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ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-  作者: 山口遊子
第5章 キーンの休日

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第59話 サルダナ軍、増強計画


 先日、キーンたちに永代貴族について説明してくれたリスト財務官の言葉通り、サルダナ王国では、来年度(来年4月)から2年間での完了目途(めど)に各兵団を主に募兵ぼへいにより増強することになった。2年間と期間が長いのは新兵が十分な訓練を終え戦力となる時間を考慮している。


 2年間平時が続けば、2年後にはこれまでの戦力に対して約2割の増強となる。王国の状況からいって、軍備が今までおざなりであったことはいなめないが、財政的にはこの2割増強が限度のようだった。さらなる増強のためには、国内の産業育成の他、領土の拡大等が必要となる。


サルダナ軍(注1)

 対外部:(外部情報の取得)

 近衛兵団:(王都セントラムの防衛)

  本営+60個中隊+3個騎兵中隊+6個魔術師中隊

 第1兵団:(ダレン方面:西部から南部)

  本営+180個中隊+3個騎兵中隊+18個魔術師中隊

 第2兵団:(セロト方面:北部)

  本営+120個中隊+2個騎兵中隊+12個魔術師中隊

 第3兵団:(ローエン方面:北西部)

  本営+120個中隊+2個騎兵中隊+12個魔術師中隊

 魔術師団:各兵団に魔術師中隊を派遣

  本部+50個中隊(各兵団に合計48個魔術師中隊を派遣)


 定数

 400個歩兵中隊->480個歩兵中隊=8万名->9万6千名

 8個騎兵中隊->10個騎兵中隊=800騎->1000騎

 45個魔術師中隊->50個魔術師中隊=1800名->2000名


 魔術師団本部予備、5個魔術師中隊->2個魔術師中隊


 この中で目に付くのは、近衛兵団の騎兵中隊数で、これまでの1個騎兵中隊から3倍増の3個騎兵中隊となり、馬場や厩舎、宿舎なども拡張されることになる。名称も近衛兵団騎兵連隊と改められ、連隊長にランデル中佐、麾下の3個騎兵中隊の隊長は、それまでの各小隊長がそれぞれ進級した。とはいっても、現在の各中隊は当初の騎兵中隊の3個騎兵小隊を基幹として各兵団から集められたベテラン騎兵と乗馬の可能・・な古参兵士と馬を集めただけの所帯のため、実質戦力は1.5個騎兵中隊程度である。


 各部隊から古参兵を引き抜いたランデル中佐の騎兵連隊は良い方で、各兵団はこれから新兵をつのる必要がある。新兵はそのままでは使い物にはならないので、戦力化に向けて訓練を重ねていかなかればならない。



 騎兵連隊長になり忙しさも増したはずのランデル中佐だが、軍学校の騎乗訓練の教官は続けた。助手を務めていたサール大尉も同様である。



 また、クジー要塞の先に築かれた3つの砦だが、セロトとの国境のハイバル峠に最も近い第1砦のみ小規模に復旧し、1週間交代で1個小隊のみ配置することになった。優勢な敵を認めた場合、抗戦せず、すみやかにクジー要塞に退却するよう指示されている。砦に一個中隊を配置した場合、ある程度の足止め効果はあるものの200名以上を犠牲とするほどの効果はないとの反省によるものである。




 こちらは、男爵となったキーン。夕方自宅から寮に戻ってきたところ、寮の玄関口でソニアと出会った。


「あらキーンくん、今日もデートだったの?」


 世間の言葉にうといキーンもデートの意味は既に知っていた。


「いや、今日は別に用事があったんで、そっちの用事を済ませていたんだよ」


「ふーん。つかえないならどんな用事だったのか教えてくれる?」


「差し支えはないけれど、ちょっと信じられない話かも」


「何よ、もったい付けないで教えてよ」


「実は、今日の午前中王宮にいったんだ」


「王宮って王宮よね?」


「ソニアが何を言っているのかよくわからないけれど、王宮へいったんだ。そこで、国王陛下から男爵にされちゃった」


「えっ? もう一度言ってくれる」


「だから、王宮に呼ばれて男爵になったんだよ」


「キーンくんが男爵さま!?」


「そう。しかも名誉男爵じゃなくて永代えいだい男爵って男爵だった」


「永代男爵って?」


「年金はもらえないけど領地を貰えるんだって。それで男爵のくらいも領地も自分の後継者にのこすことができるそうだよ。世襲って言ってたかな」


 玄関でソニアとキーンが話をしていたら、また寮生たちが集まってきたので、みんなで食堂に移動することになった。


「それって初めて聞いた。じゃあキーンくんは今の大貴族みたいに領地を持ってるんだ」


「そうみたい」


「どこ? それでどこを領地にもらったの?」


「あのバツー」


「えー、大都市じゃない。すごーい。というか、ふつう男爵が領主をするような場所って田舎の村、一つか二つくらいじゃないの?」


「さあ、良くは分からないけど、通常伯爵クラスの人が領主をするくらいの場所だとは聞いたかな」


「それって、実質伯爵ってことじゃない!」


「あれ? そう言われればそうかも」


「キーンくん、そんなのもらって大丈夫なの?」


「ちゃんとした代官が今も治めてるって聞いたから、そっちは平気みたい。何かあってもアイヴィーがいるから」


「そうね。あなたにはあのアイヴィーさんがついているんだものね。それで学校の方はどうするの?」


「それは今まで通りで変わらないよ」


「よかった。キーンくんがいなくなると寂しくなるものね」


「ソニア、そう言ってくれてありがとう」


 周りで二人の会話を聞いていた寮生たちも頷いていた。





 それから軍学校では、キーンが制服に付けた少尉の肩章と襟章が話題になったくらいで、何事もなく月日は流れていき、2学期の期末試験が近づいてきた。その間何度かキーンはクリスといわゆるデートをして楽しんでいた。


 デートでのクリスとの会話で、付属校の校長が急に交代したという話が出たが、キーンには特に何も思うところがなかったので、「ふーん、そうなんだ」で終わっている。


 すでに、ゲレード少佐による放課後の1学期分の補習は十分であるとの評価と共に終わっている。


 ゲレード少佐の武術の実技ではゲレード少佐()キーンが強化をかけて、少佐と立ち合い訓練をしている。強化の強度を最初のころは0.5程度で立ち合い訓練をしていたが、今では通常強度で強化している。その関係で、またソニアの立ち合い訓練の相手がいなくなってしまい、これまでのペアを崩し、短時間で立ち合い訓練の相手を変える方式に移行した。





「なあ、キーン。期末試験が近いけど調子はどうだ?」


 キーンはトーマスと並んで軍学校の食堂で昼食を食べている。いずれキーンの向かいにソニアがくるので大抵はこの並びだ。


「ちゃんと授業に出て先生の話を聞いているから大丈夫だと思う」


「うん? 寮に帰ってからの勉強は?」


「えっ? 寮に帰って何を勉強するの?」


「は? 逆にキーンは寮で何してるの? 他の連中は俺も含めて学校で習ったことの復習や、これから習うことの予習をしてるぜ」


「復習? 予習? 僕の場合は自室の机に向かって大抵は魔術のことを考えながらぼんやりしてる」


「なんだ、本当に勉強してないようだな。キーン、今度の期末試験は大丈夫なのかよ?」


「うーん。そう言われると心配になったけれど、どうにかなると思うよ。ゲレード少佐にも1学期分の補習はこれで問題ないと言われたし」


「それは、いいことだと思うけど、例えば授業中先生の話で分からない事柄ってないのか?」


「うーん。授業で先生の話を聞いている限り分からないと思ったことはないし、一度聞いたことはたいてい覚えることができるから。ただ、面白くないと思ったことは、基本的に耳に入ってこないんだよ。さすがにそれは覚えられない。まあ、軍学校の授業の中で面白くないと思うのは魔術の授業だけだけどね」


 そこまで話していたら、昼食のトレイをもってソニアが向かいにやってきた。


「二人で何を話してたの?」


「キーンのヤツ、寮で勉強したことがないんだって。それでも、授業で聞いたことは聞いただけで覚えることができるから問題ないらしい」


「キーンくんは魔術の天才だとは認めてたけど勉強の方も一種の天才なのね。それでも何かわからないことがあれば私に聞きに来てね」


「ソニアはキーンにいやにやさしいな」


「それはそうよ。将来キーンが部隊を率いるようになったら私もキーンくんの部隊に配属されたいと思っているくらいだもの」


「ほう、それは面白い考え方だが、一考の価値はあるな。うーん、……。なるほど、そういう訳か。さすがはソニアだ。俺もキーンの部隊に入れてもらおう。なあ、キーン、良いだろ?」


「それは二人がいてくれればありがたいけれど、そんなに簡単に自分で配属先を決めることってできるのかい?」


「たとえば、軍総長がお友達くらいじゃないと難しいでしょうね」


「それだったら将来キーンが軍総長になれば、問題ないじゃないか。みんな軍総長から見れば部下だもの」


「それだとつまらないじゃない。やっぱり、中隊長と有能な小隊長って感じがいいのよ」


「それもそうか。たった50人しかいない同期が同じ中隊に配属されることはまずないだろうな」


「そうよね。そういえば聞いた?」


「なに?」


「軍が人を増やすって話」


「その話は、聞いた。何でも2年がかりで2割人を増やすって話だ」


「そう、それでこの軍学校でも来期の新人から40人ずつの2クラスで80名になるんですって」


「兵隊の数が増えればそれだけ将校の数も必要だものな」


「それで学舎とか寮とか建て増ししないといけないから、そろそろ工事が始まるみたいよ」


「いろいろ準備が大変なんだね」


「そのために、軍の中にも専門にこういった計画を立てる人がいるんだよ。1号生徒になったら、そっち方面に進みたい人はそれ用の勉強を1年間するんだって」


「なるほど」




注1:サルダナ軍

サルダナ軍の兵士は全て募兵により集められた兵士であり、職業軍人である。他国の募兵や徴兵による一時的な兵士と比べ訓練量が格段に多いため精強であると考えられている。その分兵士一人にかかる年間コストは他国と比べ3割増しから5割増しになっている。また、サルダナ軍は他国とは異なる特殊な軍制を敷いている。




ここまでで第5章は終了し、次話から『第6章 キーンの冬期休暇』となります。ブックマーク、☆等ありがとうございます。

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