お菓子談議 ①
「――ところで、これ、食べます?」
ボディバッグの中から登場したのは、見たことのあるパッケージに包まれた有名なお菓子だった。たびたび国民総選挙がおこなわれる、山の幸を模したチョコレート菓子の一つ(きのこ)だ。
「どうしたんですか、それ」
聞けば、もらいものだという。
「今朝、お迎えに行ったお嬢さん、お見舞いでいただいてたお菓子、食べきれなかったみたいでして。“登録”終わったあと『よかったらどうぞ』ってくれたんですよ」
「そうなんですか。お気の毒に……」
俺がいたたまれない気持ちになっていたら、オムカエさんが言う。
「せっかくですし、一緒に食べませんか」
「いいんですか?」
「はい。供養になりますんで」
やはり、そういうものなのか。だとしたら、付き合うのがマナーだな。
しみじみ考えていたら、「たぶんですけど」という不真面目なコメントが続いて脱力してしまった。だが納得できたので、ありがたくいただくことにする。
実のところ、俺はきのこよりたけのこ派だが、今はそんなこと気にしてはいけない。若くして旅立った女性を弔う意味でも、しめやかな雰囲気をかもし出しながら食べるべきだろうか……。
ふと見ると、オムカエさんは片手に別の箱を持っている。いつの間にか取り出していたそれは、さっきのチョコレート菓子のもう一種類のほうだ。
「えっ、たけのこもあるんですか」
「あるんですねー、これが」
驚く俺に、オムカエさんが訊く。
「あなた、こっちのほうが好きでしょ?」
「あ、はい……。わかりますか」
彼はうなずく。たけのこを出した瞬間、俺がうれしそうな顔をしたので、確かめるまでもなかったらしい。そんなにニヤけてたか。指摘されると恥ずかしいな……。
「――して、その心は?」
唐突になぞかけめいた質問が飛んだ。急だったこともあり、俺の答えは「クッキー生地が好きなんです。チョコとよくからんでうまいんで」という普通すぎる感想になってしまった。
「ほほう」
いつもの表情のままのオムカエさんに「ちなみに、どっち派ですか?」と問い返してみたら、彼は数秒考えたあと、「ジブンは“すぎのこ派”ですね」と答えた。
「伝説のヤツですね」
「おー。期待どおり、ご存じでしたな」
「ええ、一応……」
世代ではないが“すぎのこ”の存在は知っていて、なんなら食べてみたいと思っていた。知名度が低いせいか話が通じる人も少ないので、なんだかうれしくなる。
それにしても、オムカエさんは“すぎのこ”を食べたことがあるんだな。
最後に復刻したのが2005年だったはず――当時の俺は“たけのこ”と“コアラ”、某・果汁の多いグミにハマっており、完全にスルーしてしまっていた――だから、どう若く見積もっても20代半ばくらいという計算になるのか……。
そもそも彼は人外なので、こんな話に何の意味もないが、考えてみると興味深い。
「――あと、“切株”も推せます」
不意にオムカエさんが謎の単語を発した。
ん、切株? そんなのあったか? ひょっとすると、“すぎのこ”と同じく懐かしのお菓子のたぐいだろうか。
首をかしげる俺を見て、オムカエさんが補足する。
「おや、食べたことないですかね?」
「すみません、ちょっとわからないです」
「そうですか。確か、あのシリーズだったと思うんですけどね。どっちかというとたけのこに似てて、ビスケットが全粒粉入りで、パッケージに斧を持ったひげ面のオジサンがいるんですが――」
「……? えーと……」
ぴんと来ず、記憶をたどっていると、オムカエさんは何かに気づいたようだ。
「――あ! 間違えた。そっちは別メーカーのヤツでしたわ。いつの間にか、ごっちゃになってました。いやいや、失敬」
言いながら、彼はきのことたけのこの箱を2つとも差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
それを受け取りつつ、俺は別メーカーの“切株”とやらがめちゃくちゃ気になってきてしまった。
というか、彼はなぜこんなに人間界のお菓子に詳しいのだろうか。まあ、バカ殿を知っている時点で、どこかわかっている気配はあったんだが。話せば話すほど、興味をそそられる存在だな。




