56. 死闘は命がけ
俺を倒せる可能性があるものは少ない。
正確には倒そうとする者が少ないと言ったほうがいい。
俺を倒して利益がある奴はまずいない。
少なくとも人間にとっては貴重な戦力であり、同時に他の人間が行けない場所にも行ける便利な男という認識だ。
誰かと率先して敵対したり、画期的な発想で神の目を欺いたりして、人間に極端な影響を与える力はない。
魔物にとっても、俺は大した事はない。
攻撃能力が常人程度、つまりは皆無だ。せいぜいが囮になったり、捨て身で特攻してきたりする程度。
大量の魔物を殺したり、種を絶滅させたりして、何らかの運命の天秤を傾けるような力もない。
結果、俺という存在は、取るに足らないが故に生かされている。
俺は何となくその自覚があった。
確かに、いくらあのいい加減な神様でも、俺のように不死身で不老な存在を許すわけがないだろうと、おびえていた時期もあった。
しかし、それは徒労だった。
この世界で一年は変化に戸惑い、五年試行錯誤し、十年生きながらえ、二十年で達観し、今では完全に慣れた。
そしてその過程で理解したのだ。
俺は特別ではなく、神様にしてみればずっと存在し続けられる可能性があるだけの、ちっぽけな力しか持たない有象無象だと――舞台に上がる華やかな主役ではなく、舞台を見て英雄に憧れる、数千数万分の一人の観客にすぎないのだと理解した。
そこには落胆ではなく安堵だけがあった。
英雄の戦いを神の御業を世界の理を。自分は観客として見続けられるのだとワクワクした事もあった。
だが、そんな俺も自分のチートに欠点ともいえるものがあった。
いくつかの種類に分けられるが、まず封印など非致死の攻撃には全く耐性を持たない。
アイズがいい例で、死なないと『リスタート』で復活できないため、俺は孫悟空よろしく封印されてしまうだろう。
次にルトが今持っているような、精神攻撃系の能力にも時折やられることがある。
肉体を殺さずに精神を破壊するとか、霊体を斬るとか、そういう攻撃に『リスタート』は関知しない。これは死ぬまでの苦痛が無効化されないという弱点の延長と言える。
ただ、普段であれば俺の『リスタート』に死角はない。
欠点を突く事が出来るチートは数少ないし、例え欠点をつけたとしても俺の横にはコリスがいた。それに敵対している相手がいない俺をピンポイントで俺を殺すために、高価で希少な道具を用意してまで倒しにくる奴なんて、いないのである。
また、俺には瞬間自殺移動で逃げるという選択肢が常にある。死んでいる俺を感知できる者がいなかった事もあり、これら複数の要因によって『リスタート』の欠点はないに等しかった。
だが今、“逃げられない戦い”で偶然にも“俺を殺せる道具”を持った“死んでいる俺を感知できる敵”が目の前に立ちふさがっている。
未だかつてないほどに、俺は窮地に立たされているといっていい。
だから恐怖したか、躊躇したかと言うと、そんな事もまるでなく。
凪いだ湖面の如く、明鏡止水の心持ちで、覚悟を決めただけだった。
「行くぞ。三十二番。“幻想知らずの斬魔剣”」
ルトがそう銘を言うと、刀のヒビ、その隙間から黒いどろりとした何かがにじみ出始めた。
そして刀を持つルトの両手にまとわりつく。同時、彼女の表情に一瞬苦痛が浮かんだ。
よく分からないが、何らかの代償がある武器なのかもしれない。
とはいえ、情けをかける気も暇もなく。
その刀は俺に向かって振り下ろされる。
俺はその刀を後ろに跳んでかわした。
今までより動きが若干、鈍い。
「はぁっ!!」
ルトが連続で刀を振る。
横に薙いでは振り下ろし、ナイフを弾いては突きを入れ、踏み込んで強烈な一閃を浴びせる。
だが俺はそれらをかわし切っていた。
今までの戦いでルトの動きになれたのもあるが、やはりルトの攻撃は先ほどまでより鈍く、単調だ。
これならばと俺が隙をうかがっていると、ルトの剣から黒い何かがにじみ出る。
瞬く間に刀全体を覆った。ルトはそれを確認すると、その刀を薙ぐ。
今までと違う雰囲気に警戒していた俺は、その黒い何かが三日月形の刃となって飛んできたのを見て驚愕する。
飛び道具になるとは思わなかった。俺は咄嗟にナイフを使って自殺し、空にのがれる。
三日月形の刃が俺の背後にあった木を数本、なぎ倒した。
それだけでなく、なぎ倒された木は一瞬で枯れ果てる。
(かするだけでも駄目そうだ)
しかし、ゆっくりもしていられない。
空中にいる俺をどうやってかルトは感知し、今度は死んでいる俺に向かっても黒い何かを飛ばしてくる。
俺は地面に降り立って逃れる。
その際、数本の髪の毛がはらりと断ち斬られ、死んでいる状態でも俺にダメージがある事が判明し、ぞっとする。
死んでいる状態の方が身体能力的に有利になるが、攻撃性能どころか何一つ触れられないので勝てない。おまけに相手に感知され、あちらの攻撃はダメージがある。
俺はすぐに復活する。
「上手く……避けるな」
ルトは疲労した様子で言う。
MPが急速に失われているのか、それ以外が原因か。魔剣はもともとバカみたいにMPを食うので、そろそろ疲れてもおかしくはない。
ただあの刀を抜いて様子が急に変わった事、そしてその刀自身から段々黒い靄が触手みたいに伸び出しているのを見ると、どうもあの刀が原因らしい。
(時間経過で刀の威力が上がってるが、同時に使用者は弱っていってる。何らかの“代償”を吸収するようなタイプの魔剣か)
一瞬だけルトのステータスを見てMPが原因でないと判断し、俺はそうアタリをつける。
同時、ルトに肉薄。
逆袈裟にナイフを斬り上げた。
懐に入れば長大な刀での反撃は不可能と思ったのだが、ルトは半歩引いて間合いの調整と回避を一挙同時に行い、刀を横に薙ぐ。
俺はそれをギリギリのところでしゃがんで避けた。
頭上をブン、と風を切る音が通り過ぎる。
しゃがんだ事で溜まった力を屈伸運動で消費、それをナイフに上乗せし再び斬り上げる。
今度は刀の柄頭で軌道を変えられ、逆に体勢を崩された。
「もらった!!」
ルト渾身の袈裟斬り。
俺は前に重心が寄っていて後ろに跳べず、やむなくナイフを交差させて受けた。
金属同士がぶつかる甲高い音が響く。
矛盾剣のように物理攻撃力が高いわけでもないらしく、ただのナイフでも何とか受け止められた。
ただ、ぬらぬらとした黒い靄が俺のナイフにまとわりつき始めたので、俺はルトの力をうまく受け流して刀を弾き、距離を取る。
ルトは今は肩で息をしており、黒い靄は彼女の肩辺りまでにまとわりついている。その姿は刀に彼女が食われているようにさえ見えた。
「大丈夫なのか、ソレ?」
「問題ない、とも言えないがまだ大丈夫だ」
ルトは肩で息をしながら答える。律儀な奴だ。
「が、時間がない。全力で行くぞ!!」
刹那、刀のヒビから伸びた触手が数本、俺に襲いかかってきた。
太さは小枝程で鞭のよう。一本一本がおそらく必殺。
俺はさすがに四方八方からの三次元的攻撃までよけられないので、自害。
死んでいる時の高速移動で攻撃圏から逃れた。
「まだまだっ!!」
だが触手の一本が突然、足元の地面から突き出る。
俺が回避に専念していた隙に、ルトは触手を一本地下から俺に接近させていたらしい。
俺はすぐに『リスタート』で復活。後ろに倒れた。
重力に従って倒れた俺の眼前、すれすれを、黒い触手が空を切る。
俺は転がりながら立ち上がって次々と襲いかかってくる触手を避ける、避ける。
触手自体は鋼鉄のように硬いわけではなく、どちらかと言うと柳の枝のようにしなやかな強さがある。
ナイフで斬りつけてみたがたわんで切断できない。
それならばとやけくそ気味に大きめのハサミを取り出し斬りつけてみると、木の枝みたいに上手く斬れる事がわかった。
だが数が多すぎ無意味、以上にルトに接近された場合不利と判断しナイフに戻す。
案の定俺の装備を見て接近してきたルトの斬撃を、ナイフで受け流す。
お互いに決定打を欠き、勝負はこう着する。俺は一つだけある奥の手を出すタイミングをうかがっている。
アウルに使い損ねたそれは威力はあるのだが、一撃しか放てない上一度見せれば警戒され当たらなくなるだろう。
手持ちの道具や“恩典”を思い出しながら、それを絶対に当てる方法と機会を図る。
だが、触手が数本から十数本を数え、二十を超えた辺りで俺は防戦一方になってしまう。
もはや余裕がない。
(腹、くくるか)
俺は襲いかかってくる触手の間を縫い、ルトに接近。迎え撃たんと刀に乗せる力をルトがためる一瞬にも満たない隙、俺は自殺している。
ルトはすぐに俺が背後に回ったと分かったようで、振り返りざまに刀を薙いだ。
刀はしかと、彼女が感知したソレを真っ二つに斬り裂いた。
ソレは断末魔にも似た声を上げた。
『こういうものには つかいみちがあるのじゃぁぁぁあああああ!!』
オートマ博士、その人である。
彼の立体映像は精霊召喚の亜種のようなものであると推測出来、気配などを察知しているのなら俺と誤認させられる。そう思った俺は赤白ボールを地面に叩きつけてオートマ博士を呼び出したのだ。
ボールは先のモン○ターボール使いがやけくそで投げたものを、興味本位で回収しておいた。
俺は実はボールを叩きつけた後再び自害し、今はルトの背後に回っている。
俺は素早くナイフを突き立てた。勝利を確信しながら。
だがその背後から黒い触手が俺に迫る。
「食らえぇぇえええ!!!」
「させるかぁぁぁあ!!!」
俺のナイフがルトの首筋に突き刺さるとほぼ同時、今までにない衝撃が俺の胸元を貫いた。
どうも、久々に戦闘描写が書けて満足な作者です。
読者さん的には、戦闘シーンはこんな感じで大丈夫なんでしょうか?
こうしたらいい、ここが悪いなどアドバイスや批評がありましたら感想までよろしくお願いします。




