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55. 違和感と予感は命がけ

俺の『リスタート』に死角はない。

しいて言うならば、死ぬまでの苦痛を無効化できない事が最大の弱点ではある。


だから。

だからさ。


「いい加減諦めろ!!」


俺は光の雨に貫かれたり、業火に焼かれたり、雷に貫かれたりしながら、絶命した。

無論、『リスタート』で復活するのだが。


「うるさい。次、十五番目。“地を分かつ剣”」


ルトがなにやら木でできた剣を振るうと、地面からとがった岩盤が突き出て、俺の体を貫いた。


(まずい、と言う事もないが、なんともな)


俺はルトの横で復活すると、首筋を狙ってナイフを突き出す。

しかし、またもや復活を察知されてしまったようで、俺の攻撃は簡単にかわされてしまった。


(一体、どうなってるんだ?)


ルトの追撃をかわしながら、俺は考える。

少なくとも背後に復活しても見つかったことから、ルトは俺を視覚によって察知しているわけでもない。

かといって、聴覚や嗅覚なんかで察知する事はそれ以上に難しい。


例えば異常な聴覚を持っていたとしても、背後や左右に復活してくる俺の位置を即座に把握し、しかも見ていたかのように、俺の急所を狙って振りかえりざまに斬りかかって来るなんて不可能だ。

また、反応だけでなく攻撃の威力や体の動かし方にも、何やら違和感を感じる。


「せいっ!!」


空を走る剣先が、俺の胸元をかすめる。

回避のため半歩引いた足で地面を蹴り、今の一閃でできたすきにナイフを突き出す。


俺が得意とするカウンターだ。

本来カウンターは相手の攻撃を避けた後にすかさず叩き込む、いわば間隙(かんげき)の反撃なのだが、俺のは少し違う。

相手の攻撃の合間に、こちらの攻撃がかすりでもする可能性があると判断するなら、捨て身で行う刺突ならぬ死突だ。


鎧の隙間を狙った俺のナイフは、狙い過たず突き刺さるかに見えたが、


「っ!?」


ルトは転ぶように体を落として避けると、いつの間に取り換えていたのか、刃が金色に輝く剣で俺の首をはねた。

どうやら、電気でも帯びていたらしく、死ぬ直前に俺の体がしびれたのを感じた。


(しっかしどうするかね、これ)


俺は『リスタート』で復活せずに考える。


やはり、何かおかしい。

今の回避の際の体のさばきかたも、体のバランスを無視していた。というか、そもそもルトの体の反応と言うか重心というか、そういうものが微妙に普通の人間とずれている気がする。

俺は戦いを誰かに習ったわけでもないので経験則に過ぎないが、戦っている途中に“奇妙だ”と思う動きが多すぎる。

これはよけられないだろうと思ったものを平気でよけ、逆に避けられるはずの攻撃が変にかする時もある。

個人の体のクセや性差はむろん、人種の差なんかを考慮しても引っかかりを覚えてしまう。


と、そこまで考えたところで、俺は驚愕する。


(まさか……!?)


ルトの視線、剣先、手足の構えが――敵意が、俺の方に敵がいるかのように向いているのだ。


俺はルトを通り抜けて反対側に『リスタート』で復活する。

ルトは過たず、復活した俺を見据えた。


俺の『リスタート』が発動する前の状態は、誰にも気取られた事がなかった。

コリスに魔法で探知してもらっても、それなりに腕の立つ剣士と闘ってもそれは変わらない。魔法や技術で探知するのは不可能だ。不可能なはずだ。

俺は戸惑って思わず言葉が漏れた。


「見えるのか……?」


まさか自分の手のうちについて、答えはしないだろう。

そう思っていたのだが、


「見えはしない! だが、感じるのだ!!」


ルトは馬鹿正直に答えてくれた。


(どういうことだ……?)


俺は理解できないが、そんな理由で足を止める訳にもいかない。

ルトはすぐに俺に斬りかかってきた。


手にあるのは怪しく虹色に光っている剣。

ルトが振るうと刃がぶれて、十数に分裂した。


(何だこれ!!?)


十数の軌跡を描く剣を防ぐ事も出来ず、俺はまたすぐに絶命した。

当たった感じでは、どうやら幻覚ではなく、斬る瞬間だけ刃が分裂する剣なのだろう。全てに実体があるため、回避するしかない。

防御するには大型の盾か、手が十数本必要になるだろう。


俺が復活したと見るや、今度は刃の横幅が異様に太い両手剣を振りぬいてきた。

俺はそれをとっさにナイフで受けようとしたのだが、そのナイフが全く抵抗なく切断され、ついでに斬られた事に死んだあと気づくほどの切れ味で、胴を切断された。


「ちっなんでも斬れる剣と何でも防ぐ盾を一緒にした、矛盾剣でも駄目か」

「お前実は地球出身だろ!?」


俺は微妙な突っ込みを入れながらも戦っては様子見、様子見から絶命、復活して反撃を繰り返すが、進展はなかった。

ルトもルトで殺しては復活する俺にいい加減呆れ始めたようだった。


「貴様は、斬り刻んでも焼いても、すり潰しても凍らせても、貫いても感電させても、頭をつぶしても手足をもいでも――殺しても、死なないのか」


ルトは隠そうともせずため息をつく。


「それだけが取り柄なんでね」


無論、弱点がないわけじゃない。

俺はそれを他でもない“戦刃”に教えられたのだ。ただ、あの剣は俺が完膚無きまでに破壊した後埋めてしまったので、世に出回る事はないだろう。


「だがまだ終わらんよ、これで最後、三十二番目」


ルトはそう言うと不思議な刀を出した。

今までと違い片刃で反りが大きく、日本刀のように細く薄く長い。

しかし何より目を引くのはその刀身。


サビに(まみ)れヒビが走り、刃こぼれして何物も切れないように見える。だがよく見るとそのヒビの合間からどす黒い何かが見えていて、どういう訳だか俺はぞっとした。

それは“戦刃”が使った俺への対抗策とは違う。ただ、どういう訳だか同じ系統の武器のような予感がするのだ。


「……すごいカッコいい剣だな。どういう剣なんだ?」


大体ルトの性格を把握した俺は、ダメもとで聞いてみた。

するとどうだろう。ルトは一気に気をよくしたらしく、あるのかないのか鎧に隠れて見えない胸を張って、


「そうだろうそうだろう。何せこれはな」


一秒が十秒以上に感じられる中、俺は次の言葉に衝撃を受けた。


「悪霊を斬るための刀だ」


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