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オムカエさんが帰れない ~Carpe Diem~  作者: 帆足 じれ


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4/5

お菓子談議 ①

「――ところで、これ、食べます?」


 ボディバッグの中から登場したのは、見たことのあるパッケージに包まれた有名なお菓子だった。たびたび国民総選挙がおこなわれる、山の幸を()したチョコレート菓子の一つ(きのこ)だ。


「どうしたんですか、それ」


 聞けば、もらいものだという。


「今朝、お迎えに行ったお嬢さん、お見舞いでいただいてたお菓子、食べきれなかったみたいでして。“登録”終わったあと『よかったらどうぞ』ってくれたんですよ」


「そうなんですか。お気の毒に……」


 俺がいたたまれない気持ちになっていたら、オムカエさんが言う。


「せっかくですし、一緒に食べませんか」


「いいんですか?」


「はい。供養になりますんで」


 やはり、そういうものなのか。だとしたら、付き合うのがマナーだな。


 しみじみ考えていたら、「たぶんですけど」という不真面目なコメントが続いて脱力してしまった。だが納得できたので、ありがたくいただくことにする。

 実のところ、俺はきのこよりたけのこ派だが、今はそんなこと気にしてはいけない。若くして旅立った女性を(とむら)う意味でも、しめやかな雰囲気をかもし出しながら食べるべきだろうか……。


 ふと見ると、オムカエさんは片手に別の箱を持っている。いつの間にか取り出していたそれは、さっきのチョコレート菓子のもう一種類のほうだ。


「えっ、たけのこもあるんですか」


「あるんですねー、これが」


 驚く俺に、オムカエさんが()く。


「あなた、こっちのほうが好きでしょ?」


「あ、はい……。わかりますか」


 彼はうなずく。たけのこを出した瞬間、俺がうれしそうな顔をしたので、確かめるまでもなかったらしい。そんなにニヤけてたか。指摘されると恥ずかしいな……。


「――して、その心は?」


 唐突になぞかけめいた質問が飛んだ。急だったこともあり、俺の答えは「クッキー生地が好きなんです。チョコとよくからんでうまいんで」という普通すぎる感想になってしまった。


「ほほう」


 いつもの表情のままのオムカエさんに「ちなみに、どっち派ですか?」と問い返してみたら、彼は数秒考えたあと、「ジブンは“すぎのこ派”ですね」と答えた。


「伝説のヤツですね」


「おー。期待どおり、ご存じでしたな」


「ええ、一応……」


 世代ではないが“すぎのこ”の存在は知っていて、なんなら食べてみたいと思っていた。知名度が低いせいか話が通じる人も少ないので、なんだかうれしくなる。


 それにしても、オムカエさんは“すぎのこ”を食べたことがあるんだな。

 最後に復刻したのが2005年だったはず――当時の俺は“たけのこ”と“コアラ”、某・果汁の多いグミにハマっており、完全にスルーしてしまっていた――だから、どう若く見積もっても20代半ばくらいという計算になるのか……。

 そもそも彼は人外なので、こんな話に何の意味もないが、考えてみると興味深い。


「――あと、“(きり)(かぶ)”も()せます」


 不意にオムカエさんが謎の単語を発した。


 ん、切株? そんなのあったか? ひょっとすると、“すぎのこ”と同じく懐かしのお菓子のたぐいだろうか。

 首をかしげる俺を見て、オムカエさんが()(そく)する。

 

「おや、食べたことないですかね?」


「すみません、ちょっとわからないです」


「そうですか。確か、あのシリーズだったと思うんですけどね。どっちかというとたけのこに似てて、ビスケットが全粒粉入りで、パッケージに(おの)を持ったひげ面のオジサンがいるんですが――」


「……? えーと……」


 ぴんと来ず、記憶をたどっていると、オムカエさんは何かに気づいたようだ。


「――あ! 間違えた。そっちは別メーカーのヤツでしたわ。いつの間にか、ごっちゃになってました。いやいや、失敬」


 言いながら、彼はきのことたけのこの箱を2つとも差し出してきた。


「あ、ありがとうございます」


 それを受け取りつつ、俺は別メーカーの“切株”とやらがめちゃくちゃ気になってきてしまった。

 というか、彼はなぜこんなに人間界のお菓子に詳しいのだろうか。まあ、バカ殿を知っている時点で、どこか()()()()()()()()はあったんだが。話せば話すほど、興味をそそられる存在(ヒト)だな。

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