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のら犬  作者: 田村弥太郎
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土下座

一般に分譲マンションへの基地局の設置は時間が掛かる。賃貸マンションならば、オーナーの可否で済むので、置局の担当者はできるだけ賃貸マンションを選択した。

分譲マンションは管理会社を通し、管理組合に打診する。

 基本は設置の概要を説明し、住民の総会で賛成を得る事になるが、総会を臨時で開いてくれる事は少なく、年に一回の定期総会に合わせて日程が組まれる。そこで、可決されれば、後は理事会との交渉になるので、進展は速くなる。

その間に、建築図面から強度計算、設計に係る調査など、数回は訪れる事になる。

中田は組織の改変で用地選定から竣工まで担当する事になった。

青森市にある、そのマンションは交渉途中を前任者から引き継いだ形だった。交渉経過は早いとは言えなかったが、粛々と進み契約も間近となった頃だった。

最上階に丁度、引っ越して来た住人がいた。奇しくも、この住人、エレベーターのメンテナンス会社に勤めており、いろんなマンション、ビルに行き、その中には基地局があるビルもある。ここの賃貸料はいくらだと世間話でも耳に入るらしい。

中田が提示していた金額にクレームを入れてきた。管理組合の女性理事長は早速、値上げを通告してきた。

中田の会社の設備は他社と比較して、コンパクトな方であった。当然、賃借料も少なめになった。と説明しても理事長に聞く耳はもうない。割高になるが電波のエリアを考えれば、損とは言えない。

このマンションは資産用に持っている住人が多かった。中田は、当時の知事がこのマンションから黒塗りの車に乗るのを見かけている。

女性理事長も電器店を営む自宅があり、後日、契約の際、中田はその電器店を訪ねていた。

とにもかくにも、始まった工事は中途、止まってしまった。また、同じ住人だった。

基地局には外部から引き込む線が基本的に二つあった。電気と通信回線である。

方法は電柱から、直接建物の壁に引き込むものと、電柱から地中の管を通り、建物に引き込むものがあった。

このマンションは後者であり、電柱からマンションに複数の埋設管があり、その中の一本を基地局用に使用したのだが、勝手に使ったと怒っていると言う。

クレームはケーブルテレビのケーブルが入った配管、マンションが使っていた配管だと言うことらしい。

元請け会社が言うには事前調査の時点では何も入ってなかったと言っている。管にはまだまだ余裕があった。

ただ、住人が怒り、工事が止まっている。マンション側は発注者を呼んだ。是非は別として、元請けも責任を感じ部長級と何故か顔見知りの営業まで来た。

マンションの狭い管理人室で話し合いが持たれた。パイプ椅子に中田とクレームを入れた住人、そして何を怒っているのか分からないまま、理事長もいた。元請けは壁際に立っていた。

「事前調査では空いていましたので、そのまま使わせて頂きました」

 中田は元請け会社の言葉を、そのまま口にした。

「嘘だな。あのケーブルテレビは二年前から入っている」

勝ち誇った顔だった。

中田は元請けの顔を見た。

「いや、それについては弊社が悪いので・・・」

部長が思わず、間に入った。

管理人室の小窓を通して、外が見えた。街灯に照らされ、横殴りの雪が降っていた。

「悪いのは、工事会社じゃない。発注者が悪いからだ」

「土下座しろ」

それもまた、一つの理屈である。中田は立ち上がり、パイプ椅子を畳んだ。床はコンクリートの土間で、冷たくなっていた。

「申し訳ありません」

顔をあげる前に相手は部屋を出て行った。

「ごめんなさいね」

 中田が立ち上がると呆気にとられた理事長が中田の汚れたひざ頭を叩いた。

外は吹雪になっていた。

「中田さん、飲みに行きましょう」

営業が言った。

中田は、両腕で雪を掬い、笑うと営業の顔目掛けて投げつけた。

「だめだよ。おいらは割り勘かおいらが奢るのじゃないと行かないのだよ。でも、みんなは行った方がいいよ」


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