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私のクラスに異世界の王子達がいるんだけど  作者: 奏多
第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク
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2-21

「話すぐらいは許されるのでは? エドも父親の来歴には不信感を持っています。自分の身元を知られないようにするためとはいえ、体も壊していないのに、騎士が全く違う仕事をしていたのですから。……きっと納得することでしょう」


 アンドリューにそう言われても、ヴィラマインは首を横に振る。


「何も知らずにいた方がいいと思うのです。家族が冤罪をかけられて、国から逃げるしかなかっただなんて……」


 なんと、エドのお父さんは元はヴィラマインの国の騎士だったの? しかも冤罪?


「トゥイスベルクでは、まだその時の記憶が薄れませんか?」


 質問されたヴィラマインはうなずく。


「多くの人に、間の悪いところを見られたせいです。あの方は止めようとしただけなのに……。でもあの方への嫉妬によって作られた冤罪を、誰もが信じてしまいました。それに、竜が暴走させられて隣国への攻撃を行うような事態は、そうありませんから。珍しい事件だったからこそ人の記憶から消えなくて」


 ヴィラマインは、一度唇を噛みしめてから続けた。


「あまつさえ、多くの貴族が加担していたのです。……彼らの処罰については、父もとても悩んだそうです。全員を処罰すれば、国内で何かあった時に動ける騎士はいなくなりますから。ただあの方の貢献度のことを考えても、我が父はそれでも彼らの罪を公表すると言ったそうです」


 エドのお父さんの冤罪は、トゥイスベルクの国王も分かっていた。だから王国の防衛が手薄になることを覚悟で、処罰をしようとエドのお父さんに申し出たらしい。


「でもあの方は……ここまで多くの人に恨みを買っている国では、冤罪が晴れても家族と暮らしていくのは難しいだろうからとおっしゃられて……。それならばと、国の安寧のために冤罪を背負うとお決めになったのです」


 ヴィラマインはため息をつき、苦笑いした。


「後はアンドリュー殿下もご存じの通りですわ。我が父から打診を受け、ルーヴェステイン国王はエドのお父様とそのご一家の亡命を受け入れて下さった。そしてエドのお父様は、肉屋を始め……エド様は騎士になられたのです」


 エドのお父さんは、冤罪のせいでルーヴェステインへ逃がされたのか。

 にしても肉屋!?

 ぎょっとした次の瞬間に、私はちょっと納得してしまう。だってエド父だよ? 奇矯な方向に走るのは遺伝なのかもしれないから。

 と、そこでアンドリューが質問した。


「でも何も言えないのは辛くありませんか? あなたは……とてもエドのことを気に掛けていたように見えたのですが、ヴィラマイン様」


 その言葉にドキッとする。

 まさに私が、ヴィラマインに尋ねようとしていたことだったから。


「選考会の後でもそうお尋ねになりましたよね」


 ヴィラマインが小さく笑う。アンドリューはあの時点で不思議に思って、尋ねていたらしい。


「でも誤魔化したわけではなく、そういう感情はないのです。ただ、実は先ほど話したエド様のお父上の……ことで」


 ヴィラマインが恥ずかしそうに続ける。


「私、エド様のお父上が冤罪をかけられた事件の時に、あの方にお助けいただいたのです……。その時、あの方の筋肉が印象に残っておりまして。抱えられた時に感じた、あの温かくも固い胸筋! 竜の爪で切り裂かれたせいで見えた腹筋!」


 自分を抱きしめるようにして熱弁するヴィラマインに、アンドリューがぽかーんと口を半開きにしている。


「叶うのなら、もう一度触れてみたいと思っておりました。ご子息なら同じ筋肉をしているだろうと、ずっと想像していたのです。エド様がまだ小さい頃、飛獣を受け取りにいらした時に一度拝見しまして、とても有望なことは間違いないと確信しておりました。そして今、異世界に来て間近で見ることができたエド様の筋肉! あの方と似ていて眼福でございました……」


 ああ恥ずかしい、と顔を覆うヴィラマインの姿に、私は呆然とする。

 ゆ、歪みないよヴィラマイン……。

 完全に筋肉目当てだと告白したも同然だった。

 アンドリューもそう思ったんだろう。頬が引きつっていたけれど、ヴィラマインに肝心なことを聞いてくれる。


「それだけ理想的な筋肉だったなら、エドのことだって……」


 対するヴィラマインはきっぱりと言った。


「筋肉は大変宜しいのですけれど、さすがに殿下以外のことに全く気を払わないというか、機微に欠けているのはちょっと……。そこは嘘ではないのですアンドリュー殿下。沙桐さんのおかげでかなり治りましたけれど、私としては、エド様のお父様のように優しく気遣いができる方が好みですの」


 エド父と違って、配慮がないのでアウトらしい。

 しかも先ほどまでの恍惚とした表情から、するっと真顔になったので本心なのだと思う。


「今はもう、私の憧れだったあの方の忘れ形見であるエド様が、ルーヴェステインで幸せにお過ごしになることを願うばかりです」


 話を締めたヴィラマインは、アンドリューに微笑んだ。


「そういえばもうすぐ夏ですわね! エド様の筋肉が見えるのはとても嬉しいので、期待しておりますわ! あ、沙桐さんにくっついているのですもの。沙桐さんを海かプールにお誘いしたら合法的に観察できていいですわね! 後日計画のご相談をさせて下さいな。それではご機嫌よう」


 そう言って、心が晴れ渡ったような表情でヴィラマインはその場を後にした。

 私もなんとなくすっきりした気持ちになる。

 とりあえずヴィラマインの邪魔をしていたわけではないらしい。しかも私がいることで、筋肉を見る機会が増えそうで嬉しいようだ。

 ええと、友達の役に立てて良かったって思うべき? なんてぼんやりと考え事をしていたのだけど。


「……安心した? 沙桐さん?」

「え、うひゃああっ!」


 ふいに背後から声をかけられた私は、びっくりして飛び上がる。


「や、いつの間に背後に!」

「僕も騎士に近い身体能力はあるからね。ある程度のことはできるんだよ」

「え、うそ! だって体育は普通に……」


 普通に日本の男子生徒に混じっていたはずなのに。

 アンドリューはひょうひょうと答えた。


「エド達と違って、僕は加減ができるように訓練してきたからね。それに僕は身の安全のためにも、ある程度隠し玉は持っておきたい主義だから」


 何かあった時に、敵がアンドリューに油断してくれるように仕向けた上で「実は僕だって戦えるのさ」とせせら笑いながら敵を倒したい、ということだろうか。

 王子様なんだから、そういう備えはしておきたいだろうけれど。


「アンドリューせこ……ひゃ!」


 せこい、と言おうとしたらアンドリューに頬を軽くつねられた。


「そんなことで、話題をそらそうとしたって無駄だよ、沙桐さん。立ち聞きだなんてどうしたのかな? エドの話題だったから気になったんだろう?」


 ちっ、察しがいいなアンドリュー。こういう人には嘘をついても無駄だってわかってる。絶対見破られるもの。


「いや、ヴィラマインを探しに来たら、大変興味深い話をしてたもんだから。つい聞いちゃった」


 素直に白状したので、許してくれ。そう心の中で願う。

 アンドリューはじーっと私のことを見た後、ぱっと微笑んだ。


「あまりいじめても可哀想だしね。例の件、受け入れてくれないと困るし。それじゃ今度、訪問させてもらう日取りについて相談するよ。よろしく」


 そう言って手を振ってアンドリューは立ち去る。

 あっさりと解放されたものの、なんだろう、ものすごい敗北感が心に残ったのだった。

これで第二部が終了になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに読み直して、やはり面白い!魅力的なキャラも一杯でワクワクする展開。第三部、諦めずに首を長くしてお待ちしています。
[一言] 続きが読める日を楽しみにお待ちしています!
[気になる点] 私の少し前に感想書かれた方も言ってらっしゃいますが、第3部カモーン! [一言] うううっ、奏多さまの負担になっちゃいけないのは知ってるけど、気になるぅ
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