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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第7章 アービス小隊

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第77話 始業式と黒玉

ここまでお読みくださりありがとうございます。

いちおう、本作は戦記物なので、そっち方向にキーンも少しずつ向かっていきます。いままで俸給だけ少尉だったキーンですが、少しずつ軍人らしくなっていきます。


 2週間ほどの年末年始の休暇が終わり、今日は3学期の初日。


 午前中の始業式の後、担当教官のゲレード少佐から連絡事項などが教室であり、昼食を学食で食べて、その日はそれで終わる予定だ。


 キーンは制服を着て、寮を出た。今日の予定は9時50分からの始業式だけなのでほとんどの生徒が寮を出たのは9時半ごろだった。キーンもその一人だ。


 学舎に向かうキーンの頭の上には黒玉が浮いている。寮から学舎までの道すがら、1号生徒や、2号生徒も当然歩いているのだが、少尉の徽章きしょう、肩章を制服につけたキーンは、上級生から奇異な目で見られるものの、特に何を言われるわけでもなく、学舎に到着して教室に入っていった。


 9時40分。鐘が鳴ると、生徒たちはぞろぞろと教室を出て始業式の行われる武術訓練場に歩いていく。キーンはみんなの後ろをついていくが、さすがに黒玉は教室に置いてきている。


 始業式の行われる武術訓練場では、まえの方から順に1号生徒、2号生徒、3号生徒の順に整列しているようだったので、キーンはそのまま一緒に歩いてきたソニアの隣に並んだ。


 訓練場の一番奥には高さが1メートルほどの台がしつらえられていた。その台には小さな階段が後ろに付いている。


 もう一度鐘が鳴ったところで、グッドオールド校長と教官たちが訓練場に入場してきた。校長はそのまま台に上り、すぐに3学期の始業の言葉を述べ始めた。校長と一緒に訓練場に入ってきた教官たちは、奥の壁際に並んでいる。



「……。我が国を取り巻く情勢は決して安心できるものではないことは、諸君たちも知っての通りだ。しかし、諸君らは足元をおろそかにすることなくしっかりと勉学と訓練に打ち込んでくれたまえ。私が現役時代お世話になった大賢者が言っておられたが、『努力は自信につながり、自信は思わぬ力になり自分を助けてくれる』。以上だ」


 いきなり、大賢者などと校長が話し始めたため、また話が長くなりそうだと生徒たちは半ば諦めていたが、校長の話が予想を裏切って短く終わってしまい、多くの生徒たちは拍子抜けしてしまった。


 キーン自身は、『大賢者』と校長が口にしたとたんビクッとしたが、今まで聞いたことのない大賢者じいちゃんの言葉を聞けたので、なんだかうれしくなってしまった。今回は入学式ではなかったが、付属校の入学式での校長の話を聞いた時とは大変な違いである。


 グッドオールド校長の話の後、2号生徒を担当していた座学の教官の退任挨拶(あいさつ)と交代の教官の新任挨拶があり、始業式は30分もかからず終わってしまった。


 訓練場から生徒たちがぞろぞろと教室に帰っていく。


「始業式が早く終わってよかったね」


 キーンは素直な感想を隣を歩いているソニアに言ったところ、


「今日は特別短かっただけじゃないかしら。私たちの入学式も2学期の始業式もそれなりに長かったから」


「そうなんだ。運がよかったってことかな」


「運というほどのこともないでしょうけど、校長も何かあるたびに話をしなくちゃいけないし、3年間は同じ話はできないから、これからも短くなるかもね」


「そうなるといいね」



 などと話しながら教室に戻ると、黒玉がすぐに飛んできてキーンの頭の上で漂い始めた。他の生徒たちもキーンと頭の上の黒玉は見慣れた光景になったようで、誰も気にしなくなった。


 キーンの席は階段教室の一番後ろなので、授業中は黒玉が誰の邪魔にもならない。


 生徒たちが席に付きしばらくすると、教室の扉が開いて、ゲレード少佐が入ってきた。


「今日は特別伝達事項はない。時間になったら昼食を食べて解散だ。

 ? アービス、お前の頭の上のその黒い球はなんだ? 形はミニオンだが色はお前の大剣のようだな」


「はい。偶然できたミニオンなんですが、僕と同じ魔術が使えます」


「すまん、アービス。もう一度言ってくれ。私にはそのミニオンがアービスの使える魔術を使えると聞こえたんだが」


「教官の聞かれた通り、このミニオンは僕の使える魔術はおそらく全て使えます」


「あの強化もか?」


「はい」


「要は、アービスが二人になったということか?」


「このミニオンに黒玉と名まえを付けたんですが、黒玉と僕の違いは、魔術の発動速度が僕の方が速いことと、今のところ黒玉はあまり距離を置いては魔術を発動できないところだけだと思います」


「またまた分からなくなったが、アービスは魔術を自分から遠く離れたところで発動できるのか? そういえば、目に付く範囲で強化していたからできるのか」


「はい。視界の中にあればどこからでも、どこにでも発動できます」


「まず、どこからでもとは?」


「例えば、敵の頭上とか背後からサンダーボルトを撃ち込むこととか」


「どこにでもとは?」


「ファイヤーボールを敵の体の中で爆発させるとか」


「なんだってー! 体の中でファイヤーボールが爆発したら防ぎようもないし即死だろう」


「そうなります。生き物では試したことはありませんが、立木たちきだとその部分はぜて粉々になりました」


 ゲレード少佐も呆れていたが、教室のみんなは呆れを通り越して、もはや引いてしまっている。


「立木でできるなら、要塞の壁も内側から爆破できるのか?」


「岩なら粉々になりましたから、おそらく可能と思います」


「分かった。アービスにできないことはないということがよーく分かった。いろいろ考えなければいけないことが増えてしまったが、わが国にとってアービスは最大戦力であることは理解した。で、同じことがその黒玉でもできるのか?」


「そう思います」


「今のアービスの話は校長に報告しなければならん。アービスいいな」


「はい」


「それはそれとして、アービス、その黒玉はずーとお前の頭の上にいるのか?」


「黒玉は、作った時の僕の知識を持っているようなんですが、作った後一緒にいることで、それ以降の知識を共有できると思うので、こうしていつも頭の上あたりに居させようかと思っています。邪魔なようなら、寮に置いておきます」


「確かに、同じ魔法が使えるなら同じ知識を持っていた方が後々いいかもしれないものな。分かった。これについては校長を通じて他の教官方にも理解して了承してもらうから任せておけ」


「ありがとうございます」


 こうして、黒玉は軍学校内でキーンと一緒にいることが認められた。




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