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番外編 アイリーン視点 結婚します

「それで、その後いかがお過ごしかしら?」

「うん。アイリーンが励ましてくれて、前向きになってきたんだ。本当にありがとうね。何か、今度改めてお礼をするね」


 シャーリー様はそう微笑んで応えた。ふむ。少し、丸くなってきたかしら?

 出会ってから一年ほどになる。まだ幼さの残る可愛らしい顔立ちはそのままに、シャーリー様は一つの命の母になろうとしている。


「いいえ。シャーリー様がお元気になられたなら、それ以上に嬉しいことはありませんわ」


 シャーリー様へと私は思いのたけをぶつけ、それにシャーリー様が前向きになれたとして、お礼を言われるまでもない。すでにシャーリー様と出会い友誼をはぐくんでいるだけで、常に私は感謝の気持ちでいっぱいなのだから。


 シャーリー様と出会えたことは、おそらく運命と言うのだろう。姿を見せないので、色んな噂の絶えない人だけど、その内の一つが本当なのだろうと思ったけど、そうではなかった。

 ある意味頭がおかしいけど、少なくともただの狂人ではなくて、私の世界に素晴らしい視点をいくつも見いだしてくれる、光の導き手なのだ。


 これほど素晴らしい出会いは、私の人生に置いて二度しかない。一度目の出会いからは、男性同士の愛の素晴らしさを学んだ。そしてシャーリー様との出会いで、その素晴らしさの奥深さを学んだ。


 シャーリー様と出会ってすぐに、私は前世と言う新たな可能性を得た。

 前世と言うのは盲点だった。神が人の身をもって降臨することを思えば、人もまた新たに肉体を得て生まれて回ることも、考えて不思議ではない。

 であればこそ、男性性を持ちながら女性性を持ち生まれること、そして男性と恋をすることの、男女でありながら男性同士と言う矛盾が思考的に可能となるのだ。

 これは素晴らしい。男性同士の愛の素晴らしさを知らない人に、少しずつ教示する際に私は架空の物語を作成して、例えとして理解してもらうことから行っている。その窓口として、まず拒否感をいだかれにくく少しずつ理解を得るのに、とてもよい。


 それだけで、奇跡的な出会いだった。

 だけどこうして過ごすことで、さらに凄い、私の思考ではたどり着けない領域と出会わせてくれたのだ。


 私の中で、シャーリー様は女性でありながら、常に少年の立ち位置に置かれていた。だけど先日、シャーリー様に再び相談があると呼ばれてから、劇的な変化をもった。


「実は、お腹に、子供がいるんだ」


 シャーリー様は懐妊されたのだ。


 シャーリー様は不安に震えていた。男性である自分が、母になれるのか。ただしく親になれるのか。体が変わっていく不安、母となる肉体により精神の変化。

 男性として、母になろうとする、その姿。そう、私はまだ、頭が固かったのだ。


 私が創る男性同士の愛の話は、架空の物語だ。だからどんなに現実と似た描写があっても別人で、異なる世界の話なのだ。

 だと言うのに、私は現実に捕らわれていた。あくまで男女愛が世間的にある世界における愛しか書いてこなかった。


 違うのだ。妊娠する男性。それだって、架空の世界なのだから存在してもおかしくなかった。視野が狭かったとしか言えない。シャーリー様のおかげで、少しは柔軟に考えられるようになったと自惚れていた。足りなかった。私はまだまだだ。

 そう、世界は無限につくれたのだ。あらゆる愛が存在し得たのだ。


 例えば、男性同士が愛し合うことが当然である世界。そして妊娠する世界。すごい。そうなると当然、どちらが妊娠するかでも問題になるだろう。そうなると普段の関係だけではなく性格や家柄によりどちらが生むか揉めたり、逆にお互いに生ませたがったりすることもあり得るだろう。なにこれすごい。

 それによって、二人きりになったら普段と態度が変わったりすることもあり得る。無邪気な少年のシャーリー様が、あの見るからに性格の悪そうなクリフォード侯爵に生ませようとする……? すごすぎるぅ。


 これほどに、甘美な世界があったのだ。まだまだ、思考を巡らせば、もっともっと愛にあふれた世界はたくさんあるのだろう。そう考えるだけで、わくわくがとまらない。

 本当に、シャーリー様には感謝してもしきれない。今後もシャーリー様の人生を見守っていきたい。


 なのでシャーリー様に不安になられて、その精神の変調により万が一、お子に危険があってはいけない。私が万全にサポートして当然のことだ。何もお礼なんていらない。

 子をなし、男性の心を忘れないままに、母となる。その心境を少し聞かせてくれるだけで、この上ない活力になるのだ。私の明日への希望と言える。


「そう? アイリーンは、本当に優しいね」

「いいえ。お友達ですもの。当たり前ではありませんか」


 そう、当たり前のことだ。はぁ、出産が待ちきれない。今はまだ、体の変調を実感している段階で、見た目それほどお腹が膨れていないけれど、ここから大きくなるのだろう。

 そうなると、さらに気持ちも変わるだろう。できれば完全に女性的になってほしくない……いえ、けれど実際に男性として妊娠している設定で考えれば、子供に対しては母として、夫に対しては男として、と言うのもあり? その揺れ幅があるのもまた……子供の性別は男の子かしら。いえ、あえて女の子であってもありね。子供が生まれてからの心境の変化や、子供への態度も注意だ。重要な点だ。


「ありがとう。だから、アイリーンのこと好きだな。結婚式には絶対参加するからね」

「ありがとうございます。ですけど式をいつにするかは悩んでいるのです」


 私の婚姻も無事決まった。私の婿になるのは、ちょうどいい塩梅の相手を父が見つけてきたのだ。あまり野心が強すぎず、さりとて無能でもプライドがないわけでもない。顔は、正直凡百で、あまり好みではない。

 別に私の相手には、政略条件以外求めるつもりはなかったけど、やはりいざ現実に結婚するとなると、こう、想像を掻き立てる容姿の方がとつい贅沢を考えてしまう。創造の種にはシャーリー様がいるのだから、少しは妥協しなくてはね。


「そうなの? もしかして、あまり仲良くできてないとか?」

「いえ。ただ、シャーリー様が出席できる日取りが良いので」


 難しいところだ。今は体調も落ち着いているみたいだけど、先日まで外出できる状態ではなかったようだし、今日も無理しないよう大勢の使用人をつれて、時間も決められている。

 では出産してからと行きたいけど、出産してすぐ元気になられるとは限らない。できれば式の後にお話しできるくらいに時間をいただきたい。私も数年かけて熱心に活動しているので、それなりに理解を得られたかけがえのない友人はいる。その中であまり時間を取れず、まだシャーリー様とお会いできていない私の友人に直接お話ししていただく絶好の機会だ。


「アイリーン! そんなに思ってくれて、嬉しいなぁ。絶対、何があっても参加するから、アイリーンにいい日を選んでよ」


 その気持ちは嬉しいけれど、体調に不備があれば、侯爵は許可しないだろう。それを押して来られて、喧嘩されても……!? 女友達と会うことで、男女恋愛が前提である世界の夫夫で、夫が嫉妬する。その発想はなかった!

 今まではあくまで男性にだけスポットをあてていて、女性を出すとしても仮面夫婦や婚約者としてで、お互いしか見えていなかった。女友達と言う概念がなかった。

 はぁ、シャーリー様とごく普通に過ごすだけで、あらゆる場面で、創造につながる。素晴らしい。一生シャーリー様とお友達でいよう。


 あと、普通に喜んでそう言ってくれることも、普通には嬉しい。どんな設定を話しても絶対に離れて行かないことが確信できる友人は、さすがにそういない。その上で爵位も高くて父に付き合いを推奨されているし、適当に相手をしても全然怒らないし、付き合いやすい。

 最悪お話し会ができなくても、普通に参加はしてほしい。自分の婚姻に夢を見たりはしないけれど、一応人生の転機だし、マクベア侯爵家と付き合いがあることを公表することも今後に役立つ。


「ありがとうございます。決まったら、ご連絡しますわね」

「うん、楽しみにしているね。そう言えば、どんな人なの? 家柄とか性格聞いたけど、顔とか聞いてないよね。背は高いの?」

「うーん。そうね。シャーリー様にわかりやすく言えば、マクベア侯爵より背は高い、と思いますわ。顔は普通ですわね」

「へー? 普通なんだ? 背が高いのはいいよね。でも、顔普通って。有能でって褒めてたけど、顔は好みじゃないの? それとも普通の顔とのギャップがいいの?」


 ん? どうやらシャーリー様は、私と相手が思いあっていると思い込んでいるようだ。そのくらいお花畑脳の方が、創作内の人として書きやすいのでいいし、夢を壊さないよう付き合ってあげよう。


「そうですわね。背が……」


 背が、マクベア侯爵より高くて、ギャップ……? あえて、普通の顔が……あら? あり、かも?


「……」


 いや、マクベア侯爵はシャーリー様一筋だから、できれば他になにか、いいモデルがいないものか。


「あ、あのー、アイリーン? そんなに悩むとこ? えーっと、あの、別に、いいよねー、別に。貴族だし政略結婚普通だもんね。アイリーンのお父さんとかと仲良くしてお仕事ちゃんとしてくれたら、それが一番だもんね」

「父!?」


 ち、父、ですって? 義理の父子……!? あ、新しい!

 確かに政略結婚相手は、父が選ぶ。仕事を教える関係上、すでに私よりずっと長い時間を共に過ごしている。その為の相性を考えて選んでいる面もあるだろう。つまり、父は好みの相手を選んだと言える……? 父は強面気味だけど、けして地味な顔ではなく、長年の血統から漏れない派手な顔だ。人のことは言えないけれど。

 そんな父と、あの人が? そしてギャップ……まさかの、父が翻弄される側!? あ、ありだわ!


「え、そんな驚かなくても、お仕事を一緒にするわけだし、結婚って家族との関係も大事だし」

「え、ええ。大丈夫ですわ。私は冷静です。冷静に興奮していますわ」


 ああっと。危ない。シャーリー様との会話がおろそかになっていた。それは構わないけれど、さすがに素晴らしい発言をしてくれたのに、失言したと勘違いさせるのは申し訳ない。


「それ、冷静じゃないよね? あの、ごめんね? なんだか、惑わせるようなこと言って。えっと、もしあれだよ? アイリーンが今の結婚相手嫌とかなら、加勢するよ?」

「そんな、とんでもないことでございますわ。ありがとうございます、シャーリー様。シャーリー様のおかげで、私はとてもよい婚姻ができそうですわ」

「え? そうなの? えっと? よくわからないけど、いいなら、よかった、ね?」

「はい」


 ああ、この後、さっそく新しい世界を書こう。

 これだから、シャーリー様との出会いは神に感謝せずにはいられない。素晴らしい結婚生活になりそうだ。ああ、何とこの世界は素晴らしいのか。世界は愛で溢れている。


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[一言] そんな愛の溢れ方、チョット嫌。
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