六話 王立騎士団とオルタス
マウロイの王。エンデメリコ・リュビイシュカ・マウロイは暇人だった。仕事を部下に押し付けやりたい放題やっていた。何か仕事をすれば良いと思うのだが、任せっきりが祟って、何をしたらいいのか分からなくなってしまっていたのだ。
その上、なぜか信頼が厚い。この王が一言言えばそれで全て決まってしまう。
そしてこの日もまた、暇を持て余していた。一つ欠伸をする。そこへ王立騎士団団長ロバートがある通達文を持って現れた。
「王様、隣国のアルトニアから通達がきております」
「またか。では読み上げよ」
「はっ!では失礼して…」
ロバートはゴホンと咳払い。
「読み上げまする『やっほー☆エンデリンコ元気?俺は元気だよー!!んで、ちょっと前に俺ん所で勇者誕生したんで、エンデリンコの国に立ち寄るかも?ってことでよろしくなー!別に殺したって良いぞ。人間にやられるようじゃ勇者とは言えんからな!!じゃねー☆』」
「ロバート、お主やはり物真似上手いのう。曲芸師にでもなったらどうじゃ」
「いえ、それでは王をお守りできぬ故」
「ほっほっそうかそうか。しかしまた名前間違えられておるのう。わしも慣れたがの」
「ところで、勇者の処遇は如何様に?」
「うむ、丁重にもてなせ」
「しかし、その勇者と見られる一行が我が国で問題を起こしておりまして」
「問題?何じゃそれは」
「兵と揉めております。先ほども戦闘があったと報告があります」
「どこの兵じゃ」
「王都防衛軍第七部隊でごさいます」
「オルタスか。仕方がない。殺すのは惜しいが、処刑せよ」
「し、しかし」
「貴様はアルトニアと戦争がしたいか?」
「い、いえ」
「ならばやれ。別に殺したって良いなんてわざわざ書くくらいだ。そうなる事を望んでおるのだ。アルトニア王は我らの友人を装い、この国の領土、貿易、資源そのなにもかもを狙っておる。奴らは勇者を大義名分に利用するつもりじゃ。奴らの思い通りにさせてはならん。第七部隊を殺せ。オルタスを殺せ。一族郎党根絶やしにしろ」
「承知…致しました」
王はそれきりまた、いつもの暇人へと戻っていった。
ロバートは決心した。彼はそうなると残忍であった。すぐに騎士団へと命令が飛ぶ。
「第七部隊を抹殺せよ。奴らは王に仇なす逆賊ぞ。まずはオルタスの家族を殺せ。生きる希望を殺せ。そして奴らは一般兵卒たったの20人。我ら王立騎士団の敵ではない。すぐさま仕事へかかれ!王への忠誠を見せてみろ!!」
血の夜が始まった。
王都防衛軍第七部隊の仕事は街の治安維持だった。三年前まではゴースが隊長だった。しかし、当時王立騎士団副団長だったオルタスが左遷。今のポストについている。
初めはゴースも戸惑った。突然現れた男が急に上司になったのだ。しかも仕事をしない。当然ゴースの不満は貯まっていった。しかしある日、街で事件が起きた。剣を持った男が数名、少女を人質に立てこもったのだ。
皆為すすべもなく立ち尽くしていた。戦いには当然勝てるが、少女の命を優先させるとどうしようもなかった。
そこに遊び歩いていたオルタスが通りかかったのだ。
「オルタス!何をやっていたのだこんなときに!」
「それより、何が起きた?これは一体どういう状況だ?」
そのときのオルタスの眼には凄みがあり、ゴースは逆らう事ができなかった。
「ふむ、そうか。よし、兵で周りを固めろ。俺が人質を救い出してくるから、その後はお前らで奴らを抑えろ」
「わかった」
オルタスは立てこもっている建物に近づいていった。
「来るな!」
外で見張っている男が叫ぶ。
その瞬間、オルタスは魔法で自分を強化し、目にも止まらぬ速さで一気に距離を詰め、見張りの男に体当たりした。
見張りの男は壁を破壊し、2枚目の壁にぶつかり止まった。驚いたのは中にいた他の男たちである。
「なっ!なんだってんだ!こっちには人質が居るんだぞ?」
オルタスは素早く敵の数を数える。7人。
また、風のように動き、近くにいた男を一人殴りつける。拳が当たった瞬間、空気がはじけて殴られた男は窓を突き破り外へ吹っ飛んでいった。
次に少し仲間と離れたところに立っていた男の襟を掴み、二三人固まっていた所へ投げた。四人は一塊になって倒れた。
後二人。
「よっ!寄るな!人質がどうなっても良いのか!?」
残った二人のうち、ひとりが叫んだ。
「人質?やって見ろよ?ほら」
「ひっ!ひいぃ」
オルタスの凄みに耐えかね、男は人質を離してしまった。そこを見逃さなかった。
素早く少女を持ち上げ、壁を破壊し逃げ出した。
「ほら!突撃だ!!」
人質の居なくなった彼らは残らず捕らえられた。
「オルタス!」
「ようゴース、俺もたまには仕事するだろ?」
「あ、ああ。素晴らしい働きぶりだ」
オルタスは抱えている少女を下ろし、話しかけた。
「よう、怪我はねぇか?」
「うん」
「そっか、怖かったろう。もう大丈夫だからな!」
「怖くなんか無かったよ。兵士のおじちゃんたちが助けてくれるって思ってたもん」
「ふふっそうかそうか。さ、そろそろ帰ろうか」
オルタスがそう言った所で、少女はしくしくと泣き出してしまった。
「おいおいどうしたんだよ?やっぱりどっか怪我してんのか?」
そこへゴースが言った。
「その子、両親を殺され、家を焼かれたんだ。目の前でな」
それを聞いたオルタスは、
「おい、うちへ来ないか?かわいい妻も居るんだ。料理も旨いぞ」
「オルタスお前」
「お前名前は?」
「メアリー」
「そうかメアリー。良い名前だ。両親はさぞお前を可愛がっていたんだろうな」
「…」
「メアリー。泣きたいときは思いっ切り泣け。涙は我慢するもんじゃない。今見えている優しくない現状が、ぼやけて見えなくなるくらい泣けば良い」
メアリーはわんわんと泣いた。
ゴースは、メアリーを見つめるオルタスの、優しげな顔を見てついていこうと決めた。
そして今に至る。
ゴースはオルタスに対して絶対の信頼を置いていた。ゴースには家族がいなかった。そもそも、第七部隊で家族が居る者はもうオルタスだけだった。一年前に他国から疫病が蔓延し、他の者達は既に、両親家族を亡くしていた。
第七部隊は本来、そういう者達の寄せ集めであった。
王様の名前ロシア人みたい