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オムカエさんが帰れない ~Carpe Diem~  作者: 帆足 じれ


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6/9

ラバーダック・デバッグ

「――きなこもち、か」


 オムカエさんの指の間にあるチョコを見ながら、ふとつぶやいていた。


「ん?」


 彼がこちらに視線を向ける。


「何か、いい思い出でもあるんですか?」


「ええ、まあ……。子どもの頃にね、祖父母の家でよく食べたんです。お菓子(こっち)じゃなくて、(もち)に砂糖入りのきなこをまぶしたものなんですが」


「おや。聞かせてもらえますかな?」


 オムカエさんが興味を持ったようだし、まだ時間もありそうなので、俺は思い出話を始めた。



 遠方に住んでいた母方の祖父母はとても優しく、夏休みや正月に帰省すると明るい笑顔で迎えてくれるので、俺は大好きだった。手作りの郷土料理――特につきたての餅――がおいしくて、それも楽しみにしていた。


 だが俺が好きだったあたたかな空気は、何の前触れもなく消え去った。


 あの年の正月も、きなこもちをたくさん食べ、お年玉をもらって幸せな時間を過ごした。祖父は俺たちが帰る直前まで元気にしていて「また来いよ!」と笑っていたのに、翌朝、目を覚まさなかった。

 俺たち以上に大きなショックを受けた祖母は体を壊し、半年後、祖父の後を追うように逝ってしまった。

 

 それから数年間は、遺影になった2人を見ても現実感がなさすぎて、なんだか悪い夢を見続けているかのようだった。



「――たぶん俺、大切な誰かを(うしな)うのが、死ぬより怖いんだと思います」


 いつの間にか、自分語りが始まる。


「そんなことになるなら、初めから知り合わないほうがマシだと思ってるくらいで」


「ほほう」


「ここ数年は実家にも帰ってません。顔を合わせるたびに親が年取っていくから、なんかつらくて……。親不孝の自覚あるんですけどね」


「なるほど」


 オムカエさんは訳知り顔でうなずく。


「わかりますか」


「ま、一応」


「……ほんとに、そう思ってますか?」


 我ながら、嫌な問いかけをした。

 これじゃ、“人外である彼には人の気持ちなどわからないだろう”と決めつけているみたいだ。


「すみません……。なんか、失礼なこと言って」


 申し訳なくなり謝罪したら、オムカエさんはひらひらと手を振った。


「いえいえ、自分もノリで同調してすいませんでした」


 ノリだったのか……。

 相変わらず、読めないヒトだな。


 脱力した俺は、この機に質問を投げてみる。


「そういえば、あなたにご家族は?」


 神話の神々にも系図があるくらいなので、死神に家族がいないとは限らない。


「家族ですかー」


 オムカエさんはゆっくりと首をかしげながら言う。


「いるにはいるんですがねぇ、ちょっと一般的じゃないというかなんというか……。ま、お察しください」

 

 複雑なご家庭なんだろうか。

 死神である時点で、すでに俺の知る“一般的”からはかけ離れているはずだし気にしなくてもよいと思うが、彼にしては煮え切らない反応が気になる。

 あまり深入りするのもどうかと思い、俺はそのまま流してしまった。


 ちらっと隣に目をやる。

 そこそこ重い話をしていたはずが、オムカエさんの表情は変わらない。まばたきしない目も棒読みの話し方も、バカ話のときと同じトーンで完璧にキープされている。

 輪郭はあいまいなのに、悲しいほど揺らがない。


 まるで、写真か絵のようだ。


 ここでふと“ある場面”がよみがえった――。

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