第19話 追跡
フィーアが捕まった。
これは俺らが最も恐れていたこと。フィーアが捕まれば、俺らの力―――異世界人としての能力が知られる可能性がある。最悪なのは、フィーアを攫ったやつらが国と繋がっている場合だ。その場合、すぐにでもこの町を去らなければならない。
「大元は?こいつが捕まえたならフィーアは誰に引き渡された?」
「わからない。なんか、白髪で神父様みたいな服着た爺さん……」青
「……ッ!!!」
そんな人間俺は1人しか知らない。なんならさっき会ったばかりだ。そうだ、少し考えれば分かることだろ。おかしいんだよ。この広い町で1日のうちに2度も同じ人間に会うなんて。ならあいつは何故あそこにいた?答えは簡単だ。“あいつもフィーアを探していた”それだけのこと。
「エリザベス!今すぐドワイトを探せ!」
「僭越ながら、既に追跡中です」青
「よくやったエリザベス。お前の評価を害虫からいい害虫に繰り上げてやる」
「光栄でございます」赤
ほんと、優秀だなこいつ。俺の命令がなくても自発的に怪しいやつ追跡できるなんて。流石は精霊王候補。
「よっしゃ!行くぞバカども!」
「行くって、どこに?」青
「決まってんだろ?大元のクソジジイのところだよ」
「えっ、わかったの?」青
「そりゃもちろん。俺の優秀な精霊様のおかげでな」
エリザベスに案内され着いた先は、町の中心部にある大きめの教会。ドワイト自体が司祭なのもあって行き着く先が教会なのは当たり前だが、中にはドワイトどころか人っ子一人見当たらない。日が落ち始めているとはいえ、町の中心部にある教会に人がいないなんてありえるのだろうか。ただ―――
「何の匂いだ?これ」
これまで嗅いだことのない鉄のような匂い―――たぶん、血だと思う。この匂いを発しているのは、神父様が聖書読み聞かせたりするときに立つような台。
「ま、ぶっ壊して見るのが手っ取り早いか」
ドンッ
「ひっ……」
蹴り飛ばされた台の下から出てきたのは、首と胴が泣き別れたドワイトの死体。その場にいた全員がショックで固まった。
「トウヤ、お前が見たのはこいつで間違いないな?」
「あ、うん。間違いない」青
「俺が見たのもこいつだよ」
どういうことだ?あのチンピラはこいつにフィーアを渡す→エリザベスの眷属がここに入ったのを確認→その後一度も出てきていない=ここで殺された。だが、フィーアはここにはいない。フィーアはどこに行った?ドワイトは誰に殺された?わからないことが増えるばかりだ。
フィーアの行き先について、考えられることが1つ。隠し通路の可能性。昔だと宗教戦争とかもあったわけだからそれはあってもおかしくない。でもどこに……。
「あ」
俺の目に止まったのは、死んだドワイトの血液だった。本来ならタイルの隙間を通って広がっていくはずの血液がその隙間より遠くに広がっていない。つまり、その隙間が他よりめちゃくちゃ深いか。もしくは、その下に空間があるか。いずれにしろ―――
「ここ、何かあるな」
「え?」青
「よし、ぶっ壊そう」
「待て待て待て待て!!」青
トウヤに羽交い締めにされ無理やり止められた。
「HANASE☆」
「音でバレる!音でバレる!」青
「もうとっくにバレてるよ」
「え?」青
「血、おかしいだろ?」
首を切られたのなら、もっと血が流れていないとおかしい。そもそも、俺達がここに来たときに血痕なんてどこにもなかった。俺が台を蹴った時にドワイトの首も飛んだ?ありえない。蹴り飛ばされて千切れた首の断面がこんなに綺麗な訳がない。確実に誰かが切り落としている。そして飛び散った血液を片付け、ドワイトの胴体を台の中に入れてから首をもとに戻す。そうしないと今の状況にはなり得ない。
なぜわざわざこんな手の込んだことをしたのか。見せしめのため?否、見せしめなら少なくとも死体を台の中に隠す必要はない。もっと見えやすいところに置いておくはずだ。
それに何故血を片付けた?血を片付けたから俺は地下の存在に気づけた。尾行されていたドワイトを殺してその死体をわざわざ地下への扉になっているところに置いたり。まるでドワイトを尾けていた俺達にヒントでも与えているかのように見える。
「さて、どうする?」
「どうするって?」青
「どう考えても罠だぜ、これ」
「行くに決まってる」青
「他の二人は?」
「行くよ」青
「行く」青
ゴブリンの件もあるし、今回の相手はおそらく人間なこともあってどうしたものかと思っていたが、どうやらいらぬ心配だったらしい。
「じゃ、武器は持っておかないとな」
「武器?」青
「お前ら宿に放置してたからな?何があるかわかんねぇんだから常に持ち歩いとけって」
冒険者の適正試験の時に貰った武器。試験の時を含め、今日に至るまで一度も使うことはなかった。こういった命を奪う道具というのは使わないに越したことはないが、今回は俺達の命を守る為にも使った方がいいと思う。非常時の為に宿に放置されてた全員分の武器を影に入れて置いてよかった。
「つーわけで出すぞ?」
「おう」青
「俺の槍、シュウの弓、トウヤの剣、そしてナツキのでっけぇ剣」
俺の武器は槍。世界最古の武器が槍だったり、戦国時代の歩兵が槍を持ってたり、あとは竹槍とかがあったりと、素人でも扱えそうだから。
シュウの武器は弓。選んだ理由は多分、元の世界にいた頃シュウは弓道部だったから。弓道の弓と狩猟とかで使う弓は別物だと思うが、まあないよりマシか。
トウヤの武器は普通の剣。ファンタジーと言えばみたいなところで選んだんだろうけど、正直言ってもっと自分の影の薄さ活かして使える毒めちゃくちゃ塗ったナイフとかのほうがいい気がする。
ナツキの武器はナツキの身長と変わらんくらいデカい剣。こいつはなんで選んだんだとかそういうの以前になんでこれが初期装備ですみたいな面して用意されてんだよおかしいだろ。
「よし、そんじゃ………どうやって進もう……」
「お前バカか?」青
「バカだわぁマジでどうしよ……」
床の下に空間があるのはわかるし、そこに行くための扉は目の前にある。だが、肝心の扉の明け方がわからない。傍から見ればただの床でしかなく、床下収納みたいに取っ手があるわけでもない。壊すにしたって人が乗っても軋むことすらないくらいに頑丈なものを人力で壊せるわけがない。なにか、この扉を動かせるものはないか―――あれならいけるかも。
「トウヤ!やれぇ!!」
「おれ?!」
「いいから!とりあえず精霊出せ!」
水属性の俺が自分や他人の体液を操れるように、闇属性のエリザベスが自分の影で敵を攻撃したように、俺の予想があっていれば、土属性のトウヤとその精霊は土や石を操れるはず。
トウヤの影から精霊の地竜が姿を現した。
トウヤと地竜が少しの間見つめ合ったあと、地竜がゆっくりと地下への扉の方に目を向ける。
それと同時に地下への扉が開き、下へと続く階段が現れた。
「うし、行くか」
階段を下りた先にあったのは、薄暗い石造りの廊下。そこを少し進むと、道の両サイドに牢屋が見え始める。
牢屋の中には、犬、猫、牛、馬、兎、鶏、コウモリ、カブトムシ、蝶、カマキリ、トカゲ、カエル、獣人。獣人以外のそれらは普通ではありえないような大きさなことから、おそらく魔物。
「なぁ、あんたら獣人狩りの被害者か?何のためにここに入れられてるんだ?」
「………」青
「ここから出してやろうか?」
「………」青
応答無し。
そりゃそうだよな……。人間に捕まってここにいるんだから。人間である俺が何を言ってもイカれた野郎の道楽としか考えられない。それに、今彼らを解放したら、かえって彼らを危険にさらしてしまう可能性が高い。獣人の解放は全て終わった後の方がいいだろう。
「そっちのワンちゃんたちは?」
「………」
「……って、話通じるわけないよな!とっとと先行こっと!」
牢屋のあったところからさらに真っ直ぐ進むと、1つの広い部屋に出た。
机の上には書類の山、床には魔法陣。何のための部屋かはわからないが、ここに誰かいたことは間違いない。
「お待ちしておりましたよ。勇者様」
声のした方向に目をやると、そこにいたのは異形の獣人の男女4人がいた。
「よくぞここまでたどり着きましたね」
死んでいたドワイトによく似た白髪にフィーアによく似た狼の耳を生やした男性の獣人が言った。
それに対し、猫の耳とトカゲの尻尾を生やした小柄な女性の獣人が言葉を返す。
「わざわざヒントを残してあげたんだからここまで来れて当たり前ニャ」
「ニャ?ずいぶんと露骨なキャラ付けしてんな、そんなに俺らの印象に残りたかったか?」
「こいつ、ぶち殺してやるニャ」
「落ち着けフュンフ!正直、オレもその語尾はおかしいと思っていた!」
怒りを露わにする女性の獣人を、熊の耳とアゲハのように色鮮やかな蝶の羽を生やした大柄な男性の獣人がなだめた。
「ほら、そこの胸毛ボーボーで筋骨隆々なくせに蝶の羽生えてるとかいうクソキメェおっさんも言ってるぜ?」
「どいてろフュンフ、このガキはオレが殺す」
「落ち着きなさいゼクス。貴方の風貌が不快なのは今に始まったことじゃない」
俺に襲いかかろうとする大柄な男性の獣人を、兎の耳とコウモリの羽を生やして眼鏡をかけた細身の男性の獣人が制止した。
「だってよ、おっさん。そこの眼鏡かけて知的なキャラ演じてるくせに万年発情期と言われている兎の特徴があるせいで全てが台無しになってる兄ちゃんもそう言ってるぞ」
「下がっていなさいゼクス、その小僧はワタシが殺します」
「おお、怖〜」
相手を煽るような言動とは裏腹に、ハルが抱いていた感情はまったく別のものだった。
(どうなってんだ?こいつら。色が無い)




