事は出来るけどな


 『私とケイトのメインは杖ですね。カゲロウは盾と剣を使います』

 僕達と違って、典型的な前衛と後衛のパーティーらしい。三人しかいなくてもバランスは良さそうだな。まぁ、自己紹介を聞いた時からジョブのバランスは良いと思っていたんだけど。


 ヒナタは、自分の杖を見せてくれた。性能としては高くないけど丁寧に作っているのが伝わってくる。それに、以前クエストで提出してくれた物よりは性能が上がっているし。


 『それ、良い杖だな。丁寧に作ってるのが分かるよ』


 『そんな、私の杖なんてまだまだですよ。この前、凄く綺麗で素敵な杖を持つ女性を見たんですよ。私の持つ杖の概念を越えたと言いますか…持っていた人も、その杖に負けないくらい綺麗だったんですけどね』


 『そんな凄い杖が有るのか?』

 もし本当に有るのなら、職人の端くれとしては是非とも見てみたいな。決して、キレイナ人が見たいと言う下心はない。決して…


 『それが有るんですよ。あっ、スクショ見ますか?』

 ヒナタが、その時たまたま撮ったらしいスクリーンショットを見せてくれた。


 うん…それって、結果的には盗撮ですよね。あとで、盗撮は現実的は勿論、トリプルオーの中でもダメだと念を押しておこうか。


 『………』

 ヒナタが自信満々に僕に見せてくれたスクリーンショットには、僕としては非常に見慣れた光景が写っていた。


 そのスクリーンショットの中心には【アイス&ファイア】を構えてポーズを決めるジュネが仲間達と写っていた。


 う~ん…これは、どうしたものか。リアクションに困るよな。ヒナタに誉められているのは嬉しい事だけど、何故か複雑な気分になるよな。


 『どうしました?あれっ?そんなに綺麗じゃなかったですか?』

 ヒナタが不思議そうな顔をして僕を見ている。


 『いや、そうじゃなくてな。何て言うか…リアクションに困っただけなんだよ。え~っと、その真ん中に写っているのは僕の双子の姉でジュネって言って、ジュネが持ってる杖を作ったのは僕なんだ』


 『えっ…!?』


 『あの杖は、ちょっと特殊な製作方法で、《鍛冶》と《錬金》と《細工》と《木工》スキルの良いところだけを組み合わせて作って有るからな』

 実際、僕の自信作の一つなのだ。手間も暇も見た目以上に掛かっている。


 『やっぱりそうなんですね。あれは《木工》だけでは作れないんですね。私もうすうすは気付いていました。《木工》スキルで作ったにしては、木の部分がかなり少ないとは思ってたんですよ…そうですか、《鍜冶》と《錬金》と《細工》と《木工》の組み合わせですか…』

 あぁ、やっぱり凄く残念そうにしているな。それなら…


 『ヒナタは、どんな杖が良いんだ?ヒナタが《木工》スキルで製作した杖をベースにして、僕があとから《錬金》と《細工》で加工を追加しても良いんだから、そんなに落ち込むな』

 急に目を輝かせているヒナタ。この表情を見た今、冗談だったとは口が割けても言えない。勿論、言う気も無いけどな。


 まぁ、一から…今回場合は【アイス&ファイア】の時みたいにデザインから考えなくても済むので、大した時間も掛からないだろう。


 『本当に良いんですか?だったら、私が《雷魔法》をメインで使うので雷属性の杖が良いです』

 ヒナタのメインは雷属性か、宝石(トパーズ)も倉庫に残っているから問題は無いかな。


 『了解だ。それと質問なんだけど、《回復士》のケイトは《水魔法》をメインに使っているのかな?』

 同じ製作するのなら、一本も二本も大して変わらない。


 もともとの目的が宛の無いレベル上げなのだ。何かしらの目的が出来た方がやりがいも有るだろう。 それに、最近は弓ばかり作っていたので、たまに他の物()を作る事で良い気分転換にもなりそうだ。


 『はい。あと《風魔法》も使ってますよ』


 ケイトのジョブは《回復士》と言っていたので、《水魔法》を使うと思っていたけど、《風魔法》も使うとは思ってもみなかったな。でも、水のイメージカラーの青と風のイメージカラーの緑なら、【アイス&ファイア】に勝るとも劣らない綺麗な杖が作れるかも知れない。


 …と言うか、今扱える素材面から考えると勝る可能性が高いよな。こうなってくると、ヒナタには悪いと思うけど…一からデザインも出来るケイトの杖の方が製作意欲が湧く。


 『了解だ。ヒナタはベースの杖を、どんなに時間が掛かっても自分自身で納得のいく物を作れよ。そのあとの事(仕上げ)は僕にお任せあれだな』


 『はい。頑張ります』


 僕は、木材の下処理や加工をしながらヒナタの作業を見守っている。ケイトの杖は、ヒナタの杖を加工したあとにでも作ろうかな。今は僕の手元には無いけど、使いたい素材も有るのだから。





 弓とは違い、調整や加工で手を加えれる箇所が少ない杖は、そのほとんどが素材依存の能力になる。単純に言えば、削りだした杖の上部(頭の部分)に欲しい属性に付随する宝石を付ければ完成だ。極端に言えば宝石無しでも杖としては機能するからな。


 今、僕が練習用に製作している杖はデザイン的にはありふれた物だけど、性能面では属性と製作ボーナスが付いているので、NPCの露店で売っている初級品よりは品質が高く中級品よりは少しだけ劣ると言った微妙な物だ。だけど、僕達がサポートのターゲットにしている初心者相手には十分売れる物にはなるだろう。価格帯としても露店の初級品に毛が生えた程度の金額なのだから。


 それが判れば、どんどんと製作を進めていく。第一の目的は《木工》のレベル上げなので、数をこなさなければならない。それに、スキルレベルが上がれば上がるほど、そのあとで製作するヒナタやケイト用の杖の品質も上がるのだから、頑張らない理由にはならない。まぁ、それでも丁寧な作業を心掛ける事は忘れていないけど。


 ログアウトまでに十二本の杖を作り、その中でも出来の良かった物を数点店舗に並べていく。前に作った弓の方も、何個かは売れているようだ。自分で作った物が売れているのは、正直に言って嬉しい。また次を頑張ろうと言う気にさせて貰えるのだから。





 本日は昼からのログインだ。さっきまでは、川で水晶をメインに採掘していた僕は、すでに杖を十数本製作しても充分な量を採掘し、場所を鉱山ダンジョンに移している。鉱山での目当てはトパーズとエメラルド。まだ、この場所しか採掘出来る場所を知らない僕には選択肢が他に無いのだから。


 『思っていたよりも採掘出来たな』

 短い時間にしては多くの宝石が手に入った。これなら二人分の杖の素材としては充分だろう。あとは、杖の補強用に銀鉱石も多少は欲しいところなんだけど…


 僕は、ログインした時にホームの工房で作業していたフレイに盾の製作を頼んでいる。理由を話したら、素材を持ち込めば依頼料は要らないそうだ。


 僕が、依頼したのは全属性魔法防御に特化した盾。地属性の宝石だけはが現時点では見付かってないので、すぐに完全に完成させるのは無理だけど、ベースの盾と地属性以外の五属性部分の製作は進める事が出来る。そして、地属性の宝石を嵌め込む部分をあらかじめ空けておけば、後日地属性の宝石を手に入れた時に完成させる事も出来るからな。


 すでにお分かりだろうが、これはカゲロウ用の盾だ。ヒナタとケイトの二人に武器を作って、カゲロウの分は作らないと言うのはギルドとして…いや、人として有り得ないだろう。


 これも、他の二人と同様に僕自身で作っても良かったのだけど、僕よりも盾の製作に慣れているフレイに任せる方が遥かに良い物が出来るはずだからな。


 ちなみに、銀鉱石は鉱山ダンジョンの魔物からドロップ素材として回収する方が、鉱山内で地道にコツコツと採掘するよりも効率が良い事が最近判明していた。


 それなので、知らないプレイヤーから見れば、ダンジョン内の魔物相手にソロで…しかも《銃士》が何をしたいんだ?と言う疑問が湧くらしいのだけど、それは無理も無い話だろう。ソロでダンジョン攻略とか、現実にそれを行っている僕自身が僕自身の頭を疑う行為なのだから…


 最近はソロ主体での行動が多いので、ソロでのダンジョン探索にも慣れて来ている。時間が無駄に掛かり過ぎるのがネックだけど、岩石系の魔物も一対一なら問題が無く戦える。まぁ、正直な話、このダンジョンにいる岩石系の魔物は感知系を持っていないので〈ウインドミスト〉が無条件で効くからだったりもするのだけど…





 二十個程の銀鉱石を採取や回収出来たので、ホームに戻ってきた。一方、僕が依頼したフレイの方は、僕が出て行った時と変わらず大絶賛作業中だった。一体何を作ってるんだ?


 『フレイ、お土産だ』

 僕はフレイに今採取してきたばかりの素材詰め合わせを渡した。


 『お疲れさんや。それにしても、かなり採れたみたいやな』


 『僕も、色々作りたい物が出来たからな。じゃあ、盾の方は予定通りお願いします』

 そう言う僕もフレイの横で《鍛冶》を始める。


 杖のベース部分の製作だ。ヒナタが担当しているヒナタ用の杖の杖の木製素材(ベース部分)の製作が思ったよりも時間掛かって(難航して)いるので、僕は先にケイトの杖に手をつける事にしていた。なぜなら、ヒナタの杖は形状(デザイン)はおろか、まだ製作方針すら決まっていない状態らしい。まぁ、良い物を作ろうとしたら時間が架かるのも当然の事かも知れないけど。個人的にはちょっと時間が掛かり過ぎだと思うけどな。


 僕がいる考えたケイト用に製作する杖のデザイン案は、杖の頭部分側の半分が二つに別れていて、その二つが木の(つた)のように捻り絡まっていて反対側は槍先の様な形状をしている両手持ちの長い杖だ。それのベースとなる部分を銀塊と鉄塊の合金で製作する。


 『ベースとしては、こんなとこかな』

 当然、二種類の宝石を嵌め込む部分は空けてベースを完成させる。


 デザイン案は、ジュネの杖を作った時に最終候補の一つとして試作した物をベースに利用している。あの時は、この形と【アイス&ファイア】の形の二パターンで最後まで悩んだのだけど、ジュネのイメージ的に【アイス&ファイア】の形が採用された。


 次は《錬金》と《細工》を組み合わせて、水晶を加工して風と水の調和をデザインして加える。そこに、エメラルド(風属性)アクアマリン(水属性)を司る二種類の宝石を《細工》スキルで形を調えて嵌め込む。宝石自体に加工する時に出た破片は回収しており、各々の宝石を強調するように散りばめて配置する


 『うん!』

 なかなか素敵な物が出来たな。《細工》スキルを使用している内に、デザイン案とは少し異なってきたけど、こっちの方が格好良いよな。


 『さて…名前は、どうしようか?』



風華水流(ふうかすいりゅう)】攻撃力35/防御力25〈特殊効果:水属性+10%/風属性+10%〉〈製作ボーナス:魔法回復力+20%/重量軽減〉



 イメージとしては…風の花が咲き、水が流れ続ける。


 僕にしては、なかなかセンスのあるネーミングだと思う。それに、付ける事の出来た製作ボーナスにも満足している。


 今回、ケイトの杖を両手持ち用にしたのは、戦闘中に防御にも使う事を想定している。今のケイト達は前衛(カゲロウ)後衛(ヒナタ)回復(ケイト)とバランスが取れた三人パーティーで冒険しているけど、少数の魔物を相手している時はともかく多くの魔物を相手にした場合、ある程度は自分の身を自分で守れた方が良いと思っているからだ。これは僕自身が最近多くの魔物(ビー)に囲まれた経験から出た案だ。まぁ、ケイトが気に入ってくれるかは別の話なんだけど…


 『シュンさん、ベースの杖が出来ました。見て下さい。名前は仮ですが…』



【ベリーウッドの杖】攻撃力20/魔法攻撃力25〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:魔法攻撃力+10%〉



 『綺麗に出来てるな。じゃあ、少し預かるぞ。それと、これ《木工》で僕が少し手を入れても大丈夫か?』

 完成度の高い杖だとは思う。僕が練習用に《木工》スキルだけを使って製作したら物よりも遥かに。だけど、《錬金》と《細工》で加工を加えるなら、少しだけ手を加えたい箇所も有るのも事実だ。


 『はい。大丈夫です。お願いします』


 『おう。任された』

 許可の取れた僕は、早速ヒナタの杖に手を加えていく。


 『あれ?ここに有る杖は、シュンさんが作ったんですか?』


 『あぁ、それか。ケイト用にな、さっき出来たところだ』


 『これ、ケイトの杖なんですね。とっても綺麗ですね』

 ヒナタは作業台に置かれていた杖を手に取ってじっくりと見ている。


 多分、《木工》スキルだけでは作る事の出来ない杖だから気になるのだろう。


 『ありがとう。ケイトも気に入ってくれたら良いんだけどな』

 僕は、ヒナタから預かった杖をヒナタの装備の雰囲気やヒナタの持つスキルに合うように水晶を加工していく。


 雷の造形そのものはイメージしやすいし、誰が見ても分かりやすて簡単なのだけど、それだけに杖に綺麗なデザインを施すとなると一気に難易度が跳ね上がる気がする。


 さて、どうしようか?一度失敗すると、自分自身では取り返しのつかない物は怖いよな。ある程度のプランは用意しているけど、その場限りのインスピレーションも大事になりそうだ。


 ヒナタが製作してきた杖は、木材の自然な曲がりそのものを活かした杖だ。勿論、持ち易さや太さ等は丁寧に加工されている。さらに、杖の上部と下部は僕の後加工の事を考えて、加工しやすいように未加工のままになっている。


 まずは、水晶を簡略化(デフォルメ)したガクガク曲がった一本の雷の形に加工する。その加工した水晶を四対一の割合で上下に割って、杖下側の先端部分に小さく割った水晶を付けて、その反対側には大きく割った方の水晶を付ける。そして、大きく割った水晶の方の周りにトパーズを小さい雷の形に加工して数個付けると…


 『うん』

 あらかじめ想像していた通り、雷の水晶からの放電しているように見えるな。


 あとは、持ち手の部分や水晶を取り付けた部分数ヶ所に、ケイトの杖を製作した時に余った合金を補強材として加えておくか。当然、その合金には補強しているとは分からないように《錬金》と《細工》で細かい模様を刻み込んだデザインも施している。


 『あっ!そうだ』

 良いことを思い付いた。余った合金で放電したように見せているトパーズを強調するように片側だけを保護させよう。これによって色合いと輝き具合が増しそうだな。やっぱりインスピレーションは大事だな。


 ヒナタは、僕の隣で杖を加工する一連の工程を完成するまで一言も発せずに見ていた。それが、僕にとっては無言のプレッシャーになっていたのは絶対に秘密だな。


 『これで、一応は完成なんだが…どうだ?気に入ったなら、持ってみてくれ。最後に、仕上げとして全体のバランスを見るから』


 『ありがとうございます。とっても素敵です。どうですか?似合ってますか?』


 『うん。製作した僕が言うのもなんだけど、似合ってて格好良いと思うぞ。それと、バランスにも問題は無さそうだな。それでだ。ヒナタはこの杖の名前はどうする?』


 『そうですね…これはケイトの杖と同じようにシュンさんが名付けてくれませんか?』


 『僕がか?う~ん、雷属性の杖か…【鳴神(なりかみ)】とかはどうだ?』



【鳴神】攻撃力40〈特殊効果:雷属性+15%〉〈製作ボーナス:魔法攻撃力+15%〉



 『はい。とっても良い名前だと思います。綺麗に作って頂いたので大切にしますね』

 僕はネーミングセンスが無いので、内心ドキドキだったけど、持ち主になるヒナタ本人が気に入ってくれたみたいで良かったかな。


 『洞窟ダンジョンを越えて、皆で【ポルト】に行く時は頼りにするから、この杖で頑張ってくれよ。あと、この杖はケイトに渡しておいてくれないか。僕が次に会った時に直接でも良いんだけど、杖に慣れる為にも早い方が良いだろ』

 ヒナタに二本の杖を渡して、また弓の製作に戻る。


 店舗の在庫が減っているので、結構な数が売れているみたいだな。新しく出来た鞄以外の客を逃がさない為にも頑張らないとな。


 杖や弓を複数作った事により《木工》スキルのレベルもカンストして《木工職人》スキルへと進化させる事が出来た…と言うか、今《木工》を進化させた時に気付いたのだけど、《付与魔法》もカンストしてるよな。


 進化先に《付与陣》と《付与術》の二つのスキルが現れている。最近は生産が第一になっていたので、僕にとって生命線でもある大事な事に全く気付いて無かったな。


 ・《付与陣》は《付与魔法》の範囲指定で使用可能。


 ・《付与術》は二つ以上の《付与魔法》を合成可能。



 『う~ん、どっちも魅力的だよな』

 《付与陣》の範囲指定は、今度予定しているパーティー戦での使い勝手が良さそうだし、《付与術》の合成は魔法効果の向上が見込めそうで、ソロでの活動が多い僕向きだよな。


 これは、かなり悩む選択だな。


 パーティー主体のプレイヤーなら間違いなく《付与陣》一択なんだろうけど…僕自身がソロプレイが主体で、なおかつ選ぶ人が少ないだろうと言う理由で《付与術》スキルを選択した。前衛を完全に強化したあとで中衛や後衛の仲間を強化する方法を思い付いたのも大きな理由の一つだ。まぁ、MPの消費量は格段に上がるのだろうけど…


 どっちにしても近いうちに《付与術》の効果を確かめる為にも、それなりに練習しておいた方が良いだろう。遅くとも、洞窟ダンジョン攻略までには…


 それに、《付与魔法》の合成と言うのは実際に使ってみないと魔法の合成方法が分からないし、合成させる事の出来る魔法の種類も分からない。僕は色々なパターンのパワーアップを想像して、期待が膨らんでいった。こう言う時は、楽しくてテンションが上がるな。


 『まぁ、《付与術》の事は一端置いておいて…だ』

 問題は、《木工職人》に進化した事で、僕達の力量では完全に持て余している御神木の加工が出来るかだな。


 『…う~ん、無理か』

 《木工職人》スキルに進化させても、まだ御神木を加工する事は無理なのか…これでもどうしたら加工出来るの?


 多分、僕の取得していない他の複合スキルか上位スキルがいるんだろうな。しばらくこれは倉庫の在庫だな。どんどん使用出来ないレアアイテムや高級素材が増えなる。


 売る以外の方法で(どうにかして)消費する良い方法を考えなければならないな。供給に対して需要を満たせるくらいには。





 『シュン。今、忙しそうやけどかまへん?相談が有るんやけど』


 『今は大丈夫かな』

 今の作業を特に急いでいる訳ではない。《銃製作》を取得した事で【銃弾3】が製作可能になっていた為、ストックを増やしていただけだ。そのストックにしても、しばらく適当に使用しても充分残るくらいには製作しおわっているのだから。


 『【noir】でドロップ素材や自然素材の買取りを始めへんか?ウチらも狩り出たりして集めるんやけどな。最近は、人数も増えたし、大量に使いたい時には在庫が切れてるんやわ。また狩りや採集に行けばええだけやねんけど…この際やから、新しくNPCでも雇って、買取り屋も兼業したらどないかな?って思てんよ』


 『………』

 もしかして、フレイは素材集めで楽をしたいが為に言い出したのでは?と内心僕が考え始めた時、フレイが慌てて続きを話始めた。もしからしたら、気付かない内に視線や表情に出ていたのかも知れないな。


 『も、勿論、ウチも狩りにも採掘にも行くで。それに、作った物も売って資金も自分達で作るんや。決して、ギルドの金を目当てにしてる訳やないから、そこは注意やで。で…一番の理由(言い訳)としては、露店の素材買取りって、ウチら生産系のプレイヤーが思うとる価値よりも明らかに低いやつも多いやんか、あれはもうちょっと見直したらなアカンと思うや。それにや、NPCの露店よりも買い取り価格を高目に設定するんは、ウチらのギルドの目的の一つでもある陰ながらプレイヤーの支援をするちゅうのにも当てはまると思うんやけど…どないやろ?』

 一息に自分の思っていた事を語り尽くしたフレイ。


 なるほど。それなら、普段集まりにくい素材も集まるかもしれないし、金欠になりがちな初心者プレイヤー達の懐も温まり易いかもな。同時に新規の製作依頼も増えて忙しくなりそうだけど…その辺りはフレイにとっては逆にご褒美になるか?


 それに、フレイの言う通りで、露店の価値観は僕達と全く違う。僕達としては高値でも買いたい素材が安値で露店に売られていくのも問題だよな。安く買えるのは生産系の僕達としては嬉しい事でも有るのだけど、全体を通して考えるとマイナス要素にしかならないからな。どのプレイヤーだって、安く売れる価値の高い素材よりも高く売れる価値の低い素材を収集しにいくのが普通だろう。そうなると安く売れるけど僕達にとって必要な素材は手に入り難くなるのだから。


 まぁ、その辺については、アイテムのレア度合いでNPCが機械的に判断しているので仕方の無い面も有るんだろうけど…


 必要の無い素材を出来るだけ高く売って、武器製作依頼の報酬に充てたいプレイヤーも普通にいるだろうし、支援系ギルドを目指す【noir】としては挑戦してみる価値は有るかもな。


 それと、どうせなら…


 『それは色々なプレイヤーにも喜ばれるかもな。僕個人としても面白いどの思う。それと、どうせなら定期的にオークションもしてみたらどうだ?土地は余ってるから会場も自分達で作れば好きなように出来るし、オークションで買い取り価格の基準や利用価値の高い素材もアピール出来ると思う。それに、僕達が使えない素材や製作した店舗で売るには気が引ける武器の処理にも丁度良いと思うからな。そうすれば安定して買取り資金も作れるだろ?』

 それと、値付けに問題の有るレアアイテムやフレイの製作した高品質武器(問題作達)を本当に必要としているプレイヤーに買って貰える。


 『それもええ案やな。採用、即採用やでシュン。オークションはウチらだけでなく他のプレイヤーも出展側に参加出来るようにしたら、なお面白いで。この規模の拡張なら…多分、神殿でやるんやろ?ウチがNPCの追加を受け持つから、拡張の方は任せてもええか?ついでに、ホームの拡張をヒナタ達にも見せたったらどないや。きっと、驚くわ』


 すでに、フレイも〈大商人〉の称号を得ているので神殿でNPCを個人的に雇えるようになっているから、こう言う時の僕達は非常に便利だと思う。


 『了解だ。NPCに対しての給料の支払いは、ギルドからにしてくれて良いからな。神殿に行くのは少し待ってくれ、三人に確認してみる』


 僕は、新人達三人がログインしてるのを確認してコールする。


 『どうした、ギルマス何か用か?』


 『大した用じゃないけどな。もしかして三人一緒か?』


 『おう、今から狩りに出るとこだ』

 ギリギリセーフだったみたいだな。


 『それなら、少しだけ時間に余裕が有るか?一緒にいるヒナタとケイトにも確認してくれ。今からホームを少し拡張するんだけど見に来ないか?まぁ、拡張すると言っても新しく建てる建物の規模を選ぶだけだからすぐに終わるけど、なかなか見れるものではないからな』


 『行く、行く。絶対に行くぞ。それで、俺達はどこに行けば良いんだ?』

 おいおい、他の二人に確認しなくても大丈夫なのか?反対されなければ良いんだけどな。まぁ、この調子なら他の二人に反対されても押しきるか、一人でも来そうだけどな。


 『多分、神殿で可能だと思うから、十分後に神殿でどうだ?』


 『分かった。じゃあ、神殿で』


 『お待たせ、フレイ。カゲロウ達も大丈夫みたいだ。僕達も神殿に向かおうか』





 フレイと色々なプランや今後の予定を話ながら神殿を目指す。僕達が神殿につく頃には、すでに三人が待っていた。


 『思っていたよりも早かったな。近くにいたのか?』

 これなら、僕達も時間をゲートを使って移動すれば良かったかもな。


 『はい。たまたま、この付近にいましたので、すぐに来れました』


 『マスター、この杖ありがとうございますです。ビューティフルです。大切にしますです』

 早速、装備して使ってくれているみたいで嬉しいな。


 『おう。ヒナタもケイトも使い勝手が悪かったら、どんどん気軽に言ってくれ、いつでも改良するからな。じゃあ、目的地に行くか』

 フレイと別れて、僕を含めた四人は神殿の受付で申請を済まして奥に進む。


 奥へと進みながら、僕はフレイとしていた話を三人に掻い摘んで話した。僕は、何回も来ているけど新人達は始めて見る神殿の奥に興味津々で、僕の話しは半分くらいしか聞いていない感じだ。


 ちなみに、カゲロウ用の盾は完成していないので、カゲロウ本人には秘密にしている。ヒナタと多分ヒナタに聞いているであろうケイトは、カゲロウ用の盾が製作中だと言う事は知っているけどな。


 僕達はホーム拡張用の部屋に着き、NPCから渡されたカタログから拡張したい設備の規模を選び始めた。このカタログの分類にはオークション会場という項目は存在しないので、舞台と観客席が付いている演劇用?らしい劇場からの選択になる。


 『今回は…この辺りの規模かな?観客席は千人も入れたら充分だろ。この辺りの規模なら好きなのを選んで良いぞ』

 僕は、千人規模を収容する劇場を見せて三人に自由に選ばせる。


 もし、選んだ物件が収容人数に問題が有ったとしても、あとで観客席だけを別に拡張すれば良いだけだからな。三人の見た目で気に入った物を選ぶのが一番だ。


 『…すいませんです。これ、とんでもない金額なのですがです』


 『あの~、失礼ですが、お金の方は大丈夫なんですか?私達三人の手持ちでは全部合わせても、とても手が出ません』

 過ごし方顔色が青くなったように見えるケイトとヒナタは、ギルド…僕の財布の中身を心配しているらしい。


 まぁ、確かに普通は衝動買いで三千万フォルム規模の買い物をするのは無理だろうな。


 僕が『大丈夫だ。気にするな』と言い聞かせても、カゲロウですらお金の事を気にしているようなので、ギルドの預金残高を見せた。


 『『『………』』』

 カタログで確認していた建物の価格よりもゼロが二つ多いギルドの預金残高にドン引きする新人三人組。


 『まぁ、そう言う事だから金額は気にするな。それに言っておくが、このお金は【noir】の為か、困った人の為にしか使わないからな。僕自身の普段の買い物は、ちゃんと自分の所持金からしてるからな』

 まぁ、露店で売っている鞄の影響で個人の資産としても一億フォルム以上は有るんだけど。これは秘密にした方が良いだろうな。


 三人が言葉を失うのも、仕方の無い事なのだろうけど…早く戻ってきて欲しい。黒の職人さんとしての僕を知っていたのなら、資金については想像出来そうな事なものなんだけどな。


 しばらくして、正気に戻った三人は僕の方に向かって一段と長い溜め息を吐き、相談を始めた。三人の好みが微妙に違うようだが、座席の広さや快適性等のお客様目線で劇場を選んだらしい。一括でポンと支払う僕に、また言葉を失っていたようだけど、これに関しては今更だろうと思う。すでに、皆が日常を過ごしている【noir】のホームの方が異常だと言う事を理解して欲しいところだからな。


 購入した劇場は、一階席千人、二階席二百人を収容する事が出来る。侵入可能エリアの個別設定が可能な劇場にした為、予定よりも値段は上がっているけど、結果的には満足だな。


 名前を【オークション会場】と設定しなおした。【劇場タイプC―2】では覚えにくいし、呼び難いのだから。


 『あっ、そうだ!ホームに戻るともう拡張は終っているからな。狩りから戻ったら【オークション会場】にも寄ってみてくれ。建てた場所は裏庭から直接行けるはずだから』

 僕は、狩りに向かう三人と別れてホームに戻った。


 ホームに戻ると、すでに裏庭の奥に一際大きな建物が出来ていた。フレイは、【le noir】の方も拡張してきたのだろう。店舗の中は、一つだったカウンターが二つに増えて、店番をしているNPCが二人になっていた。


 『おっ、シュンの方が早かったんやな』

 背後からフレイに話しかけられた。


 『みたいだな。店舗の方も良い感じだな』


 『そやろ。素材買取専門店…名付けて【by buy(ばいばい)】で登録してんで、売買(ばいばい)と英語の買う(buy)と素材との別れと言う意味のさようなら(バイバイ)の三つをかけてあんねん。なかなか素敵やろ。シュンは、また店舗のヤツみたいに格好良い看板作ったってな。今、ログアウトして情報サイトにも書き込みもしてきたんよ』

 目的が決まっていたフレイが、僕よりも帰って来るのが遅かった理由は、一度ログアウトして【by buy】の売り込みをしてきたかららしい。


 …と言うか、流石は商売人の街出身だけあって、シャレが充分過ぎるほど利いた店舗名だな。それに、いくら関西人だと言っても商売の仕方が妙に上手い気もする。


 『それはお疲れ様でした。オークション会場も三人に選んで貰ったから、良い感じになってるぞ。こっちの名前は、まんま【オークション会場】だけとな。あとは、オークションに必要な道具の作成かな…』


 『それやと、オークション開催はしばらく先やな。夏休みの終わり開催を目指してはどないや?』

 それくらいが無難だろう。それまでに細かいルールを決めた方が良いだろうしな。


 『夜、その辺もアキラに電話して報告と相談してみるわ』

 アキラもギルマスなので、事後報告になるが知らせておかなければならない。


 まぁ、それは建前で本音はアキラを含めたギルドメンバー全員で一緒に楽しみたいだけどな。ただし、次にログインした時にホームの外見が大幅に変わっているのを見て、アキラが驚く姿も僕は見たいので【オークション会場】の規模は秘密にしておくけど。


 フレイと一緒にオークション会場の中へと足を運んだ。中はカタログで見た以上に素晴らしかった。まるで、高貴な感じがする西洋の城のような代物だった。


 【オークション会場】の元々が劇場なので、部屋毎に入室制限可能な控室が複数ある事は幸いだと思う。別に出展者用の待機場所を用意しなくて済むからな。これなら、【noir】以外からも出展者を募っても問題は無さそうだな。


 問題は、司会をする場所等を作らなければならないだろう。オークションの雰囲気を出す為にも落札した時に叩くハンマー等も有った方が良いだろうな。


 『うん?』

 もしかして、オークションって想像以上に備品がいるのかも…出展の件もあるので、他の生産系のギルドやプレイヤーにも早目に声を掛けておいた方が良いかな。まぁ、この辺はネイルさんの人脈を頼らせて貰おうか。


 『シュン、【by buy】の事やけど、素材の買取り価格を先に決めとかへんか?もめ事が起きへんようにもしとかなあかんやろ』

 二人でレア度や在庫、入手の困難度合い等を参考に基本価格を決めて行く。決めると同時に店舗のカウンターの横にはリストが表示されていく。フレイも僕も欲しい素材だった宝石のサンゴは高価格に設定させて貰った。私的利用も少しは有りだと思う。


 すでにサンゴを手に入れたプレイヤーがいるのなら、素材買取専門店【by buy】一同はご来店をお待ちしておりますよ。


 サンゴが有れば、カゲロウ用の盾の完成と短銃【皇土】が作れる。まぁ、他力本願になってしまうけど仕方が無い。アキラのインターハイが終わるまでは【ポルト】に行かない事を決めている僕達。ヒナタとケイトに渡しておいて、カゲロウだけを待たせ過ぎるのは嫌だからな。


 『取り敢えず、価格はこんな感じでええやろ。どの素材もNPCのショップより高い買取り価格にしてあるし、問題は無いはずや』



 基本的に【by buy】では、どの素材も買取り価格はかなり高めに設定している。ただし、素材の在庫が一定量を越えると、買取り価格が自動的にNPCの露店より少し良い程度に落ちる設定も組み込んである。こうしておけば、大量の在庫を抱える事も無くなるはずだからな。勿論、【by buy】の為に倉庫も増築して最大限まで拡張済みらしい。流石はフレイ、抜け目が無い。


 価格を高めに設定していても、買い取った素材で生産した武器やアイテムは【le noir】で売る流れになる。その一連の流れで元は取れる予定だからな。生産系のスキルレベルも上がるし、一石二鳥…いや、今回は三鳥だろうな。


 これで、作りたい物を気兼ねなく作れるようになれるとフレイは喜んでいる。今までは、ギルドメンバー(新人達)に多かれ少なかれ遠慮も有ったのだろう。まぁ、これで素材が足りなくなる事は少なくなるよな。まぁ、定期的に採掘には行って貰うけどな。


 狩りや採取をしなくても素材が集まるようになるが、狩りには当然行く。武器によっては試作品のテスト等が必要になるからな。今は、中位設備を使っているが、これから先は上位設備も必要になってくるからな。それには拡張クエストをクリアしなければならない、その為のレベル上げも必要になる。


 いくら、生産系の職人と言っても作りたい物を自由気ままに作るには冒険が必須と言う事だな。この辺りのシステムは本当に上手く出来ていると思う。まぁ、ゲームをしない僕がハマるくらいだからな。


 ついでに、ショップ【noir】でも一週間に一個の限定で製作依頼も受ける事にした。作って欲しい物の素材を持ち込む事が最低条件になるけど。この条件にはギルメンバー用の装備みたいに無制限な物を作らない為の保険にもなっている。それに、同時に多くの依頼を請けても製作が追いつかないと思うからな。これにはフレイも同意見だった。





 その日の夜は、晶に電話してトリプルオーで有った事等を報告した。最近は、いつも電話している気がするな。まぁ、僕がかけるよりも、晶からかかってくる方が多いのだけど。


 「そんな事になってるんだ。オークションとかも面白そうだね。私も早くログインしたいよ」


 「オークションは八月最後の日曜日を予定してるから大丈夫だな。まぁ、晶がいないのは僕も少し寂しいけど。あっ、そう言えば、今日の試合はどうだったんだ?」


 「えっ!?あっ、う、うん。今日も勝ったよ。ベスト8、あと三回勝ったら全国だよ」

 何故か分からないが、晶は動揺していた。一瞬負けたのかと思って内心焦ったぞ。この調子だと、晶が負けたと聞いた時に僕は上手くフォロー出来るのだろうか?


 「本当に凄いよな。この前も格好良かったよ」

 まぁ、今考えるのは「たられば」だからな。


 「あ、ありがとう。あの~、その~、駿くんは私がいないと寂しいの?」

 まだ晶は動揺しているのか?普段は絶対に聞かないであろう事を聞いてきた。


 「あぁ、何となくだけど…寂しいかな。相方がいない芸人さんみたいな?感じか…な。まぁ、もう少しだ。明日も頑張れよ」

 いつも一緒にいたからな。その相棒がいないと寂しいものが有るんだよな。


 「うん。私は頑張()ます。じゃあ、おやすみ」

 なんか元気になったようだ、明日の試合も活躍が期待出来るだろう。今晩は、明日に備えてゆっくり休んで欲しいところだな。





 翌日は、ログイン直後に【プレパレート】のホームにお邪魔していた。


 『…と言う事なんですよ。ネイルさんも参加して貰えませんか?』

 僕はオークションを開きたい事等を話していく。


 『シュン君は相変わらず面白いね。良いよ、僕達のギルド【プレパレート】は全面的に協力させて貰うよ。僕等も新しく作った回復アイテムを広めたいからね。他にも懇意にしてる生産系のギルドにも声を掛けさせて貰うよ。ちなみに日程は?』


 『ありがとうございます。一応、八月最後の日曜日の午後からを予定してますね』


 『それだと、あと一ヶ月くらいだね。うんうん。妥当なとこだろうね。事前に出展者側の説明会もした方が良いかもね』

 なるほど。ルールは細かく決めて、周りにも浸透させた方が後々の事を考えると良いだろうな。


 『ですね。来週の日曜日の午後からオークション会場でどうでしょう?僕等も準備しておきますよ』

それくらいなら、アキラの大会も終わっているはずだからな。


 『分かった。それで進めてみよう。プレイヤー側から起こす初めての大イベントだから、絶対に次に繋がる物にしよう』

 すいません。すでに一つプレイヤー発のイベントを起こしてます。


 その事を言葉に出せない僕は、ネイルさんにお礼を言って【プレパレート】のホームを出た。


 ギルドメンバーには、メールで他の生産系ギルドにも協力をお願いした事や今後の予定を伝えた。各自で生産活動も頑張ってオークションに出せるアイテムも最低一つは用意する事も伝えた。





 僕も《木工》を使って会場の備品類の準備をしていく。当然、出展用のアイテムも用意しなくてならない。僕は銃と鞄を製作する予定だ。今までは短銃系しか作ってないけど、《銃製作》では機関銃(マシンガン)狙撃銃(ライフル)等の製作も可能だから、この機会に挑戦(チャレンジ)するのも良いかも知れないな。


 スキルのレベル上げも兼ねて製作して、良いものはオークションに出す予定にしている。鞄の方は、今作れる最高品質の物を用意したいと思う。


 『あれ?』

 ギルドに依頼が届いた。依頼は【ハルバード】槍と斧が一体になった?感じの武器だ。素材は鉄塊と銀塊と宝石か。そうなると…


 『フレイ、すまない。早速依頼が来たようだ。依頼は【ハルバード】。素材も有るけど、どうする?僕が作っても良いけど』

 コールを入れてフレイに確認する。まだ、この製作をケイトに任せるのは早いので僕かフレイの担当になるだろう。


 『それなら、ウチがやるわ。変わった武器は見るのも作るのも面白いからな。ホーム帰ったら依頼確認するから、それは置いといてくれてええよ』


 『了解だ。作る時は是非僕にも見学せてくれ』

 変わった武器なので後学の為にも製作時に見せて貰おう。


 ついでに【by buy】の買い取り状況も確認してみる。まぁ、こっちは、まだ無いだろうけど…


 『えっ、はやっ!』

 素材としては、そんなに珍しいものではないけど、すでに二個の素材が買取されていた。なかなか良い出だしみたいだ。これも、フレイが書き込んだ情報サイト効果なのかも知れないな。

装備

武器

【烈火】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に火属性が追加〉

【霧氷】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に氷属性が追加〉

【雷鳴】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に雷属性が追加〉

【銃弾3】攻撃力+15〈特殊効果:なし〉

【魔銃】攻撃力40〈特殊効果:なし〉

防具

【ノワールブレスト】防御力25〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:重量軽減・小〉

【ノワールバングル2】防御力15〈特殊効果:回避上昇・小/耐水〉〈製作ボーナス:命中+10%〉

【ノワールブーツ】防御力15〈特殊効果:速度上昇・中〉〈製作ボーナス:跳躍力+20%〉

【ノワールクロース】防御力20/魔法防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:耐火/重量軽減・小〉

【ノワールローブ2】防御力15/魔法防御力20〈特殊効果:回避上昇・中〉〈製作ボーナス:速度上昇・中〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



《双銃士》Lv18

《魔銃》Lv17《双銃》Lv15《拳》Lv32《速度強化》Lv55《回避強化》Lv58《旋風魔法》Lv13《魔力回復補助》Lv56《付与術》Lv1《付与銃》Lv34《見破》Lv39


サブ

《調合》Lv19《家事》Lv49《鍛冶職人》Lv14《革職人》Lv44《木工職人》Lv5《料理》Lv23《鞄職人》Lv47《細工職人》Lv13《錬金職人》Lv9《銃製作》Lv16


SP 14


称号

〈もたざる者〉〈トラウマの殿堂〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉

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