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俺が恋したオッサンは、元ヒロインの皇子様。  作者: DAKUNちょめ


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63/63

62・大好物が世界一マズく感じた日。

家に入り、真弓と一緒に夕飯の準備を始めた。

日中、仕事に出ていた真弓は帰りにカレーの材料を買って来ておいたらしい。

台所のすみにスーパーの袋が置いてあり、その中に普段の真弓が買わなそうなチョコ菓子の箱が見えた。

それが俺のために買った物なんだと思うと、嬉しさより先に、やっぱり真弓の中で俺は子ども扱いされてるんだと悔しさみたいな感情が滲み出てくる。


頭の中がイヤな想像と感情でモヤモヤした状態で、俺はニンジンの皮をピーラーで剥き続けた。


「ラン、剥き過ぎだ…ニンジンがスリムになっちまってる。」


真弓の手が俺の右手を覆うようにそっと掴み、皮を剥く俺の手を止めた。


「…あ…ゴメン…身まで削っちゃってた。」


「サラダに使うから別に構わないが…まだ、アイツの事を気にしてんのか。」


そんなの気にしないなんて無理だろ。

と俺の正直な気持ちを、余りにも当たり前過ぎて真弓に言う事が出来ない。

俺が真弓の本当の恋人に到達するためのハードルを、あの人は最初からいくつも飛び越えた場所にいるんだと考えただけで心が押しつぶされそうだ。


「………………」


「昔からの知り合いだが仕事上だけの関係だ。

お前が嫉妬するようなモンは一切無い。」


「…真弓はそう思っていても…向こうがそう思っているとは限らないじゃん…。」


「あ?それ以外にどう思ってるってんだよ。」


真弓は、スパロウ令嬢が真弓に気がある事に気付いてないんだ。

それに気付いてしまったら…いや、仮に猛アプローチされてもなびいたりしないって真弓は言うけれども…

実際にそうなったら、そんなの分からないじゃん。


俺は不満を目一杯顔に出したまま、貝のように口を閉ざし無言になった。


「……もういい、メシは俺が作る。

ランは茶の間に行って宿題でもしてろ。」


真弓が俺の手からピーラーを奪い、まな板の上に置いた。

真弓の声のトーンから真弓が不機嫌になった事を感じ取った俺は、「なんで!」と抵抗するようにピーラーに手を伸ばす。

真弓は肘で俺の手をガードして、さらに遠い場所にピーラーを置いた。

それでも手を伸ばす俺に、真弓が声を荒げた。


「俺に、お前を怒鳴らせンな!!!」


初めて聞いたかも知れない真弓の怒った声に、俺は完全にフリーズしてしまった。

謝る事も、反抗する事も出来ずに置き物みたいに固まった俺を真弓はチラリとだけ見て、野菜を切り始めた。


「刃物や火のある危ない所で今のお前は邪魔だ。

あっちに行ってろ。」


真弓を…怒らせた。

拳を殴ろうとした時とか、叱るように怒った真弓は見た事はあったけど、俺自身に対する苛立ちで怒った真弓を見たのは初めてで…それがショック過ぎて…でも、俺が悪いんじゃないって気持ちもあったりして、頭の中がグチャグチャになる。


「真弓…俺の事、邪魔なの?」


真弓の言った邪魔と、俺が聞いた邪魔の意味は違う。

真弓はすぐに気付いたようだけど、無言のままで否定すらもしなかった。

真弓が俺に苛立って怒ってる事はショックだけど、俺も真弓に対して苛立っている。自分自身に対しても苛立ってる…。

だけど、そのイライラする感情をどこにどうやって吐き出したらいいのか分からない。

分からないから、もっとイライラする。


「真弓、なんか言ってよ。」


「俺が何を言ったって納得しねぇんだろうが。」


真弓は調理を続けながら俺の方を見る事なく答えた。

俺の頭の中に、真弓の方から「どうして欲しいんだ」と聞いて欲しいって欲求がある。

と同時に、そう言われたら「もう、あの人と会わないで!」と言いたい正直な自分と、「仕事の関係者に会うなとか無茶ぶりだろ。バカか?」と冷めた目で俺を見るもう一人の自分がいる。


分かってんだって!俺が悪い!

真弓を信じてる、そう思えたら良いって分かってんだけど!

このグチャグチャな気持ちを、どうやって落ち着かせたらいいんだよ!


「とりあえず、ランが俺を信用してねぇってのは分かった。」


「え…」


俺が頭の中で自分会議を開いている内に、真弓はカレーの具を鍋に入れて軽く炒め、煮込み始めた。

そして台所に突っ立ったままの俺を無視して茶の間に行ってしまった。


鍋!ガスコンロの火!つけっぱなし!

真弓に、俺が真弓を信用してないって思われた!

鍋!火にかけたままで行った!


気を取られる事があり過ぎてプチパニックになる。

火は完全に消すまで目を離しちゃいけないモンってイメージがある俺は、その場から身動きが取れない。

鍋と、真弓が入った茶の間に続くふすまとを何度も交互に見ながら、俺は台所に立ち尽くす。


「まっ…!真弓を信じてないんじゃないって!

でも、あんなキレイな人が真弓を好きって言ったら…

どうなるかなんて分からないじゃん!」


「信じてないじゃねーか。」


居間の方から真弓の声だけがする。

あぁ、もう…!どう説明したら分かって貰えるんだよ!

俺は真弓を信じてないんじゃなくて、この世間というか常識というか、「普通」に真弓を奪われるような気がしている。

ごく普通に当たり前のように、そう自然に……

真弓が俺から離れて行くんじゃないかと━━


「真弓のわからず屋!」


「お前こそ、何にも分かってねぇだろ。」


茶の間から真弓が出て来て、カレーの仕上げを始めた。

真弓は俺の方を向かずに鍋の方を見たまま、そんな事を言う。

やがて台所が、大好物のカレーの匂いでいっぱいになった。

でもそれどころじゃない俺は、俺と目も合わせてくれない真弓をキッと強く睨んだまま台所で棒立ち状態だ。



俺と真弓は、その後ろくに言葉も交わさないまま夕飯のカレーを食べた。

今まで生きてきた人生の中で、一番まずいカレーだった。

だって…味がしないんだもんな……気まずいまま食べるカレーって。





「で、俺が帰った後の御剣は、何を言ってオッサンを困らせて怒らせたんだよ。」


学校の机に突っ伏し、どんよりと暗い表情の俺を見た金森は楽しそうにそう言いやがった。


「なんで俺が真弓を怒らせたって思うんだよ…しかも俺が真弓を困らせたって限定かよ。

逆に真弓が俺を困らせて怒らせた可能性だってあるだろ。」


「ねぇよ。

ガキのお前が、ワガママ言って大人を困らせたとしか考えられねーじゃん。」


金森はそう言うけれど、俺には俺なりの正当な理由があるワケで。


「だって、いきなり美人の芸能人が知り合いとかさァ…しかも絶対、あの人は真弓の事が好きだ。

真弓には言えなかったけど正直言って…仕事関係だからって、そんな人ともう会って欲しくない…真弓を取られてしまう…」


俺は両手で、目の下にクマの出来た寝不足気味の顔を隠すように覆った。


昨夜は、会話の無い夕飯のあと別々に風呂入り、俺は早くに布団に入った。

真弓は俺が寝入るまで布団に入って来なかった。

俺が寝たフリをしてしばらくしてから真弓は布団に入って来たけど、互いに背を向けたままだった。

真弓の背中からも怒っている雰囲気を感じた俺は、「だって!だって!」を頭の中で繰り返し、中々眠る事が出来なかった。

朝も、なんか…シリアルをモソモソ食べて出て来た。

今朝の会話は「おはよう…」「おう…」と、「行ってきます…」「おう…」のみだ。

一緒に暮らしてるのに悲しすぎる。


「俺の従兄弟がなー姉貴の事が好きなんだ。

そいつ俺にも嫉妬してさー姉貴に「こいつと喋るな」とか言うワケよ。

「メシ出来たって」俺が声かけて「はぁい」って姉貴が返事するのすら気に食わないって無茶言いやがるんだよ。」


「…その人が、今の俺と似てるとか言いたいのかよ。」


金森の従兄弟なんてどんな人か知らないけど、その人の無茶ぶりと、今の俺が似てるって非難してるって事は分かる。

だから俺はジロッと金森を睨んでしまった。

金森はハンと鼻で笑って顔を傾けた。


「似てるだろ?

無理難題ふっかけてるのに自分が正しいと思ってて好きな相手を困らせてさ。

さすが4歳児だわ、話が通じねぇのなんの。」


「4歳!?子どもの話かよ!」


「お前も子どもだろ、バーカ。」


グッと言葉が詰まる。

たった6歳しか変わらない小さな子を子ども扱いする俺は、真弓より、かなりかなり年下な子どもだ。

その子どもが、仕事相手の女の人に会った事で不機嫌になって文句たれて…

第三者目線で見たらすげーうぜー。


「…なぁ、その従兄弟…結局どーした?」


「すげーうぜーって思って「黙れガキ」って頭はたいたらギャン泣きして、もう俺には逆らわなくなった。」


「何だよそれ!

暴力で解決とか、何の参考にもならねぇし!」


「そうだよな…暴力はいけねぇよな…

あの後、俺…姉貴にボコボコにされたからな…。」


暴力が暴力を呼ぶ!金森のお姉さんコッワ!

暴力はいかん、戦闘シーンという名の暴力シーンばかりメインの特撮が好きな俺でも、暴力はいかんと思う。

第一、ムカついたからって真弓が俺に暴力振るうなんて絶対に無いしな…。

真弓の場合、俺の事をすげーうぜーと思ったら暴力なんて振るわず、愛想を尽かして俺から離れていく…

ダメじゃん!

その光景が、すごくリアルに想像出来てしまう!


リアルに描かれた最悪な未来を頭に思い浮かべて「ど、どうしよ」とアワアワしている俺の肩を金森が掴んで引き寄せ、小声で話し掛けてきた。


「想像でパニクってんなよ御剣。

なぁ、タレントの円光寺いずみと仕事関係で知り合いとか、オッサンて何者なんだよ。」


金森に言われシャクだけど少し落ち着きを取り戻した俺は、小声でボソッと金森に答えた。


「もと子役で、今は顔出しほとんど無しのモデル…」


「子役でモデルう?…そりゃあ…お前…お前がさぁ…

こんなんじゃ、この先やってけねーだろ。

詳しく分かんねぇけどモデルなんかやってんなら、オッサンがゲーノー人の美人と会う機会とか、他にもありそうじゃん。

そのたびオッサン困らせんの?

お前、超うぜーな!ワラ。」


金森に、超馬鹿にされた。

普段の俺なら「うるせぇな!黙れ!」と食って掛かるトコだが、今の俺にそんな元気は無い。

とゆーか…金森が言う通り、俺がこんなんじゃ真弓が俺を見限る可能性がある…

脳裏にマンガみたいな「大失恋」のロゴが浮かぶ。

なんだそりゃ、ギャグマンガか。

いやいや笑い事じゃねーんだけど。


「俺…真弓に謝る……。」


机の上でスライムみたいに溶けた状態の俺が呟くと、金森が「あ、そ」と興味なさげに俺から顔を背けた。

言いたい事だけ言って、後は勝手にすればみたいな金森の態度…それに俺は救われてるって感じる。

興味無いと突き放しているようでいて、金森なりの「正しい意見」を言うだけ言って押し付けては来ない、この距離感が丁度いい。


「ちなみに…だが、もし俺がさ…

コイツと付き合っていたとして…」


もし?……なに急に言い出してんの?と、金森の珍しい態度に俺は「え?」と顔を上げる。

金森は、自分が座る椅子━━前田さんの席を指の背でコンと軽く叩いた。

金森の顔が照れを含みつつ微妙に緊張している表情になっていた。

…なに、前田さんと自分がもし付き合っていたら、って言って照れてんの?自分で言っといて?へ〜…


思わずニヤリと変な顔をしてしまった俺に対し、金森はムスッとした顔をしたが、そのまま話を続けた。


「俺が自分以外の男と話すなとかコイツに言ったとしたら…俺、間違いなくぶっ殺されるから。

御剣と話すなとなんて言った日にゃ飛び蹴りが入る。」


「…殺されるの、テッパンなんだ…彼氏なのに…」


ニヤリと笑った俺の顔が秒で凍り付いた。

俺のせいで飛び蹴りを繰り出されるとは…

夢の中でも金森は前田さんに崖から突き落とされてたよな。

それでも、そんな女のコに惚れちゃってる金森。

金森の周りには乱暴者の金森よりも、強くてたくましい子が多いんだよな。



今日は金森とはつるまず、学校から一人で真弓の家に帰った。

家の前に、またあの人の車が停まってないかと内心ビビっていたけど車はおらず、ホッと胸を撫で下ろしながら玄関の戸を開けようと鍵を出すと、鍵穴に鍵を差す前にガラガラっと戸が開いた。


「帰ったな。」


仕事に行っていると思っていた真弓がサンダルを履いて玄関に立っていた。


「………た、だいま……」


真弓とは昨日の夕方から、ほとんど口をきいてなくてめちゃくちゃ気まずい。

いや、俺、真弓に謝るって決めてたじゃん…

真弓を信じてるって…仕事相手なんかに変な嫉妬なんかしないって。

でもな…これ、理屈じゃないんだよな…


謝る事も、真弓を信じてるって言って今後は平然としたフリする事も出来る。

ただ、俺の中ではきっと消化し切れない。

いつまでも胃もたれしたみたいなモヤモヤが残る。

それでも、真弓と離れるくらいなら……


「ま、真弓…昨日はゴメン…俺…」


無言の真弓が俺の前にグウッと大きなゲンコツを出した。


え、俺もしかして真弓にぶん殴られんの?




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