例えばどこかの王様が
例えばどこかの国の王様が、酷い差別主義者だったら。例えばどこかの亜人種が、どこかの国の王様に嫌われていたら。例えば、王様が最強の存在を知っていたら。
あるところに鬼嫌いの王様がいた。その王は鬼の住む鬼ヶ島に、事ある毎に戦士を派遣していた。しかし鬼の一族は総じて戦闘能力が高く、皆返り討ちにされていた。
王は激怒した。
「なぜ誰も鬼の首を取ってこれぬのだ!情けない!」
鬼はとにかく強かった。鬼ヶ島という岩だらけの島に住む頭に角の生えた亜人種。厳しい環境で生き抜くため、鬼の男は屈強な体を持つ。鬼の女は、男に敵わぬまでもかなりの怪力を持ち、巨大な岩を片手で持ち上げる。そして何より、鬼の角にはそれぞれ固有の能力があり、対峙するまでどんなものか分からないため、脅威であった。
王はそんな鬼の討伐のため、東方一の戦士を呼んだ。その戦士は二振の刀を脇に差し、拳銃を一丁腰にぶら下げていた。
「そなたに鬼の討伐を依頼したい。そして鬼ヶ島にあるという魂喰を持ち帰って欲しい」
魂喰とは鬼の一族に伝わる刀で、斬った者の魂を所有者が奪うことのできるという妖刀である。
男は言った。
「おう良いぜ。一度鬼とは戦ってみたかったんだ。でも魂喰は探すのめんどくせぇから、俺が殲滅した後お前らで探してくれ」
「ふむ、まあ、良いだろう。ではそなたには鬼の討伐のみを依頼する」
戦士が謁見室から出ると、待ち構えていた兵士に捕まった。
「私も一緒に鬼ヶ島へ連れて行ってはくれないでしょうか?」
「私も」
「私もお願いします」
と、三人が言い寄ってきた。
「良いぜ、ただしお前らは船上で待機だ。戦場へ出るのは俺一人でいい。間違っても船から降りるなよ?間違って斬っちまうからな」
そうして戦士は三人のお供を連れて、鬼ヶ島へと船を出した。
鬼ヶ島が見えると、三人のお供は震えだした。
「怖いのか?」
「あなたは、怖くないのですか?」
そう言われて、戦士は笑う。
「恐怖?恐怖など、俺はとっくに斬り捨てた。今あるのは戦場への欲求!戦って戦って戦い抜いて、いつか出会うであろう俺より強い奴に殺される。だだそのために戦っている。だだそのために生きている」
三人のお供が鬼ヶ島に抱いていた恐怖は、戦士に向けられた。恐るべき強者、生物としての格の違いを感じ取っていた。
「さ、着いたぞ、鬼ヶ島だ。鬼退治だ。血がたぎるわ」
そう言って戦士は船から飛び降りて、鬼ヶ島へと走っていった。
しばらく走ると、広い場所に出た。そこには鬼が集まっていた。
「なんだ!?また人間が!」
「迷い込んだのではないか?」
「貴様何者だ!名乗れ!!」
戦士は刀を放ってニヤリと笑う。
「敵だよ、敵さ!名などいらんだろう?お前らを殺しにきた!間違いようの無い敵だ!さぁほら、早く戦いの準備を始めろ!武器は?戦法は?お前らはどれだけの数が居て、どれくらい強いんだ?なあ?早くしろよ早く!待ちきれないぞ!!さっさと殺しにかかってこい!!!」
それを聞くと鬼たちは一斉に武器を取り、戦士に立ち向かっていった。
「そうだ、それでいい」
戦士が横に一閃。ただ一瞬の後に先頭の鬼たちは両断された。それを見た後続の鬼が立ち止まった。
「はははっ!立ち止まったな!」
そう言うと目にも止まらぬ素早い動きで鬼の集団に突撃し滅茶苦茶に斬った。鬼たちは今見えない敵に殺される恐怖を体験している。反撃しようにも既に斬られている。恐るべき殺戮のド真ん中に立ち戦慄している。もはや戦意を失い逃げ出す者もいた。しかし戦士はそれを逃がさない。
「ははは…なんだこれは。なんなのだ。これが最強と謳われた鬼の力か?弱いぞ……弱すぎる」
しばらくすると、屍の山が出来上がっていた。
「ひどい有り様だ。楽しみにしてたのに、残念だ。よもやこの程度とは」
戦士の思考はもう殺し合いから殺戮へと移った。彼は獲物を探して走り出した。そして鬼の村を見つけた。
「おぉい!!鬼ども聞けぇい!!俺はお前らを殺しにやってきた!!敵だ!死にたくなければ俺を殺してみせろ!!鬼の強さを見せつけろ!!」
そう叫ぶと、老いた鬼が表れた。
「なんだ貴様は?お前1人か?」
「お主、我らが同胞を殺したようじゃの?なぜじゃ?なぜ儂らは殺されねばならぬのじゃ」
「弱いからだ。弱いから殺される。弱いから蹂躙される」
「なんと理不尽な…理由も無く儂らは殺されるのか」
「そうだ、理不尽だ。戦場ってのはそういうもんだ。弱き者はどこかの強き者のワガママによって蹂躙される。あの土地が欲しい、あの技術が欲しい、力が欲しい…恨み辛みに嫉妬や怒り。果ては宗教や酔狂まで。俺がここまで来たのはどっかのクソッタレな王様の自分勝手さ。さぁ、殺されたく無いならば俺を打ち倒せ。理不尽をはねのける圧倒的な力を持って俺を殺せ。それしかないのだ生き残るには」
鬼の老人は命令を下した。
「殺せ!なんとしても!!」
鬼達は角の力を解放し、戦士に挑んでいく。しかし、戦士がもう一振りの刀を放つとその力は消滅した。戦士はその二刀をもち、島を血で染め上げた。幾多の刺客を打ち破ってきた鬼を、圧倒的な力で殲滅したのだ。




