第90話 戦闘訓練、集団長槍戦法2
休憩の終わった兵隊たちが、武器庫から訓練用の木製の長槍を持ってキーンたちの前に集合した。
「それでは、第1分隊から順に並んで1列縦隊を作る。前の者との間隔は1メートルだ。始め!」
初めて聞いた号令に槍を片手で持った兵隊たちは戸惑っていたが、それでも何とか1列縦隊ができ上った。ただ、あまりきれいな縦隊ではないし、前後の間隔もまちまちだ。
「全隊、左向けー、左!」
「全隊、右向けー、右!」
「全隊回れー、右!! どうだ? かなり曲がっているし前後の間隔のバラバラだろう? これじゃあ1列縦隊じゃなくて蛇行隊だ」
ボルタ曹長はまずきれいな横隊が組めるよう訓練することにしたようで、1列縦隊で軽く駆足をしては立ち止まり、先ほどと同じような号令をかけていく。
10回ほど繰り返していたら、縦隊も真っ直ぐになり、右や左を向いて横隊となっても列が乱れなくなってきた。
「よーし、良くなってきた。
全隊、左向けー、左!
全員槍を構える」
1列横隊に整列した兵隊たちが槍を両手で構えた。
「槍の穂先は胸のあたりを狙え! 隣りと同じ高さに揃えろよ。
おいそこ、穂先が高い! そこは低いぞ! ……」
ボルタ曹長が、今度は個別に長槍の穂先の高さを指摘していった。
「よーし。今の構えと穂先の位置を忘れるなよ。
全隊、そのまま10歩前進、1、2、1、2、……」
兵隊たちが、槍を構えて1歩ずつ前に進む。進むにつれて横隊が凸凹になってきた。
「真っ直ぐ並んで前進だ! 止まれ! 槍を戻して、右向けー、右!
どうだ、曲がっているだろ。
整列!」
兵隊たちがまっすぐ並んだところで、
「全隊、右向けー、右!
構え! 10歩前進、1、2、1、2、……。
止まれ!」
これも10度ほど繰り返したところで、だいぶ列が乱れなくなってきた。
「全隊、右向けー、右!
構え! 10歩前進、1、2、1、2、……。
止まれ!
次の号令で声を出して突くぞ!
突き!」
「「突き!」」
一斉に槍が突き出された。穂先の位置はブレていたがそれなりに迫力のある掛け声と突きだった。
いきなり訓練場の中で大きな声が響いたので、他部隊の連中の注目を集めたようだ。
「穂先の位置は敵の胸元だ! だが今の突きはなかなか良かった」
横で見ているキーンもみるみるうちに小隊の動きが揃ってきたことに驚いている。
……。
「小隊長殿、だいぶ揃ってきましたな」
「そうですね」
「そろそろ分隊長に号令を任せてもいいころあいか。
小隊長殿どうでしょう?」
「任せます」
「ケイジ兵曹、前へ」
「はいっ!」
隊列の先頭にいた第1分隊長のケイジ兵曹が数歩前に出た。
ケイジ兵曹は、筋肉質ではあるがやや小柄な女性下士官である。
「ケイジ兵曹、お前が号令を代われ。しっかりやれよ。槍は俺が持ってやる」
「はいっ!
小隊整列、左向けー、左!
構え! 前進! 1、2、1、2、……、止まれ。
突き!」
「「突き!」」
「槍を戻して、回れー、右!
構え! ……」
ケイジ兵曹の号令で訓練を続ける兵隊たちを眺めながら、ボルタ曹長が横に立つキーンに向かって、
「小隊長殿、もうすぐ期末ですので、兵隊たちの考課表を作る必要があります。うちの小隊にはいろいろ問題があって進級がかなり遅れている者が大勢います。今はみんなしっかりやっていますし、この前の大雨の時の土手のかさ上げでも大活躍しています。いい考課をつけてやってください」
「考課というと成績票のようなものですか?」
「軍学校で言えば成績票だと思います。兵団本営から書類が届きましたら兵隊たちの分は私が適当に作ってお渡ししますので、小隊長殿はそれを見て適当に修正してください。5人の分隊長と私の考課は小隊長が最初からお書きください」
「学校の先生みたいですね」
「小隊長殿も将校ですから。これから先、小隊長殿はどんどん偉くなって中隊長、大隊長となられます。そうすれば書類仕事がますます増えるでしょうな。
それはそうと、小隊長殿。兵隊たちの武器の訓練も始まったことですし、小隊長の大剣の技を兵隊たちに披露して、小隊長殿の凄さを小隊員たちに見せつけ、隊員たちの気持ちをもう一度引き締めてはどうでしょう? 自分も一度拝見したいものですので」
「技というほどじゃないけれど、素振りならいいよ。せっかくだから明日にでも僕の大剣を持ってこようか」
「ぜひお願いします」
そういう約束をボルタ曹長としたキーンは、訓練の終わりを見届けブラックビューティーに乗って寮に帰っていった。
翌日。
いつものように昼食を早めに済ませたキーンは、教室に持参していた『龍のアギト』をロッカーから取り出して急いで厩舎に向かって走っていき、ブラックビューティーに乗って訓練場にやってきた。
兵隊たちは駆足の最中だったが、今日の駆足は訓練用の槍を持っての1列縦隊になっての駆足だった。前後の間隔も2メートルほどでそろっている。
「小隊長殿、ご苦労さまです。午前の訓練で10キロ走っただけですが、意外と様になっているようですな」
「なかなかいい調子ですね」
「おっ! その黒い鞘に入っているのが小隊長殿の大剣ですな。持ち手は真っ黒のところが玄人好みですな」
「そうかな?」
「抜いていただけますか?」
キーンが鞘から抜いたところ、
「やややや。剣身までも真っ黒でしたか。これはすごい。何か引き込まれるような迫力がありますな」
「人によっては禍々しいって。そんなことないよね?」
「うーん。どうでしょう」
ボルタ曹長も、さすがに禍々しいとは言えなかったようだ。
「持たせていただけますか?」
「刃は立っていないからどこを触っても大丈夫だけど、重いから気を付けて」
キーンが剣身を片手で持ってボルタ曹長に持ち手の方を向けて渡してやる。
ボルタ曹長はキーンに注意されたので両手で受けとったところ、
「いや、ビックリするほど重い大剣ですな。これを小隊長殿は振り回されるわけですか?」
「慣れてるからね」
慣れだけで重い大剣が簡単に振り回せるのか疑問に思ったボルタだが、そこには触れず、
「もうすぐ、駆足は終わりますから、そこで兵隊たちに小隊長殿の技を披露してください」
「了解」




