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のら犬  作者: 田村弥太郎
9/13

おっパブ

中田が出向して二年、建設施工部門が系列会社に移管した。その会社には携帯電話関連部門はなく中田たち担当者が上司プロパーも含め、出向した。

今までいた携帯電話会社が発注者となり、その施工を全て受注し元請けだった施工会社に差配した。しかし、担当者たちのやる事に変わりはなかった。ただ、施工会社からも出向者が来て、工区担当者の下に付いた。伴い、中田の名刺の肩書も課長になったが形式上のものである。

今まで、基地局工事の竣工検査は中田が行っていたが、これにより施工側の担当者として発注者側の検査に立ち会い、説明する。検査者は顔なじみで中田の説明に頷くだけだった。出張で泊まるホテルも同じで現場まで、大抵一緒に行った。現場では発注者と受注である。中田はきちんと敬語で接した。

時々、相手先の部長から電話が来た。

 ねぶた祭りと竿燈祭に夫婦で行きたいが、宿が取れないかと聞かれた。祭の一ヶ月前である。一般的に半年先でも、難しい。

そういう時は施工会社に問い合わせた。大抵の施工会社は商社系のグループに属していた。中田がずっと対応していた施工会社は三大商社の一員だった。系列にはシティホテルがあった。シティホテルには営業枠があり、そこに部長を押し込むと大層、悦んだ。

「中田さん、森さんが転勤するので青森の検査に連れて行ってくれないかな」

部長からの電話だった。

「承知しました」

中田は返事する。

ニ泊を予定した。検査が終わった夜、森と青森の繁華街に繰り出した。

「おっパブ、どうですか」

中田はおっパブを知らない。若い森が反応した。

「行ってみたい」

中田はその夜、森の希望する所にはどこでも行くつもりだった。

店には、白いシャツ姿の二十歳前後の若い子がカウンターに並んで座っていた。

各々、客の脇に座るが大音量の曲が流れるとブラックライトになり、客の膝の上に跨がり胸をさらけ出した。中田のワイシャツがブラックライトで紫色に発光していた。

前払い、三千円程度であった。

 中田は隣に座る女の子に聞いた。

「あなた、これで幾ら貰っているの」

「時給千五百円、青森じゃいい方だよ」

女の子は屈託なく言った。確かに青森には職場が少ないと思う。押しなべて皆、可愛い顔をしていた。

森は満足げだった。

おっパブがブームになった。森が会社で言い触らしたらしい。

青森の検査に行きたがる者が増えた。中田は皆をおっパブに連れて行った。終いには膝の上に乗せる事もせず、女の子と話ししているだけになる。

転勤すると言う事でもう一人連れて行った。置局を担当していた顔馴染みの矢崎だった。

繁華街に出た。居酒屋を出て、呼び込みの男に聞いた。

「青森で一番高いクラブは何処」

男に案内され、店に入った。ヘネシーを入れた。一時間程で出た。ボトルは別にして一人三千円だった。

「もう、青森に来れないのでボトルは持って帰る」

酔いの回った中田はボトルを持って店を出た。

同じ呼び込みの男を見つけた。

「本当に青森で一番のクラブを教えて、これはやる」

とボトルを差し出した。

次の店もさほど変わらず。店を出た時はまたボトルを手にしていた。

「よし、おっパブだ」と二軒はしごした。

二人ともすっかり酔って、矢崎はソファに立ち上がり女の子を抱き上げていた。

翌朝、中田は頭がガンガンしながら青森市から検査する現場がある、むつに向かった。太陽が黄色く見えると言うのを体感した。

吐き気をもよおしながら、検査を終えた。後は帰るだけだ。今回は矢崎を乗せ、道中は車だった。八戸から高速道に乗る予定だった。

中田はちょうど三沢の辺りで携帯電話が無い事に気付いた。

「矢崎、携帯電話を無くした」

業務用の貸与品である。

二人は青森市に戻って、昨日の行程を一軒ずつ訪ねた。

見つかったのは、最後に行ったおっパブだった。店はまだ開いていない。

「矢崎、呼び出してみて」

矢崎が呼び出した。店の中から、呼び出し音が聞こえた。

「ここだ」

二人とも、安心した。店の近くに車を停め、店のネオンが点くのをひたすら待った。すっかり日が暮れていた。

「ええ、検査が遅れまして」

矢崎が課長に電話した。

「課長、優しい。泊まっていいですよ」だって。

中田は苦笑した。

店のネオンが点く気配がなかった。近くにいた呼び込みの男に聞いた。

「あの店、何時に開くの」

「十時ですよ」

中田と矢崎は顔を見合わした。

ひたすら待ち、携帯電話を取り戻した二人は泊まらずに帰った。


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