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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
4/24

帰宅しまして











───車に揺られる事数時間。




「ただいまぁー!!」




静岡のおばあちゃんの家に、元気に帰宅。




「お帰り。おや??

…玲子が莉子を預かるんじゃなかったのかい??」




一日で帰って来た私を見て、おばあちゃんが、送ってくれた玲子ちゃんに言った。




「事情が変わったのよ。

てなワケで、莉子ちゃんをよろしくね、母さん。」




そう言った玲子ちゃんに、おばあちゃんは溜め息を吐く。




「都合のいい子だねぇ…まったく…。」




「まぁまぁ、おばあちゃん。

私も貴重な体験ができたし、良かったよ。」




おばあちゃんをなだめながら、私は靴を脱いで言った。




「じゃ、莉子ちゃん。

また会う日まで♪」




「はぁ~い!!」




明るく返事をして、再び東京へ戻る玲子ちゃんを見送る。




モヤモヤとした気持ちを振り払うように手を振った。




これでいいんだ。


私は、沖田さんに迷惑をかけるだけの存在だもん。




そう思う事で自分の気持ちに納得させた。





















◇◆数日後◆◇




何をする訳でもない日々が続いていた。


ゴロゴロするのにも飽きて、憂鬱すら感じる。




縁側でお茶を飲みながら、太陽の光に目を細めた。




こうしてマッタリしていると、沖田さんとのドタバタな一日が、遠い過去の事のような気さえしてくる。




頭をいつまでも切り替えられない自分。


振り切れない自分。


ただでさえ憂鬱に感じる日々が、余計に不快感を与えていた。




学校のみんなは、今頃春休みなのかなぁ…




たわいのない事を思っても、その次には、やっぱり沖田さんの事を考えてしまう。




沖田さんには……


春休みも夏休みも冬休みも…


お正月すらないんだろうな……。




ボォーッと庭に咲き誇る花たちを見ていると……




“ドタドタドタドタッ”




言い知れない足音のような物音が聞こえた。




“ドタドタドタドタッ”




…おばあちゃん、帰って来たのかな??




“ドタドタドタドタッ”




いや……


おばあちゃんはこんなに足が早くないよね……




だっ……誰っ??





「莉子ちゃぁーんっ!!!!」




私の不安は、この声の主で掻き消される。




「玲子ちゃん?!?!」




そんなに広い家でもないのに、なぜか息を切らしている玲子ちゃん。




「大変なのよ!!!!

これは大事(オオゴト)よっ!!

前代未聞だわっ!!!!」




私は取り乱している玲子ちゃんの背中に手を当てて、取りあえず座るように促す。




「どうしたの??」




玲子ちゃんに向かって、小首を傾げると、ノートパソコンが差し出された。




「…莉子ちゃんに、見て欲しいものがあるの。」




急に真剣になった玲子ちゃんの顔つきに、固唾を飲んだ私。




「……見て欲しいものって…??」




「…そのパソコンの中の動画を見てちょうだい。」




玲子ちゃんに言われるがまま、パソコンを開いて、カーソルを“動画再生ボタン”に合わせた。




そのまま、右クリックでボタンを押す。




「……っ!!!!」




流れた動画に、私は我が目を疑った。





「ここに映ってるのは、流星と莉子ちゃんよね??」




確認するように玲子ちゃんに言われ、そうである事を、私は頷いて玲子ちゃんに伝える。




「……うん。」




動画には、私と沖田さんがもみ合うシーンが映っている。




『助けてぇーーー!!!!

人サライぃぃいい!!!!』




『おっ…待てって!!!!』




『誰かぁーーー!!!!

ケーサツぅ~~~!!!!』




『黙れっ!!!!』




間違いない…。




顔が露わになった沖田さんが、私を連れ去るシーンまでもが、鮮明に映し出されていた。




「やっぱりね……。」




暗い息を吐いた玲子ちゃんが、ポツリと言った。




「やっぱりって……

…沖田さんから聞いたんじゃ……??」




戸惑いながら言って、パソコンから目を離すと、肩を下げた玲子ちゃんと出くわす。




「……当の流星は、何も言わないのよ。」




何も言わないって……




「……なんで…??」





呆然としながら玲子ちゃんの言葉を待つ。




「多分だけど……」




よっぽどの事なのか、玲子ちゃんは言葉を濁した。




「……多分??」




名付けようのない思いが、私の心拍数を上げる。




「莉子ちゃんを庇ってるかもしれない。」




「へっ??」




思いもしなっかた玲子ちゃんの答えに、拍子抜けした私。




「おそらく、莉子ちゃんを巻き込みたくないと思ってるんじゃないかしら…。」




そんな……


どうして…??




自問自答している間にも、玲子ちゃんの言葉は続く。




「…この動画がネットに流出して、流星のブログは炎上するし……

事務所に電話は殺到するわで……

問題になってるの。」




そんな事になってただなんて……


今の今まで知らなかった……。




「……沖田さんは??

今は…どうしてるの??」




何事もありませんように……




そう祈りながら、玲子ちゃんを真っ直ぐに見て問い掛けた。





「2日後の記者会見まで、自宅謹慎。」




頭を抱えながら言った玲子ちゃん声は、悲愴気味で痛々しい。




「何か不安な事でもあるの??」




何の気なしに言うと、玲子ちゃんは“カッ”と目を見開いた。




「不安大有りよ!!!!」




迫力満点の玲子ちゃん声に、私の肩はビクリと揺れる。




「え……何が不安なの??」




私の問い掛けに、玲子ちゃんはマシンガンのごとく喋り出す。




「…やっとこさ、一年前の恋愛騒動が落ち着いたってのに、また新たな恋人疑惑が挙げられてるのよ??

…莉子ちゃんがマネージャーならまだしも、今は元マネージャーで、一般の女子高生なんだもの!!

説明の付けようがないわ。

あぁ…もうどうしたら…

今は、記者会見が上手くいく事を祈るしかないわ!!

でも、流星の人気が下がってしまったら…

アタシたち社員は食いっぱぐれて……」




…めちゃくちゃパニック起こしてますけど。


この人が社長で大丈夫なのかな、あの会社。





「大丈夫だよ。」




玲子ちゃんをなだめるように言ったものの、私の一言が玲子ちゃんの逆鱗に触れる。




「簡単に言わないで!!!!」




眉を寄せて言った玲子ちゃんを見て、私は芸能界という世界を甘く見ていた事が分かった。




「ごめん……なさい。」




「あ……言い過ぎたわ…

アタシこそ、ごめんね。」




気まずそうに、顔を下に向けた私に気付いた玲子ちゃんが、申し訳なさそうに言った。




「そんなんだから私……

沖田さんにクビにされたんだよね。」




自嘲気味に笑って言うと、玲子ちゃんは“そんな事はない”とでも言うように首を横に振る。




「莉子ちゃんが、マネージャーとして戻ってきてくれたら、何とか言い訳ができるんだけど……

流星は、それを拒否してるの。」




そうだよねぇ。


てか、私……


嫌われる以上に拒否られてるんだ…。




「仕方ないよ。

沖田さんにとって私は、使えないヤツなんだし。」




そう言った後、一口分のお茶を口に含んだ。





「流星は、莉子ちゃんを気に入ってるのよ。」




「…ぅぶっ……!!」




口に含んでいたお茶が、喉に到達する前に勢い良く出てしまった。


それもこれも、玲子ちゃんが変な事を言うからだ。




「わ゛ぁーーー!!!!

アタシのパソコンがっ!!」




私が吹き出したお茶が、玲子ちゃんのパソコンにかかっている。




「ごごごめんなさいっ!!」




動揺しながら謝った私に、玲子ちゃんがニヤリと不適に笑う。




「…パソコンの修理代、どうしようかしら。」




「……え??」




火事で家を失って、一文無しの私は、言わずもがな背筋が強張った。




「…新しいのに買い替えるのもいいけど、どの道お金はかかるわよねぇ。」




遠回しに、何か言いたそうにして、玲子ちゃんは私を見る。




「言いたい事があるなら、ハッキリ言ってもらえませんか!!」




一向に話が進まない雰囲気に苛立った私は、玲子ちゃんに向かって強く言った。





「なら、言わせてもらうわ。

今すぐパソコンの修理代、20万円用意して。」




「ぅえぇっ?!?!」




20万円もあったら……新しいパソコン買えるでしょうに!!




「できる??できない??

どっち??」




えっと……


今年もらったお年玉と…


…お小遣いの中から貯金してるお金と……




宙を見上げながら指折り数えても、到底20万円という金額には辿り着かない。




「ごめんなさい。

できません。

家でゴロゴロしてないで、バイトします。」




「その言葉を待ってましたぁ~~♪♪♪」




玲子ちゃんは嬉しそうに言うと、テーブルから身を乗り出して私の手を握った。




「…玲子ちゃん??」




玲子ちゃんのテンションの高さが嫌な予感を増幅させる。




「さぁさぁ、アルバイトしましょ♪♪♪

莉ぃ~子ちゃん♪」




玲子ちゃんに、強引に手を引かれた私は、一番最初に事務所に連れられた事を思い出す。




もしかして……





「待って!!待って待って待って!!!!」




引かれるのとは反対方向に体重をかけて言った。




「え…??20万円、用意できるの??」




動きを止めた玲子ちゃんは、首を傾げて私を見ている。




「アルバイトって……

もしかして…」




「マネージャー♪」




やっぱりっ!!!!




私が言葉を途切れさせたのと同時に、玲子ちゃんはニコリと笑って言った。




「そんな事言ったって!!

沖田さんは拒否してるんでしょ!!」




玲子ちゃんの手を振り解いて言うと、全く動じない様子で、玲子ちゃんは私に微笑む。




「気にしなぁ~い♪

気にしない♪♪♪」




気にするよっ!!!!


呑気だなぁもぉー!!!!




「ちょっ……ダメだってばっ!!!!」




玲子ちゃんに背中を押され、車の中に押し込まれる。




“バタンッ……”




逃げる暇もなく、玲子ちゃんが運転席に乗り込むと、車は砂ぼこりを上げて走り出した。





…また東京に行くハメになるなんて……


2回も拒否られたら、私…今度こそ立ち直れないよ……




車中、一人落ち込む私を察した玲子ちゃんが、軽い口調で言葉を放つ。




「いくら流星が強情でもね、事務所の命令には従ってもらうつもりよ。」




ハンドルを握る玲子ちゃんの横顔を見る。




「事務所の命令??」




「そう。事務所命令で、莉子ちゃんを流星のマネージャーにするの。」




そんな……


沖田さんの気持ちも聞かないで…


玲子ちゃんの強引さは、鉄をも砕く勢いだ。




「……すごいね…玲子ちゃんは……。」




「…流星は……このまま終わらせない。

トップの上を行ってもらうつもりよ。」




色んな意味で関心していると、いつになく真剣な表情の玲子ちゃんが目に映る。




沖田さんの為に……


必死なんだなぁ……




車に揺られながら、私はそんな事しか考えられなかった…。





















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