【勇者としての視点】
【勇者としての視点】
敵は、昔の賢者。
空の穴は封印の穴。
「要はさ、昔の賢者が邪竜を作って、本人ごと封印してあって、それに穴が開くと襲ってくる感じ?」
「まぁ概ねそうだが、賢者や邪竜が封印されている場所というのは語弊があル」
「あれ、違うのか?」
「封印の為の世界なんて都合の良いモノは無い」
「あー。じゃあ異世界にポイ捨て説確定か?」
「説?まぁ不法投棄ダナ。ゴミも犯罪者も危険物も、穴に捨てて蓋をスルのは当たり前ダッタし、向こう側が別世界だと分かっていても続けてイタ」
知ってた。
大昔はもっと簡単に廃棄処理出来る、異世界追放魔法道具みたいなのがあったんだろうなって思ってた。賢者が怪しいもの見つけてたわけだし。
「じゃあ、この映像のクソデカ羽付きヤモリや巨大手足のオバケって昔の兵器か?なんでいきなり襲ってくるんだ?」
「トカゲだかヤモリはともかく、手だらけの化け物はナンダこれ?怖イ」
「違うのかよ。じゃあ昔はもっと別の敵だったのか?」
「もっとまともな見た目のやつダ。今は邪竜って通じないノカ?」
あれ?そっちだけなんだ。
「いや、邪竜を倒すって話だったけど、穴からは手足の化け物が出てきて、既にこっちの空に透明な鳥の敵も居て、邪竜っていうか恐竜は土の中に居た」
「地中って、それは兵器化途中の設備とか、埋まってて封印しそこなった残りとかダロ?襲撃とは別じゃナイか?」
「多分別だと思う」
二人して何度か映像を見直すが、どうもノームの想定している敵はあくまで鳥とか恐竜みたいなのの魔法生物版がメインで、手だらけワームとかは意味が分からないらしい。
「オイ、大丈夫かこれ?別世界の別存在にも襲われてるんじゃ無いダロウな?」
「少なくとも人間の手足は人間に関係あるものだと思うけど……」
「廃棄された不死の人間のパーツを異次元の存在に利用されてるトカは?」
「……えぐいけど、まぁ……ありそうかも……?」
「怖。気持ち悪くて戦いたくナイ」
色々教えてもらうつもりで記録映像を見せたのに、こっちは怖い謎が増えてしまった。邪悪なシューティングゲームの設定とかが脳内でチラチラしてる。人間を素材にする近未来系のやつ。
……いや、そういえば俺も素材にされてる側だった。
「ヤマト、お前結構分かってそうな感じダッタじゃないか」
「実は推測段階の当てずっぽうな部分も沢山あったんだ。合ってたら確認になるし、間違ってても訂正で情報増えると思ってさ」
「危ないからやめてクレ。あまり余計な事をヒョロナガに知られたくない」
「じゃあちゃんと教えてくれ。どれが危ないか分からねーだろ」
海の近くの街にもらった俺の家。その地下室。外に声が漏れない俺の秘密基地。その最初の用途が英雄ゴブリンとの秘密会議になるとは思わなかった。
「封印が破られそうになる度に新しい封印で覆うって話は合ってるんだよな?経年劣化?」
「まぁ冷たい言い方だと劣化ダナ。本来なら百年程度で、長くても三百年くらいだったと聞く。意思の限界らしイ。短ければ数年でも壊れル」
「意思……?うわ、まさか封印って人力で発生させ続けてるのか!?」
「オレみたいな死体で出来た道具を人力に数えるかどうかは時代によるダロウな」
「うわぁ……なら今まで何千年も被害が無かったのって……」
「さすがにオレも驚いた。強いとは思っていたが、幾らなんでも長過ぎる」
タリアはかつて、『本来なら存在しない世界の輪郭線を重ね合わせて穴を開けている』みたいな怪しいSF理論を断言していた。
その時はすぐに連想出来なかったけど、結界や防壁なんてまさに外と内側を区切る見えない輪郭の生成だ。世界レベルで断絶するのは規模がインフレしすぎてると思うが。
「俺にもっと正しく勇者の力がインストールされていたら、そのとんでもない封印魔法が使えるって事だよな?それが失伝してるのって結構マズいか」
「勘違いスルなよヤマト。オレが目覚めたからにはもう二度と異世界人を悪用させる気は無イ。まして死体の再利用どころか異世界人を生きたまま人柱にさせるなら、そんなカス種族は滅びるべきダロ。他の被害だけをオレが守ル」
「いや、しかし…」
「それこそが焚書で消したかった禁忌の筈。大体、異世界人の利用価値が広く知られたらマズいのはお前ら異世界人の方ダロ?」
「そうだった!いやでも困ったぞ、封印の形によってはその異世界召喚も防いでくれてたんじゃないのか?」
「ム?」
「封印っていうと相手を包むイメージだけどさ、防壁的に考えれば敵を追い出して自分たちを覆う方が他世界からの攻撃も防げて便利だと思うんだ。いちいち新たな穴とか新たな敵ごとに別々で封印作るより効率的だろ?」
もし前の勇者も自分の世界の危機を考えていたなら、この世界の為だけに人柱になったわけじゃないかも知れない。
異世界召喚の危険性に気付いてから俺も色々考えてるけど、真っ先に思いつくのはこの世界の隔離とか封印になっちゃうし、それは結果的に外敵からの攻撃も防ぐ筈。
元がどういう封印かは知らないが、仮に俺がどっちの世界の危機もどうにかしなきゃってなって、ついでに凄い封印魔法も持っていたら、まぁ一旦この世界の方を封印すると思う。
「最近ずっと自分の世界も守る方法を考えてたんだけど、前の勇者もそうだと思うんだ。結構すごかったみたいだし、何も考えず封印を維持するより何か工夫してそうじゃないか?実際あり得ないほど長期間なんだろ?」
「……ウーム。確かにアイツが普通に犠牲になるとは思えん。オレは最後が見れなかったが……」
「じゃあやっぱり封印魔法は探そう。知らないものを秘密にするのは逆に難しいし」
「ソウだな。オレ自身も今の時代の情報収集が必要だ。オレはオレで地下を中心に動くから、お前らで地上を勝手に調べろ。バレんように」
詳しい理論を追求したり、探し物の事を考えるのはタリアが居る時にやればいいが、こうなるとアイツの装備も「そういうもの」で思考停止せず真面目に調べたほうがいいかも知れないな。
今のところ防壁や結界で連想する最強の魔法道具はタリアのビキニアーマーだ。
あいつ本人が凄まじいチートだからあまり真面目に注目していなかったけど、あのエロ装備は特定の条件式を完全に拒否する。それも常時展開だ。
もう本人達も自分で考えて色々やってるとは思うけど、またウラニアに相談して最終的に取れる手段を増やしたい。
個人に依存しない道具での対応に辿り着ければ色々余裕も生まれてくる。
「そういえば、賢者本人は死者の復活にあの反応だったじゃないか。ノームも微妙な表情していたし、思うところがあったんだろ?」
「ウーム……」
「あいつは基本的には優しいやつだと思う。どうしてあそこまで問答無用に襲ったんだ?」
「やがて不死になる脅威ダゾ。その前に倒そうとするのは当たり前ダロ」
「そうとは限らないじゃないか」
「……ウーム。ちょっと待て。ここが絶対に秘密にしたい話ダ。不死は本人の意思では防げナイ」
ノームが壁や地面をトントンと叩きまわって何かを確認している。多分振動とかで誰か居ないか探し出せるやつだろう。
しかし、本人の意思とは無関係に不死になるってどういうことだ?ゾンビ映画か?
「ちなみに、前の勇者はこの世界に来た直後から問答無用に倒すべき脅威を理解して行動していたゾ。異世界人から見ると不自然過ぎるって話ダッタが」
「は?ちょっとネタバレ待ってくれ、負けたくない」
急に話が変わってきた。
俺は推測や考察も大好きだけど、それは外れてもいい。その行為自体が楽しいわけで、むしろ簡単には当たらないほうが好きだ。だからこそ好き放題喋りまくってる。
でも、異世界人ならすぐ分かる設定上の問題に俺が気付いていないと言われると話は別だ。全然負けたくない。
いや俺が異世界に来た時はいきなり剣が刺さったので、それ以外の危険性とか考える余裕無かっただけだし。全然負けてないし。
「賢者が危ないのはヒョロナガの中でも特にその問題が飛び抜けているからダ」
「早い早い!ネタバレ待ってくれって!まだ全然思いつかない!」
なんとなくこの世界の人類全体を危険視してるのは想像出来ていたが、異世界人ならすぐ気付くレベルの問題を俺が見落としている?
やばい、全然分からん。得体のしれない敗北感がある。
「ヒントを頼む」
「そんなこと言われても。変に聞かれる前にさっさと話すゾ?」
「くそぉおお!」
「いや、お前は普通分かるダロ。何で異世界人の言葉が別種族にまで通じてるんダ」
「……は?」
──待て、猛烈に嫌な予感がしてきた。
「『翻訳』しているのは、『誰』ダ?」
「うーわ」
「ナンダその反応!?」
最悪だ。それはダメだよ。一番ダメなやつ。
「……『呪文って誰に唱えてるんだ』って奴だろそれ」
「おお、アイツも全く同じ事を言ってたぞ」
「バカがよー!!!」
「だからどういうリアクションだ!?大声出すなっテ!!!」
子供の頃に一度は患う、ファンタジーのお約束を屁理屈で否定するような邪悪な遊び。いちいち言わないほうが良いと分かっているからこそ、余計に楽しい遊び。お年頃にとって、そういうちょっと悪いことはとてもとても楽しい。
なんで日本語が通じるの?w
ジャガイモは中世のヨーロッパに無いよw
数学に当てはめるとこんなあり得ない数字だよw
その段階を経てお約束を受け入れる方向に卒業するか、創作物を見なくなるか、否定の快楽に依存しすぎて戻ってこれなくなるやつ。
俺達のような特定の層には定番の学級会で、時と場合によってはそれ自体が楽しかったりもするけれど、結局のところ作品の面白さ自体を楽しむのには邪魔なだけだ。答えだって結局白黒つかないのが正解って言ういつものオチ。
ディベートは勝敗を求めるスポーツ的な娯楽であって、相手を倒すという欲求がどうしても混じるし、その時点で知的な行為とは扱われない。あくまで対戦ゲームだ。考証がメインではなく討論がメインのゲーム。だから議論の中身より対戦相手の否定になっていく。
サンドイッチ、ビキニ、バレンタイン、語源の逸話が有名だと学級会の定番になりやすいが、この「定番」も企業の影響抜きなら「じょうばん」で、逸話というのも「話が逸れる」と書くように元々は記録漏れや伝わっていないエピソードの筈であり……やろうと思えば場外乱闘は永遠に止まらない。はい、永遠じゃなく延々では?いやこの場合は……はい無限。
最初から無意味な行為だとは分かってる。分かっていながらも繰り返す。
分かってはいても楽しいんだ。一番手軽なゲームだし、誰しも一度はハマるんじゃないだろうか。
海外作品だと知らずに日本語の語源で不自然さを指摘しようとして「それ翻訳作品だからwww作中ではwwww日本語使ってませんよwwww」みたいな煽りが直撃するような痛々しい経験がある人もきっと沢山居る筈だ。全然居ない場合は俺だけがアホだった事になるが。ぐっ苦しい。
……というアレコレを経て、同じような炎上が延々繰り返され、最終的に毎度毎度の学級会にも飽き飽きして、逆にお約束にちょっかい出さなくなっていくのが俺達の基本的なルートだ。
結局のところ明確な答えって出ないのが正解だし、だから何度だって同じ議論で遊べるわけで、ある日突然ものすごい虚無感に襲われたり、手痛い失敗を経てやらなくなっていく。
卒業した。終わったんだ。
そこに来てこれかよ。
だからこそ、一周まわって罠にかかった。異世界をそういうものだと受け入れた人間に、そういうもので流しちゃダメとか言い出すのはトラップ以外の何物でも無いだろ。
最悪だ。解釈違いどころの騒ぎでは無くなってしまう。
もしかして何らかの神罰なのか?一度でも論破ごっことかした人間は死後その黒歴史と直面し続ける地獄に落ちるのか?いや死ぬ前に異世界に落とされて殺されかけたんだが。まだ俺死んでないぞ神様。異世界転生も死後の世界も死んでからにしてくれ。
「視界の共有に……痛撃の魔法石もそうか。この世界の魔力は脳の信号にだって直接干渉出来る」
「そうだ。やっぱり分カルんじゃないか、異世界の勇者」
「そして、言葉を人類以上に完全に理解している」
「『翻訳』も『呪文』も明らかに言語の理解を示しているカラな」
「……もしかして、賢者が必ず所有しているスキルは『鑑定』か?」
「そのスキルは『誰』に答えを聞いてるんだってやつダナ。まぁこれは自分の膨大な知識を整理する一般的な鑑定スキルと区別が付かないって話ダ」
「だるーーーい!!もーーー!色々思い出して喉がかゆーい!!」
「だからどういうリアクションなんダ!?」
賢者が敵。攻めてくるのは魔法生物。邪竜は恐竜。
どれもこれも正確な表現ではなく、ノームが人類に隠したがっている事。
「じゃあもう魔力そのものが敵じゃねーか!脳への干渉も明らかなんだから、どこまでが人間でどこからが魔力の意識かも分からなくなるんだろ!全然知ってる味のホラーだ!!ふざけるなよ!?」
「大声で言うナって!!何を急に怒ってル!?」
「どうせアレだろ!魔力の共有意識体みたいなオチのやつに強く接続出来ちゃうって事だろ賢者はさぁ!!今まで『誰』に答えを聞いてきたんだってオチ!あーあ!!!」
「静かにシロって!」
どうして毎度毎度ファンタジー以外の定石ばかり抑えてくるんだ。牛丼屋に来たつもりだったのにハンバーガーが勝手に出てくるみたいなさぁ。
いや、あるよ。魔力の仕組み自体に面白い罠のある傑作はいっぱいある。SFとうまく合わさった面白い異世界も沢山ある。叙述トリックとかも最高だ。
でもこれは違うだろ?なんで超常意識体が尿管結石や精神汚染サイコホラーになるんだよ?
物理的にも精神的にも妙に生っぽくて嫌過ぎる。意味ありげにセミが鳴き始めるタイプの作品だって大好きだけどさ、それで主人公を襲う謎の痛みの正体が尿管の石だったら許せないだろ。俺なんか水が原因っぽいのに沢山水を飲めとか言われてるんだぞ。許せない。
……くそ。だがもう知った以上無視も出来ない。生死の概念が無い意識体は、倫理観が根本的に違う。知ってる味ではあるが、知ってる中でもかなり危ない部類のヤツだ。
ノームの表情を伺うと、俺が何に青ざめているか理解して頷く。
「どこからどこまでが誰の仕業……いや、何の仕業なのかはオレにも分からんゾ」
未知の存在に何か質問されて、それに素直に答えたら酷いことになるダークなロボアニメとか好きだったし、なんなら好物のクトゥルフ神話系列のホラー風味でもある。
AIやミトコンドリアの反逆タイプもそうだ。共存出来ていると思っていた身近で異質な存在に襲撃されるやつ。
スローライフ異世界への憧れを一旦諦めて頭を別ジャンルに切り替えたら色々傑作の記憶も掘り出せるが、それでもやっぱり越境過ぎる。巨大なサメのメカの幽霊が宇宙と交信する作品とかでジャンル越境に耐性をつけていなかったら倒れていたかも知れない。
「異質な存在に寄生されている解釈だったわけだ。ビフィズス菌の反乱かよ」
「共存ダナ。基本的には死ぬまで問題にならナイ。魔力の全体意識と直接交信出来るような特殊個体が発生シたり、不死を得て無限に影響され続けたりしなければナ」
あー。本来の寿命くらいなら問題無い軽微な影響。最初から影響されやすい特異体質。あー……。
「……でもノームも見たろ?死者を復活させられると聞いて、真っ青になって倒れたのが今の賢者だ。あいつ本人の人助けの倫理観は信じて良いと思う」
必死に人命救助するタリアだからこそ、軽々しく死者を復活させるとは思えない。
「……本当に何も兆候は無イのか?例えば本人の意識とは無関係に未知の魔法を放ったり、自覚の無いまま謎の行動をシテしまうような」
「……」
「オイ!!!」
まずい。
あれ秘めた力の発動みたいな激熱パターンだと思ってた。勝手に体が動くんじゃなくて、勝手に動かされてるかも知れないやつ?
「どう考えても人知を超えた判断をしているような兆候は?賢者と称される以上何か逸脱しているほど賢い筈ダガ、人知を超えているという事はつまり人知では無いんダゾ」
「……」
「オイ!!!もう全然ダメじゃナイか!!!」
まずい。返す言葉が無い。
あいつ、謎のRTA能力者じゃないかも知れん。前もチラッと思ったが、ネタバレと指示コメントを無限に脳内に流されている人気配信者のが本当に近そうだ。操作も覚束ないまま最適解を強制されまくるやつ。あまりにも見覚えがある。地獄か?
普通の人間のネタバレコメントでも治安が最悪なんだから、別概念に配信外で指示コメされ続けるのはヤバいよ。
「恐らくだが、元々はヒョロナガもちゃんと分かっていた筈ダ。『魔力』『魔法』『チート』。これがお前にどう翻訳されているのかは知ランが、肯定的な単語では無いダロウ?」
「え……?」
「なにかこう、魔的な言葉、邪悪な言葉ダロウ?」
「うわ!チートってもっとズルい感じの意味だよなってアレ!?うわー分かった!!そうか、魔法とか魔女も本来は邪悪な……あれ?じゃあ風の魔法使いとか、星の魔法使いって……」
「ああ、焚書か。どうしてヒョロナガは何に対しても加減が下手ナンダ。燃やしすぎダロ」
チクチク言葉が世界の壁を貫通して俺の世界にまで届きそう。嫌だなぁ、ゴブリンのお小言に何も返せない勇者。俺だけど。
「そいつらは見るものによっては邪悪な魔女で、味方から見れば風の英雄や星の巫女ダ。そもそも風の英雄を再現しようというのが死体勇者だからナ」
「あ!なんかそれ歴史家の人が言ってたわ!大元は『風の英雄』なのか!!」
「まぁ味方からしたら英雄ダロウな。オレからしても古い神話みたいなものだが、もっともっと古い語源で言えば『冬を砕く春の風』みたいな感じダッタ筈」
「砕くんだ。随分珍しい表現だな。爽やかでオシャレに見えてシンプルに物騒」
「冬と比喩表現されたものが塵一つ残らない神話だからな。何か倒しまくってたダロ?オレの時代でも表現がだいぶマイルドになっていたから、焚書の後は子供でも読めるくらいにナッテいるかも知れんが」
つまりマイルドになってても子供が読んじゃいけない感じだったのか。まぁでも神話ってそうだよな。普通に相手が死ぬような極悪なイタズラしまくってたり、他人の嫁襲って子供作ったりするし。
「風の英雄と、星の巫女。俺の中のファンタジー愛が蘇ってきた。まだこの異世界は捨てたもんじゃない。あれ、でも星の声を聞ける巫女みたいな表現だと思いっきり賢者じゃないか?」
「いや賢者では無い。よく読め、そいつらが最初の賢者を封印したというのが神話の流れの筈ダゾ?星の魔女も賢者だったら話がおかしくなるダロ」
「全然そんな話無かったぞ!?」
「ナンデそこが抜ける?そこが無かったらそいつらに意味が無イ。只の謎の超人紹介で終わったら何にもならんダロウが」
謎の超人紹介系なんだと思ってた。
別にそうやって偉人伝を盛りまくるだけの神話も珍しく無いし、だから何の感想も無かったんだけど、元はちゃんとオチとか終末があるタイプだったのか。
「いや、これ、だとすると焚書で燃やしすぎたみたいな簡単な話じゃなくないか?」
「ウーーム?」
ノームは不思議そうな顔をしてるが、こうなるともう明らかに邪竜と賢者について誰かに隠されてるだろ。
大昔のゴブリンの英雄が賢者と聞いたら血相を変えて殺しに来るのに、現代では誰も全く警戒していないんだから、死者を平然と操っていた禁忌の魔法を隠す為みたいな目的での焚書としては既に全く成立していない。
下手したら焚書の狙いを追加の別の検閲で封じられてるぞ。
「ノームの知ってる焚書って、本来の目的は行き過ぎた魔法技術とか禁忌魔法を完全に消し去る為みたいなやつでいいんだよな?」
「ソウだ。だが状況からするとオレの知らない何かが起きたのも間違い無いラシイ」
コツコツと自分の頭を叩きながら複雑な表情を浮かべるノーム。そうなんだよな、大昔の事を知れるのはいいんだが、数千年の間に起きた事はノームにだって謎なわけで。
「……まぁ、これは一応手がかりがアル。英雄を邪悪な魔法の使い手と呼び、巫女を魔女と呼ぶという事は、今残っている神話の語り手は敵対側からの視点だけって事ダロ?」
「確かに。うわ、確かにそうかも。言われてみれば宗教でよくあるやつじゃん」
「我らからすれば賢者も含めて全部クソ迷惑な破壊者だが……いや、我ら視点?ヒョロナガの神話がこちらにしか残っていない?管理意識でこっちもおかしくなったか?」
管理意識。これもまぁ内心ちょくちょく引っかかってはいた。
ノームの態度を見る限り、この世界の人類はある程度のラインを超えないように介入されている。少なくとも人口爆発が出来ないような邪魔が間違いなく入っている。
管理と呼ぶか見守りと呼ぶかで印象は変わるが、介入に変わりは無い。野生動物の生息域を保全するみたいなやつ。
どこまでが自然な形成で、どこからが意図的な制限なのかは分からないが、これもまた只のお約束では無いみたいだ。多すぎない人口と静かな暮らしにずっと関心していたが、それにしては科学水準が変だなとずっと思っていた。通信とか明確に邪魔が入るもんな。
「……気付いているようダガ、これは本当に内密にしてクレ。勘違いされるとまた支配からの解放みたいなノリで余計な闘争を生みかねん。既に色々あったのは分かるダロ?」
「あー。分かった。……例えばサキュバスの街ってさ、魔力が噴出する危険な土地を意図的に抑えて守ってたりするのか?」
「そこはまぁ自然とそうなる形でもあり、意図としても都合が良いタイプじゃないか?オレもそこまで詳しく無イが、大体全部そういうモノだ。意図だけでも、自然だけでも無イ」
「まぁそうか」
ノームにだって現代までそれが完全に残っているのかは不明だろうけど、少なくとも昔から意図があったのは確かということだ。
まぁ過去の人類のやらかしのおかげで今こうなってるっぽいから、手に負えなくなる前に何らかの介入をしたくはなる気持ちは分かる。なんなら管理不足の結果誘拐されたのが俺だし。
「もしかして元が精霊みたいな存在だったやつらの魔法と、加護という名の寄生で人類が使える魔法は別物なのか?」
「おお……まぁそこはオレも詳しくないから断言は……。ただ、だからこそ勇者作成魔法は汚染されていない綺麗な死体が必要なんじゃないかと、前の勇者が言っていタ」
「俺は普通に生きたまま刺されたんだが?」
「何かおかしくなってるのは確かダ。倫理観がおかしいのは最初からダガ」
こうなると古い時代の書物を発掘したいな。きっとどこかに重要な……
「あ、俺昔の神話の本持ってるわ。アネモネから渡されたままだった」
既に何度も読んでるから逆に意識から消えかけてたが、大昔の英雄と一緒に読むのはまた話が変わってくるんじゃないか?
ごそごそと本を取り出すと、ノームが呆気に取られた顔をしつつ中身を確かめる。
「今後探しに行く流れかと思ってタゾ?そんなことアルのか?」
「もしかして賢者の実物の力を見た事は無いのか?これがタリアの力だ。偶然本を拾って、このタイミングで何故か俺がその一つを持ってる。毎回こんなノリだよ」
「うわ、お前、平然と言っテルがそんなの……」
「まぁまぁ。賢者を倒すシーンはどこなんだ?ラストのほう?」
パラパラとページを捲るが、一度読んだときもそんなシーンは確か無かった。本以外の他の話題でもそんな話は一度も聞いていない。
でも、魔女や魔法という言葉の『魔』の部分がちゃんと悪い意味だって前提で見返すと、どれかのザコが実はあえて矮小に描かれたボスってパターンもあるかも知れない。バアル神がベルゼバブ呼ばわりされるやつみたいな。
ノームは、俺に手渡された本を妙に慎重に眺め、ハードカバーの傷や劣化を確認していく。
「オイ。中身を見るまでも無イ。背幅が合ってないじゃないか。章ごと抜かれテ綴じ直されたか?」
「……ノームお前、本結構読むんだ」
「唐突に謎の侮辱をスルな!」
やばい気づかなかった。読書好きのつもりだったのに、ネット読書に慣れすぎたのか物理本への観察力がゴブリンに負けている。
言われてみれば、ハードカバーの高級っぽい本なのに、机に置くと僅かに表紙が内側へ傾いているような気がする。本当にごく僅かな誤差にしか感じないけど、その誤差に不自然な安っぽさがあるというか。
「つまり、賢者の問題を隠そうとする奴が大昔から居たってわけだ。時代の違う新しい痕跡って感じではないし、これって遥か昔にページ抜いて綴じ直したってことだろ?」
「加工跡を見せない偽装かも知れんからまだ断定は出来んが……随分不穏でややこしい話になってきたナ。その本ドコにあった?」
「お前の子孫達のとこだよ。ゴブリンが管理している裁判所ダンジョンの途中で拾ったらしい」
「ヌゥ…?そんなバカな……我らにまで検閲……?焚書はせずに加工だけで……?」
本当に不思議そうに首をひねるノーム。
まずいぞ。これ、多分だけど検閲の怖さを知らないまま皆で賛同した流れがあるな。
焚書の恐ろしさは実際に何を燃やしたのかも分からなくなる所にあるが、優しく正しい動機のつもりの検閲ほど悪用の想定が甘くなる。
目的通りに消されたか、怪しい意図が混ざっていないか、余計なものまで消していないか。一度燃やした本は検閲側にすら見れないのに、後からどうやって正しさを確認する?
どうやら人間同士のギスギスとか、こういう謀略的な要素に関しては、俺達の世界のほうが圧倒的に上らしい。特に人類側は歴史が紡げていないのもあって、失敗から学ぶ経験値の蓄積が浅い気がする。
別にそういう知識に詳しいわけじゃない俺程度の一般人から見ても、明らかに無防備で危うい。
「……どうも話を聞いた限りだと、賢者と邪竜の味方が居るっぽいよな?いや俺はそもそも賢者が悪者だと思えないけど」
「だから悪いとか悪く無いみたいな話デハ無いのだ。賢者と邪竜という表現も変だ。片方は味方側視線で、片方は敵側視線じゃナイか。……まさか竜だけに罪を押し付けたのか?自分達が生み出しておいて……?」
「あ……?そうか、英雄が魔法使いとか魔女って貶されるという事は、賢者にも別視点からの貶す表現があるのか」
「まさに。魔的な存在の頂点。不必要に侮蔑的な表現とも捉えられるので、オレの時代でも言い憚る空気はあったが」
魔的な存在の頂点。
……頂点?
「何も知らない当時のヒョロナガからすれば理想的ダロウ。死竜を使った人的消耗の少ない強大な防衛力。圧倒的な知識による治世。……そして、死の克服」
「……まさか、最初の賢者は、王なのか?」
「そうだ。魔道と魔法、そして学術の民の頂点。ヒョロナガにとって賢王であり、民を守り過ぎた優しく正しい救世主であり、別の視点からは世界の破壊者でもあった」
頭の奥がチリチリしてきた。
ここに来て、そうか、タリア、お前……!
「魔の頂点、カリス。全知全能と謳われた魔道の王。ヒョロナガにとって繁栄と技術革新の道標たる賢者の王は、その生きた信仰を危惧する側から『魔王』と呼ばれていタ」




