第91話 キーン、兵隊たちの前でエキシビションをおこなう。
キーンはボルタ曹長の求めに応じて、小隊の兵隊たちの前で『龍のアギト』を使い素振りを見せることにした。素振りだけでは見ていてもあまり面白くないだろうと思い、何かないかと考えたが、訓練場の中には勝手に切り飛ばしていいようなものが何も見当たらなかった。そこで素振りの後は、黒玉に電撃を撃たせてそれを受けるところを見せることにした。
「よーし、駆足止めー。小隊集合!」
10キロの駆足が終わり、兵隊たちがキーンとボルタ曹長の前に集合した。
二人の前に整列した兵隊たちは、どう見てもタダの大剣には見えないキーンの持つ異様な黒い大剣に目を奪われている。
「10分小休止。お前たちが休んでいるあいだ、小隊長殿が大剣の技を見せてくださる。注目!」
注目とまで言われるとは思っていなかったキーンだが、それでもちゃんと注目している兵隊たちの前で『龍のアギト』を中段に構え、いつもの突きからの八方向への素振りをやって見せた。
キーンは強化前の素の状態だったため、傍からはキーンの体と足の動きはブレてはいるもののなんとか目視できたのだが、大剣の動きどころか腕の動きも誰も追えなかった。あまりの振りの速さに大剣が大気を切る音が一度聞こえただけだった。
地面に座ってキーンを注目していた兵隊たちは声もなく、半分口を開けて素振りの終わったキーンを眺めているだけだった。
「今のは突きからの八方向への振り。基本中の基本だけどこんなものかな。どこか切り飛ばしていいものがあれば切り飛ばして見せたんだけど、そういったものが見当たらないので、次は黒玉が放つ電撃を受けてみます。受け損なったら大変なので一応自分に強化をかけておきます。
強化」
強化の光に包まれたキーンは、黒玉の電撃を受け損なって制服を傷めてはマズいので、制服の上着を脱いで、それをボルタ曹長に渡し、
「黒玉、電撃での摸擬戦だ。どこからでもかかってこい」
ボルタ曹長の頭の上で漂っていた黒玉が、キーンとの間合いを取りながら揺れ始めた。
きた!
黒玉の電撃のタメを見極めたキーンが電撃の予想コースに対して『龍のアギト』振る。
バシッ!
黒玉から放たれた電撃がキーンによって払われた。兵隊たちはサンダーボルトなどあまり目にしたことはなかったが、キーンによって打ち払われた時の音からは相当な威力のサンダーボルトであることがうかがわれた。
それから、何度も黒玉がゆらゆら揺れて位置を変えながら電撃をキーンに放つがことごとくキーンが叩き落していく。もちろんキーンの振るう大剣も腕の振りも知覚強化無しでは視認などできはしないのだが、空中で電撃が弾けることでキーンが斬撃で叩き落したことが分かる。
電撃を叩き落すことなど誰にもできないはずなのだが目の前で行われている。
素手ではあるが一度キーンに戦いを挑んだ第3分隊長のビッグジョン兵曹などは青い顔をしている。
10回ほどキーンが電撃を叩き落したところで、
「黒玉、今日はこんなところだ」
以前は黒玉が10回も電撃を放つと1回や2回は電撃を受けたのだが、今回は危なげなく全ての電撃を叩き落せたので、キーンの口元はややほころんでいる。
気分が良いので、やはり何かを切り飛ばしたくなってきたのだが勝手に切り飛ばしていいようなものはやはり見当たらない。
『そうだ! 黒玉を切り飛ばすことはできないけれどパトロールミニオンなら問題ないから、パトロールミニオン相手に遊んでみるか』
気分はもう遊びである。
「パトロールミニオン×20」
キーンの周りの空中に一気に20個の銀色の球が現れた。強化以外のキーンの魔術を初めて見た兵隊たちも驚いたようだ。先ほどから驚きっぱなしである。自分たちの小隊長は『魔術の天才である』などといろいろなところから聞こえてきてはいたものの、正直なところ兵隊たちには実感がなかったのだが、今初めて実感が湧いたようだ。
「それじゃあ、いきます!」
兵隊たちから見て、大剣を構えたキーンの体が一瞬ブレたかと思ったら、少し先の方に現れた。同時に宙にフラフラと浮いていた銀色の球が全て弾け飛んでいた。
ボルタ曹長は、今の剣技について、
「小隊長殿。正直なところ、小隊長殿の大剣を振るう速度が速すぎて、大剣の動きを目で追うことができませんでした。少尉殿、今の銀色の球は何だったんですか? パトロールミニオン?」
「周りの状況を調べるため魔術で作った偵察兵?みたいなものなんだけど、ちょうどいいので大剣の練習に使ったんだよ」
「魔術で作られたものということだけ分かりました。そうだ、よろしければ、兵隊たちのために小隊長殿の攻撃魔術を見せていただけませんか?」
「いいけど、何がいいかな? 見た目が派手となるとやっぱりファイヤーボールかな。
それじゃあ」
空を見上げたキーンが、
「パトロールミニオン」
今度はパトロールミニオンが頭上はるか彼方に1つ浮かんだ。陽の光を受けて輝いているので下からでもよくわかる。
「100メートルほど上にパトロールミニオンを作ったので、ミニオンを的にファイヤーボールを撃ちます」
「ファイヤーボール100」
キーンは、100メートルも距離があれば大丈夫だろうと思い、せっかくなのでなるべく大きなファイヤーボールということで通常の100倍威力のファイヤーボールをわざわざ手元から撃ち上げた。
ゴー!
ミニオンほどの大きさのファイヤーボールが青白くギラギラ輝きながらパトルールミニオン目がけて一気に上昇していき上空のミニオンに命中した。
ドッカーーン!
ものすごい轟音と同時に衝撃波が襲ってきた。強化中だったキーンはすこし煽られただけで済んだが、上空を見上げていた兵隊たちは座ったままひっくり返ってしまった。
同じ訓練場で訓練していた他の部隊の兵隊たちまでひっくり返るものが出てしまった。
キーンの隣で尻もちをついていたボルタ曹長が立ち上がり、
「小隊長殿、すごかったですね。よその部隊の連中がこっちを見てますが、連中から何か言ってきたら私が対応しますのでご心配には及びません」
そう言ってくれたので、ちょっとやり過ぎたかと思って反省中のキーンもホッとした。
「これ以上やるとマズそうなので今日はここまで」
「そろそろ、小休止も終わりだ。
全員整列。……。
ケイジ兵曹、俺に変わって引き続き槍の訓練を頼む」
「はいっ!」
ケイジ兵曹が前に出て兵隊たちに長槍の訓練を始めた。
訓練がだいぶ進んで、そろそろ終了というあたりで、ボルタ曹長が、
「小隊長殿、兵団本営から考課表の書類が届いております。兵隊たちの考課は自分が昨日書き込みました。小隊長殿は自分と分隊長5人の考課を記入願います。
書類は自分の部屋に置いていますので、今取ってきます」
そう言ってボルタ曹長は兵舎の方に駆けていった。




