家が火事になりまして
“ドォーーーン!!!!”
なななな何事?!?!
突然の爆音で、寝ていた私は一気に目が覚めた。
“バリーーーン!!!!”
何かが割れる、すさまじい破壊音。
「火事だぁ~~~!!!!」
その後に聞こえたのは、慌てふためくお父さんの声。
火事って??
どこが火事なの??
疑問に思うのも束の間。
焦げた臭いが、私の鼻を通り抜けた。
火事って……
もしかして……
私ん家?!?!
“ゴゴゴゴゴ……”
気付いた瞬間、家自体が傾いていくのが分かった。
「やっ……やだっ!!!!
お父さぁ~んっ!!!!
お母さぁ~んっ!!!!」
必死に呼ぶ私の声も虚しく、無駄に響く。
「莉子ぉーーー!!!!」
「どこにいるの?!?!」
お父さんに続き、お母さんも必死に私を呼んでいる。
気付けば私は、数センチしか開かないドアの隙間から、身をよじらせて廊下へと出ていた。
「ここっ!!!!
私はここだよっ!!!!」
よろける足で階段を下りると、玄関にいた両親と鉢合わせる。
「良かった!!」
「早く逃げるわよ!!」
靴も履かず、私たち家族3人は、玄関の外へ。
“ウーーー!!!!”
“カンカンカンカン!!”
駆け付けた消防車から、次々と消防隊が出てくるのを、ただ立ち尽くして見ていた。
ボォーッと家を眺める。
お母さんによって綺麗に手入れされた庭は、ただの荒れ地に。
お父さんが30年ローンで買った、真っ白の外観が特徴の家は、最早ただの炭となってしまった。
「俺の…マイホームが…」
ガックリと、肩を落とすお父さん。
「これからどうしたら…」
そんなお父さんの隣で、同じようにお母さんも肩を落としている。
「………。」
私にいたっては、言葉を失う程のショック。
「危ないから下がって!!」
消防隊のそんな声を聞きながら、私たちは燃え盛る家をただ見つめて一夜を明かした。
◇◆翌日◆◇
「取りあえず、ホテルを借りよう。」
お父さんの提案でホテルへ身を移す事に。
「貯金もあるし、当分は大丈夫だと思うけど…」
お母さんが眉を下げながら言うと、次に力無く声を発したのはお父さん。
「莉子。暫く学校を休みなさい。
静岡のおばあちゃんの所へ行くんだ。」
「えぇっ?!?!」
学校も行けない上に…
静岡のおばあちゃんの所って……
「ごめんね、莉子。
そうするしかないの。」
私を心配したお母さんの申し訳なさそうな顔を見ると、もう何も言えなくなる。
でも……
これだけはハッキリさせておきたい。
「私……転校するの??」
問い掛けると、お父さんが弱々しく笑う。
「なるべく……そうならないように、お父さん達も頑張るから。」
そう言ってくれたものの、いつもよりお父さんの背中が小さく見える。
それを目に映すと、とても不安になる私だった。
───……
「大変だったね。
ゆっくりするといいよ。」
静岡へとやって来た私は、優しいおばあちゃんに迎えられた。
「おばあちゃん……
…ありがとう。」
初孫の私を、とても可愛がってくれるおばあちゃん。
そんなおばあちゃんが、私は大好きだ。
大好き……
大好きなんだけど……
「おやおや。どうしたんだい??
悲しいのかい??」
私の涙に気付いたおばあちゃんが、顔を覗き込む。
「こんな風に……
おばあちゃんと再会すると思ってなかったから…」
お正月、お盆休み。
いつも来ていて癒やされるはずのおばあちゃんの家が、不安で押し潰されそうな今の私にとっては、何となく居辛い…。
そんな時……
「莉子ちゃん!!!!
会いたかったわよぉ~!!
アタシの可愛い姪っ子♪」
強烈な勢いで、私の背中にダイブしてきたのは……
「玲子叔母さん?!?!」
お母さんの妹の、玲子叔母さんだった。
「やぁね。“叔母さん”はやめてちょうだいよ。
“玲子ちゃん”って呼んでって、いつも言ってるでしょ。」
口を尖らせて言いながら、私の髪の毛をクシャリと掻き混ぜる。
「あ…ごめんなさい。
会うのは何年ぶりかだし、“玲子ちゃん”は失礼かと思って…」
曖昧な笑みを浮かべながら、私は言葉を返した。
「莉子ちゃんとは姉妹のような関係でいたいのよ。
それに、アタシはまだ、“叔母さん”なんて歳じゃないわよ。」
え……??
確か、38歳なんじゃ…??
「あははは……」
乾いた笑い声を出して、玲子叔母さん……もとい、玲子ちゃんを見る。
「ねぇ、莉子ちゃん??」
玲子ちゃんは、ズイッと私に顔を近付けると、なぜか疑問形で私の名前を呼んだ。
「はい??」
ビックリして目を見張りながらも返事をした私。
「家も火事でなくなっちゃったし、住み込みのアルバイトやらない??」
住み込みのアルバイト??
キョトンとしていると、玲子ちゃんは言葉を続ける。
「ちょっとねぇ……
人手が足りないというか、何というか…
困ってるのよ。」
最後の言葉は、苦笑して言った玲子ちゃん。
「玲子。莉子を変な事に巻き込むんじゃないよ。」
見ていたおばあちゃんが、私と玲子ちゃんの間に入る。
「失礼ね!!アタシの仕事を変な事って言わないでよ!!」
そう言って、おばあちゃんを“キッ”と睨んだ玲子ちゃん。
…玲子ちゃんの仕事を、手伝うって事なのかな??
それより、玲子ちゃんの仕事って何なんだろう。
「あの……玲子ちゃんの仕事って……」
「てなワケで、莉子ちゃんはウチで預かるから!!」
私の言葉を遮って、質問さえもさせてもらえないまま、玲子ちゃんに手を引かれる。
「コレ!!玲子!!!!」
おばあちゃんが引き止めるのもお構い無く……
「姉さんには、アタシが連絡しとくから~♪」
明るい声で、玲子ちゃんはおばあちゃんに手を振った。
“バタンッ……”
玲子ちゃんが乗って来た車に、有無を言わさず乗せられる。
「玲子……ちゃん??」
助手席に座る私に、玲子ちゃんは終始笑顔。
「走りながら説明するわね♪」
その笑顔に、ゾクリとしてしまった私は、この後聞かされる衝撃の真実を、予知していたのかもしれない……。
“ブォン……”
車が、砂利道を走り出した。
「………。」
黙ったまま、玲子ちゃんの様子を窺うものの、当の本人は笑顔のまま。
「莉子ちゃんと一緒に仕事ができるなんて、夢みたいだわ♪」
えっと……
私はさっきから、その仕事とやらが気になってるんですが…。
「玲子ちゃん。」
「~~♪~♪~~♪」
呼び掛けても、玲子ちゃんは、鼻歌を歌い続けている。
……説明するって言ったじゃん。
私の困惑とは反対方向に、どんどん車は進んで行くのだった。
―――暫くして……
「着いたわよ。」
玲子ちゃんに言われ、私は一軒のビルの前に降り立った。
「…ここが……玲子ちゃんが仕事してる場所??」
「そうよ♪」
玲子ちゃんは“バチン”と音が鳴るくらいのウインクを、私に向ける。
東京のど真ん中。
それ程大きいとは言えないが、立派なビルだ。
「……私…中に入ってもいいの??」
緊張感たっぷりで玲子ちゃんに言うと、明るい声が返ってくる。
「もちろんよ♪
莉子ちゃんは、今日からここで働くんだから♪」
ん……??
今日……から??
疑問を抱きながら、玲子ちゃんに続いて中に入ると……
「お帰りなさい、社長。」
「お帰りなさいませ。」
「社長!!お帰りなさい!!」
このビルの社員であろう人たちが、次々に玲子ちゃんに向かって頭を下げる。
それも……
“社長”って言ってるし。
……って…
「……玲子ちゃん、社長なの?!?!」
当たり前だが、何も知らなかった私は、驚きの声を上げた。
「まぁね。アタシがこのビルの経営者。」
一つの部屋の前に立つと、玲子ちゃんがその扉を開け、私を中に入るようにと促す。
「失礼しま……」
最後の“す”がいえず、私はそこで固まった。
「遅せぇんだよ。」
上等なソファーに座る、一人の青年に目を奪われる。
「コラ流星!!!!
お客様が来てるのよ!!
挨拶くらいしたらどうなの!!」
機嫌悪そうにして、顔をしかめる青年に向かって、玲子ちゃんが一喝した。
「はぁ??」
青年は、反抗的に言って、足を組み替えている。
「莉子ちゃん、ごめんなさい。
コイツ、沖田 流星っていうの。」
沖田 流星……。
「知ってる!!!!
テレビで見た事ある!!」
ドラマや雑誌……
CMでも引っ張りだこ。
彼を見ない日なんて一日たりともないほどだ…。
……で??
なんで??
…何で沖田 流星がここに居るの??
ますます疑問が生じる私の頭は、パニックを起こしかけている。
「ここだけの話なんだけどね……」
玲子ちゃんはそう言って、私に耳打ちするように、耳元へ口を寄せた。
「え??」
“ここだけの話”と聞いた私は、尚更緊張してしまう。
「この馬鹿アイドルがね、ワガママ過ぎて、誰もマネージャーに付きたがらないの。」
言い終えた玲子ちゃんの言葉の後……
「…オイ。全部聞こえてんぞ。
誰が馬鹿アイドルだ。」
沖田 流星を見ると、先程よりも不機嫌さが顔から滲み出ていた。
「あら、本当の事でしょ。」
玲子ちゃんは何食わぬ顔で彼にそう言うと、再び私に向き直り、話を続行する。
「…莉子ちゃん、流星のマネージャーになってくれない??」
「え゛ぇ~~~~っ?!?!」
こうして……
火事によって家を失った私は、住み込みのアルバイトと称し、沖田 流星のマネージャーをする事となった…。




