第78話 キーン、軍学校校長に説明する。
始業式の後の教室で、黒玉のことや魔術について担当のゲレード少佐に話していたら、少佐が校長にも報告したいという。
「アービス、私一人では理解の及ばない点もあったので、悪いが私と一緒に校長室まで頼む。
他の者は解散してよし」
生徒たちが教室を去っていく中で、キーンも階段教室の階段を下りていった。
「それでは、行こう」
ゲレード少佐について歩いていくキーンの頭の上には、黒玉が漂っている。
「ゲレード少佐、およびアービス少尉、入室します」
アービス少尉と言われたキーンは、自分のことだと一瞬分らなかったが、すぐに自分が少尉だったことを思い出した。
『どうぞ』
編入時挨拶に来た時と同じ、若い男の声が校長室の中からした。
扉の先にはこの前と同じく若い軍人が立っており、グッドオールド校長は窓際の机の後ろの席に座っていた。
キーンたちが校長の方に近づいていくと、
「ゲレード少佐とアービス少尉。どうした? それとアービス少尉の頭の上のボール?は?」
校長が席から立ち上がりキーンたち二人を迎えてくれた。
「ボールについても後ほどお話しします。
アービス、間違っていたら訂正してくれ」
「はい」
「校長、アービス少尉に先ほど聞いたのですが、実は……」
教室で、キーンがゲレード少佐に説明したことを今度は少佐が校長に説明した。
「なるほど。黒玉か。学内でアービス少尉が黒玉を連れていることは私が許可しよう。それと、城壁なども簡単に破壊可能か。アービス少尉には、いい意味で悩まされるな。
アービス少尉、何か他にあるかね?」
「はい。強化をした場合、体が発光してしまい、かなり目立ってしまうのですが、特殊な衣服を着ることによって、その光が外に漏れないようにできることが分かりました」
「ちょっと理解できないので、アービス少尉、試しに強化して見せてくれるか?」
「現在、私自身はその特殊な下着をつけていますので、下着をつけていない部分だけから光が漏れます。こんな感じです。強化!」
キーンの『強化』の言葉で、下着を着けた部分以外のキーンの部位が光に覆われた。
「なるほど、よくわかった。元に戻してくれて構わない」
「はい。解除」
「ということは下着だけでは顔や手足が光ってしまうから、全身を覆う衣服が光の漏れないようにすればいいわけだな」
「そうなります」
「なるほど。ということは衣服の生地自体が最初から光が漏れないものならいろいろな形に加工できて便利かもしれないな」
確かに校長の言うように数を揃えるにはその方が便利かもしれない。しかし、弱めと言っても強化が残留して多少変性してしまった生地が容易に衣服に仕立てられるとは思えない。
「実はこの特殊な衣服は、衣服そのものを強化して作っているため、かなり頑丈な衣服です。ハサミや針を通しづらいかもしれません。例えば兵士の着ている衣服などは一度に強化できるので、強化する気になればそれほどは時間がかかりません」
「またわからない言葉が出たのだが、衣服を強化したのかね?」
「はい。物に対して短時間で複数回連続で強化を行うと、強化が残留してその物自体が変質するようです。衣服の場合、完全変質させてしまうと、硬化してしまい衣服ではなく鎧になってしまいそうだったので、連続強化回数を減らして強化の残量を少し押さえました。経験からですが強化を3000回連続して行うと強化が固定して材質が完全に変質するようです。今回は600回だけ強化したことで不完全変質でとどまったようです」
「君のいう強化というと、聞いた話では6種の強化魔術を全てをかけることだろう? それを短時間で完全強化固定なら3000回とか不完全強化固定でも600回とかかけるわけかね?」
「連続強化は一度発動させると、あとは意識することなく放っておいてもその回数強化をかけることができます。600回連続して強化するには30秒かかりますが、だいたい5秒おきに衣服一揃いを纏めて強化の発動ができるので、100人分の衣服を不完全強化して軽く変質させるのに10分もかかりません。黒玉も手伝わせればもっと早く強化できます」
「アービス少尉の言うことはだいたい理解できたと思う。前回騎兵隊がダレン軍に対して突撃した時は、結果的に強化による発光は戦闘自体には影響なかったとランデル中佐から聞いている。馬を布で覆うことはさすがに難しいから、アービス少尉の強化服は、歩兵用の装備とすればどうだろう。少尉の力で強化された多数の兵士がその強化服を着て夜間敵陣に迫って一気に突撃すれば、戦いの帰趨を簡単に決することが可能な気がする。どうだね?」
「強化服はあらかじめ用意しておけばいいので、いくらでも作ることができます。兵士に対する強化は、私と黒玉で手分けして行うことができますから、見晴らしの良い広い場所に兵士が集まっているのなら、1時間もあれば1万人は強化できると思います」
「そこまでできるのか。いやはや1万人と言えば近衛兵団の総数に匹敵する数だ。兵団全員が強化されるとなると圧倒的な軍が誕生する。1万もの強化された兵がいるなら、こそこそせずに光の兵団として敵に立ち向かった方が敵が浮足立ってくれる可能性もある。強化服は特殊な作戦、そうだな、敵の本陣を小数で襲撃する時にでも用意すればよかろう」
キーンとすればせっかく役に立つものを作ったと喜んでいたのだが、用途は限られているようで、あまり軍に貢献できないようだった。
「兵士の強化だが、1個小隊50名を近衛から選抜してその連中をアービス少尉に強化してもらおうか。小隊の選抜には2週間程度かかるだろうから、その時にはよろしく頼む」
「はい!」
少しは強化服が役立つようなのでキーンは嬉しくなった。
「そうだなー。アービス少尉、きみに信頼できる先任下士官をつけてやるから、その小隊の小隊長をやってみないかね?」
「えっ?」
「兵士を鍛えることはいい経験になる」
どうも、衣服を強化するのではなく、兵隊を強化する話になってしまった。
「アービス少尉は午後からの実技は乗馬を除いて不要だと聞いた。その馬術も、馬に好かれているようで馬を使っての通常の移動には差し支えないと聞いている。午後から小隊長としてやってみるのもいいかもしれんぞ」
確かに、武術と魔術の実技はみんなと一緒の訓練場にいるだけであまり自分の訓練になっているとは言えない。それなら、小隊長の真似事も面白そうだ。
「はい。やってみたくあります」
「わかった。近衛兵団長に話して、そのように手配しておく。おそらくアービス少尉の小隊は近衛兵団長直轄小隊となるから戦場に出ることはないだろうが、戦場以外でも兵士の活躍の場はある。詳しいことが決まり次第少尉に知らせるのでそのつもりでいてくれ」
「はい!」




