二十二話 ヘグニかく答えり
「報告!敵国アルベリートから多数の兵士が向かっております!このままではおよそ四時間で南門に到達します。」
報告を聞き、オーガーン帝国帝王、イングラム・エルツェシュバインは威厳のある重い声で命令を下す。
「返り討ちだ。当然だ。奴らに我々の雷光を見せつけてやれ。雷神オーディンの雷を奴らの頭上に落としてやれ。ついにその時が来た。さぁ兵を集めよ」
「仰せのままに!」
兵士達は隊列を組み、まっすぐ帝王を見つめる。その帝王であるイングラムは用意してあった演説台へと登った。十万の兵士達の一糸乱れぬ敬礼に、広間の空気が動く。
「聞け皆の者!ついにこの時が来た。ついに我らの悲願の時が来た。彼らアルベリートの魔法技術を手に入れる最大のチャンスがやってきた。」
「ついに」
「ついにやってくる」
「ようやくだ」
兵士達が口々に歓喜の声を上げる。
「見よ。『ファイア』」
イングラムの手の平の上に小さな炎が現れる。
「火だ」
「赤く燃える火だ」
「我々は自然現象を再現することしかできない。我々の想像力が足らんのか?我々の魔力が足らんのか?否。魔力を形作る言葉を知らんのだ。神の言葉。それをアルベリートは多く知っている。ただそれだけのことだ。そう、たったそれだけのことだと言うのに我々とアルベリートでは魔法文明に天と地ほどの差がある!余はこれが欲しい。欲しくてたまらん!」
「俺も欲しい」
「私も」
「僕だって!」
「皆欲しいのだろ?ならば手に入れよう!我々が築き上げた科学文明の、更なる上を目指して!」
「「「おう!」」」
という兵士の叫びが、ビリビリと広間から国中へ伝わっていく。
「勇ましい兵士達よ。余の自慢の勇士達よ。もうすぐ彼らはここへやってくる。哀れにもたったの一万の兵で進軍している。ただただ慈悲を以て叩き潰せ。我々が彼らの技術を手に入れる為にいかに努力してきたかを思い知らせてやれ。諸君。オーガーン大帝国兵士諸君。その苦労がようやく報われる」
シンと静まり返った広間に、すすり泣く声がそこかしこから響く。
「もう一つ喜べ諸君。この戦争に勝利した暁には、オーガーン周辺は平和を手に入れる。もう戦争などする事も無くなるだろう。マウロイは中立国。アルトリアは小国。いずれも我々に手出しはしない。エリシュナ、インベルド、ベイランド。この三国は余の思想を受け入れてくれた。良き王達だ。尊敬に値する王達だ。だがアルベリートは、あの愚王は受け入れなかった!」
イングラムは演説台に拳を思い切り叩きつける。
「我々が与える恩恵は我々の力が守れるだけの平和!そしてこの科学技術の一部!これで満足できぬのか……っ!強欲な王め!……さぁ諸君。アルベリート国王の首を切り落としに行こう。そして哀れなアルベリート国民を救ってやろう。その為の犠牲はやむを得ない。諸君らの子が孫が、曾孫が、子々孫々未来永劫笑って生きられるように、これより後に戦火があがらぬように!そのためならば余も剣を抜こう!」
イングラムは腰に差してあった剣を抜き、掲げる。金の柄には蔦や蛇の装飾がなされ、赤く雷を帯びたその細い刀身は、うねうねと禍々しく歪んで見えた。
「ダーインスレイヴ」
「恐るべき魔剣だ」
「ヘグニかく答えり……」
「彼らが和解を求めるにしても、もはや遅すぎる。余はこの剣を抜いてしまった。誰かを殺すまでこの剣は鞘に納まらぬ。進め!平和の為に!!彼らアルベリートに消えぬ傷を付けてやる為に!!我々の悲願の為に!子ども達の為に!!戦おう諸君。未来の為に、どうかここで死んでくれ!!!」
「おぉう!!!!!」
先ほどよりもずっと大きく乱れのない、兵士達の叫びが再び国中へ響くだけでは収まらず、国境を越えて響き渡った。
「行こう。開戦だ!」
アルベリートとオーガーン両国の、二度目の武力衝突の始まりである。
さすがに1日でミイラにはならないよなぁ




