二十三話 赤い稲妻は誰も責めない
彼らは走った。何もない草原を。ただ敵国へ向けて真っ直ぐに。その敵国からも軍勢が走り寄ってくる。叫声を上げながら。
「見えてきたぞっ!!敵だ敵だっ!!目に見える敵は全て殺せ!!!行けっ!行けぇっ!!」
「潰せ潰せ潰せぇえい!!!眼前に迫り来る者は全て敵だ!!!圧し包め!数で圧倒しろ!!」
アルベリート側の作戦はただの全軍突撃である。アルベリートを包囲する四カ国の間には距離がある。そのためオーガーン同盟国の三国を無視し、一気に敵の本陣であるオーガーンへと攻め込もうというハジメの提案をヘーベリックが承諾した。アルベリート防衛はクリシュティナ達『守』の枝団に全て任せてある。
ハジメ一行の内、突撃へと参加したのはハジメとオルタスのみである。マイケル、ロザリンド、ハルは壊れてしまった方角の壁から、もしも三国が攻め込んできた場合の戦力になる。
対するオーガーンの戦略はその圧倒的数の差を利用した包囲戦だ。横長の陣形で、突撃された部隊に後退させ、左右の部隊を前進させることで、敵を包囲しようという作戦だ。
そのオーガーン軍の先頭にいる馬に乗った男は、驚くことにオーガーン帝国帝王、イングラム・エルツェシュバインその人である。
イングラムは既に抜かれたそのダーインスレイヴを掲げる。すると天から稲妻が剣へと落ちてきた。
「オーガーン大帝国全ての国民達よ。見よ。しかと見よ。これが我々の持つ雷だ。なすすべ無く敵の眼前へと迫り全てを焼き尽くす雷だ。見よ。見よ。余のオーガーンへと刃向かった者達の末路だ」
イングラムがその赤い稲妻を纏った剣を前方、アルベリート軍へ向けると、稲妻が弾け飛んだ。
アルベリート軍を引き連れ先陣を切り走るハジメ。彼は羽織を脱ぎ赤い着物を襟を逆にして着ている。腰には太刀を差している。野太刀は抜刀して肩に担いでいた。
その隣にはオルタスがいる。首元までカバーする胸当てと、前腕と手の甲のみを覆う篭手だけという軽装ではあるが、武器が多かった。左右の腰にナイフを一本ずつ差し、左の腰にロングソード、右の腰にはかつてロバートの物であったエストック。背中にメイスを担ぎ、右足の腿にクロスボウを装備している。矢は左肩にかけてある矢筒に入っている。
「オルタス!そんなに武器担いで重くねぇのかよ!?」
「必要最低限しか持ってきてねぇよ!」
「お前の必要最低限はそんなに重装備なのか」
「ロングソードは対多数の場合にヒートのエンチャントして、一気にカタを付ける為の切り札」
「ほう」
「エストックとメイスは魔力が尽きてきた場合に対多数で使う。鎧を貫通して攻撃できるのは大きい」
「ほほう」
「クロスボウは対遠距離用。俺は遠距離魔法があまり得意ではないし、そもそもそんなに魔力量が多くないから、魔力消費の大きい魔法はあまり使いたくない」
「ほー」
「そんでこのナイフは武器が使えなくなったり、片腕が使えなくなったりした場合に使うんだが、接近戦ではナイフの方が有効な場合もあるから、使いどころは多いな」
「ほけきょ」
「聞いていたのか?」
「昨日トイレに行って手を洗わなかったところまでなら」
「殺すぞ!!」
「クリシュティナって美人だよな」
「あ?あ、ああ……そうだな」
「…………」
「…………お前そんなんでごまかせないからな!!後で覚えてろ!!」
「お、見えてきたぞ!」
アルベリート軍の前にオーガーン軍が現れる。そのときオーガーン方面から赤い稲妻が飛んできた。
「なんだ!」
「赤い……稲妻?」
「僕をせめる!」
「おい落ち着け青くない!!」
「おいおいおいおい!!!来るぞ来るぞ来るぞ!!」
兵士達に動揺が広がる。そしてその赤い稲妻は僕を責める事なくアルベリート軍中央を駆け抜け、爆発した。
「あ、あああ……」
「うあ……死んだ……みんな……うあぁ…」
「赤い……稲妻……」
稲妻はアルベリート軍のおよそ半数の命を奪った。
それでもアルベリート軍はただ突撃するだけ。オーガーンは作戦通りに中央の舞台を後退させアルベリート軍を取り囲んだ。洗練された動きだった。
「囲まれたぞ!?」
「こんな簡単に!?」
「どうしたら……どうしたら……!」
「ああ……!終わりだ!もうおしまいだぁ!」
アルベリート軍に動揺が走る。しかし
「だからどうしたと言うのだ!!進め!進め!!何をためらっている?勝利をもぎ取るのではないのか?その声は偽物か!?たかが半分だ!勝利!!勝利!!勝利!!勝利をォォォ!!!勝利を以て復讐は完遂される。鬨の声をあげよ!再び奴らに聞かせてやれ!!」
そう、ハジメが叫ぶと
「そ、そうだ!」
「やってやる!やってやる!」
「復讐を!!復讐を!!!三年前の復讐を!!!」
兵士達が士気を取り戻した。
「そうだ!そうだ!そうだ!そうだ!そうだ!そうだ!そうだ!そうだ!その意気だ!!!殺せ!!殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!目に付く者は全て殺せ!!!いけっ!いけっ!いけっ!いけっ!いけっ!ぶっ殺せ!!!」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
次に動揺が走ったのはオーガーン軍である。
「なんだ!なんなんだこいつら!!」
「ひ、ひいぃ!」
「どうして圧倒的に絶望的な立場なのに士気を失わない!?」
しかしオーガーン帝国帝王イングラムは叫ぶ。
「怯むでない!恐れるでない!相も変わらず我々は圧倒的に有利なのだ!押しつぶせ!!押しつぶせ!!!押しつぶせえぇい!!!!」
オーガーン軍もより一層士気を高め、いよいよ本格的にぶつかり合う事となる。
十一話のセリフを大幅に変更しました。それと十八話にセリフを追加しました。




