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のら犬  作者: 田村弥太郎
8/13

怒られた

携帯電話のエリアは現況を補完したり、圏外地域をなくすように構築される。そもそも、当初は自動車電話と呼ばれたように幹線道路をエリアとしたものから都市部、そして屋内でも使用できる様に進展してきた。

エリアは主に無線、無線機を管理する部門が営業からの要望(ユーザー要望やクレーム)も踏まえ、選定する。それを基に施工部門は場所を探し、既存の建物や鉄塔を建てアンテナや無線機、関係する付帯機器を設置する。

中田は当初、その施工担当だったのだが、場所を捜す置局も兼ねる事になった。

県を単位とする工区にはそれぞれ担当がいて、それぞれ特徴がでた。もちろん、場所の候補が決まってもその決定権は当然ながら無線の部門が持ち、シミュレートしてNGになる事もあった。

置局は低い場所より高い場所、想定するエリアの中心が望ましい。近くに障害となる山や高層階の建物はない方がいい。

しかし、実際となると道路がないといけない。電気と通信回線が引けないといけない(注、現在太陽光発電の基地局が少数有り)。また、国立公園や航空法による規制、鉄塔や電波に対する住民感情などを考慮しなくてはいけない。

例をあげれば、白鳥などの渡り鳥の飛来地周辺は厳しい高さの制限がある。

担当者たちはそれらを踏まえ、現地に足を運んだ。

 その年は、予定した局の数が少なく外部に委託していた実務交渉を社内でこなす事になり担当者たちは、法務局に行って登記簿、公図から所有者を調べ、飛び込みの交渉をしていた。

「ご住職をお願い致します」

中田の近くの席で他県の担当者が電話をしていた。回りの席で一斉に笑い声があがる。

「また、お寺の土地借りたの」

確かに地方では、高台にある寺が多い。

また、ある担当者は山があればどんな悪路でも、車で上って行った。

青森は大学へのエリア要望が多かった。一番手っ取り早いのは、大学の建物自体に設備を設置する事で、中田も飛び込みで交渉した。私立大学のためか、何れも好意的だった。

屋上の調査では、大学の担当者から学生たちのアパートの方向を聞かされると、そちらに設備を寄せる事もすんなり了解された。

後に、市内にある関連高校にも設置する事になる。

全く圏外だった町では、中田は車で走り回った。崖に挟まれた狭い川沿いにある市街地に、予定する小型の基地局を設置したのでは電波が遮蔽されるのは明らかだった。どうしても高い場所から覗き込む場所を探した。しかし、両側の崖の上にあるのは小学校と中学校だった。

少なくとも東北で、小、中学校に携帯電話の基地局を設置した事例はなかった。

昼飯を食べ、中田は意を決して役場に行った。総務課が相対した。

「どうしても、中学校の敷地内が最適と考えられ、基地局を設置したい」

担当者も携帯電話が使えるようになるのに異存はないようだった。

「では教育委員会に行きましょう」

 思いもよらぬ返事に中田も面食らった。

教育委員会は役場から、離れた別の建物で車で移動した。

「それでは、校長に会いに行きましょう」

挨拶もそこそこに中学校に向かった。

 設備の概要を説明した。

「ええ、いいですよ」

校長もあっさりと了解した。

ついでに場所も見当をつけた。

場所が決まると、周囲の見通し写真が必要になる。撮影位置はアンテナの高さからが一番最適だった。

 特にここは崖下が見えれば、最高と言える。

校舎の裏手、壁面に地上から屋上に上がるためのステップが埋め込まれていた。

「すいませんが写真を撮りたいので、上ってかまいませんか」

断りを入れる。

アンテナの高さと思しい所まで上る。

「おじさん、何してんの」

窓から、女子中学生が声をかけてきた。他にも、中学生たちが顔を出して面白そうに見ていた。

中田は用地交渉の時はスーツを着て、工事の時には作業着を羽織る。

この時はスーツのままだった。アクロバットよろしく、片手でカメラを持ち周囲を撮影した。

結局、半日で交渉は完了した。

夏、中田は同僚と青森に来た。工事前、この場所が見たいと言う。

夏休みである。中田はあまり気にせず、敷地に入り場所や周囲を説明した。近くの花壇では、麦藁帽子をかぶった初老の男性が草取りに勤しんでいた。

ふいに男性は立ち上がり、麦藁帽子をあげた。

「君たち、何をしているのだね。用件があれば事務室に断りを入れて下さい」

校長だった。

中田が平謝りしたのは言うまでもない。

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